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6余波からの広がり

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新学期年明け、学園の教室に入った途端、ミンネのはしゃぎに捕まった瞬間、身構えた。
私もそれなりに婚約破棄の折り合いをつけれたはずだけど、まだミンネ達の噂の餌食になる覚悟は出来ていないらしい。

「ティア知っている?ある女生徒のおかげで王太子殿下やシルベルト様が侵されていた病から解き放たれたそうよ。もう王宮は年明けから大変だったそうなのよ。内緒だけど、私も血を少しお渡ししたの。ティアの家には来た?王宮からの使者?」
とコソリと話すには大きめな声のミンネ。

血?

「来てないわよ」
と答えれば、
「じゃあ、やっぱり数人…
選ばれた者だけってことね。やったわ!」
とはしゃいで喜ぶミンネに何が喜ばしいことなのかさっぱりわからなかった。

こっそりとミンネが私の耳に近づいて話す。

「私、もしかしたら王太子殿下の婚約者候補かもしれない…病を治したっていう」

「う、嘘?いやあのピンク、セレナ様は?」
と聞くと、
「そうね、でもあの方も自宅謹慎中でしょう?病だって知らない可能性もあるし、それにどう考えても高位貴族侍らして、殿下だけと結婚しますって信じられないのではないかしら?私だったら他の人との関係疑ってしまうな」

ごもっともだ。
あんなに侍らしておいてね。みんなお友達は信じられないわ。

そしてまだあの婚約破棄断罪の当事者達は学園に来ていない。
今、ミンネは自分が特別に選ばれた者という点でかなり浮かれているようだった。
いつかは知られるならと、私の婚約破棄の事をミンネに伝えると、目をこれでもかと大きく見開いて、
「信じられない。何、結局、セオルド様は、侯爵令嬢なら誰でもオッケーって事?イリーネ様もセオルド様も最低ね!」

「政略的な婚約だもの。より良い条件に飛びつくのは当然よ」

私も悪かったの…とは言えなかった。

「ねぇ、知っている?セレナ様って屋敷にいないのよ」
と得意気に教室の中央で高い声で意気揚々と話し始めた女子生徒。注目がそちらに集まった。

「何、何」
飛びつく隣のミンネは一瞬で中央まで移動した。凄い技だ。
あっという間に私の婚約破棄話は興味無しになった…
それでいいのだけど…
私は、少し遠巻きの位置、でも耳は素直なものでそちらに向いた。
ムッツリとは私の事かもしれない。

「私の兄様って騎士団に所属しているの!冬休み入る前になんとセレナ様の男爵家を一斉に捕縛したんだって。だから捕まっているのよ!年明けに兄様が帰宅して内緒話として教えてくれたから間違いないわ!御家お取り潰しね。地下室に魔術的な何かが描かれていたそうよ」
と興奮しながら話していた。

高位貴族に愛された罪?唆した罪?それで一家犯罪者なの?魔術?
でもこの国の王太子を誑かしたなら罪は重いのかしらね…と一人云々と考えているとミンネも少し顔色悪く、
「ねぇ、王太子とお付き合いするってその『友達』とか全部無しというか…すっぱり切った方がいいのかな?」
と聞いてきた。

まさかミンネまで侍らせていたの?もう気分は王太子の婚約者なの!?

「男友達って事でしょう。クラスメイトみたいな関係でしょう?」
と聞くと
「うーん。ほら私は婚約者とかいないからいろんな所に顔出して、縁繋ぎというかキープ的なアレをお友達っていうべきか侍らせるっていうべきか…微妙かな」

「いやよくわからないけど、ミンネも誰か一人に絞った方がトラブルはないのではないかしら」
といえば、
「ティアは真面目だな。まぁ仕方ないか。婚約者がいたらそういうのって噂ネタにされるものね。お茶会やパーティーで縁紹介の集まりがあるのよ。みんな相性や家柄の良い相手がいいじゃない。男性も女性も!そんなお堅いと本当に売れ残ってしまうわよ」
とミンネは助言をくれた。

縁紹介の集まり…そういうのがあるのか。
ミンネはいつも新しい服や飾り、香水、化粧品、話題の物は手にして週末や放課後も忙しそうにしていた。
令嬢として、御家のために努力していたのね。

