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42もぶさん?

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シルベルト様と帰る馬車の中で私の方から一つ質問してみた。

「失礼なことを聞いてしまうかもしれませんが、ミュラ侯爵家とは、仲がよろしいのでしょうか?申し訳ありませんが、我が家は六年前から茶会やパーティーには不参加が多く、特に私は高位貴族の集まりにはお誘いは頂かなかったので…お名前だけは皆さん有名ですので知り得たのですが、いつもあのような口調、いえ話し方なのでしょうか?」

「あぁ、イリーネ嬢の傲慢さとミュラ侯爵家の裕福さは有名だと思うが」
と一旦、話すのを止めた。

「どうかされましたか?」
と聞くと
「噂、というのをイリーネ嬢も言っていたが、手先が多いという言い方は変かもしれないが、カミューラ嬢、彼女には用心した方がいい。イリーネ嬢も横について従っていたのは、カミューラ嬢だけ。彼女以外に対しては、誰にでもあんな口調だと思う。今まで学園、茶会、令嬢達を把握していると感じるのは、カミューラ嬢だ」

「そうですか、教えて頂きありがとうございます」
何度も最近聞く名前。どれだけ怖い方なのかしら。

「いや、新学期は気をつけた方がいい。謂れのないことでまたいじめられるようだったら、生徒会室に来てくれて構わない。必ず対応する」

シルベルト様がそう言ったが、多分それが余計に鼻につく結果になるだろうな。絶対に悪手!!
あの方もセレナさんの代わりなんていうぐらいだから刺激しないに限る。

「ええ、お気持ちだけ。私は以前言った通り、皆様とは関わりになるのは、ちょっと…」

「迷惑と言っていたな、すまない。こんな言い方をすれば、またセレナの代わりに入り込んだとイリーネ嬢達に噂がたつな。わかった、生徒会に君は入れない、それは約束するから」

「はい、私には無理ですから」
……

無言が続く。
こういう時ってやっぱり私の方が罪悪感が生まれるのはなぜなんだろう。
相手の親切心はわかるのだけど。
勿論、ここで手のひら返しはしませんが。
関わらない一点でいきます。

馬車が止まる。
「では、また学園で」
とシルベルト様にエスコートされながら、馬車を降りた。

「ありがとうございます。春休みまで、一週間ぐらいですね、もう普通に二年生に上がって、何もないことを願うばかりです」
といえば、
「本当に申し訳なかった」
と言われ、責めたわけではないと否定した。

部屋に入れば、やっと落ち着けた。
何もないこの部屋が一番だと思う。勿論賑やかな街も魅力的だけど、私には賑やかすぎる気がする。

ふぅ~
と大きく息を吐けば、
「お嬢様とってもお綺麗なのに溜息なんてついて幸せが逃げてしまいますよ」
とメイドに言われ、
「私じゃないみたいで落ち着かなかったからお化粧落として着替えるわ」

「もったいないですよ。本当にお綺麗なのに。お嬢様がお茶会に張り切って行ってらした頃を思い出しました。キラキラ光っていて、本当にお姫様だと思いましね」
と懐かしそうに言っていた。
正直にいえば、私だって、こんな綺麗にしてもらえて嬉しかったし、気持ちもはしゃいでしまっていた。
こんなおしゃれは初めてだから。

でも本物、イリーネ様を見て逃げたくなったのも事実。関わりたくないっていうのがあるけど、彼女に見られたくないが一番だったかもしれない。
後ろ姿だけでもわかる、光り輝く艶のある髪、上質なドレス、メイドに侍従、比べられたくなかったのかもしれない。私の偽物感が圧倒的に強くて…惨めになりたくなくて。

ずっと避けていたのは惨めな気持ち。

「ハァ~、ヤダヤダ。こうなるからたまに贅沢しちゃうとね、ムクムク膨らむのよねこういう気持ち。見ないようにしていたのにな」



翌日、教室に入れば、
「ちょっと、セオルド様が捕まったって聞いたけど、ティア関係しているの?」
と飛びつかれる勢いでミンネ達に聞かれた。
面倒だとも思ったし、言いたくもなかった。

