上 下
77 / 120

77 アンドル・クリネット 6

しおりを挟む
アンドルside

突然、国王陛下に応接室に来いと呼ばれた。
まぁ、最近良い気分だから、頼まれてもいいかなと思う。

部屋を見ると、すでに国王陛下、宰相、イズリー伯爵、そしてディライド…

何の…
ミランダ嬢の話か!どうした?何かあったか!

「どうしてこのような集まり方をしているのですか?」

落ちつけ、私。ここはきちんとした対応をしなければ、認めてもらえない…
宰相が話す。

「アンドル王子様、マリングレー王国のティア王女様から手紙が来まして、本物か分かりませんでしたので失礼ながら、検分させて頂きました」

渡された手紙には、夜会以降私への想いが募り婚約者になりたいと、この国には悪しき忌み子がいるから聖女の力で追い払いたい、クリネット国を守りたいと綴られていた。

「は?これはティア王女様の言葉とは思えません!夜会の際も私への好意は感じませんでしたし」

イズリー伯爵は顎を撫でた。陛下や宰相は何も言わない…
以前のディライドの留学話と隣国への警戒…

「マリングレー王国は、ウランダル王国と繋がりがあったのでしょうか?しかしこの手紙は単に王女個人で出したものみたいですね、しかも最近マリングレー国の方達が問題を起こしてばかり…
先日も警告文を送りましたが、また商人を通じて夢見の乙女周辺を探っている…」

宰相のこんな困った顔は中々見れないな。

「何が目的でこんな告白のような手紙を送られたかわかりませんが、はっきりお断り申し上げます」

と言えば、

「待ちなさい、アンドル」

と国王が話し続ける。

「今、国内の貴族達も第一王子の婚約話で盛り上がっている。どちらにせよ揉め事になる前に何か発表しなければ、加熱する熱量を抑える事が出来ない。イズリー伯爵にも助言されたが、休日に王宮の馬車留めを見張っているご令嬢がいたそうだ…金を動かしている馬鹿者もいるようだし…ウランダル国も何度も使者が来る。先日話した婚約発表は卒業まで待つとしても、周りの貴族を落ち着かせないか?」


「それは、婚約者決めの夜会を再び開くということですか?」

と聞くと宰相が答えた。

「そうです、定期的に開催すると公言すれば、その都度見合いのような形になり、お見えになった令嬢や貴族もそこに向けて動き、馬鹿な事を命じる高位貴族も減るとおもいます」

確かにそうかもしれないが…

今の状況が良い感じなのに、そんな婚約者決めの夜会なんて公言したら、ミランダ嬢とだけ会うなんて…
もっと難しくなるのではないか?
黙っていると、イズリー伯爵が、

「ティア王女が、アンドル王子様のお断りだけで引くとは思えませんよ。最近の問題起こしを省みれば。きっと教会の力か国の力かで、婚約者として打診されるのではないでしょうか?」

「マリングレー王国は友好国ですし、別にお断りをしても問題はないのでは?」

と言えば、

「そうですね、少し様子を見てからお返事なさるべきくと思います」

伯爵が言うと、ディライドが、

「発言失礼します。ティア王女様につきましては、我が国にいるダイアナ・ガトルーシーと共に夢見の乙女の力、前世の同郷、テンセイシャと報告があります。これは先日、ティア王女がダイアナ嬢に当てた手紙です。この読めない文字が同郷の文字だと思います。まだ我々が知らない事を二人が隠している可能性もあります」

と不穏な事を言ってきた。

「その可能性も考えにはあったが、既にダイアナ嬢は、何も事を起こせないだろう?ティア王女だって国から出なければ我が国に害意はないはずだ。いくら夢見の乙女だって」

ディライドは、私とミランダ嬢の会うことを妨害しようとして、何も起こっていないのに、さも事件が起きるみたいな言い方をして!

