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24 悪役令嬢の惚れ薬実験

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翌日、
ヒョーガル王子の断髪式ならぬヘアーカット。
王宮から許可が降り、来週から、兄様と学校に行くことが決まった。
しかし、王子としてではなく、ヒョーガル・ダルンとして。

メイド達が、廊下にまで響く声で騒いでいる。あの薄ら赤く見える瞳に悶えているのだろう。
確かに宝石みたいで綺麗な瞳だもの。
そしてその先頭には、サラがいるのではないかな。サラはメイドを辞めなかった。エルフィン兄様付きになり、兄様についていたベテランメイド二名がヒョーガル王子様に移動した。ラーニャは行かなくて良かったのかと聞くと、
適度にサボれて気兼ねない仕事場こそ、理想と言った。
私は、一度ラーニャに怒ってもいいかもしれない。
でも私もそういう心情なので、主人の思考が使用人に移ったと言われたら、黙るしかない。

王宮から、私達兄妹にクレームは無い。
レオナルド王子の心の広さに二人して感謝した。
「良かったなミルフィーナ。私は、今回、口は災いの元と認識したよ、無駄口はしない」
流石、真面目な兄様だ。反省を今後に活かすのね、なら、私は、
「お兄様、私は、上位貴族の方のお茶会には参加しません」
と決意を込めて言った。
兄様は凄く複雑そうな顔した。

「ミルフィーナ、それは令嬢としてどうなんだろうな?まだ婚約者も決まってない令嬢が言う台詞では、絶対ないよ」
「お兄様、私、高望みをしていないのです。大領地じゃなくていいですし、茶会もパーティーも参加しなくていい、ドレスや宝石もいらない。穏やかに花を愛でたり、空気のいいところで、お気に入りの新刊を読んだりできれば、私も共に働きますわ」
と言えば、兄様は、
「なぁ、ミルフィーナ、バードナー伯爵って、理想の結婚相手だったんじゃないか?」
「何ですと?いえ、やっぱり」
実は、そうなんじゃないかと思っていた所はある。
「いや、私も知らないが、人前に出ることを嫌っていると聞いたし、でも伯爵領の統治は上手くいっているから、本も買えるだろうし、花も愛でれる。酪農も盛んだから、ミルフィーナの好きな草原もあるだろうな」
「確かに、なんて事でしょう!私が行けば良かったか!」
ハアー
お兄様は溜息を残して、歩いて行ってしまった。

考えてみれば、乙女ゲームのプロローグで強制退去されるのは、悪役令嬢でも良かったのではないか。
自分は動こうとせず、アリサさんを動かしてしまった。
まさか父様は、私に合う殿方を探して来てくれていたのかもしれない。本来、悪役令嬢は、消える役割。
「しがみついてしまった…」

「お嬢様、何をやっているのですか?」

「見てわからないかしら?反省のポーズよ」
と壁に手をついていた。

「反省はいいですから、貴族の令嬢の嗜みの時間ですよ」
「また、刺繍に礼儀作法?もういいんじゃないかしら?私、上位貴族とはお付き合いしない方向で行くから、全てほどほどぐらいで」
と言えば、
「あぁ、情けないですわ、お嬢様、ヒョーガル王子様は、途中からの転入ということでエルフィン様に教科書を借りて勉強しているというのに!」

絶対比べる相手違うから、あちら王子、こちら侯爵令嬢。相容れないでしょう。全く関係ないのに、なんで競いあわなければいけない。

結局、今日もチクチクと紋章を縫った。


ヒョーガル王子様も兄様と学校に通うようになって数日、随分と仲良くなっていた。お互い薬草や植物に興味があるらしく話が盛り上がっていた。
しかし今日は、ダイニングにお兄様の大きな大きな溜息を響かせた。

お義母様が話を兄様に振った。兄様としたら、聞いてもらいたいのだろうな。

「ヒョーガル王子が素晴らしいのは凄いわかる。剣術も誰も敵わないし。それに比べて私は、すぐに剣を叩かれて試合終了。レオナに見られて叱られた。もっと粘れただろうとかさ。ヒョーガル王子は、令嬢達が一瞬で虜になって騒がれているし」
と兄様はボソボソ言う。レオナ様に叱られた事を気にしているのだろうかそれともヒョーガル王子と比べられた事だろうか?もしくは令嬢にモテたい?

