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14 ヒロインの買い物後

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アリサさんが、街から帰って来た。こっそり様子を見ると、メイドのサラが両手に荷物を抱えている。
ラーニャに、
「凄いわね」
とこっそりいうと、
「やりますね!」
と答えた。その意味はわからない。
執事長も荷物を抱えていた。アリサさんは見なかったので、先に自室に行ったんだろう。

夕食の時にアリサさんから街に出かけて、みんなにお土産を買ってきてくれたと報告されて、サラが抱えていた。
まず、お父様、お義母様、兄様、私。少し照れた仕草と表情は、何も知らなかったら天使のようで可愛いし惚れるだろう。
あの荷物の一部は私達のお土産とは、なんて気がきく令嬢なんだろうと、みんな思うかもしれない。

でも私は、沢山買ってお金を使ったのを誤魔化すために、家族に土産という目眩しを撒いたのではと思った。
きっとこういうところが悪役令嬢なのだろう。むくりと口が出しゃばってしまうようで、グッと抑えた。
ここで何か言ったら、やっぱり意地悪だと言われるのも嫌だ。絶対に言われるな、ヒロインだもの。
こんな考え私だけなのか周りを伺っていると、みんな複雑そうな顔をしていたので良かった。

「どうですか?みんな気に入ってくれましたか?」
とにこやかに元気な声で聞いてくる。流石だ。あの笑顔がヒロインスマイルだ。決して他者が自分に対して不信を思っているなんて疑いもせずに、真っ直ぐに光る笑顔。

この笑顔を見て思った事がある。実は純粋なヒロインって馬鹿なんじゃないかと。次から次に男乗り換えステップアップって腹黒でありつつ何にも考えて行動していないからこそ出来る所業だなぁと。
それに他人の顔色は興味ないのか、苦笑している兄様に街の様子や買い物の報告を笑いながらしている。

『この子は注意しておけば、学校に行っても大丈夫かしら?』

そんなことも思ってしまう。
「アリサさん、ありがとうございました。私は自室に戻ります」
と声をかけてから、部屋に帰った。
私がいただいた物は、リボン。真っ赤な生地のスルンとした手触りが良い。
「ラーニャ、こちら明日つけるので、よろしくね」
と言うと、ラーニャは
「お嬢様、サラから聞きましたが、やっぱり骨董品店にも行ったそうですよ。何も買わなかったそうですが、もし青い鳥の髪留めがあったら買っていたんですかね?」
と言われて、ドキンっと身体全体に感じた。ラーニャはなんとも思っていないようだが、やはり何か結びつく絆というかゲームの強制力というものがあるのだろうと感じた。
この青い鳥が知性をつけるなら、アリサさんには悪いけど、知恵なんてつけられたら、私、立ち行きが行かない。
だって私、ゲームの知識があるだけで、基本的に能力圧倒的に下の令嬢なのだ。
二年前に、悪役令嬢と気づいたなら努力すれば良いじゃないと思うかもしれないが、努力って大変なのよ。
勉強だって、本を読むにしても眠くなるのよ。刺繍だって飽きるのよ。

「お嬢様帰ってきてください~」
とラーニャが騒いでいる。

「お嬢様、また意識飛ばしてました。学校の準備も始まるっていうのに大丈夫ですか?私はお嬢様の方がアリサ様より夢見がちな気がしますよ。悪役令嬢なんて言いながら」

「馬鹿なことを言わないでよ。ちょっと考えてただけ。アリサさん髪留め買いたかっただろうなぁってね」
「大丈夫です、お嬢様。アリサ様は5個ほど買われたそうですし、持ち合わせが足りず、靴や帽子、ドレスについては、店の者が後から請求に来るそうですよ」

「あらまぁ、お父様のお顔が…想像したくないわね。足りなくなるぐらい買ったなら笑顔が光っててご機嫌にもなるのかしらね」
「うわー、嫌味を言いますね」

えっ!これぐらいで嫌味として扱われるの?ただ事実を言っただけなのに。
アリサさんと私の対比なのか?
ラーニャでさえ、そう感じるなら、私が思うよりもずっと言葉の受け取られ方の危険を感じた。

「難しい」

うーん、やっぱりなんか悪役令嬢ぽい言い回し、素の気性か、もっと気をつけなければ、足を掬われるのは、私だな。
ついさっき、アリサさんが学校に行ってもいいかなと自分が注意すれば良いなんて思い上がりだったわ。

「ありがとう、ラーニャ。注意するわ」
と言えば、ラーニャは、シーツを整えながら、
「お嬢様が言う悪役令嬢って、絵本バーバラの意地悪お姉さんみたいなものですよね。持ち物を取り上げたり、家の掃除をさせたり、パーティーに参加させないみたいな」

絵本のバーバラというのは、演劇になる有名な童話。

バーバラと二人の義姉。バーバラ母が死に義父て義姉に使用人のように使われ、偶然森に狩りに来た王子に見初められ、意地悪される中パーティーに参加しそのままハッピーエンド。

考えてみれば、その通りだ。髪留めを先に買い、学校に行かせないようにしている。私は、義姉。
「ラーニャの言う通りね」
「お嬢様、仲良くするという選択肢はあるのですか?これは、サラに聞かれたのですが?」
「そうね、何もアリサさんが起こさなければ」
と言えば、ラーニャも頷いた。
「そうですよね。サラが急にミルフィーナ様が意地悪をしているからおかしな感じになっているんじゃないかと言い出しまして、買い物で大変だったのではないかと聞いたら、逆にそう言われてしまったのです」

「嘘でしょう?」
「どうしたんでしょうね?サラ」
サラは、アリサさんが良いと言っているのだろうか。担当のメイドと仲良くすることは良い事だ。
でもお兄様を攻略するときはサラも情報を流してくれていたのに、風向きが変わったのか?
何があったのかしら?
頭を使いたくないのに、乙女ゲームで何故こんなにフル回転させているのだろう。
悪役令嬢ってこんな頭使うポジションなのだろうか?

「サラには、気を使わせてごめんなさいと伝えてね。色々準備があってお茶会も参加していないものね。私から何か企画するわ」
とラーニャに言えば、
「そうですよ、そういう楽しい時間で誤解が解ける事もありますね。最近お嬢様、乙女ゲームという予知夢ばかりで、せっかくなら楽しい未来の方がいいですよ。危ないこともして欲しくないです。かと言って、お嬢様が心配されているあざとさは、しっかり私達も監視はしております。もう少しおおらかにいきましょう」
と私を心配気に見ている。

ラーニャも今日はというより、夕食後からアリサさんの肩をもっていないか?
私、今日何をした?

ラーニャには昨日だいぶ無茶を強要したことを反省した。私は回避するつもりでも、そんなこと関係ない人間にとったら、意地悪したり、危険な場所に立ち寄り盗賊らしい人馬車に乗せた。

私のやってる事は、めちゃくちゃだったと反省した。でも重なったのは、偶然で私のせいではないよ、との言い訳も悪役令嬢らしく心の中で吠えていた。
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