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20 新たな展開を悪役令嬢は求めてない

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ヒロインのアリサさんが馬車に乗る時見せた顔は、疑問の顔だった。
何故バードナー伯爵家に行くのか?
学校は?
乙女ゲーム本編は?(ここら辺は、私の主観が入っています)
全部疑問形。
私も先はわからない。

お義母様もアリサさんと行ってしまった。
悪いことした気はします。ちゃんとね。追い出したのだから。
悪役令嬢らしいと言えば、私は役を正しくこなした。

『誰か気づいただろうか?』

こうして乙女ゲームが終わったなら、悪役令嬢も終わり。
やりましたわ、大成功!という気持ちもあるのに、後味が悪いのは罪悪感なのか、心中複雑ではあった。

「ラーニャ、サラ大丈夫?」
と聞くと、
「残念ですが、辞める意思は固そうです」
「そう」
今回の騒動の原因を深く感じているそうだ。きっとメイド仲間にも嫌味を言われただろう。

午前中は貴族令嬢らしく刺繍をする。これも苦手、勉強も苦手、何が得意かって考えれば何もない。
黒豹ことヒョーガル王子も今日から料理人復活かな。
惚れ薬の件もあるし、何とかしなきゃ。

「何とかしなきゃいけないのは、お嬢様の刺繍の方ですよ、縫い目の大きさの違いや周りとの密度の差があるのです」
「…ラーニャ、厳しいわね」
ラーニャは溜息を吐きながら、
「集中していない証拠ですよ、もう独り言駄々漏れですから」
最近の私の口元は緩いらしい。

アリサさんがバードナー伯爵家に行って三日後、我が家でも慌しいことが起きた。アリサさんが出発した日、お父様が、ヒョーガル王子のペンダントを見たが、これが王族のものか判断がつかなかった。
そして、トモホーク王国を調べる際により確実な情報提供を求める結果、頼ったのがアルフレッド公爵様。突然、朝早くに先触れを出し、公爵様が我が家に来たのだが、まだ朝食前。

ダイニングでお兄様と会い、
「大変な事が起きたのでしょうか?」
と聞くと、お兄様も難しそうな顔をして、
「国の一大事かな。普通アルフレッド公爵様がこんな時間にくるなんておかしいだろう。しかしレオナルド王子も昨日の学校の様子はいつも通りだったから、王族関係ではないと思う」
「ふふっ、お兄様、レオナルド王子様の側近みたいな発言ですね」
「馬鹿、違うよ、そんな不敬な発言はしてはいけないよ」

ヒロインの攻略対象者なのに、レオナルド王子様とは無関係の兄。ヒロインにとっては、成り上がる階段みたいな関係かな。

朝食を食べていれば、執事長が扉から入ってきた。
「ミルフィーナ様、旦那様がお呼びです」
お兄様と目が合った。何事?という意思疎通をしてから、応接室に向かった。

応接室内は、上座に黒豹、じゃなくてヒョーガル王子様、下座にアルフレッド公爵様とお父様。
わかりやすかった。
トモホーク王国、第一王子ヒョーガル様と認められたというわけだ。
部屋に入り、すぐに貴族の礼をした。
この場で私が出来ることはこれしかない。
「事情を聞かせてくれるかい?ミルフィーナ嬢」
とアルフレッド公爵様の声がした。

「私でわかることなら」
と言うと、
「何故、こちらが隣国ヒョーガル王子だとわかったんだ?」

乙女ゲームのイベントシーンを思い出したからです。とは言えない。
「予知夢です」



「いつ見た?」
「お母様が亡くなった二日後でしょうか。あの頃泣きすぎて時間の感覚がわからないのです」
と言えば、お父様は、
「ソフィアが最後にこの国の為に見せた夢か…」

しんみりした。

「ヒョーガル王子は何も覚えておらず、北の森で商人に助けられたと言っておるが、そこを夢で見たのだな?」
商人?…盗賊とは言えなかったか。
「はい」

「その時、ペンダントが見えたと、何故そこにレオナルド王子が出てくるのだ」
と聞かれ、
「ペンダントとレオナルド王子の指輪が反応する絵が見えました」
こんなのどう聞いても嘘にしか聞こえない。予知夢なんて怪しいし、信じる要素は一つもない。

