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109 賭け事は良くありません

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私達が庭園に向かって歩けば、…会場内の人達の雑音が一斉に始まり、凄く注目されている。

…私達が動けば、護衛騎士達も動く。

目立たないはずがなかった。
ただ遠巻きに見て囁きあっているだけかもしれないが、みんなでやれば怖くない精神なのか、彼方此方すぎてその勢いに、私も怖くなる。

外の夜風に当たろうなんて、友達気分で気軽に言ってしまったけど、この国の王子様を外に誘うなんて、一貴族令嬢としたら、出来ない。王女と宣言したから、アンドル王子様に、おねだりや我儘を言い始めたと言われているかもしれない…

あぁ、また失敗した。
後悔ばかりが頭の中を駆けていく。


「ミランダ嬢、何考えてる?困ったな、動かなければ良かったなとかかな」

とエスコートをしてくれる王子は、私の気持ちを察してか囁くように言う。

その様子にまた歓声が上がってしまって…

耳が震える。慌て反対の手で耳を庇うように触る。
持っていた眼鏡が落ちそうになり、王子が私の手ごと支えた。

今私は、両手がアンドル王子様に捕らえられた状態だ。

見上げると、いまだに真っ赤な顔になっていて、彼も私同様、普通じゃない事がわかった。それでも私に気遣って、気持ちを察してくれていたようだ。

「ええ、お互い、この状態が慣れないですよね。私、眼鏡しても良いですかね?」

と言えば、王子の動きが止まってしまった。

「えっと、変な事言いましたか?」

真っ赤になって、それから目が泳いでから、

「そう、眼鏡はした方が…良いか、もな。この会場には、沢山貴族がいるし…不埒なことを考える奴も出てくるから」

よくわからないけどお許しが出たので、エスコートを解いてもらい、少し壊れた眼鏡をかけた。

なんか落ち着くーーー

両側の視界が遮断されるような、安心する感覚だわ。

「ん、ミランダ嬢だな。うん、私も浮き足だってしまい申し訳なかった。両手を掴むなんて痛くなかっただろうか…」

顔色は戻ったようで、

「大丈夫ですよ。驚いたけど眼鏡を落とさないように支えてくれただけじゃないですか」

と言えば、アンドル王子は無言になってしまった。
そして、ゆっくり庭園に案内されると思ったが、側道を歩いていく。

「あのどちらへ…」

「噴水があるんだ。花壇はあっさりしているのだけど、水音が気持ち良くてベンチがあって…
すまない、令嬢には華やかな庭園の方が良いよな、知らず知らずに自分が行きたい場所に歩いてしまった…」

と私に詫びるように頭を下げた。いや、私としたら一息つけたらこだわりはないのです。

「いいですね、噴水!確かにあのぐるっと回る馬車の所から見えてました、アレですよね。ここからでも灯りが水に反射して美しい景色が広がって見えますね。夜にしか見えない景色なんて、素敵なことだわ」

と言うと、アンドル王子が立ち止まり、

「…気が利かない私に呆れず、同意してくれるのか…優しさに感謝する」

と言われた。どうしたのだろう?

「そんな大層なことではないじゃないですか?王宮は何処も手入れが行き届いて、絵本の景色のように素敵ですよ。今日は変ですよ、アンドル王子様」

と言えば、

「ミランダ嬢…もう、その名前を呼んでは…くれないのか?」

あ、あれか…わかるけど、困ったな。

「そうでしたね、アンドル、さま」

と気不味く口ごもりながら言えば、またものすごい勢いで顔が赤くなる彼に、一体この人は何をしているのだろうと、笑いだしてしまった。

「えっ、何故笑う!」

「だって、顔色がコロコロと変わるのですもの。今は、もの凄く顔が真っ赤!先程もですが、今も、また同じくらい」

「だ、それは、凄く嬉しくて、緊張して、なんか心臓の音がうるさいから、だ、変な事を想像しているわけではないから」

「まぁわかるような、わからないような…私も薬草園でお会いした時は、心臓の音が酷く響きましたから。きっとあの時私も緊張していたのでしょうね。それに何故私なんかに緊張するんですか?あなたは人気者ですが、私はティア王女達が言うように、地味眼鏡ですよ。ほら、眼鏡!」

と顔を突き出すように見せた。

「うん、眼鏡だね。それでも信じられないぐらいドキドキするんだ。女神のような素顔を見せられてもだし、眼鏡のミランダ嬢を見ても変わらず…緊張するし、話せて嬉しいし、余計な事を言ってしまうし、どうしようもないな、私は」

えっ!?
先程から、何か友達ぽい会話ではないような…私まで緊張が移ってくるような?

「アンドルさま、私達は、確かに王子と王女ですが、友達であることは変わらないですよね?いや、友達と話すのは確かに嬉しいけども…」

確かに緊張すると余計な事まで話してしまう…



何故無言?
気不味い…非常によろしくない事を言ってしまった感がある、この空気…


「私は、…王子としてじゃなくて、もちろんミランダ嬢が王女なんて事も知らなくて…
例え一伯爵令嬢でも、あなたを婚約者に選びたい…」

な、なんで!?
あ、私が余計な事を言ったから、緊張であんな騒動もあったし、それでアンドル王子はおかしくなってしまったんだ、きっと…


「アンドルさま、困ります。婚約者なんてことは冗談で言っていい話じゃなくて、多分、今日の揉め事、騒ぎで面倒だなって感覚で友達を婚約者に選んでしまえみたいなのは、とても、とっても安易です。駄目です。勘違いです。よろしくないです…から」

と必死に今の発言は、冗談や勘違いだとアンドル様に思い直してもらいたくて、捲し立てて話す。

「…困る?そんなに困る?
…嫌いってこと?私に出来る事ならなんでもするし、注意してくれれば、直す…もう私とは、話してくれないか?」

どうして…こんな話になってしまったの?
なんて言う事が正解なのか、全くわからない。昔先生が言ってた、『恋は突然よ』ってことにこれは当てはまるのだろうか?

全くわからないよ、今の状況。

…無言でいても、まるで狙われた獲物みたいにアンドル様は私から目線を外さない。

これは、逃すつもりはないぞってことよね…

「私、アンドル様と話すのは楽しいです。なんと言うか、近しい感覚があるかなとは思いますが、注意とかもないです。…ただとにかく困るのです。私は、今が一番楽しく生きているので、これ以上の揉め事は困るのです!」

と言えば、

「揉め事がなければ、婚約者になってくれる?」

と全然諦めてなくて、少し可愛らしく言い方を変えてきた。

「いやいや、絶対揉めるというか、毎日誰かしら私の所に来て言いがかりをつけられるわ」

「では、全くなかったら婚約者になってくれる?」

学校の様子を想像してみる。
やっぱり何か言われる想像しか出来ない。

「絶対、言われます!」

「絶対言わせない!」

なんでそんなに自信あるのよ!
今までのことを知らないからそんなこと言えるのよ!

「では、言われたらもう二度と私を婚約者候補に上げないと約束してくれますか?」

私も強気だ。

「いいよ。わかりやすいな。では期限は新学期から一月の間。勝負といこう!」

「ええ、わかりました」

結局噴水まで辿りつかず、その場で婚約者決めの賭け事を決めてから、再び会場に戻った。








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