「わかった、二人とも!アンドルは、国内に向けでいいから、夜会主催を準備しなさい。時期は好きにしていい」

「国王陛下命令なら…」

渋々頷く。



ミランダ嬢と会う時間が本当に貴重になってしまった。

それでも、期間を決められていないだけ良かった。まだ会える。



「来月は試験がありますね、アンドル王子様は試験勉強なんてされるのですか?クラスメイトは、まだ何もしていないと話すのですよ」

と最近読んだ本の感想を話す合間に、突然振られた。

「いや、特には…既に履修済みの範囲だから」

と言えば嫌味に聞こえただろうか?もっと努力をしているように言った方が好感度が高かったのでは…間違えた…
窺うように、返答を待てば、

「えーーー
羨ましいですね!私なんて今からしっかり試験対策しなければイズリー家の恥になってしまいますよ。お義兄様が優秀ですからね、なるべく近づけるように心掛けてます。でもそのままをクラスメイトに言えなかったのですよね」

と明るく言われるとホッとした。
正直に言っても声色も表情も変わらず、さして気にもせず、言葉のまま受け取ってくれる。
…つい、裏表も考えず話してしまう。

「そうか、気遣いをした?貴族同士の駆け引きとかもあって面倒だよね。ミランダ嬢は、思ったまま発言してくれるのが、私は嬉しいけどね。以前もドライフルーツを魚が食べるかとか…聞こえた…」

あー、また失敗した。
聞き耳立てていたことをつい話してしまった。

「ああ、友人に注意されました。一応、私も伯爵家の人間ですよ、考えてというか、気遣いですか?発言しますよ。ただ気が緩むと、つい思ったままが出てしまうのです」

「そうだね、中庭の時とかも…私もつい、ミランダ嬢には、思ったままを…
ありがとう、そのままで話をしてくれて。最近、話の中に妙な圧力を裏に込めて話す貴族が多くて…」

あ、愚痴を漏らしてしまった。

「妙な圧力?面倒ですね」

と言い辛かった事を言ってくれた。

「そう!」

やっぱりミランダ嬢と話すのは、楽しい。あーこの時間が続けば良いのに。



「アンドル王子様、マリングレー王国の国王からも王女の婚約打診が来ました」

宰相に言われ、まだティア王女に手紙の返信をしていなかった事を思い出した。
当たり障りない内容で、お断りの返事を書き送付する。

これは夜会の時期を決めるしかないだろう。国内向けという事でいいはずだし。陛下の執務室に行き、

「例の夜会の件ですが、春、学校の卒業時期ぐらいに準備します」

と言えば、

「少し状況が変わりました。ティア王女を婚約者決めの夜会に招待する事になりました」

諭すように、宰相が言う。

「え?私は国内から婚約者を探すとティア王女に手紙で送りましたが?」

何故またあの面倒な招待をやれと言うのか?
父を見た。
これは、国王陛下の顔だ。

「相手は友好国だ、礼儀は必要だ…」

…決定

「わかりました。招待状を送ります」



自分の執務室に帰っても、何故急に国王陛下が意見を変えたか納得出来なかった。

「機嫌悪いですね、アンドル様」

サイファの軽い言葉がキツい。

「夜会を開く。卒業式ぐらいの時期に…名目は婚約者決めの夜会」

と言えば、

「最近の高位貴族令嬢の争いを抑えられるが、良いのか?アンドル」

とグリゴリーは声をかけてくれたが、

「陛下の決定で、ティア王女様も招待する。サイファ手配を頼む」

「ディライドはどうする?」

と聞かれ頷いた。



「これはお呼び頂きまして、アンドル王子様。どのようなご用件でしょうか?」

嫌味をたっぷり込めて挨拶をしてきた。

「ティア王女様を夜会に招待する事になった、協力して欲しい…」

「婚約者決めの夜会ですか?」

「…そうだ…」

「前回王妃様の進言を守り、イズリー家は参加しましたが、結局アンドル王子様は、婚約者を決めませんでした。伯爵令嬢まで、近衞騎士も全対応出来ませんし、今回もあの規模で妙齢の令嬢を呼ぶとすれば、手持ち無沙汰のご令嬢が角にいた景色、前回と同じことを繰り返す事になるのでは?参加必須じゃなくて良いのではないですか?」

