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82幸せになる為に 1

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王妃様が投獄された。

第一王子とその婚約者に危害を加えた罪…もう言い逃れは出来ない、現行犯の捕獲だから。
そして王妃様に味方したゴート侯爵と懇意にしていた貴族の派閥が暗殺者達を引き入れ王妃様を別離塔から逃し、私達の所までつれて来た。

『ゴート侯爵に脅された』

なんて言い訳は通じないだろう。この一大派閥は綺麗にお取り潰しが決まり、大変なのは、後の領地の仕分け。

「ごめんね、リサーナ。夏休み最後の思い出…出かけられない…」
とフリップ様に謝られた。
「仕方ないですね、流石にこれは酷かったですもの、お咎めなしになるわけないです」

「あぁ」





「ヘンリ、おめでとう。男爵になるなんて凄いわ」
と言えば、ヘンリは少し顔を引き攣りながら、
「まさか、我が家に二つも爵位が与えられるなんて驚きです」

「流石聖男様だわ」
とお母様はニコニコしている。


夏休みが明けて二か月経過した。アザミ様、アルトフォン先生は見つからないまま、貴族除籍の処分が決まり、名前を聞くこともなくなった。
今回の件を国王様が民に向けて公表する事が決まり、その褒賞を受ける者の一人が、ヘンリ。そして協力者としてヘンリの父も男爵になる。
これは、リューエン公爵の魔草、孤児院の人身売買を暴き壊滅させた功績だそうだ。
そしてどんな取引だったのかわからないけどクロッツ・ゴートにも個人的に伯爵位が与えられゴート侯爵領地の半分をもらうことになり、現ゴート侯爵は代替えしたばかりなのに子爵という二段階も格下げが決定した。
結果、人材豊富なゴート家の中で、クロッツ元会長の一人勝ちと貴族界の噂のキレ者貴公子になっている。

…相変わらず掴めない人物だ。

貴族の数が王妃様の事件によって減った分補おうとしている。領主がいない領地も大変なことになっているし…

その発表を民に向けてと貴族に向けての時、フリップ様の王太子も公表される。

「あれ、リサーナ様、王宮に行かないで学園にいて大丈夫なんですか?」
とクリスに言われ、

「クリス、逃げてきたのよ、あの執務の書類の山から…、病気になっちゃう!」

そう、あの日以降当然のように、私に部屋が与えられ、机、椅子、接客用の応接室が与えられた。

皇后様から、
「机上の空論より現場で鍛えられた方が何事もわかりやすいものよ~、私も歳だから」
と言われた…

体制が整っていない私のサポートにフリップ様、アントレ、それに何故かクロッツ元会長がついた。一応この私も含めた4名で王妃様の執務を回している…
だから私達は、学園にも通える事は通えるけど、今は、王太子の式典やパーティーの準備、来賓諸々の手配や雑務、予算や書類が行ったり来たり…

「フリップ様、今度書類を突き返しにくる執務官の頭凍らせてもいいかしら?」
と聞くと、

少し考えてから、
「リサーナ、それは止めよう。…やり直しもやり取りが面倒になってきたとはわかるけど、凍らしたらきっと暴力王太子妃なんて言われてしまうよ。恐怖で人を従えさせてしまったら、あの人みたいになるよ」
と言った。

確かにそうだけど。

大変なのよ、この学生なのに遊びから一番遠くにいる場所にいる。
これは私の思い描いた幸せとはかなりの違い。
民のため、貴族のため…

わかっているけど、
何故私がこんな風に必死にペンを動かしているのって、、、

「辛いわ」
ボソッと出た言葉。
拾い上げなくて聞き逃してくれていい。だって私の我儘で逃げている感情で、受け止めていない覚悟だから。

「ごめんね。リサーナ」
辛そうな顔を私に見せるフリップ様。
彼にこんな顔をして欲しくないのに、自分の感情の捌け口に巻き込んでしまう。

「ごめんなさい、フリップ様はご自分の執務もあって、その上に私の分もやってもらっているのに…
でも感情が追いつかなくて、まだ学生でいたくて、こんな大変って思わなくて…」

「うん、そうだね。リサーナにとったら初めてのことばかりを突然押し付けられた形になったね。私は数年前から徐々に増えていった執務だけど、リサーナにとったら王妃教育もまだ始めたばかりなのに、何も知らずに全て引き受けたからね」

私の頭を優しく撫でる。
幼い子を慰めるみたいに。
自分を責めているみたいで辛そうな顔をして。

「あの日、王太子になると言って努力してきたフリップ様に対して覚悟を決めたはずだったのに、想像していたよりも早くその時が来てしまって、大変で自分の甘さや覚悟のなさを痛感していて」
と言うと、
「明日学園をサボろう、リサーナ。少し出かけないか?」
と突然フリップ様が何かを決心したように言った。



「おはようございます。お待たせしましたフリップ様」
とシンプルなワンピースを着て歩きやすい靴を履いた。

「おはよう、今日も可愛いよリサーナ」
と言って手を引いてくれる。

簡素な馬車にのり、昨日の空気のまま会話は弾まない…しばらく進むと外から賑やか声が聞こえてきた。王都の商店街だ。降りて二人で歩く。
街はいつも通り元気で護衛の方達も大変そうにしていた。

