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97 ティア・マリングレー 3

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ティアside

クリネット国に入国して三日目の朝、イズリー領の領主館から下位貴族らしい飾りもない素っ気ない馬車を借り出発した。

「本当にこれはどういう事なの。身体が痛いじゃない!クッションを敷き詰めて乗る乗り心地の悪さ、神官達に無駄遣いしないよう伝えなさい」

と私の侍女に命じた。連れて来た使用人の半数以上が、馬車の数が足りない為残り、護衛騎士だけは全員連れていく。

「なんてタイミングが悪かったのかしら」

と言えば、斜め前に座ったリウム兄様の側近が、

「僭越ながらティア王女様、イズリー伯爵に連絡はしたのですか?夜会の開催日より三週間も早く到着なされてますし、神官達が勝手な行動をしているのも、イズリー伯爵は気分が悪いのではないですか?」

と言う。

「あなた、連絡してないの?」

端に座った侍女に聞く。青い顔してまるで私がいじめているみたいじゃない?

ハァー、使えないわ、どいつもこいつも言われた事、命令された事しか行動しない。

「ねぇ、もしかして私イズリー伯爵に意地悪されていたってことじゃないかしら?馬車を隠されたとか」

というと兄様の側近は、私を信じられない者のように見た。
こいつも使えない…
私は王女よ、神官に貸し出したなら、追いかけて取り戻してくるべきでしょう。

「ハァー、才女と崇められている王女様の発言とは思えません。そもそも王女様が神官達に金を支給して情報収集を命じた訳ですよね、後火薬に薬、惚れ薬でしたっけ…」

こいつ、どこまで知っている?

「なんて事言うのよ、惚れ薬なんて作ってないわ。貧民の治療薬よ。あなた先程から失礼極まりないわ。お兄様の側近かもしれないけど、何故私と一緒に来たのよ!気分が悪いわ、この馬車から降りなさい」

確かに、国王やリウム兄様を脅す為に言った言葉を取られた。確か侯爵家…の次男だったわね。本当に何しに来たのかしら?

あぁ、イライラする。多くの者達の行動が私の神経を逆撫でる。

途中で馬車は変える事は出来たが、王宮に到着するまで、8日もかかった。

「本当に最悪よ、私は急いでいるって伝えたはずなのに。いつのまにか後から来た侍女達に追いつかれるなんて…絶対に仕組んだ者がいるでしょう、この中に!」

侍女に文句を言っていると、扉が叩かれた。

「…ティア王女様、アンドル第一王子様がお見えになりましたが、いかが致しましょう…」

なんでこのタイミングなのよ!

普通ホストなら出迎えるのが常識なのに。
客室に通されてから挨拶に来るなんて、非識だわ。

「着替え途中だから、また後ほどとお伝えして」

少し時間を割いてやるつもりで言った。
私は一時間後には、挨拶出来るだろうと考えていたのに、結局会えたのは、翌日の夕方…

どうなっているのよ!マリングレー王国の王女を軽視しているとしか思えないわ。

「お久しぶりです、ティア王女様。相変わらず真っ白な肌が、光り輝いておりますね。一度扉の前まで来たのですが、随分とお元気なご様子で、私、友好国として安心しました」

と作り物の笑顔でこちらを見ながら、私を貶める。

「お久しぶりです、アンドル王子様。酷い言われようで悲しくなりますわ。私、昨日到着しましたのに…出迎えてもくれないなんて、友好国としてどうなんでしょうか?これが、クリネット国の王族の品位で常識なのですか?」

「本当に申し訳なく思っておりますよ、ティア王女様。ただ時期が…昨日今日と進級試験でしたので、どうしても学校が終わり次第しか挨拶出来なくて、試験勉強もありまして。ティア王女様は学校には通われていませんから、ご存知なかったかもしれませんが…」

