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45カミューラ・ロフト

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彼女は、本を見るわけでもなく、司書がいる机の横で貸出書を見ていた。
赤茶の髪が少し陽に当たり光っている。絵になる美人だとその立ち姿だけで素敵だった。
こちらを見ているかわからなからないが、頭を下げておく。

今日の目的は、外国の書籍コーナー、トリウミ王国の本も数冊置いてあった、勉強をしたいわけではなく、私が読みたいのは、物語。知らない世界に入れる感覚が面白い。
手に取ったのは、水色の表紙のトリウミ王国の物語。サクラさんがというわけではなくて、最近よく聞く外国の名前だったからだと思う。

「ねぇ、あなた、トリウミ王国に興味があるの?」
と真横で言われ、バッっとそちらをみればカミューラ様…
足音聞こえなかったのですけど。ふと思い浮かぶのは、もし今殴られたり捕まったりしたら間違いなくやられていたなという生物としての恐怖。そして私より10センチほど背が高そうだ。少し見上げながら、

「は、はい、本日クラスにトリウミ王国からの留学生が来まして、興味があったので」
と言うと、

「そう、春休みに下級貴族のお茶会やパーティーに伝手無しで、突然顔を出して情報集めしているという常識知らずのスパイ擬きね。あなたも何か聞かれたかしら?」

「私は特に…」
言葉を濁した。スパイ擬き。
いくら何でもあなたのことをなんて私だって言えないわ。
ミンネが言っていたパーティーって事かな?

「そう、あなた前から図書室に通っていたかしら?見覚えがないのだけど…」

「はい、一年生の時から本を借りています」

「会ったことないわよね」

「はい、初めてお会いします」

「そう、巡り合わせね。ならあなたも何か役目があるのかもしれないわね。私と会って話す人は、この世界の関係者なのよ、お名前は?」

言っていることがよくわからない。
カミューラ様を中心とした世界ってこと?会ったら、何かの役目?

「ティアラ・ビルドと申します」
と言えば、
「あぁ、最近話題の方ね。フフフ、そう、あなたが…噂は聞いておりますわ。何があなたはやりたいの?生徒会に入りたい?王太子と結婚して王妃を目指しているのかしら?セレナさんの後釜を狙っている?」

そんな話を面白おかしいという具合で話してくる。
また変な噂だ。
誰が流しているんだろう?
もし犯人がわかったなら、ブランカ先輩にお願いして学園新聞のネタにしてもらいたい!!

「全てあり得ません。そんなこと一片も望んでません。誰かが捏造しているただの噂です」
と言えば、
「捏造…ならあなたも嫌われているのではないかしら?嘘を言いたくなるぐらいの恨みがあるってことでしょう、ご愁傷様。
でも私が気になるのは、どうやってセレナさんを一瞬で幕引きさせられたかという点。他の令嬢が何をしても揺るがなかった彼女という存在をね。あっという間に壊すなんてね?結果は知っているのよ、過程を知りたいの」


「申し訳ありません、私には何を質問されているかわかりません」

「本当に?…
そう、ヒロインってわかる?」

「それは、物語の女主人公では」
「そうね、セレナさんってそんな感じでしたのよ。例えば、教科書とかズタボロになっても翌日王子が新しい物を用意しているとか、暴漢に襲われるピンチでも駆けつけるヒーローに救われるみたいな…」

あぁ、クリスマスパーティーで婚約破棄の理由。

「本当にカミューラ様が、指示をなさったのですか?」
何故か聞かなくてもいい質問をしてしまった。私には関係ないのに。

「…おかしな子ね。フフフ、あなたの目に映る私はどんなかしら?私は何をしても悪者じゃなかったかしら?警戒していたのに、変な子ね、あら口が過ぎたかしら?」

「いいえ、ただカミューラ様の言葉の表現が、まるで自分の意思とは関係なしにヒロインの物語に組み込まれている悪役と言っているようで…」

と言えば、カミューラ様は驚いた顔して何度も瞬きをした。

「あなたは誰?」
と聞かれた。

えっ?先程名前言いましたけど?
「ティアラ・ビルドです」


しばらくカミューラ様は目線を彷徨わせた後に唇を噛んだ。

無言が続く。
顔色が悪くなってきたので、
「どうされたのですか?カミューラ様?」
と言えば、手で制された。
「ティアラ様、頭痛がするとか寒気がするとか吐き気はない?」