私はお金も興味もなくて話を聞くだけ、頷くだけ、自分とは関係ないそんな括りで見たり聞いたりしていたけど…
私の知らない世界はすぐ隣合わせで、私は本当に婚約者がいると下駄を履いていた。
これからは…
『売れ残り』

この言葉が大きく胸に落とされた。

それから数日経って、紺色のネクタイをつけた二学年の女生徒に食堂の個室に連れて行かれた…

そこには私を含めて四名。
令嬢としての付き合いも乏しい私には、全く知らない方々。

「まぁ、ここは三年生の私から話しましょう…ここに集まったのは、クリスマスパーティーの婚約破棄騒動で…つまり婚約者を奪い取られた集まりです」

と言い切った。
………
四人!
あの日婚約破棄された人達、全員この一月で婚約者総取り替えしたの!!

シクシクと泣く者も現れた。

私は年の初めにわかっていたので余韻というか衝撃を受けた時間は少しばかり過ぎているので悲しみはないが…

この集まりって…集まって何するの?

「私はあと二ヶ月で卒業です。実際二ヶ月で新たな婚約者は見つからないでしょう…今後は成人のパーティーやお茶会に頻繁に参加して縁を見つけることになります」

一人の令嬢の嗚咽混じりの泣き方に驚く。

「ぐやじぃーーー」
一斉に頷く二名。

ええっっ~~~~~
何これ、怖いんだけど。
私は政略結婚のための婚約者だから。そんな思い入れないから。あなた達とは違うよ。
うん、泣くほどじゃないし、絶対に違う!
と必死に心で境界線を引いた。

「ここからは私が。私の名前はブランカ・ルミネです。二年生です。今私の家も大至急新たな嫁ぎ先を見つけるため動いておりますが、はっきり言ってこれは高位貴族による理不尽極まりない所業です!被害者四名力を合わせて戦いましょうという決起集会です」

「興奮しすぎて挨拶しませんでしたね、私は三年ユリアーノ・ゼルシュです」

「私は一年、ぐすん…サマリア・タヒチです」

あぁ~挨拶しちゃったら私このグループに入会させられる気がする。
…決起集会って。
空気が重く、静まり返る…
逃げれる雰囲気ではない…

「私は、一年ティアラ・ビルドです。よろしくおねがいします」

ブランカ先輩は
「はい、とりあえず今回の件、理不尽な事は明白、これを学園新聞で訴えようと思うの」
と言った。

いや、逆に恥の上塗りじゃない!?
「いや、いや、先輩方それはやめた方が良いですよ。野次馬、いえ面白おかしく噂を流されて私達の令嬢としての価値というか今後が更に動き難くなりますよ」
と言えば、

ユリアーノ先輩が
「でもこれでは泣き寝入りじゃないですかっ!」
と訴えた。

みんな婚約者さんの事好きだったんだな。
私とは大違いだわ。

「皆さんは愛情があったのですね。私なんて政略的なアレでして。あまりにも皆様とはその温度というか気構えが違うと申しましょうか?私はこの場を辞して…」
と言う途中、

「「「私も政略的な婚約ですわ」」」

口が揃った。

えっーーーそこ否定!?
それなのに、あんなに熱を持って悔しがれるって!!

私って熱がなさすぎなのかしら。

他三人があれやこれを話している中、私はただ呆然と座っていた。

流石に皆さんの前で大きな溜息は吐けず飲み込んだ。

「お聞きになりました?ティアラ様、ユリアーノ先輩の為にまずはお茶会を開いて我々の知り合いの男性を招待するってどうでしょうとなりましたの!自分に合わなくてももしかしたら新しい縁というのあるじゃないですか」
と意気揚々とブランカ先輩が言った。

ん?男性の知り合い?


いない、いないよ私には。その類いは参加したことないし、クラスメイトの男子生徒とも親しく話してない…

慌て、
「申し訳ございません、皆様、私にはそういった知り合いはおりません」
と言えば、
困った顔をされて、
「では、親類も可能にしましょう!」
と言われ手を叩き、何故か拍手で締められた。

いや、いませんよ。私には。
先程まで泣いていた方も笑って拍手して喜んでいる。

「では、第一回婚約者すげ替え被害者の会終了です」

呆然自失とはまさに今…
嵐は外側にいても被害が大きく、余波は限りなく広がるものだと知った。
(…困惑中)
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