この人形みたいな王子、私に明らかに嫌味をぶつけてきたわ、前回はこんな態度じゃなかったのに!
一体何でこんな強気な言動をするのよ…

あ、れ、か。婚約者になりたいと嘘の恋文で断った王女がまた来たって思われているって事!あぁ面倒だなというお子様王子にありそうな傲慢な態度。

なんて屈辱的なの、こんな顔だけのお子様王子に。
…でも、ここは我慢よ、忌み子を見つけ出さなくては!全てあいつのせいなんだから。

「私、その学校に行きたいのです。見学させてくれませんか、アンドル王子様」

とお願いする。頭だけは下げない、嫌味を言われ、傲慢な態度に私は許せなかった。これ以上は…

「ハァー、ティア王女様、友好国の王族のお願いを聞いてあげたいのですが、最近不審者が校門を彷徨き、女生徒に突然質問する神官もどきが数人つかまりまして、現在事情聴取中なのですが、全員マリングレー王国の者なんですよね。学校側は、不審者、外部を受け入れない体制で強化してます。既にマリングレー王国には警告文を送り謝罪を受けてますが、リウム王子より親書で教会の神官は、ティア王女様の指示と聞きましたので、数日間、事情をお聞かせ下さい」

無表情で淡々と話す。それが無性に腹立たしい。

「ハァ!?
神官が捕まったですって?知らないわ、私は、濡れ衣よ、…忌み子の仕業ね…やっぱり学校内に忌み子はいるのよ、アンドル王子様、あなた隠しているのでは?私が調査して、聖女として祈祷します」

「忌み子…何を言っているんですか?…それより神官達一人一人と向き合い、騎士団の取り調べに参加して下さい。マリングレー王国の国王陛下より許可は受けてます。王族の一人として義務を果たして下さい」

何なの、この上から目線!

「何ですって、私は第一王女で聖女なのよ!!」

「ティア王女様、落ち着いて下さい。そのような表情をなさっては王女として、聖女としてあるまじき顔です。国王陛下の許可がある以上、ここはクリネット国です、承諾して下さい」

兄様の側近が、私に耳打ちをする。

こんな屈辱ないわ。
何故思い通りにならないの…

翌日から渋々兄様の側近に連れられ、騎士団の捕縛牢に入った。

「王女殿下、マリングレー王国の神官かどうか一人一人ご確認下さい」

体躯の大きな騎士が偉そうに言う。結果服装は全て教会の神官だった。
途中神官が何人も馴れ馴れしく私の名前を嬉しそうに呼ぶ。

私に次から次と迷惑をかけておきながら、「助けろ」ですって、ふざけている。

「騎士様、確かに我が国の者みたいですね、ただ私、聖女ですが、教会長のみとしか話しませんので、神官は存じ上げないのです。こちらの国に失礼をして迷惑をかけたなら、クリネット国の法に基づき相応の処罰をして下さい」

あぁ、牢が騒がしい。
使えない奴らは、文句だけは達者なんだから。忌み子の情報は全然収集出来ないくせに。

「ティア王女様、現在マリングレー王国のこの者達の責任者として、事情聴取に参加する事が決定されております」

…兄様の側近がまた余計なことを言う。

「私は時間がないと言ったでしょう。あなたがやりなさい。この国は忌み子に乗っ取られているわ。私が見つけ出し排除しなければ、とんでもないことが起きるわよ」

と周りにいる者達を脅すが、目の前の騎士は表情一つ変えずに、牢から一人出し、

「では、王女殿下、取調べ室に向かいましょう」

と淡々と言う。

「何なの、よ、もうーー」

王女らしくない言葉が漏れる。怪訝な表情をした兄様の側近まで無視をされた。



既に入国して二週間経った。
全く外に出ることも出来ない…騎士団の事情聴取がしつこい。
みんな同じ事しか言わないのに、私の命令?だからあんたなんて知らないのよ、雑魚が…

こんな事になるなら、イズリー領の旅路に情報収集すれば良かった。
最初の神官が、ダイアナに手紙を届けに行った後、商店でイズリー家の令嬢に暴行したと商人から聞いた。
何があったか聞きたいのに…詳細が全く伝わってこない。
イズリー家の令嬢って、印象がない…

客室の扉がノックされた。
王宮の侍女が手紙を持ってきた。

「…お茶のお誘いだわ。
ディライド様、あなたにも文句を言いたかったのよね」

その紙をすぐにゴミ箱に入れた。




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