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93 気をつけてと言われましても…
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監督の一言から、突然始まった通し稽古。あまり練習に来ていない劇団員の方達が、流れに乗れないラナと私を引き上げてくれる。
台詞を覚え、歌を歌い、ダンスのように動き回る。場面では出来ていたのに…座長として仕切りなんて出来ず、ついていくのに必死で…
また練習の日々になった。
*
「衣装が完成しました!」
お義母様に渡された私の服装は、二着。
一着が麻の飾りもない茶のシンプルなワンピース。
もう一着が、シルクの深い青のシンプルなドレスと衣のような軽いレース編みのストールがキラキラしている。
「お義母様、こちらキラキラしていますね」
「糸に銀を纏わしているからよ」
軽いけど銀なの?
衣装合わせは、貴婦人達の厳しいチェックが入る。
「ラナそう言えば、背景や舞台作りってどうなっているのかしらね?」
「それも発注済みらしいですよ、お嬢様。何でも現地が、どうとか他の団員の方が言ってました」
現地ってイズリー領で作っているのね。
「お嬢様は、海の女神様みたいに素敵なドレスですね…見事な青にキラキラが眩しいです!」
「私みたいな者に精霊の愛し子役なんて出来るのかしら…不安だわ」
「お嬢様、大丈夫ですよ!台詞も少なくしてくれていますが、やはりこの舞台は歌ですよ!みんなで歌えるのがまた気持ちが入ってくるというか…それにお嬢様の衣装変えも素敵ですし、みんな楽しんでくれますよ」
励ましを受けても不安は消えない。
貴婦人の皆様が納得いくまで衣装合わせは続いた。こんな調子だったので夜会のドレスなんて、私にとってどうでも良くなっていた。
突然、義父から、
「ミランダ、劇団の旗揚げ公演が春に決まったよ。イズリー領のお祭りの前に度胸をつけるために行って欲しい」
公演って早くないかしら?
「お祭りは夏ですよ!」
「自信をつけるためにだよ。失敗したってまだ半年近くあるんだから、色々調整出来るし、大丈夫!来月から学校を休んでもらいたい。学校側には、今月末にテストを前倒しで受けることで進級が決まる」
いくらなんでも色々急に決まりすぎて、何から言えばいいか…
「ミランダちゃん、今回私と母上が旗揚げ公演について行く…
大丈夫。ミランダちゃんなら出来るよ。絶対何があろうとも私が守るから!」
…
心配そうな顔した義兄とレオン。確かに練習もまだ二ヶ月もしていないし、いきなり旗揚げ公演って無謀な気がするわ。それに試験の前倒しに、一カ月近く学校を休むって、頭の中が追いつかない。
レオンが椅子から勢いよく立ち上がって、
「兄様、私が同行します。兄様は、兄様の役割を通して下さい。お義姉様は私が守ります。私だってイズリー家の人間です」
「…レオン?」
私の声にレオンは優しく微笑んでくれた。
お義母様からも
「ちょうどレオンにいい役があるの!足りないものが揃ったわ。すぐに練習よ」
と言われ、レオンは、
「違います、私は演者じゃなくて護衛として…」
「良いから来なさい。大丈夫。台本に台詞を足すけどあなたは微笑みの王子よ。大して台詞はないわ。傾斜を利用すれば、ミランダと良い感じに映ると思うのよ!」
「えっ、私は出来ないですから、母上ー」
「まぁ!レオンが王子様をやるの!素敵だわ。絶対に似合うと思うし、舞台上にレオンがいてくれたら心強いわ。不安だった気持ちが、楽しみになってきたわ」
と言えば、お義兄様も、笑った。
「レオン、諦めろ。ミランダちゃんも母上も大変喜んでいる。微笑みの王子様をやるべきだ!」
言った後、レオンは肩を落とした。
「こんなはずはなかったのに…」
と聞こえたけど。レオンは祭りのサプライズ計画の仲間外れが嫌だったんじゃないの?でもガッカリしてる姿も可愛い。
…しかし、
何故みんな私を守るって言うのかしら?
