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69聖男VS聖女 2

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(アザミside)

王宮 控室

「どうしてよ、どうしてあの悪役がいないのよ…
いえ、いるのよ、だって会ったじゃない、なのに何故会えないの」
鏡に向かって話す汗だく令嬢。

「大丈夫、まだ時間はあるわ。焦って空回りになっているだけよ。落ち着きなさい。何度もあの女のドレスは見かけていたわ、もう少し落ち着いて周りを見ればいいのよ。そうよ、カトレアと挟みこめば…」
薄ら笑みを作りながら話す令嬢。

気味が悪くてメイドが櫛を落とした。

「何やってのよ、あんた!早く直しなさいよ」
アザミは自分の家のメイドに怒鳴る。それを王宮メイドだって見ているにも関わらず…

「グズグズしないで、サッサと汗を拭いて化粧直しと髪型は簡単な感じでいいわ。私は早くあの場に戻らないといけないのよ」

「お嬢様、ドレスの裾がだいぶ乱れて、足下のヒールが…」
とメイドが言ったが、
「うるさい、発言を許可した覚えはなくてよ。黙って、直ぐに言われたことだけをやりなさいよ、ノロマが!」
とアザミはイライラをメイドにあたり散らしていた。

王宮メイドは、聞き耳を立てながら控室を掃除する。

おかしい、確かにいる、気配もわかるし目撃者も多数。
まるで初めて会った時の違和感みたいに…
早く、物語を進めなくちゃ。これ以上王妃様を怒らして良いことはない、フゥ、今、私焦っている?
メイドが汗を拭き直してくれているのに、何故か嫌な汗が湧き出てくる。

「もういいわ、これで王妃様も何も言わないでしょうから」
と言ってまたすぐ部屋から急いでサロンを通り庭園へ。

「ハァ、ハァ、ブラッシュ様…カトレア、なにを…いえ、リサーナ様見かけなかった?」
と聞けば、カトレアが、
「先程、王妃様に挨拶して帰ったわよ。王妃様がアザミを呼んでいたわ。あちらでお茶に来て欲しいって」
と言った。

「何ですって、帰った?今?」
おかしいでしょう!
何で私が庭園を直すイベントがないのよ。

「そうね、少し前だけど、急げば馬車乗り場で会えるかしら?」
と言われ、急いで馬車乗り場へ向かう。

「ちょっと待って、王妃様が…」
と言うカトレアの声を無視して、またサロンに方向に向かう。

カトレアのくせに悪役令嬢ただ見送ってんじゃないわよ、止めておくか、喧嘩しておきなさいよ。

「おい、待て、アザミ、なんでそんなにリサーナ嬢に会いたいんだよ。ほとんど全員リサーナ嬢は挨拶を終えていたし、もちろんアザミとも入り口で話したと言っていたけど。とにかく母様の方が、王妃の方に、あちらに行くべきだ」
と話しながらブラッシュ様が追いかけてきた。

鬱陶しい!

「いえ、私は、リサーナ様とカトレアに用があって…もう一度庭園に来て欲しくて…」
と早歩きで廊下を歩く。

「何で、もう帰るって言っていたよ」

うるさいな、もう、ここは大事なイベントなのよ、邪魔しないでよ!
聖女になるために、王妃様に私の実力を
見せつけるための場面でしょう、なんでメインキャラが邪魔するのよ。

「もう少し急ぎたいので失礼します」
と駆け出した。
もう少しで馬車乗り場…
息を切らし、
「ハァ、ハァ、プラント公爵家の馬車は?」
と警備兵に聞けば、
「もう、出ていきましたよ」
と言われた。

「終わった…」
と呟く声はみんなに聞かれていたが、周りの者は何を意味しているのかわからなかった。

「帰ってしまったんだろう。アザミ、母様が呼んでいるから行こう」
と後ろからブラッシュ様に声をかけられた。

いつもなら笑えるのに、今日は笑えない。
何言っているの、こいつ、ぐらいの気持ちになっていて、上手くぶりっ子が出来ない。今、私に声かけてこないでよ。

「アザミ」

「わかりました」
と面倒臭く言った私は悪くない。
だって邪魔したのは、あんたなんだから。

そんな驚いた顔されたってね、面倒なだけなんだよ。

「行きますよ、行けばいいんでしょう」
と言うと、
「何を怒っているんだ?」
と聞かれてもお前にはわからないんだよ。言っても無駄…

渋々歩けば、一人の王宮メイドが近寄って来て、
「ブラッシュ王子殿下、王妃様から言伝です。本日のお茶会を締めてください、アザミ様はそのまま私についてきてくださいませ」
と言われた。



王妃 応接室

「失礼します、アザミ・リューエンです」
と入って直ぐに臣下の礼をした。

顔を上げて良しと言ってくれない…

メイドが出て行った。二人だけだ。


「あなた、私に嘘をついたわね。ブラッシュ主催のお茶会を開いて、そこでリサーナ嬢とカトレア嬢が揉めて、庭園の一部を壊して、あの娘の評判を落とすと言ったわね。誰一人、あの令嬢の事を悪く言うものがいないのだけどどういうことなのかしら?」

「恐れながら、発言させてください。リサーナ様が見つからなかったのです。目撃者はいてその場所に行くと、もうすでに移動していて…
変です。逆に考えてみれば変です、こんな探し回って会えないなんて、絶対何かおかしいです」

バキバキッ

何かが割れた。

「変なのは、あなたの頭のほうでしょう。誰しもリサーナ嬢と挨拶もしていたし、目にみえる所で薔薇を楽しんでいたと聞いたわ。ちゃんとメイドを伴い庭園を散歩していたと聞くわ。私に言ったわよね。植物魔法で色とりどりの花の中に転ばせるって、そんなの簡単だって…
本当に口ばっかりな子ね。フリップの方は大丈夫なのかしら?心配になるわ。ちゃんと始末しているのでしょうね!」

「もちろんです。我が父、リューエンがガザニスタンの商人と取引をして、あちらの国軍の一部を貸し出されたと自慢しておりましたし、眠り薬に痺れ薬も量は十分なほど渡しましたから」
と言うと、

ド、バーンと勢いよく扉が開き、

「その話詳しくお聞かせ願いたいですな、王妃様、アザミ・リューエン嬢」
と近衞騎士数名とディラン宰相が入ってきた。

「な、何も言っておりません、私は知りません」
と王妃様は慌ていた。

何故かそれが薄いガラス張りのあちら側の景色に見えて、今から自分に起こることが想像出来なかった。

ゆっくり動いている。
なんだろう、おかしいよね。
何やっているの?

だけど呆けている時間なんて一瞬で圧も熱も感じ、私に恐怖が迫ってくる。

流れ込むように騎士に囲まれ、同時に腕を掴まれた。
「痛いじゃない、やめてよ」
と身を捩ってもキツく睨まれ、動かせそうもない。
「私は聖女なのよ、私にこんなことしたらどうなるかわかっているの~」
と言っても何も反応しない騎士達。

「どうしてなのよ!何なのよ」
と繰り返し叫んだ声は憐れな令嬢のヒステリックな声にしか聞こえなかった。
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