上 下
73 / 120

73 ディライド・イズリー 5

しおりを挟む
ディライドside

「父上、どういうことですか?何故、ミランダちゃんを王宮に一人で向かわせたのですか?アンドルの目的が、…二人を合わせるのは、とても危険です。彼の目が、空気が、ミランダちゃんに向いている。好意を感じます」

「あぁ、知っているよ。若いって凄いね。あんなに表情が無かった王子様が、気持ちも感情も表情もコロコロ変わる。私としては手に取るようにわかる。もちろん、ディライドも」

さも当然みたいな顔をしないで欲しい。イライラする。
何故、後々面倒になることを、自ら後押ししているんだよ。

「私の事はいいのです。我が家は、別に王子の婚約者候補に名乗り上げる必要はないですよね?はっきり言って、父上も私も必要以上に、王国の政治に関与している。これ以上は我が家ばかりが、重要な位置にいることを怪訝に思われます。それに、アンドルはミランダちゃんの事を知らなすぎる。隣国マリングレー国と友好関係を続けるには、手を出してはいけない人だ」

「それは、アンドル王子を心配しているの?ミランダの方?それとも家?婚約者に指名されると思うのか」

「…アンドルは確実に思いがある。王族の権力を使って、婚約者指名はあると思います。…だからこそ知らないのに、諦めさせるような真似は可哀想です」

「何、怒っていたんじゃなくて同情しているの?ミランダは絶対に王子を選ばない、王子は拒絶されるって?それとも王子の想いは、隣国に潰されて悲恋ですと?」

「そんなことは思っていません。あいつは…良い奴です。心を人間性を見ていると知れただけで嬉しいし、最近のあいつは、よく笑うし、楽しそうで幸せそうで良かったと思いますけど、ミランダちゃんだけは駄目です。国の問題になります」

「国?自分の問題じゃなくて?ねぇ、ディライド…今の君の表情、怒っているでもなくて、心配しているでもなくて、泣き出しそうなぐらい悲しそうだよ。ねぇ、ディライド、その理由をちゃんと向き合った方が、一歩前に進めるんじゃないかな?その先を真剣に考えてみるのも良いんじゃないかな」

「何を言っているんですか?私は泣きなどしません。これからを考えて、面倒になるから、反対しているだけです」

何を言っているんだ。頭が痛くなる、イライラが増す。

「そうか…なら、私から言えることは、アンドル王子が国王陛下に真相を聞いたとして、弱腰になれば、それまで。傷つこうが、悩もうが、私は今回、国王陛下から頼まれた事で、ミランダをこの国に、養女として書類を作成し、入国させた借りは返した。アンドル王子は、素顔や身の上を知らないで、好意を持ったことに、私は好感を持てたし、ミランダが幸せになってくれるのが一番だと思っている。ここは、クリネット王国だ。忌み子も迷信もない。王族の呪い?そんなのも知らない」

「…父上、どこまで考えて連れて来たのですか?初めからアンドルに?」

こんな事を聞きたいわけではない。
わかっているのに、父を攻撃せずにはいられない。
この苛立ちをぶつける相手が欲しい。

「違うよ。美しさに目が奪われたのは、確かだけど、とても王族とは思えない環境で育ったというのに、魅力的な人間だと感じたからだよ。このまま、よくわからない迷信でこの世を去ってはいけない人とも思った。話してみて、彼女の先をみたいと思った。先生に言われたからではないよ。頼まれたのは、きっかけにすぎない。ただの私の我儘さ。それにみんな付き合わされただけだよ」

「私だって、迷信など信じておりません。忌み子が呪いを撒き散らす、そんなことを言っているのは、マリングレー王国だけです。それに、煽っているのは、ティア王女だけです。その他の王族は、呪いのせいか黙秘。確かに王族達は、グレーの瞳、あれが呪いというなら、先生は髪の色や長さまで失った事になる。アクア王子の気狂いの件もまだ真偽不明。別塔のマジックアイテムの制作者も、まだ発見も出来ていない。もし王族が彼女を守っていて、聖女だけが排除していると知ったら、ミランダちゃんは、マリングレー王国に本当の家族に会いたくなるのか…」

その先の言葉、
『我が家から離れるのか怖くて、それも伝えられない』
を飲み込んだ。

「我が家で引き受けた事に後悔もない。ただ一人にされたこと、隠された本当の意味は、あの子にとってマリングレー王国と決別じゃなくて、受け入れる事でもあると思う。一歳の赤子の時、命を落とせたはずだし、あの徹底的に王族、家族に意識外に置かれた状況が、ティア王女から離す必要性を感じるし、国王陛下と王妃様は、ミランダを外に逃したと私は思っているよ。彼女がもし家族に会いたいと言ったなら、私は喜んで連れていってあげたいよ。そして王女としての嫁入りも…考えている」

「やっぱり考えていたのですね。彼女の王族復帰。アンドルが介入してくれば、事態はそのようになる可能性が高い。何故そんな面倒になりそうなことを…巡り合わせたんですか!」

「そうだね。隣国だし仲良くしたいが、あの国は突然おかしくなった。だから探っていた。
もしある日突然国全体が変わるなんて、それをクリネット国でも出来るなら…危険すぎるだろ。戦争、いや話し合いもなく、国が消える危険性」

父の話すことはわかる。

「…はい」

「ティア王女。もう一人の夢見の乙女が言うには、前世の記憶があり、この世界を生み出した本が存在している国から来たと聞いたよ。また不思議な話だよね。私は王女を抑え、聖女の力を破る必要があると思う」