お義父様に聞くと曖昧にされた。
そして練習と学校の日々を続け、一足先に進級テストを受ける為に別館に向かうと、久しぶりにアンドル王子様に会った。
「久しぶりだね、ミランダ嬢」
相変わらずザ王子なのに、笑顔が優しい…表情筋が完全に崩れたね、そちらの方が親しみがあって私は嬉しいな。
「お久しぶりです、アンドル王子様…」
本の御礼を言っても良いのかしら?
「アンドル王子は、忙しいでしょう、早く王宮に戻るべきかと思います。私達は、進級テストを受けに来たので失礼します」
お義兄様が、一礼をした。
あぁ御礼を言う機会を失いそう…
「そう言わないでディライド。…いつもイズリー家のみなさんには感謝しているんだ。ミランダ嬢も身体に気をつけて…無理せず…外に出る時は注意を払って」
…イズリー領のサプライズ計画を知っているのかしら?
「旗揚げ公演は上手く出来る自信はないのです…みんなの笑顔が見れるよう頑張りますね。気を遣っていただき、ありがとうございます」
と言うと、
「いや、公演ではなくて最近あいつらが活発に、」
「余計な気遣い無用!我が家で守りますから」
アンドル王子様の言葉をお義兄様が遮った。
そのままお義兄様に手を取られた。
後ろを向くとこちらを心配気に見ている王子様がいる。
「アンドル王子様も頑張って下さい。お互い頑張りましょう!」
と友達らしい声を掛けれた。
しかし、何故みんな気をつけてとか守るって言うのかしら?劇団の旗揚げ公演は危険なの?
*
無事に学校の進級試験にも合格し、いざ、旗揚げ公演!
リリエットにも何故学校を休むのか、進級試験を先に受けるのか聞かれたけど、お義父様から内密と強く言われたので、
「どうしても領地に帰る必要があるの」
と言うごり押しの言い訳で別れてきた。心苦しい。領地で公演したらサプライズではなくなってしまうのではと思うのよね。
「お義母様、大丈夫なのですか、領地で旗揚げ公演なんて」
と聞くと、お義母様は、思いついたような顔して、
「マリングレー王国での公演よ!」
えっ?ラナの顔を見るとラナも驚いていた。
「あら、場所言ってなかったかしら?」
レオンからも、
「言ってませんよ、母上も父上も。劇団員の皆さんは先に現地入りしているんです。義姉様の試験を受けている間にサタンクロス商店の船で行きました」
「お義母様、私はマリングレー王国に入っても大丈夫なんでしょうか?それに演劇の内容が、国自体を批判してます…私は、」
「大丈夫に決まっているでしょう。罪を犯して、国外追放されたわけじゃないのに。きちんとした手続きでイズリー家にいるの、あなたはイズリー家の人間。私の娘よ」
「お義母様…」
マリングレー王国の地に戻るなんて思いもしなかった。お義母様がラナに、
「そうね、ラナも一度ご実家に顔を出した方が良いんじゃないかしら?」
と言いラナが断固否定した。
大丈夫とお義母様に言われても、マリングレー国と聞くと怖かった。
何故わざわざ忌み子と嫌われている国で公演するのかわからない。
私の不安は増すばかりだった。
4名を乗せた馬車は、確実に宿場町を通過しながら、漁港に着いた。
「着いてしまったわ。夏休み振りだわ、海の匂い」
と言えば、レオンが、
「義姉様、勝手に馬車から降りては駄目です。今イズリー領は、マリングレー王国の神官がかなりいます」
「マリングレー国の神官って、私の腕を掴んだ人?」
何故隣国の神官が?
*
リリエットside
ミランダが領地に行く為、学校をお休みして三日後、学校の門の前に緑髪をした白の神官服を着た人達が、生徒に何かを尋ねているみたいだった。
「何か嫌な感じね、スタンルート」
「ああ、あれはマリングレー王国の者達だな、何を話しているのかな。やはり噂通り聖女様がアンドル王子様の婚約者になるのかな?その情報収集とか」
確かにマユリカ王女が外れた婚約者候補では、聖女様が筆頭と聞くけど…何を聞いているのかしら?王子様の交友関係?治安や環境?留学してくるとか?
