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10 黒豹捕まえる

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小さな馬車の窓から、人通りが少なくなり始め、馬に鞭が飛ぶ音がした。
スピードが上がる、その時、私は、窓から見つけてしまった、大変な人を。
出会ったが全てだと思った。

今日はなんて日だ!

「止めて、止めて!馬車止めて!!」
私は慌てた。
だってここで逃したら大変なことになる。ヒロインを追放しようとしている乙女ゲームで、ヒロイン無しなら運命が大幅に変わるかもしれない人発見してしまった!
攻略対象者かわからないけど。

ガチャっと扉を開けて一目散に走った。この馬車の行動は異様だったため、通行人は止まってこちらを見てる。

止まっていてね。お願い!
お願いします、神様!

「いた!」
でもこちらなんか気にせず歩き始める。足の長さかこっちは走っているのに、いっこうに距離が縮まらない。

細道に入った。
「あっ、いない!」

ゼーハーゼーハーする呼吸をよそに、低い脅すような声で、
「何の用だ」
と言われた。誰もいなかったはずの壁に現れた黒い豹みたいな人。髪は黒く、随分前髪が長い。日に焼けた肌にスラリとした体型。髪が揺れた間から、本当に目が赤く見える。黒豹と呼ばれたキャラクター、本当にゲームだけじゃないんだと思った。
いや、当たり前なんだけど。
「あっ、いや、そのお兄さん、一緒に来てください」
と言えば、
「何で、こんな怪しい女について行く奴がいるんだ。お前馬鹿か」
と黒豹は言った。
「お嬢様!お嬢様!突然走って何やっているんですか!誰ですか?この人?」
とラーニャが追ってきてくれた。

「色々説明しなければいけないのだけど、お願いします。私と馬車に乗ってくれませんか?」
と言えば、
「嫌だ」
と答えられた。まぁ知らない女に馬車に乗れなんて怖いよね。わかるけど、とても大事な話なのだ。
「どうにかお願い出来ませんかね。この通り」
と頭を下げた。ラーニャは慌てているが、この黒豹は全く動じてないようだ。腕が少し上がったぐらいだ。

「ここでは話しにくいのです。確かに帰り道お手数をかけるのはわかっておりますが、貴方様も結構貴族屋敷には下見に行くではありませんか?銀貨1.2枚で馬車に乗っては頂けませんか?本当に重要な話なんです。黒豹様」
と言えば、初めて動揺を見せてくれた。
不思議とちょっと嬉しいかも?

「お前、何を知っている!」
と黒豹はさっきより警戒している。まぁ盗賊を匂わし煽ったのは私ですから、当然です。
「お嬢様~」
と情けない声を出すラーニャ。
ラーニャを片手で押さえ、
「大事なことなのラーニャ。乙女ゲームのことで」
と言えば、
「攻略対象者なんですか?この人?」
「それは…とにかくお願いします。貴方なら逃げ出せるでしょう」
となんとか、どうにか説得して馬車に乗せた。御者が、
「えっ、お嬢様誰ですか、この人?」
と聞かれたが、笑って、
「兄様の友達よ」
と答えた。平民の服を着た友達なんていないだろうけど。

「で、改めまして。私ミルフィーナと申します。黒豹様と呼んで良いでしょうか?」
ととても堅く貴族の礼を尽くして挨拶した。
じろじろ見られている。
「何で貴族の令嬢が、俺の事を黒豹だと知っている?」
低く脅すような声色で聞かれた。

「私は乙女ゲームと呼んでいる情報が、周りからは予知夢のような感じで取り扱われています。そんな偉そうなものではないのですが、黒豹様が出ているシーンがありまして」
と言っている途中で、黒豹は頭を掻いて、
「何故あんたは、貴族なのに俺に敬語なんだ」
と嫌がる素振りを見せた。

