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62脇役令嬢 3

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翌日、教室前の黒板に二人の生徒がロープに繋がり、黒板に大きく書かれていた。

『僕達がやりました』

その生徒達の手には、ペンキとすでにアザミ様を非難する言葉が書かれた紙を制服に貼り付けられて、ブルブル震えていた。
ズボンが脱がされ、下着姿。口には布が巻かれているけど涙と鼻水でぐっしょり濡れている。
そして下には、溜まった水が…


その二人は、アザミ様のグループにいた令息…

アザミ様が教室に入れば自ずと彼女に注目が浴びた。そして慌て走って来たブラッシュ王子様と側近達…
私とフリップ様はクロウが捕まえた時点で連絡をもらったので、後ろで観劇させてもらう。

さぁ、どうするのか、お二人さん。


「キャー」
と可愛らしい悲鳴をあげた、アザミ様。
頬を染めながらも、どうにかしなきゃと考えているようで、ブラッシュ王子は自分の上着を脱ぎその縛られている令息の下着の部分と床の溜まり水を何度か確認して震える手で、仕方なく隠してあげた。後ろの護衛騎士は更に嫌な顔をしながら、同じことをした。その水溜まりを避けるように移動する騎士。

イヤイヤ感が出てしまっているよ…

その間失笑とガヤが飛び交う。
そんな状態にお二人さんは慌てていた。

そしてようやくアザミ様はその令息達に近づき、
「何これ?貴方達大丈夫なの、酷いことする、濡れ衣よね、貴方達が犯人のわけないわ!」
とアザミが言えば、ブラッシュ王子も
「そうだ、仲が良いじゃないか。ありえないよ。アザミの言う通り擦りつけられたんだな君達は。ほら、みんなクラスの仲間を信じ、何も無かったで良いじゃないか」
とその者達に絶対に口を開くなと訴えているようだ。
うわぁ~、流石にそれは強引すぎるだろう、信じられないわ。


ブラッシュ王子の側近も何が起きているのか、周りの笑い声やガヤを押さえるのに必死で、その令息達の酷い泣き顔に寄りたくなさそうだ。
はっきり言えば関わりたくないが感情として近いと思うけど、私だったら絶対関わりたくないもの。

誰も動かないからか、騎士に命じていたが、随分ゆっくりと対処していて、結局ブラッシュ王子自らロープを外しにかかり、アザミは黒板に書かれた文字を消す。
ブラッシュ王子がその令息の口に巻かれた布を外せば、その二人は、涙ながらに

「ブラッシュ王子様、申し訳ございませんでした。作戦は失敗しました。洗いざらい影という者に話しました」
と言った。

いや、言ってしまった。

あぁ~、呆気ない告白シーン。

青褪めているブラッシュ王子とアザミ様に泣いている令息達…

クロウったら何をしてここまで恐怖を植えつけたのかしら?

まだまだ涙は出てくるのか友達の令息達は、二人に縋りついて、
「すいません、我々は非国民じゃありません。本当に家だけは許してください。知らなかったんです。ブラッシュ王子様の留学が王命なんて。だからアザミとブラッシュ王子様に頼まれて、問題を起こして留学を無くす手伝いをと言われて手伝っただけです~。お願いします、国王様や王妃様には言わないで~、どうか反逆罪なんて、僕達はそんな重罪なんて知らなかったんですよ~、許してください、冗談とか言って僕達だけに責任をなすりつけないでくださいね」
と泣いて全てを打ち明ける。

そしてヒラヒラとどこからか舞う紙は、

『虐めを受けるアザミを助けるブラッシュ王子の台詞』
『問い詰める文言集』
『かっこよく煽動するブラッシュ王子の台詞』

と書かれた紙が何枚も落ちてきた。
何度も書き直しがあるわ。意外に研究しているみたい、こういった方面では努力出来る王子なのね。

そして最後に天井に貼り付いていた二人のズボンが泣いている令息の頭の上に落ちた。
急いでズボンに足を通し、慌て転んでいる。何というお粗末な最後なのだろう。

お金を払ってまでみたいとは到底思えない出来の観劇に、いつしか笑い声もなく、ただの軽蔑と憐れみが教室内に残った。


ハァー、とフリップ様が隣で何度も溜息をついている。どうするのかなと思えば、フリップ様の側近が動き、アントレ達に何か言って、ブラッシュ王子、アザミ様と二人の令息を連れて行った。