おじさん二人は顎を擦っている。顔は似ていないが、従兄弟って感じでシンクロしている。

ヒョーガル王子を見て見れば、前髪が長すぎて表情がわからない。
私が部屋に入ってから一言も発してない。

「お父様、ヒョーガル王子のご意向は聞いたのですか?」
と質問すると、アルフレッド公爵様が、
「私が間を通せば、きっとレオナルド王子様と面会は可能だとは思うのですが、やはりそのペンダントだけでは、まだヒョーガル王子様と断定できません。もちろん、トモホーク王国の情勢を考えれば、北の森の件あり得る話で、まだ裏は取ってはおりませんし。もしよろしければ、我が公爵家に来ていただければ、きちんと対応しますから」
と言った瞬間のお父様の吹き出し始めた汗の量。
なんか可哀想だよ。
お父様が使用人にしたわけじゃないけど、言葉でお父様の対応の悪さが、非難されている。
滝のような汗をかいたお父様が見てられない。

「アルフレッド公爵様、全て私の軽はずみな言動です。申し訳ございません。どうかヒョーガル王子様も寛大な御心で我がダルン侯爵家をお救い下さい」
と言えば、
「記憶もないし、このペンダントが本物かも立証されてない。だから、王子じゃない。ダルン侯爵家では、きちんと対応してもらっているし、本も読ませてもらっている」
と前髪が揺れた。その隙間から見えた目は、なんか笑っているようで…綺、れ~


見惚れている場合ではない。
本好きだったのかなヒョーガル王子。本の貸し出しして良かったね。お父様が、神を見る目でヒョーガル王子を見ている。
拝みそうだ。
深い溜息をついたアルフレッド公爵様は、
「では、ヒョーガル王子様はこのままでとおっしゃるのですか?私は、一度王宮で話には行きますが、トモホーク王国に詳しい方や使者を招く際には王宮に来て頂く形になりますよ」
と言ったあと、ヒョーガル王子は、
「わかった」
と短く言った。

私は、先に部屋を失礼した。

何のきっかけでヒョーガル王子と認めてもらえたかはわからないけど、良かった。ヒロイン退場してしまったから、絶対に進展が遅いのだろうなと思っていただけに、黒豹さんが盗賊を辞めてヒョーガル王子に戻れるならそんないいことはない。
ただ王子なら、もう我が家にいる必要はないよね?
アルフレッド公爵様の言う通り、公爵家か王宮に住んだ方がいいよね。

でも、あの前髪から覗いた顔を思い出してしまい、頬が緩んでしまった。

執事長が何かを察して客室を整えている。
「仕事が早いわね、執事長」

「それは、執事長ですから」
「ラーニャ!」
いつの間に後ろにいたの!
恐ろしいメイドと驚いていれば、
「お嬢様、最近ネジが緩んでいるようで、心の中で思っている事、声に出してますよ!廊下では、ニヤニヤしながら歩いていますし。以前も注意申しあげたのに、相変わらず気が散ってしまって、私は心配ですよ、とんでもないことに巻き込まれる気がして!」

「は!止めてよ、ラーニャ。そんな呪いの言葉を吐かないでよ。怖いじゃない」
「私もめっちゃくちゃ怖いですよ。ヒョウさんが王子様なんて。予知夢、なんてものじゃ表せないですよ。神の予言的な…」

と言われて始めて思った。
ある意味お隣の国の王族を救ったといえる。予知夢なんて魔法のような神の言葉。
なら、それを信じる人がでる。神の信仰者から見たら、神の遣い。

神の遣い!!!

かなりやばくない。なんていうか響きが高貴。
私、この先大丈夫かな?
でも本当にここまでしか乙女ゲーム知らないんだよね。

注目されていいこと一つもない気がする。だって私、この世界で、悪役令嬢ですから!
そして乙女ゲーム終了ヒロイン退場悪役令嬢の勝利で終わった世界に続きを求めないで欲しい!

こんな世界大嫌い!

「お嬢様、叫ばないでください」

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