「本当ですよ、お嬢様。なんで平民なんかに!」
とラーニャまで言う。

「馬鹿!ラーニャ。彼は隣国のトモホーク王国の王子よ!不敬よ」
と私が言えば、黒豹は、
「ハッ!お前頭がおかしいんじゃないか?王子、この俺が、馬鹿言うな!」

ハアー、そうなるよね。

「順番に説明させて下さい。あなたは、数年前に北の森で記憶がないまま幌馬車に乗せられ、盗賊グループに連れて行かれましたね。もうずっと盗みばかりやってますね。良くないけど生きるため仕方ないですね。まぁこういった生活が続くのですが、約二年後に王宮に忍びこみ捕まります。騎士団に囲まれるのですが、あなたの唯一の持ち物のペンダントが、この国の第一王子レオナルド様の指輪に反応するんですよ。で、ヒロインが祈ると、あら不思議忘れていた記憶が戻るという話です」

誰も話さない。

プハぁー
「息が止まりましたよ。お嬢様。本当ですか、夢物語!これもめっちゃくちゃ大変じゃないですか?」
とラーニャはおっかなびっくりで見ている。
黒豹は黙っている。
「思い当たる節ありましたか?」
と聞くと、
「馬鹿じゃないか、お前。俺が王子だと。そんな馬鹿な話があるか。頭を打ったから記憶がないんだ。親に捨てられた子供なんだ、俺は!」
と握りしめた手を見て話している。

「トモホーク王国について、私も勉強不足ですみません。あなた様の名前がわからないのです。馬鹿なことを言っているとお思いになるのは当然だと思います。しかし剣術や体術が使えたのではありませんか?記憶を無くしても訓練した身体は覚えていたとかありませんか?…読み書きに困ったこともないでしょうし…どうにかしてトモホーク王国に行く手を考えます。しかし、今、我が家大変バタバタしていまして、本来ならあなた様を優先するのが筋ですし、身分も上ですので当然なのですが、ご面倒かけますが順番を待って頂けないでしょうか?」
と言うと、
「お前が何言っているかさっぱりわからない」

確かにね!

「まず、我が家の問題を片付けて、次に薬物問題、そしてあなた様という順番でお願いしたいのです」

本来二年後の黒豹さんだから。
本当にこんなところで会うなんて思わなかった。
重なる時って重なるよね。

「で、俺はどこに向かっている?」
「我が家です」
「盗賊グループを招き入れるのか?お前は!」
「いえ、王子殿下と知ってしまえば、さすがに盗賊グループに戻すことは出来ません。だから連れてきました。でも現在我が家もとても大きな問題を抱えてまして、本当なら客室をご用意しなければいけませんが、今の状況では、誰も信じてくれないでしょう。どうにか三カ月我が家で隠れて頂けないでしょうか?」

「やだ」
「お嬢様、それは絶対無理です」

二人はほぼ一拍置いてから言った。

ハアー
「では、戻ると言うのですか盗賊グループに?王子殿下なのに?これ以上他国の国荒らしちゃうんですか?ごめんなさいじゃすみませんよ。国際問題ですよ!ラーニャも王子殿下だと知って放り出すのですか?不敬の極みですよ」
と言うと、




「でも予知夢って夢の話だよな。じゃなきゃ俺が王子なわけあるか!」
「そう、そうです、お嬢様!夢の話ですよね」

「ラーニャは信じてくれると思っていたのに。アリサさんのことは?実際いたし、我が家に来たでしょう。あなた様は黒豹って呼ばれてますでしょ、それにペンダント肌身離さずつけているでしょう?取られないようにいつも気にしている、違いますか?会ったこともない令嬢に指摘されている事が間違ってますか?」
と聞くと黙る二人。

「アリサさんを本当にどうしよう?王子様連れて行ったら喜ぶだけだし、何か考えはないかしら?もう着くし!とりあえず、裏口でラーニャお願い。使用人部屋、もしくは新しい料理人志望でいきましょう。王子殿下、下働きは大変だと思います。少しばかり我慢をお願いします。必ずやお助けしますが、まだ色々コネがないことにはお許しください」

「お前、怖いよ。夢の話のくせに俺のことをがっつり王子認定していること」

屋敷に着くとスッとラーニャと黒豹が消えた。こういうところ、ラーニャって凄い!
私は、一人玄関から入る。御者には、兄様の友達から新しい料理人だと伝えなおしたが、執事長とお父様に話さないといけない。
惚れ薬が薬物かどうかも調べなきゃいけないし、なんで同日に重なった?時系列バラバラ。乙女ゲームだったら、ちゃんと一つづつクリアしていくはずなのに。

「全くなんて日だ」
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