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104 主演の見せ場…

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「ちょっと待ってよ、忌み子って何よ。ミランダは、確かに水色の髪で珍しい色で、偽物王女を思い出していたけど、マリングレー王国と関係あるの?ねぇってば!偽物、話がわからないのだけど?これって二週目の話なの?」

雑音のように、それぞれの方から声が騒がしくなって、こちらに視線は感じるが、何を話しているかはわからなくなった。

「ミランダちゃん、行く必要はない。戻ろう。あの二人は、別の種族の人間だ。何をされるかわからないし、関わるべきではない、戻ろう…」

お義兄様が私を背に庇いながら話す。別の種族って何?お二人は家族?
耳に通る声で、

「アンドル、勝手に動くな」

と聞こえた。相変わらず耳心地が良い…庇われた背から少し顔を出すと完璧な王子様の容貌なのに、表情の焦り具合が全く合っていなくって、
『心配されている』が出ている。



「…ミランダちゃん…
相手は憎悪の塊で人じゃない。言葉なんて通じない。顔を合わせる必要はないよ」

お義兄様が囁く。
背中は温かく、私を守ってくれる…
もう見えなくなってしまったが、向こう側には心配で駆けつけてくれる友達もいる…

「ありがとうございます、お義兄様。でも、こんな騒動を何度も続ける訳にはいかないです。ティア王女様はご自身が納得するまで、何度も続けるのではないでしょうか?
…恨まれる理由…私、あちらで国王陛下や先生、いえ王妃様や王子様に会いました。私に申し訳なさそうにしていたのが、第一印象です。これは一体何なのでしょうね。私、怒ってしまったのです。感情的に!
…私は被害者で同情されるのも、可哀想なのも私で、みんなティア王女に怒りの方向を持つべきよと。
でもあの人達にとって、私とティア王女は対等…
ずっと考えていたのです。その理由…
だから…大丈夫です。私、憎悪の理由、直接聞きたいのです。お義父様、お義母様、お義兄様、私、行きます」

と言って義兄の背中から横に出る。
更に視線が矢のように刺さる。観客のような暖かい視線ではない。

…この視線からお義兄様は守ってくれていたのね…

「ミランダ、ここは舞台と一緒よ。忌み子から海の国のプリンセスになりなさい!旗揚げは済んでいるのだから。さぁ、旦那様私達も参りましょう!」

お義母様に言われて気づいた…まさか初めからこの注目、この状況、この対立は台本に近い。

「ハァーーーお義母様。
流石、情報機関を一手に引き受けているイズリー家です」

考えてみれば、お義母様の従姉妹のご婦人が台本を書いたと言っていた。
私を見つめる観客。
公演をやる前なら、震え上がって隠れていたと思う。
私は精霊の愛し子…海のプリンセス!

ゆっくり、姿勢を正して花道を歩く。隣の義兄のエスコートを受けながら堂々と…辿り着く先は、心配そうに見ている目。彼は、何故かグレゴリー様の背中を押していた。
そんな動きが面白くて、
『大丈夫…』
と思ってしまった。真っ直ぐに前だけ向いて。
通り過ぎる。

移動の足音、人の息を飲む音、囁き合う声…空気が一層張り詰めていく。

貴賓席側なのか騎士に囲まれた一角から声がした。
声だけが聞こえる場所にいたので、どんな状態かわからなかった。あんなに取り囲まれた状況で、ティア王女は話していたの?
人で出来た檻…のようで、王女もダイアナさんも見えない…

「ミランダ・イズリーが来たの?ほら、あんた達どきなさいよ。ぐるりと囲まれていては、見えないじゃない!」

ティア王女の怒り声が響き、また、会場に静寂が戻った。
お義兄様、いくら何でもこれで、飛びかかってきたり出来ないと思うわ。ただわかった事は、あなた達はとても声が大きい方達なのですね。
劇団員にピッタリ…

「忌み子のくせに、この国で好きにやったみたいね。あんたみたいな弱者のふりした悪役が一番タチが悪いのよ。私は聖女よ、忌み子を退治するのー」

ティア王女の声は聞こえるけど、顔が見えない。怒っている、ことは声の調子でわかるけど…
あんなに怖い存在だったのに、見る分には滑稽すぎて…檻に入った闘牛が、外の人に説法をしたり、愚痴を言ったり、挑発したりしているのかと…

確かに入る前に、騎士達を適切に配置したと義兄から聞いたけど…これは酷い。なぜこの状態で、普通に吠えることが出来るのか。

お義父様とお義母様が、国王陛下と王妃様の前で止まり、軽快に挨拶をする。

最後は私の番。
「国王陛下、王妃様、本日は、お招き頂きまして、イズリー伯爵の義娘、ミランダです」

「ああ、よく来てくれた。現在、マリングレー王国の王族の皆さんのサプライズの公演途中なのだが、参加型の演劇みたいなんだよ。よく見えないが、そこも演出なんだよ。ミランダ嬢も名指しされてしまったが、参加出来るかい?」

と国王陛下は、この状況をサプライズと言ってきた。奇妙というより、もう見ていて恥ずかしい状態になっているのを弄り始めてくれた。
そして、その声に反応するように、周りにいた貴族達が、話し始めた。

「「マリングレー王国の演劇?」」
「「いや、変だと思ったよ」」
「有名な聖女様が、乱暴な言葉使いに、あの奇妙な言動」
「「でも王子様倒れちゃってるじゃない」」
「騎士達が取り囲まわれているのも演出?」
「確かに声だけ、でも王女様なのに、なんかあれよね…」
「みっともない」
「「「酷い扱いじゃないかしら?悪役よね」」」

一層騒がしくなった。

「…ハァ、酷いですね、クリネット国王様、これでは我が国の恥の積み重ねになって、どうしましょうか」

と言うやいなやドタンと音がして見れば、騎士の陣形が崩れ、騎士の一人がピンク色のドレスを纏ったダイアナさんを片脇に抱え、隙間から倒れた水色髪の真っ青な布にキラキラと光るドレスを着た人が床に見えた。

一瞬の事で何が起きたかもわからなかったけど、先程までの貴族達も声を出さず、倒れた人の喚き声だけが響いた。

「何でよ、兄様は死んだはずでしょう!蜂の毒をつけたはずなのに、何故立ち上がるのよ!止めてよ、放し」

私達に見せないようにして、多分口に何か当てられたみたいで、ゔゔ、喚く声になった。
騎士に囲まれた中で何も出来るはずない
…このままでは、連れて行かれて…終わり?
えっと、私の出番って入場だけ?
あんなに注目浴びて?
お義母様に海の国のプリンセスになれって言われたのに、何もしていない。
ギャフン計画は、このままでは完結しないわ!

自ら舞台に差し込むしかない。

一歩、騎士に囲まれた方向に進んだ。

「質問よろしいですか?ティア王女様。私があなた様に一体何をしたっていうのでしょうか?」

…やっと私の台詞が言えた。





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