「ありませんが…」

何かを堪えるたあと、深呼吸をして、しかし顔色は変わらず悪かった。

「フゥー、そうそう少し前にトリウミ王国では、天使の子の乙女が、身分高い悪役令嬢にいじめられるという話が大流行したそうよ。結末はいつも王子と結婚か幸せに暮らしたとか導いたという内容。興味があって取り寄せてみたの。とてもつまらない本だったから図書室に寄贈させてもらったわ。興味があったらお読みなさい。留学生が、…お花畑の女性じゃないことを祈っているわ」

そう言ってさっさと歩き出してしまった。
何か言いたげだった後の言葉は、本の話。
「何だったのかしら?」

カミューラ様の寄贈?本は確かに高いけど、この学園は王立だし、学園で用意されているのかと思っていた。
本棚を見回すと古い本が多い中、最近の上演されている演劇の原作や最新の物語も入っているから、私はいつもここに通っていた。
もしかして、最新の書物はカミューラ様の寄贈?

「すいません、先程カミューラ様がこの本は寄贈されたと言っていたのですが、小説や演劇の原作はもしかしてカミューラ様が?」

「そうよ、ビルドさん。あなたが借りていく本はほとんど彼女が用意して寄贈するの。一度聞いたら、同じ本は読まないそうよ。家に置いても溜まってしまうから、誰かが読んでくれれば嬉しいと一年生の初めの頃、言っていたわね。今日も貸出書を見ていたわね。初めて会ったのでしょう?同じ本を読んでいるし、話が合うと思うわよ」

「畏れ多いです」

「そう?彼女見た目が迫力がある美人さんだから、誤解も受けやすい気がしているのよね。本来のというかここに来ている彼女って噂とだいぶ違うのよ。まぁ、それも一面かもしれないけどね。以前廊下ですれ違った時は無視されたもの」

「そうなのですね」

貸出書に名前を書き、トリウミ王国の物語を4冊借りた。
結構な荷物になりながら、歩いていると廊下の角から、姿は見えないながら、甘ったるい声が聞こえてきた。

「大丈夫です~、余所見していてごめんなさ~い」

「いや、こちらも悪かった」

「私、留学生で、ノーマン王国を楽しみにしていて、だから見るものが全て新鮮でドキドキしちゃいました。前を見ずに歩いちゃったので私が悪いんです。てへぇ」

「あぁ、それは危ないぞ、気をつけるべきだ。クラスの者は校内案内を誰もしてくれないのか?」

「はぃ、それが…
まだ慣れなくて、上手くみんなと会話が出来なかったんです。早くみんなと仲良くなりたいのですが、やっぱりトリウミ王国とは勝手が違いますので、ここで頼み事をしたら図々しいかなとか、嫌われてしまうかなとか考えてしまって…」

「それは考えすぎだと思うぞ。クラスの仲間も君から頼られたら案内するだろう。まずは話してみるべきだと思う」

「わぁ~、とっても勇気が出ました。ありがとうございます。明日クラスメイトに話しかけてみます…
でも、凄い不思議~、今日初めて会ったあなた様とはこんなに会話できるなんてめちゃくちゃ奇跡かも!!凄い嬉しい~~。お名前聞いても良いですか」

「…あぁ、フラン・スタンリーだ」

「私は、サクラ・セノーと申します。もしまたお会いしたらフラン様って呼んでもいいですか?」

「あぁ、別に構わないが」

「良かった~先輩のお友達ゲットだぁ~」

この言葉を聞いて鳥肌がブワッと立った。私には関係ないのだけど、なんていうか、ゾワゾワしたものが身体から込み上がっていく感じ。
気持ち悪い…

二人は仲良く廊下を歩き出したようだ。
その後ろ姿だけ目には入った。その前の会話は廊下の角で立ち聞きする形になってしまったけど…

今のは留学生のサクラさん。
なんか、言葉で言うと、フラン様に媚びている?ように私には聞こえた。

以前サマリアさんに言われた私は媚びているって喧嘩を売られたけど、まさか他人から聞いた私の会話ってあんな風だったの?

「あれだったら、絶対いやだなぁ」
と思わず声に出してしまった。
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