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106 終わらせ方

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「眼鏡ですか?眼鏡をかけているから、みなさんは、私の事を嫌うのですか?」

思わず言ってしまった。

義兄とアンドル王子は非常に気遣ってくれて、先程から『そんなことはない』と言葉を連発しているが。

私にとっては、予想もしていない言葉の矢を受けて、もう、眼鏡なんてあの方達に投げつけたい気分だ。入場する時には、いざ、海のプリンセスやります!ティア王女をギャフンと言わせます、と意気込みを持っていたのに…全然違う!
私の憎まれた理由は、赤子同士喧嘩したのか、家族からの反応に対する思い込みなのか、嫉妬なのか…

こんなどうにもならない理由で私は、別塔で一人閉じ込められて、王族は、瞳の色を失い、家族として無駄な時間を過ごしてきた…
リウム王子を見れば、頭を抱えているし…マリングレー王国大丈夫かなって心配になるような王女の自分勝手な発言。

魔女だの呪いの力だの、大層な本格的な周りを固めて、理由の芯の部分は『赤子の戯れ』

…ガッカリだよ。私は、ガッカリしたよ、ティア王女…これが姉?
こちらこそ、ありえない!!

「その地味野暮眼鏡で、気を引いているのよ!顔がわからないから、男は自分の理想を重ねられるって。狡賢い戦法だわ」

とダイアナさん。

「今時、あんな眼鏡を売っていませんわ。感性を疑うわ。堂々と付けているのは、私、歯向かいません、可哀想です、弱い令嬢です、目立たないようにしてますという強調で、殿方へのアピールよ」

とマユリカ王女。

「正体隠して、ミステリアスな部分を見せるって戦法よ、ダイアナ。本当に嫌らしい。マユリカ王女の言う通り、殿方へのアピールですよ」

とティア王女。

…失笑が聞こえた。


「眼鏡をしていたら、狡賢い戦法なら、どうぞ、御三方も眼鏡をお付け下さい。なんなら、これ、あげますわ。確かに私のは、素顔を見せない為のマジックアイテムですよ」

と言えば、お義兄様から、

「ミランダちゃん、あれらは頭のおかしい解釈しか出来ない阿保だから、相手にしなくていい。もう帰ろう。聞きたい事は実にくだらない回答だったし、いくら調べてもわかるわけない理由だった」

と言われ、アンドル王子様は、

「ミランダ嬢、あのような猜疑心や人を妬むしか取り柄のない人間は実在する。それが王女達と思うと、非常にその国の品格を疑うべき存在だが…ダイアナ嬢とティア王女は、夢見の乙女で違う国の転生者、そちらの国での彼女達の過去が、生まれ変わっても生き方を捻じ曲がってしまう程、哀しいものだったのではないかと…思う。現実から逃げていると私は考える。前世という記憶が、あの者達を形成して『魔女』にしたのだろうな、」

アンドル王子が、何か思いがあるように話す。

私は、両手で眼鏡を外していた。もちろん、あの人達にあげるつもりで。
アンドル王子の何か思いつめた声に、意識がいき、耳にかけた綺麗に纏めてくれた髪が引っかかってしまった。

「あっ…」

思わず声を出し、まとめ髪が解けて後ろ髪が下ろした形になってしまった。


「ほら、見て二人とも!また、地味眼鏡だけ庇われて、私達は王女ですのに、酷い言われようですよね」

とマユリカ王女は言ったけど、二人から反応はなかった。

ティア王女は見えないが、騎士に抱えられているダイアナさんは見えた。
私を見ていた、ジッと驚くような、呆れるような、そして、
…下唇を噛んで、苦そうな表情をしていた。

大事な眼鏡、義兄からの最初の贈り物だったけど、彼女達がそこまで騒ぐならと自ら外した…。忌み子騒動はなくなったとマリングレー王国で言われたし、ティア王女が、一人まだ忌み子と言っているだけみたいだし。