「あの屋台食べてみよう。あっちもいい匂いだよ」
とフリップ様が言う。
気を使ってくれていることに罪悪感が心に広がる。

頭を振り、
「本当にいい匂いだわ。あの甘い匂いもいいですね」
と一通り買い物をして、近くのテーブルと椅子で食事をする。

「夏休みも結局来られなかったね。学園をサボってやっと来れた。こんなんじゃリサーナに嫌われたり呆れられて当然だな。覚悟とかそんな重い言葉を押しつけて本当に申し訳なく思っているのにね、同時にリサーナを縛れる喜びも感じているって言ったら怒るかい?こんな器の小さな男でガッカリした?こんな状況になってリサーナがすぐに私と婚姻して王太子妃になるって決定したことを喜んでいるんだ。王妃という鎖でリサーナが面白いとか楽しいとか過ごそうとした日を私と共に過ごす日に変えたって喜びを感じているんだ」

私は堪らずフリップ様から視線を逸らした。

見たくない現実、聞きたくない本心…

目の前には湯気がユラユラと立ち上っていて、私達とは違って元気いっぱいの声が響いて、走っている人がいて笑っている人がいて…

「食べましょう、フリップ様。温かいうちに美味しく食べましょう!」

ハァ~美味しい。
「食べたら、時計台に行って、噴水がある公園に行きましょう」

「えっ?」

フリップ様は驚いていた。私が怒ると思ったのかな?それとも悲しむとか。

時計台は、とても大きかった。
「この時計台から鐘の音がこの王都周辺に時間を知らせているんですね。この中は見学出来ないのですか?」
と聞くと、フリップ様も
「見学の許可は取らないと見せてもらえないからね」

「それは残念です。では少し公園に向かって歩きましょう」
と誘う。エスコートしてくれる手は温かい。

「時計は歯車で成り立っているんですよね?」

「そうだよ」

「やっぱり、私達に、足らないのは人材ですね。人という歯車で時が動くのですから人を大事にしていかねばなりませんね。フリップ様、もっと女官を増やしてください。執務官は全員男性です女性の執務官を、増やしましょう。まずは王都に平民も通える学校を作りましょう」
と提案した。

「学校?」

「ええ、まずは人材を沢山集めましょう。優秀な人を育てましょう。私達なんてサインすれば良いぐらいの書類を作ったり各部門を作ってその組織て仕事を完結してもらえるようにしましょう。そうすれば、行ったり来たりがなくなります」

「初期投資か、ダイアナ王女の賠償金半額あれ使いたいね」
と何か思案している。

そう、すぐには思い通りにはならない。あんなに太っていた私も数年かけて、それも今もずっと努力して積み重ねてやっと痩せる事ができた。

「フフフ」
思わずあの日々を思い出した。

「どうした?」

「いえ、アグーと魔物呼ばわりされて、ヘンリの妄想話から痩せること数年かかりました。何度も怒って不貞腐れて泣きたくなって、辛かったなと…
自分自身を変えるって凄い大変で…
今、まだ公爵令嬢でこれから王太子妃になって、そして王妃になる道を私は歩いているのですね。やっぱり脱却計画と同じように少しづつしか進めないです、私は。自分の感情を抑えることも出来ないし、逃げ道ばかり探してしまう…
あの頃と変わっていないわ、私。多分ずっとこんな風ですよ私は、本当にフリップ様私でよろしいのですか?」
と聞いた。

フリップ様は笑った。

笑ってくれた。

「懐かしいよね、今よりリサーナはずっと太ってて、あ、令嬢にこんな事言ったらいけないね。でも変わらないな、ゴリラ令嬢だっけ?今は妖精令嬢、リサーナはリサーナのままだよね。ちゃんと自分を中心に考えて、他を巻き込んでいこうとする、そんな力強いリサーナが好きなんだ。勝手に魔力球を私に送る、そんなリサーナが最高に好きなんだ。だから、リサーナが王妃になりたくないって言っても駄目。私が睡眠時間削っても、アントレ達側近を増やしてもリサーナを王妃にするよ。私の横にはリサーナがいなきゃ面白くもないし、楽しくもないから…そうだダイアナ王女から私は、つまらない男って言われたんだけど、リサーナこそこんな不良債権みたいな王子でいいの?」
と熱のこもった目で私に問う。

「不良債権ですか…中々卑屈な物言いですね。本当に大変だとまだ片鱗に片足を突っ込んだだけなのに感じています…
本当の気持ちは王妃なんてやりたくない!って言えてしまうの。でもね、やっぱり結婚するならフリップ様がいいです…好きとか安心するとか楽しいとか何かしてあげたいとか全部含めて、ずるいぐらいたった一人ならフリップ様がいいの」

ふっ、緊張がとけたように私達は笑った。そして涙が出てきた、何故なのかな、辛くないのに嬉しい気持ちが溢れているのに。

お互いの手でそれぞれの涙を拭った。
これを何という感情なのかはわからない。

ただ、明日も頑張ろと思った。

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