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54相談

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一応、我が家にもサロンと呼ぶ場所はある。
華やかではない。調度品、飾り、などはなく、ただ大きい間取りの部屋にソファーとテーブル、カフェのようなテーブルと椅子…窓からの景色、申し訳なさそうに咲いている花々と死角に家庭菜園、どんぐりが落ちる木がドンと見える程度の庭。
ただ掃除はしやすいので、この部屋は綺麗だとお伝えしたい。もちろん心の中だけど。

案内した後、
「すいません、シルベルト様。ご多忙中かと存じますが、どうしてもご相談にのっていただきたいのです」
と座る前に頭を下げた。

「いや、そんなに忙しくはない。気にしないで欲しい。確かにクラード様の執務の手伝いや生徒会の仕事は毎日あるが、週末は特にない」
と言われた。

「そうなんですか?学園ではいまだに噂話が飛び交っておりますので」
と言うと、

「ああ、王位継承権の話か。気にしなくていいらしい。クラード様も今は全く気にしていないし、毎日学園長室に訪問しては何かを話し合われている」

では、ちょうど感情任せの発言をしているところを盗み聞きしたのね、実は、あの人が王太子で大丈夫?と本気で思った。みんなが言うほど王太子殿下の魅力が全くわからないとさえ思っていた。

「そうなんですね、それは良かったです」
と言ったタイミングでメイドがお茶を運んできてくれた。

「あぁ懐かしいな、この紅茶の香りはシリル様がよく飲んでいた匂いだ。あの方は後味のスッキリしたものが好きだったから」

「凄いです、シルベルト様。こちらはシリル様がトリウミ王国にご出立後に届いた物です。馬車一台分の荷物が届いたのですよ。不要な物は処分してと一言添えて」

「そうか…相変わらずだな、あの方は」
と少し困った顔をされた。
どうしたのだろう?

「では、本題ですが、トリウミ王国のベラという作者の本はご存知ですか?」

「いや、知らない」

一度深呼吸してから、
「実は、その本はカミューラ様がお取り寄せして読み終わった後、図書室に寄贈されたのですが、内容から申し上げますと、天使の子セレナが悪魔の子カミューラを倒す物語とセレナが高位貴族の令息の婚約者達にいじめられ、その証拠を掴み、婚約者筆頭の悪役令嬢カミューラを高位貴族の令息と共に断罪する物語、留学生サクラが生徒会メンバーと仲良くなり、セレナと協力して悪役令嬢カミューラを断罪、その後セレナが淫魔だとサクラが見抜き聖女になる物語、そして作者ベラの物語です。印象的な最後のページのイラストがある二冊は、クリスマスパーティーの婚約破棄の断罪場面、一冊は聖女が聖杯を掲げて周りにいる生徒会メンバーです」
とだいぶ内容は端折って話した。
わかってくれただろうか?

シルベルト様は、信じられないとでもいうように、何度も口を開けて閉じてを繰り返して、でも頭の中で考えてくれているんだろう。目は、私を馬鹿にしているようには見えない。

「それは、この学園で起きたセレナとカミューラ嬢とサクラ嬢の話か?」

「はい、理解が早くて助かります。学園の名前も生徒会メンバーの名前も違います。ただカミューラ様の悪事の証拠集めは、新聞部のブランカとその後輩ミンネが出てきます。その本をなぞっているようで、でもそれだけではないような…」

「ブランカ嬢の言った使命…」

「はい、カミューラ様は全てご存知なのではと思うのですが、自分からは話してくれませんでした。ただ私に、具合が悪くないかとお聞きになった後に巡り合わせには役目があると言われたのです。もしかして縛りに反すると身体に何か異変があるのかも」

「興味深いな。その本は今どこにある?」
シルベルト様の眉間に、皺が寄った。

「はい、読み終え誰かに相談したくて、学園に持って行った日に、学園長が必要だと言われ、持っていってしまいました。そして内容は既にご存知で、私には何もするなと言われました」

「…そうだな、確かに何もしないで欲しいな、私も。こうやって相談してくれたのは嬉しい。でもティアラ嬢、恩人に何かあれば…あの術は記憶も意識も曖昧になる。どこかもう一人の自分が勝手に動いたみたいだった。使命と言ったがブランカ嬢も操られていた。どんな方法か…」
と申し訳なさそうにいう。