「リリエット、学校側から警備員が出て来たよ、きっと事情聴取だね」
「ええ、良かったわ…どう見ても怪しいもの。また騒動の元になりそうで怖いわ」
「ああ、確かにマリアーノ様にしたら、聖女様は恋敵だろうからね。あの方が大人しくしていてくれればいいが」
ハァー、二人して半ば諦めの溜息を吐いた。
台詞を覚え、歌を歌い、ダンスのように動き回る。場面では出来ていたのに…座長として仕切りなんて出来ず、ついていくのに必死で…
また練習の日々になった。
*
「衣装が完成しました!」
お義母様に渡された私の服装は、二着。
一着が麻の飾りもない茶のシンプルなワンピース。
もう一着が、シルクの深い青のシンプルなドレスと衣のような軽いレース編みのストールがキラキラしている。
「お義母様、こちらキラキラしていますね」
「糸に銀を纏わしているからよ」
軽いけど銀なの?
衣装合わせは、貴婦人達の厳しいチェックが入る。
「ラナそう言えば、背景や舞台作りってどうなっているのかしらね?」
「それも発注済みらしいですよ、お嬢様。何でも現地が、どうとか他の団員の方が言ってました」
現地ってイズリー領で作っているのね。
「お嬢様は、海の女神様みたいに素敵なドレスですね…見事な青にキラキラが眩しいです!」
「私みたいな者に精霊の愛し子役なんて出来るのかしら…不安だわ」
「お嬢様、大丈夫ですよ!台詞も少なくしてくれていますが、やはりこの舞台は歌ですよ!みんなで歌えるのがまた気持ちが入ってくるというか…それにお嬢様の衣装変えも素敵ですし、みんな楽しんでくれますよ」
励ましを受けても不安は消えない。
貴婦人の皆様が納得いくまで衣装合わせは続いた。こんな調子だったので夜会のドレスなんて、私にとってどうでも良くなっていた。
突然、義父から、
「ミランダ、劇団の旗揚げ公演が春に決まったよ。イズリー領のお祭りの前に度胸をつけるために行って欲しい」
公演って早くないかしら?
「お祭りは夏ですよ!」
「自信をつけるためにだよ。失敗したってまだ半年近くあるんだから、色々調整出来るし、大丈夫!来月から学校を休んでもらいたい。学校側には、今月末にテストを前倒しで受けることで進級が決まる」
いくらなんでも色々急に決まりすぎて、何から言えばいいか…
「ミランダちゃん、今回私と母上が旗揚げ公演について行く…
大丈夫。ミランダちゃんなら出来るよ。絶対何があろうとも私が守るから!」
…
心配そうな顔した義兄とレオン。確かに練習もまだ二ヶ月もしていないし、いきなり旗揚げ公演って無謀な気がするわ。それに試験の前倒しに、一カ月近く学校を休むって、頭の中が追いつかない。
レオンが椅子から勢いよく立ち上がって、
「兄様、私が同行します。兄様は、兄様の役割を通して下さい。お義姉様は私が守ります。私だってイズリー家の人間です」
「…レオン?」
私の声にレオンは優しく微笑んでくれた。
お義母様からも
「ちょうどレオンにいい役があるの!足りないものが揃ったわ。すぐに練習よ」
と言われ、レオンは、
「違います、私は演者じゃなくて護衛として…」
「良いから来なさい。大丈夫。台本に台詞を足すけどあなたは微笑みの王子よ。大して台詞はないわ。傾斜を利用すれば、ミランダと良い感じに映ると思うのよ!」
「えっ、私は出来ないですから、母上ー」
「まぁ!レオンが王子様をやるの!素敵だわ。絶対に似合うと思うし、舞台上にレオンがいてくれたら心強いわ。不安だった気持ちが、楽しみになってきたわ」
と言えば、お義兄様も、笑った。
「レオン、諦めろ。ミランダちゃんも母上も大変喜んでいる。微笑みの王子様をやるべきだ!」
言った後、レオンは肩を落とした。
「こんなはずはなかったのに…」
と聞こえたけど。レオンは祭りのサプライズ計画の仲間外れが嫌だったんじゃないの?でもガッカリしてる姿も可愛い。
…しかし、
何故みんな私を守るって言うのかしら?
お義父様に聞くと曖昧にされた。
そして練習と学校の日々を続け、一足先に進級テストを受ける為に別館に向かうと、久しぶりにアンドル王子様に会った。
「久しぶりだね、ミランダ嬢」
相変わらずザ王子なのに、笑顔が優しい…表情筋が完全に崩れたね、そちらの方が親しみがあって私は嬉しいな。
「お久しぶりです、アンドル王子様…」
本の御礼を言っても良いのかしら?