「エルフィン、ヒョーガルでいい。学校でもたまに王子といいそうになっているぞ。剣術なら、明日から朝、ともに鍛錬をしようか」
「えっ、いいの?ヒョーガル!教えてくれるのか?」
「あぁ」

兄様が令嬢にモテたいわけではなくてホッとしたが、兄様はニコニコ笑っている。女子か!そんな一緒に鍛錬してくれるってだけで機嫌が直るなんて、イケメンパワーは、攻略対象者もコロっです。

私は、朝から勉強なんてしません。夜は寝て、朝も寝ます。

私は、一本の小瓶を振る。
惚れ薬。
そろそろやるべきか。

「ラーニャ、豆用意して貰える?明日惚れ薬使ってみるわ」
「はい、かしこまりました」

朝食の際にも、お兄様は男の友情を力説していた。兄様、少し変わったな、なんか熱苦しいキャラが追加されたと思う。

私は、家庭教師が来るまで、豆を潰していた。そして勉強の際には、青い鳥の髪飾りをつけ、効率よく授業を進める。

ズルイ?
いえ、あるものは使うべきだと思う。宝の持ち腐れ。

ラーニャの視線が痛いけど。

授業が終われば、いざ裏庭に!潰した豆にスプーンで数滴かけた。そして木の幹の近くに置く。
雀がすぐに気づいた。様子を伺い、嘴で突っついた。まだ変化はない。
もう一匹、そしてまた一匹集まって来た。雀は飛び立たない。その周りでヨタヨタしている。

「ラーニャ、これはお酒に酔っているの?」
「どうでしょうか?わかりませんね」
飛び立たない雀。ヨタヨタ動いてはいる。また豆を食べている。

ラーニャが、
「中毒性があるのは間違いないと思います」
と言った。薬物に中毒性はよくある話だ。これが即効性の毒物ではないことはわかる。
雀ではここまでかな?と思って前に一歩進む。雀はこちらを見ない。ただ豆を見て食べてふらついている。
危険察知も低下している。目の前に行きようやく逃げるように羽根をバタバタして飛ぶが幹にぶつかる雀も出た。

「ラーニャ、これは?錯乱かしら?目も見えないということ?」
「視力についてはわかりませんが確かに飛ぶ動作が遅く、幹にぶつかるほど前がわからなかったということですね」
「豆を一旦回収するわ」

そして、その場に隠れていれば、ウロウロする雀が数匹、その数分後きちんと飛ぶ事ができるようになった。

「即効性があり、抜けるのも早いみたいね」
「はい」

二度目は、三時間後にした。
先程の惚れ薬を垂らした豆を置く。
三時間で薬物は蒸発するのか?それとも放置しても薬物効果は継続するのか?

雀が豆を食べに来た。思ったより、最初に見た動きよりはヨタヨタしていない、意外にその場を離れて飛び立つ雀もいる。
ただ数匹、一生懸命に食べている。
「あれは何かしら?」
「動かず、夢中で食べてますね。まるでそれしか見えてないような」
「視野が狭くなるってことかしら」

「お嬢様のいう通り、これは薬物ですね。私が地図を書きます。お嬢様は、報告書を書いてください」
「えっ、ラーニャが書いた方がわかりやすいと思うけど」
「お嬢様、が、書いてください!」
と力強くいうラーニャ。

面倒くさいが、学校で蔓延する薬物を止めないといけない。本編のヒロインが騎士団団長の息子と活躍するイベントとしてもう出来ないし、その責任取らなくちゃいけないけど、悪役令嬢がやるべきことじゃないんだよ~

誰かに丸投げしたかった。

馬車の音がした。
ヒョーガル王子と兄様の帰宅かな。

「誰か手が空いている者は手伝ってくれ」
と兄様が珍しく大きな声を出した。
どうしたものかと階段まで近づけば、兄様と御者がヒョーガル王子を支えていた。
「どうしたのですか?ヒョーガル王子様!」
足を引きずっていた。声をかけた私の方は一切見ない。
おい!
なぜ見ない?

執事長の指示が飛ぶ。
運ばれていくヒョーガル王子は悔しそうな顔で声を出さない。
その場にいるお兄様に、
「学校で闇討ちですか?」
と聞いた。兄様は私の冗談も流し怒り口調で話す。
「いや、学年の剣術試合だったんだか…護衛騎士団長の息子覚えているか?ミルフィーナが釣り書で断ったやつ」

いちいち思い返さなくていいよ、兄様。

「あいつ、アルフィンっていうんだが、自分がヒョーガルに負けたら、レオナルド王子様と戦わせることになるからって下段で片手を使い足ばかりを狙ったんだよ。自分は、ヒョーガルに寸止めされる騎士道精神を受けたくせに!次の試合は、私の判断でヒョーガルには医務室に行ってもらった。悔しいよ。ボルドート王国の騎士道は、どうなっているんだよ」
と怒っている兄様。

私は、ヒョーガル王子の運ばれた方を見ていた。
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