「それは…」

いや、わかっている。名目が私の婚約者決めならば、側近以外の令息を参加者に加えられない。

ディライドは、ミランダ嬢は夜会に不参加だと言っているんだろう。
それに、ミランダ嬢を図書館にも呼べない…婚約者を決める会を開く主催者が、疑われる行動は出来ない。これからまた情報合戦になる…それが貴族だ。

参加したくない令嬢だっているだろう。

決定は覆らない…

「少し考えさせてくれ」

と言うしか出来なかった。


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

お嬢様なんて柄じゃない

スズキアカネ
恋愛
運悪く遭遇した通り魔の凶刃から、人質の女の子を咄嗟に守った私はこの世に未練を残したまま、短すぎる17年の人生を……終えたはずなのに、次に目覚めた私はあの女の子になっていた。意味がわからないよ。 婚約破棄だとか学校でボッチだったとか…完全アウェイ状態で学校に通うことになった私。 そもそも私、お嬢様って柄じゃないんだよね! とりあえず大好きなバレーをしようかな!  彼女に身体を返すその時まで、私は私らしく生きる! 命や夢や希望を奪われた少女は、他人の身体でどう生きるか。彼女はどんな選択をするか。   ※ 個人サイト・小説家になろう・カクヨムでも投稿しております。 著作権は放棄しておりません。無断転載は禁止です。Do not repost.

悪役令嬢に転生したので、やりたい放題やって派手に散るつもりでしたが、なぜか溺愛されています

平山和人
恋愛
伯爵令嬢であるオフィーリアは、ある日、前世の記憶を思い出す、前世の自分は平凡なOLでトラックに轢かれて死んだことを。 自分が転生したのは散財が趣味の悪役令嬢で、王太子と婚約破棄の上、断罪される運命にある。オフィーリアは運命を受け入れ、どうせ断罪されるなら好きに生きようとするが、なぜか周囲から溺愛されてしまう。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

前世軍医だった傷物令嬢は、幸せな花嫁を夢見る

花雨宮琵
恋愛
侯爵令嬢のローズは、10歳のある日、背中に刀傷を負い生死の境をさまよう。 その時に見た夢で、軍医として生き、結婚式の直前に婚約者を亡くした前世が蘇る。 何とか一命を取り留めたものの、ローズの背中には大きな傷が残った。 “傷物令嬢”として揶揄される中、ローズは早々に貴族女性として生きることを諦め、隣国の帝国医学校へ入学する。 背中の傷を理由に六回も婚約を破棄されるも、18歳で隣国の医師資格を取得。自立しようとした矢先に王命による7回目の婚約が結ばれ、帰国を余儀なくされる。 7人目となる婚約者は、弱冠25歳で東の将軍となった、ヴァンドゥール公爵家次男のフェルディナンだった。 長年行方不明の想い人がいるフェルディナンと、義務ではなく愛ある結婚を夢見るローズ。そんな二人は、期間限定の条件付き婚約関係を結ぶことに同意する。 守られるだけの存在でいたくない! と思うローズは、一人の医師として自立し、同時に、今世こそは愛する人と結ばれて幸せな家庭を築きたいと願うのであったが――。 この小説は、人生の理不尽さ・不条理さに傷つき悩みながらも、幸せを求めて奮闘する女性の物語です。 ※この作品は2年前に掲載していたものを大幅に改稿したものです。 (C)Elegance 2025 All Rights Reserved.無断転載・無断翻訳を固く禁じます。

訳あり冷徹社長はただの優男でした

あさの紅茶
恋愛
独身喪女の私に、突然お姉ちゃんが子供(2歳)を押し付けてきた いや、待て 育児放棄にも程があるでしょう 音信不通の姉 泣き出す子供 父親は誰だよ 怒り心頭の中、なしくずし的に子育てをすることになった私、橋本美咲(23歳) これはもう、人生詰んだと思った ********** この作品は他のサイトにも掲載しています

処理中です...