「何故シルベルト様やブランカ先輩は、それに気づけたのですか?」

「それは…」
何故か真っ赤になる。

どこか恥ずかしくなる要因があるのかしら?
「私の血ですか?」
と聞いた。
驚いているようだが、いくら何でもわかります。ただの確認ですから。

「あのパーティー後に女生徒に王宮の使者が来て乙女の血を分けて欲しいという依頼がきたと聞きました。それで全員解呪されたのなら、カミューラ様を解呪したいです」

「今は大人しいみたいだが、そんなことカミューラ嬢が受け付けるとも思えない。プライドの高い令嬢だ。他人の血を触るなんてない、いや普通に出来ないだろう」

「そうですね。シルベルト様がそう思っているのも、本でいう悪役令嬢の印象かもしれないですし、他人の血を触れるなど誰しも嫌がります。それでも私は、もし解呪出来るなら、どうかきっかけを作って下さい」
と頼んだ。

「しかしどうやってセレナは、カミューラ嬢やブランカ嬢に淫魔の術を仕込めたのだろう?」
と小さな声で呟いた。

「淫魔の術を仕込む?」
と聞けば、再び慌て否定した。

様子がおかしいシルベルト様に、
「ベラの物語でベラは魔法具を拾って、書くものが現実になったと。それを悪人に知られて、その悪人を主役の物語を書き終えると、魔法具を取り上げられたと書いてました。ベラはやり直しを願い王女様にそして好きな男性は王子として書いたと告白してます」

「…魔法具…そんなものが実在するのか?…でも、そうか、だからシリル様は」

「どうかしましたか?」

「いや」
と答えた後、また深く考えているようだった。

その間、シルベルト様が持ってきてくださったお菓子をいただく。

「とても美味しいです」
と思わず言ってしまった。
その声にシルベルト様が浮上した。
「すみません、お考え中邪魔してしまって」
と言えば、
「こちらこそ、失礼した。魔法具と聞いて確かに王家案件だなと思っていてね。本当にそんな大層なものがあったとしたら、宝具だと思って、ノーマン王国から盗まれたのか、トリウミ王国の物なのかとか考えてた。そんな案件なら王弟殿下が行くだろうと、そしてセレナが捕まった時点で陛下達は、ここまで推測されたのかと思って、自分の浅さを知ったよ」
と溜息を吐かれた。

「こちらを見て下さい。これからサクラさんが行う事を書き写してきました。これをカミューラ様がなさるのか、誘導されるのかわかりません」
と言えば、その紙を見て、
「これが起こるというのか」
と聞かれ、
「多分ですが、だからこれを全て飛ばしてカミューラ様は、処分を受けサクラさんは、聖女に選ばれればいい。内容が無くなっても結果が合えばそれ以上はしないのではないでしょうか?きっと今、魔法具を持っているのは、サクラさんですから」
と言えば、大層驚いた顔されたけど、

「それは本当か?」

「可能性の話ですけど、サクラさんの物語ではカミューラ様もセレナ様も悪役でサクラさんがヒロインですから、最後の物語と思います。もしかしたらベラさんが魔法具を取られるように誘導したのかもしれない」

「証拠を悪人に押し付けたってことか」

「それは、ベラさんに聞かなきゃわからないことですが」

「わかった。カミューラ嬢は何かの理由をつけて生徒会室に呼び出すようにしたい。その後どうする?ティアラ嬢も生徒会室に来るか?会わない方が良いと思うが」
とシルベルト様は、渋面をする。

「はい、その通りだと思います。セレナさんがいない今、もしかしたら代用として私に目星をつけられている可能性があります。出来るだけ距離を置くつもりです。この小瓶を持っていってください、これで駄目ならまた…
ご一緒に考えてください!」
と頭を下げた。

私の子供じみた作戦だけど、シルベルト様を巻き込んでしまっているのは確かで、それなのに、私は高みの見物になる。
動くなと言われているのに、結局我慢してない…

「いや、君がいなかったら、私はまだ解呪されてなかった…ブランカ嬢も頭の中がスッキリしたと言っていたよ。カミューラ嬢憎しの気持ちが、今となっては申し訳ないともね、ただ彼女に接触したら、イリーネ嬢含めみんなに邪険にされたらしい。話には、ならなかったと報告を受けた」

「そうですか、でもブランカ先輩が良くなったのは嬉しいですね」
と最後近況を報告しあい、もう一度お礼を言って別れた。

とてもスムーズな話合いだった。もっと疑われたり、馬鹿にされたりするかと思った。真面目に全て考えながら受け入れてくれるように、言葉も態度も私が落ち着いて話せるようにしてくれていた。

「馬車でご一緒した時とは、雰囲気が全く違うわ。シルベルト様、何かあったのかしら…」
とその背中を見送った。
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