「アンドル王子は、忙しいでしょう、早く王宮に戻るべきかと思います。私達は、進級テストを受けに来たので失礼します」
お義兄様が、一礼をした。
あぁ御礼を言う機会を失いそう…
「そう言わないでディライド。…いつもイズリー家のみなさんには感謝しているんだ。ミランダ嬢も身体に気をつけて…無理せず…外に出る時は注意を払って」
…イズリー領のサプライズ計画を知っているのかしら?
「旗揚げ公演は上手く出来る自信はないのです…みんなの笑顔が見れるよう頑張りますね。気を遣っていただき、ありがとうございます」
と言うと、
「いや、公演ではなくて最近あいつらが活発に、」
「余計な気遣い無用!我が家で守りますから」
アンドル王子様の言葉をお義兄様が遮った。
そのままお義兄様に手を取られた。
後ろを向くとこちらを心配気に見ている王子様がいる。
「アンドル王子様も頑張って下さい。お互い頑張りましょう!」
と友達らしい声を掛けれた。
しかし、何故みんな気をつけてとか守るって言うのかしら?劇団の旗揚げ公演は危険なの?
*
無事に学校の進級試験にも合格し、いざ、旗揚げ公演!
リリエットにも何故学校を休むのか、進級試験を先に受けるのか聞かれたけど、お義父様から内密と強く言われたので、
「どうしても領地に帰る必要があるの」
と言うごり押しの言い訳で別れてきた。心苦しい。領地で公演したらサプライズではなくなってしまうのではと思うのよね。
「お義母様、大丈夫なのですか、領地で旗揚げ公演なんて」
と聞くと、お義母様は、思いついたような顔して、
「マリングレー王国での公演よ!」
えっ?ラナの顔を見るとラナも驚いていた。
「あら、場所言ってなかったかしら?」
レオンからも、
「言ってませんよ、母上も父上も。劇団員の皆さんは先に現地入りしているんです。義姉様の試験を受けている間にサタンクロス商店の船で行きました」
「お義母様、私はマリングレー王国に入っても大丈夫なんでしょうか?それに演劇の内容が、国自体を批判してます…私は、」
「大丈夫に決まっているでしょう。罪を犯して、国外追放されたわけじゃないのに。きちんとした手続きでイズリー家にいるの、あなたはイズリー家の人間。私の娘よ」
「お義母様…」
マリングレー王国の地に戻るなんて思いもしなかった。お義母様がラナに、
「そうね、ラナも一度ご実家に顔を出した方が良いんじゃないかしら?」
と言いラナが断固否定した。
大丈夫とお義母様に言われても、マリングレー国と聞くと怖かった。
何故わざわざ忌み子と嫌われている国で公演するのかわからない。
私の不安は増すばかりだった。
4名を乗せた馬車は、確実に宿場町を通過しながら、漁港に着いた。
「着いてしまったわ。夏休み振りだわ、海の匂い」
と言えば、レオンが、
「義姉様、勝手に馬車から降りては駄目です。今イズリー領は、マリングレー王国の神官がかなりいます」
「マリングレー国の神官って、私の腕を掴んだ人?」
何故隣国の神官が?
*
リリエットside
ミランダが領地に行く為、学校をお休みして三日後、学校の門の前に緑髪をした白の神官服を着た人達が、生徒に何かを尋ねているみたいだった。
「何か嫌な感じね、スタンルート」
「ああ、あれはマリングレー王国の者達だな、何を話しているのかな。やはり噂通り聖女様がアンドル王子様の婚約者になるのかな?その情報収集とか」
確かにマユリカ王女が外れた婚約者候補では、聖女様が筆頭と聞くけど…何を聞いているのかしら?王子様の交友関係?治安や環境?留学してくるとか?
「リリエット、学校側から警備員が出て来たよ、きっと事情聴取だね」
「ええ、良かったわ…どう見ても怪しいもの。また騒動の元になりそうで怖いわ」
「ああ、確かにマリアーノ様にしたら、聖女様は恋敵だろうからね。あの方が大人しくしていてくれればいいが」
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