そしてチラッと私を見てから、フリップ様は、深い溜息をついた。
流石にやりすぎだって言いたいかな、私もクロウ達に、
「お好きにやりなさい、馬鹿な事をしたと後悔させて、心を入れ替えてスリアム公国への旅立ちを期待したい」
と言って好きにやらしたな。

「ごめんなさい、フリップ様」
と小声で言うと、
「リサーナ、流石にこれは貸しにするよ。後でね」
と不穏な言葉を残して行ってしまった。

残った私達は、そのなんとも言えない空気に包まれていた。

ダイアナ王女は真っ赤な顔で怒っていた。それを側近が慰めながらまた教室から出ていったので、今日は授業を受けないのだろう。

そして、担任の先生が慌てきたが、床を見て残った溜まり水に、先生もたまらず、
「掃除の方を呼ぶわね」
と言って授業は始まらない。

さすがにお友達もそこまでは片付けてあげないのね。
カトレア様をチラッと見れば、表情は呆れていた。

「まさかあそこまでブラッシュ王子様がやるとは」
「アザミ様も仲間だとか信じられない。自作自演だぞ」
「あのグループみんなグルだったんじゃないか。よく平気で座っていられるな」

「もうすぐ、成人の儀だって言うのに何しているのかしら」
とカトレアはボソッと言った。
それは、不思議なのだけど悲しみとかそういうものではなくて、何処か別な場所を見て言っていた。

本当に焦っていたんだとは思う。成人の儀を迎えたら留学すると決まってしまったから、もう時間がないとこんな浅はかな計画を立てて、側近にも言わなかったのだろうな。仲間内でワァーイで済むような話なわけないのに。仮にもこの国の王子だからね…
こんな話、恥ずかしくて他所の国に知れたらと考えると…

うわぁ~王妃様に会いたくないです~
成人の儀が怖い~


そして翌日はフリップ様も学園に来られず、勿論、ブラッシュ王子もアザミ様もそのお友達の令息達もお休み。

ブラッシュ王子の側近たちも事の重大さにずっと顔色が悪かった。勿論、アザミ様、カトレア様のグループも。
アントレに話しかけようと思ったが、何故かアントレは私と目を合わせようとはしないから、きっと話したくないと理解した。

「ヘンリ、一体なんなのかしら?あの二人」
と聞くと、
「わからないけど、アザミ様はブラッシュ王子をスリアム公国に行かせたくなかったしブラッシュ王子殿下も行きたくなかったからじゃないですか」

「いや、それはわかっているわよ。あんな浅はかな計画ないわよ」
と小声で言えば、ヘンリも小さな声で、
「はっきり言って馬鹿なんでしょうね。見つからないと考えた時点で。もしかすると巡回の時間とかも全部知っていて行動していたとか、予定外だったクロウさんの動きでおかしくなったのでしょう。結局は、リサーナ様のせいで計画がぶち壊しになったのではありませんか!」
と普通に言われた。

「んっ!?」
結局私のせいで計画が潰れたと言いたいの?

「それは、言いがかりよ」
と言えば、クリスまで、
「でも、リサーナ様が動かなかったら、成人の儀で留学に行かないとか犯人探しをするって言っていそうでしたね。だって国王様と王妃様、それに沢山の貴族とか証人や仲間になってくれそうな人いそうですもの。中でもリューエン公爵は、自分の娘が意地悪されているのを王子が助けてくれるのですよ。後ろ盾になっちゃいますよ」
と言った。

ヘンリは、
「きっとクリスの言う通りだ。リサーナ様のプラント公爵に対抗して、リューエン公爵の後ろ盾をもらえば、ダイアナ王女様と婚約破棄、留学に行かないという風に思ったんだよ」
と納得しながら、本当に馬鹿だなと呟きしみじみ言った。

これを聞かれたら、不敬罪で牢屋行きだと思うけど、あちらこちらで話されていて、全員、捕まえられるぐらいの事を王子殿下は、なさってしまったのだと実感した。

本当にあんなのが婚約者じゃなくて良かったぁと改めて思った。
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