「ね、私も警備隊の隊舎で話を聞かれたけど、ミュラ侯爵のイリーネ様に会ったのよ。大変お怒りだったわ。私もお知り合いじゃないけど、ご機嫌斜めで随分と口調の厳しい方なのね」
というと
「えっ、イリーネ様も事情をきかれているの?」
と周りの一人から言われた。

「えぇ、新学期から復学されるから、よろしくねと震えあがるほどの威圧をかけられたわ」
とここまで言うとクラスメイトは蜂の巣を避けるかのように一斉に散る。

復学と機嫌が悪いまで言えば、噂を立てて火の粉がかかったら大変だものね。

ミンネが小声で、
「ティア、大丈夫なの?」
と聞かれ、
「わからないけど、悪い噂は流れているから、私のことはセレナさんの代わりに入り込む子という認識みたいだったわ」

「うわぁ、最悪じゃない。完全に目をつけられているわ」
とお気の毒という顔をしてから、
「卒業パーティーではミンネは誰かと踊れた?」
と聞くと
「私はダメだったけど、このクラスでフラン様とログワット様と踊れた子が二名いるのよ。凄いわよね。ダンス争奪戦に勝ったんだから」
と言っていた。

どんな争奪戦だったかは聞かない方がいいだろうな。この学園は武闘派が多いから。

怖い女生徒にも呼び出されず、何とか落ち着いた一週間が終わった。生徒会のメンバーは、すでに執務の都合や遠征など一足早く学園を休んでいるらしい(クラスメイト情報)
明日からは春休み、そして次教室に入る時は二年生になる。
門前には、警備員さんが立っていた。
茶色の髪の方ではない。
「あの日が最後って言っていたものね。挨拶出来なかったわ、残念ね、ハァ~」

少し感慨に浸っていると、

「ここね、ノーマン王立学園!!
なんか想像していたのとは違うかも、ちゃんと学校じゃない。文章だと私のイメージだったからな~。もっとお城とかだと思っていたなぁ~。噴水とかあるのかな、もっと奥には庭園とかあるのかな?ここからだと全然見えないんだけど。ねぇ、あなた、ねぇねぇ、この学園に本当にクラード王子様とかシルベルト公爵令息とかフラン騎士様とかいるの?」
と私の真横に寄ってきて、多分私にきいているであろう事に頷いた。

「あ、そうなんだ。やっぱり合っているんだ。へぇ、ここが舞台なんだ」

舞台?
学校だけどとは思ったけど、こんな大きな声で話す子と知り合いだとは思われたくないとすぐ歩き出した。

「ちょっと待って、ねぇ、そこのモブ、じゃなくて生徒さん。セレナさんってどんな感じの方かしら?」

「私に聞かれてますか?」

「えぇモゥ、女生徒さん!」
とにこやかな顔でこちらを見る。オレンジ色の髪が毛先だけクルッと内巻きにカールされて小動物のような目が大きく可愛らしい顔立ちだった。

「セレナさんというのは、生徒会の方でしょうか?もしそうなら、謹慎とか聞いた気がしますけど、今はお見かけしません」
と言えば、
「えぇ、何で、何でよ。何カミューラとかにいじめられて負けたってこと?謹慎、あぁあの悪女って噂、カミューラが流しているだけじゃないってこと?」

えぇ、カミューラとかって呼び捨て…
ヤバい人だ、きっと。いや、絶対。
同じ制服、オレンジのタイ…同じ学年。
その発言をした時に数人に見られた。
友達と思われたら大変!

「では、私は何も知りませんので」
歩き出せば、

「チッ、どう言うことよ。カミューラが原因かしら。なんか話違うわよね。ちょっと待ってよ、ねぇ、モブさん」
と追いかけてきて私の肩を押さえた。

もぶさんって私の事?
誰?別人ですけど、怖っ

「すいません、急いでいるので」
というと
「何があったか教えてくれてもいいでしょう?」
押さえる手の圧力が、強い。

「私は学年が違うのでわかりません」

「やっぱりモブじゃ駄目か。確かにわからないとか知らないとかしか言いようがないか…決まった言葉しか話せないわよね」
と言って手を離してくれた。

私は、スタスタ歩く、後ろを振り返らない。

微かに聞こえたのは、『ブランカに』

あぁ何か嫌な予感しかしない。
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