「何よ、それ…」

震えるような声が聞こえて、会場が静かになった。

その声に反応するかのように、私もそちらを見て、それぞれと目が合った…

「ミランダちゃん…」

お義兄様の呟きと同時に、ダイアナさんの叫ぶような大声で

「何なのよ、それ!絶対、わざとじゃない!…ズルじゃん、そんなの…」

と最初の勢いがあっという間に萎んで最後言葉が消えた。マユリカ王女は、ただ目を見開いて、何も言わない。

アンドル王子が振り返って、こちらもやっぱり何も言わない。表情が無になってしまった。
友達の顔が変わった事に驚かせてしまったのかな。


「ごめんなさい、アンドル王子様…あの、」

と言えば、アンドル王子は突然どんどん顔が赤くなって、目が見開いて、

「ああ…イズリー領の漁港の村で会った女神…」

と言われ、そう言えば、私達は一度村の前で会っていたと思い出した。

「お会いしましたね。夏休みに…女神ではありませんが…」

前に会ったことがあるのを完全に忘れてました。

「水色の艶々の髪、白い肌、青紫の瞳…どこを取っても最高の美しさ…ミランダ、お前が、私の夢に現れた人間だ。私を私の存在を失くす原因だ。消えろ、消えろ、悪魔、あんたなんて双子の妹で私の下で、本当なら私の残りカスのはずなのに!何故全ての養分を取っていったのよ!この泥棒!私から全て奪ってーーー」

ティア王女の叫びは耳が痛くなる声の質量だった。

バタバタ音がする。
騎士に押さえつけられている音みたいで、生々しい金属や服擦れの音が聞こえる。

狂った何かのように叫び続けていて、何故か私は彼女の前にいかないといけない気になった。

私は、前に一歩動けば、もちろんアンドル王子とぶつかる。

「ミランダ嬢…危険だよ。あの者はティア王女の仮面を被っている…魔女。すでに気狂いを起こしている。何をされるかわからない…」

「アンドル王子様、大丈夫、きっと今日お会いして二度と会う事はないですから。わからないですが、私が行かなければいけないのです。あの方が初めて私を『双子の妹』と言いました。私は、彼女に終わりを告げなくてはならない」

と伝えれば、前を開けてくれたけど、横に着いてきた。義兄も。

非常に歩き辛い。
 
「ティア王女様…」

押さえつけられ、髪は乱れ、顔の半分が髪に覆われていた。
私と同じ髪色をした人に話しかけた。

「あんたよ、私に憎悪をどんどん燃料みたいに加えて苦しめてくる顔、姿…
消えろ、消えろ、早く魔女の力、私の願い叶えてよ」

「もう、魔女の力はないと聞きました。そのような力に頼らず、何故周りにいた家族に頼らなかったのか…今更ですね。私達の十数年は戻りませんし。学校に行き、全員と仲良くなんて事は出来ないと知りました。相容れぬ人もいる。私とティア王女様がそうなのですね。だから何とかしようなんて思いません。私は、あなたから奪う者…と言われた通り、奪います。終わりです。
…初めまして、ティア王女様。私、マリングレー王国、第二王女のミランダと申します。このような挨拶を私がした意味は、あなたと対等になり、罰を与える者として発言します。…騎士様、マリングレー王国、第二王女として願います。どうか王女達を…いえ、この会場を騒がせた者達は、気狂いを起こしてしまいました。適切な処置をお願いします…」

「な、何よ、偉そうに」
「やだ、やだ、これは私の物語なのよ」
「やめなさい、私は、誘われて彼女達に合わせただけで」

と三人が喚いた後、すぐに騎士達に連れて行かれた。

場を見計らって、国王陛下が静かに立ち上がった。

「皆、騒がせてすまなかった。演目は終了した。連れて行かれた者達は、残念ながら精神疾患があるようだ。今後ともマリングレー王国ともウランダル王国とも友好国であることは変わりない。互いに協力し合える関係でいたいものだ」

と言われ、この件は終わった。
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