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76 私と王子様が友達になれた理由 

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みんなの足音が遠ざかっていく…

「大丈夫か、ミランダ嬢顔色が悪い。震えている…
君に見せるべきではなかった。考慮が足りず申し訳なかった。温かいお茶と帰りの馬車を用意する」

と王子様の声がした。
顔を上げて見ると、やっぱり私がよく読んでいた絵本の王子に似ていた。
…あぁ、と目で彼を追うと、ゆっくり息が漏れた。
私は知らない内に息を止めていたみたいだ。
目の前の王子様が、動きや言葉で侍女に指示をしながら動いているのを見て、私の為に…私の事を思ってくれているのだなぁ、私は今一人ぼっちじゃないのだなぁと、昔の思い出とは違う光景にどんどん温かいものを感じてくる。
心配してくれる人がいる、こういう風に見えるのか…。
イズリー家のみんなも、いつも心配してくれる。だけどこんな姿は見たことないなぁ。慌て動いている目の前の人は、大量に温かいブランケットを頼んだり、ハーブティーをあれこれ言ったり、慌て机の角に足をぶつけてあたふたしている…


笑ってはいけないのに、
思わず、感情が緩む。あたふた、あたふた、フッフフフ。

何かこれは、嬉しいな。

「…あなた様が、以前言ってましたね、自分の事を心配してくれる人がいると思ったら嬉しかったと。今、私も同じ気持ちになりました…」

「ミランダ嬢?」

「こんなこと言うのは不敬かもしれませんが、お気持ちがわかった気がします。こんなに沢山のお菓子を用意して下さりありがとうございます。出来れば、一緒にお茶を一杯頂きたいです」

と言えば、凄く嬉しそうな笑顔で返された。

私も全然言葉が足りないけど、ただ何となく王子の壁や孤独が、わかった気がした。私とは違うかもしれないけど…

この気持ちは、きっとリリエットにも義兄にも言えないしわからない、ような気がする。

だからなのかな、王子と友達になる事ができたのは…
お互い何となくの同類意識があったのかな。傷や壁の思い出や匂いが…
似ていた?

「どうした?ミランダ嬢、急にニコニコして?」

「だって、このお菓子達が光輝いていますよ!」

『寂しい』を言葉に出せない。『辛い』と言っても変わらない。不自由な世界の中では、『我慢』にもならない。
その中が、当たり前だから…

私を覗きこむアンドル王子様と目が合った。

「!?」

「眼鏡で瞳が見えない…だけど」

と静かに話す。

「私は、ミランダ嬢の彼方の世界には入れないよ。でもこうやって戻ってくるのを待つ事は出来るよ。だから大丈夫だよ、心配してない。ゆっくり話そう」

あぁ、やっぱり。
何となく、どこか知っている気持ちや匂いは、同類としての安心なのかも…

「ありがとうございます、アンドル王子様…」

それから、本の話をしたり、植物の話をしたり、お菓子の話をしたり、話が詰まるとどちらから、ぎこちなく話題を変えたり、まだまだお互い噛み合わなくて、上手な会話にはならないけど、なんかこれはこれで楽しい。

「ふふ、せっかく馬車を用意してくださったのに、結局長居してしまいましたね」

「いや、こちらこそ旅の話があんな告白を受けて気分が悪くなったのに、私に付き合ってくれて、すまなかった」

「それは、誤解です。私が、…お茶にお付き合いしてもらい、こんな美味しいお菓子を頂き、幸せです。先日の団子も美味しかったですし、王宮の料理人は凄いのですね」

「素直に言葉を受け取るよ、ありがとう、ミランダ嬢。その、これからも、また話す機会をくれるかな?」

王子に言われて、来る時決めていた言葉を思いだした。

「あの次回は、義兄を連れて来ますわ。最近機嫌が悪いですけど、本当は最初義兄も王宮の図書館に行くと言ったのです。きちんと話せば誤解も解けるのではと考えまして」

と言えば、今度はアンドル王子様も困った顔をした。
何か変なことをまた言ったかな?
これが、リリエットの言っていたデリケートな友達関係?
私、わからないくせにまた怒らせてしまった?

「確かに、先日もディライドを怒らせた…でも謝罪するつもりはない」

えっ!?ケンカをしたの?

「ああ、誤解しないで欲しい。勿論今でもディライドは私の幼馴染で側近だと思っている。それに競い相手だとも。
だけど、ミランダ嬢とこうやって話す事を拒否されるのは嫌だと思っている。だから謝らない」

「お義兄様は、確かに心配性でして…否定なんて」

あー、心当たりがあります。

これってどうしたらいいの?ごめんなさいリリエット、勝手にまた突っ込んでしまった!

「ミランダ嬢に迷惑をかけるつもりはなくて、でも今、困らせているね。もう少し時間がかかる気がする」

あー、やっぱり私の馬鹿!

「違うんです。二人でお会いすると、その目撃した人に婚約者候補と誤解させるのではないかと、今皆様の関心がその話題なので。みんなで話をした方が、楽しいのではとか考えまして」

「確かにね。複数人のお茶会の方が誤解はされないよね…もう少しだけ、少人数で慣れさせてくれないかな。困らせてごめんね」

と頭を下げられた。
まさか王子にこんなことをさせてしまうなんて!

「すみません。私もまだ友達になったばかりで、お互い知らないですから知りたいです。我儘を言ってしまい申し訳ございません。二人でお話ししましょう」

と言えば、王子様は次はいつにするかと日付を見ながら笑顔で進めていく。
ただ調子良く頷いた。

ラナと二人になると、ぼんやり考えが浮かぶ。マリングレー国の教会が調査しているという事実。

「お嬢様、大丈夫ですか?」

「ええ、到着後、お義父様にご報告しなければね」

 *

執務室に入る。

「失礼します、お義父様、アンドル王子様と東方諸国の商人の旅の話を聞こうとしたら、突然間者じゃないという告白と謝罪から始まり、マリングレー王国の教会から依頼を受け、ダイアナさんの関わった事件と関係者、神官の事件の目撃者から水色の髪と…私の名前が出てきました。教会は、本当は私を…忌み子を探しているのではないでしょうか…
今後、皆様に迷惑をかけることに」

お義父様は、ゆっくり顔を振り、

「大丈夫だよ。例の神官の事情聴取など見る限り、確かに聖女様はダイアナ嬢を大変気にしている。それは、同じ夢見の力を持っているから…と書いてあったし気にする必要はない。今まで通り過ごし、学校に通って楽しみなさい」

優しい笑顔で言われた。

「私は、本当に気にしなくても良いのですか?」

「ああ、もちろんだよ。クリネット国に忌み子の迷信なんてないと言ったはずだよ。堂々としていい」

「ありがとうございます、お義父様」

会話が終わり、執務室を出るとお義兄様とすれ違う。

「ミランダちゃん、父上に報告かな。あの馬鹿王子が変な事言ったとか?」

と聞かれ否定する。

「違います。みんな私の心配をしてくれて嬉しいのですよ!」

と言えば、

「当たり前じゃないか。ミランダちゃんはイズリー家の一員、家族だよ」

「もうーーー
お義兄様、これ以上私を感激させないで下さい」

と話し終えると、義兄はお義父様の執務室に入って行った。
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