「はい、私も報告は受けてます。だから念の為、ウランダル王国を当て馬にしました」

「あぁ、まだ交渉中だっけ。誰かがごねているのかな…」

「他所の国の事はいいんです。私は、この国のことを。ミランダが身分を王族に戻したら、またある事ない事、迷信を引っ張り出す馬鹿が現れます」

「ミランダが泣くとか、義兄として思っているの。自分が守らないといけないとか。ミランダはずっと一人で生きてきた。あの子はディライドが思うより、強いと思う。あの子を檻に囲いたいのは誰だろう?」

私を煽る父の顔が憎らしい。
そうだ、凄く心配だ。王族云々じゃない、わかっている。
でも、だって、ミランダちゃんは、可愛い、
…私の義妹…

「もう、いいです。父上に頼んでも埒が開かない。自分でやりたいようにします…失礼します」

「ハァーーー、
君はアンドル王子をよくお子様王子と呼んでいたけれど、急いで大人になろうとした君も、大人のフリした子供じゃないか…全く。ディライドは大人と会話をしすぎて、自分が子供だとある時忘れてしまったんだな。君は全然子供だよ…」

と父上が言った言葉も聞かず、思いっきり扉を閉めて、自室に、戻った。


頭が痛い。
凄く痛い。

何故?
アンドルは何をやってるんだ!
いや、違う?ミランダちゃんは、一切アンドルを知らなかった。
例え、今日会ったとして初めましてだ。

私との方が付き合いが長い。
大丈夫…

何が?

「出掛ける。行き先は父上が知っている。遅くなるが心配しないで」

思わずそう言った。
行き先なんて決まってない。
頭の中を整理したいだけ。

家から出てただ逃げるように歩き始めた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

俺の愛する嫁が元悪役令嬢なんて誰が信じるかよ

猫崎ルナ
恋愛
『俺はお前の為に落ちてきたっていっただろ?』 主人公のレントはひょんな事から訳あり令嬢を森で拾い一緒に生活をしてゆくことに。...だが、レントには大きな秘密があった。 これは一人の女の為に獅子奮闘する一人の男のお話である。 本編完結済み

私は、あいつから逃げられるの?

神桜
恋愛
5月21日に表示画面変えました 乙女ゲームの悪役令嬢役に転生してしまったことに、小さい頃あいつにあった時に気づいた。あいつのことは、ゲームをしていた時からあまり好きではなかった。しかも、あいつと一緒にいるといつかは家がどん底に落ちてしまう。だから、私は、あいつに関わらないために乙女ゲームの悪役令嬢役とは違うようにやろう!

【完結】火あぶり回避したい魔女ヒロインですが、本気になった当て馬義兄に溺愛されています

廻り
恋愛
魔女リズ17歳は、前世の記憶を持ったまま、小説の世界のヒロインへ転生した。 隣国の王太子と結婚し幸せな人生になるはずだったが、リズは前世の記憶が原因で、火あぶりにされる運命だと悟る。 物語から逃亡しようとするも失敗するが、義兄となる予定の公子アレクシスと出会うことに。 序盤では出会わないはずの彼が、なぜかリズを助けてくれる。 アレクシスに問い詰められて「公子様は当て馬です」と告げたところ、彼の対抗心に火がついたようで。 「リズには、望みの結婚をさせてあげる。絶対に、火あぶりになどさせない」 妹愛が過剰な兄や、彼の幼馴染達に囲まれながらの生活が始まる。 ヒロインらしくないおかげで恋愛とは無縁だとリズは思っているが、どうやらそうではないようで。

悪役令嬢に転生したと思ったら悪役令嬢の母親でした~娘は私が責任もって育てて見せます~

平山和人
恋愛
平凡なOLの私は乙女ゲーム『聖と魔と乙女のレガリア』の世界に転生してしまう。 しかも、私が悪役令嬢の母となってしまい、ゲームをめちゃくちゃにする悪役令嬢「エレローラ」が生まれてしまった。 このままでは我が家は破滅だ。私はエレローラをまともに教育することを決心する。 教育方針を巡って夫と対立したり、他の貴族から嫌われたりと辛い日々が続くが、それでも私は母として、頑張ることを諦めない。必ず娘を真っ当な令嬢にしてみせる。これは娘が悪役令嬢になってしまうと知り、奮闘する母親を描いたお話である。

【短編】ショボい癒やし魔法の使い方

犬野きらり
恋愛
悪役令嬢のその後、それぞれある一つの話 アリスは悪役令嬢として断罪→国外追放  何もできない令嬢だけどショボい地味な癒し魔法は使えます。 平民ならヒロイン扱い? 今更、お願いされても…私、国を出て行けって言われたので、私の物もそちらの国には入れられません。 ごめんなさい、元婚約者に普通の聖女 『頑張って』ください。

猫に転生したらご主人様に溺愛されるようになりました

あべ鈴峰
恋愛
気がつけば 異世界転生。 どんな風に生まれ変わったのかと期待したのに なぜか猫に転生。 人間でなかったのは残念だが、それでも構わないと気持ちを切り替えて猫ライフを満喫しようとした。しかし、転生先は森の中、食べ物も満足に食べてず、寂しさと飢えでなげやりに なって居るところに 物音が。

逃げて、追われて、捕まって

あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。 この世界で王妃として生きてきた記憶。 過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。 人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。 だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。 2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ 2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。 **********お知らせ*********** 2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。 それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。 ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな
恋愛
 オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。 見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!  殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。 ※糖度甘め。イチャコラしております。  第一章は完結しております。只今第二章を更新中。 本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。 本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。 「小説家になろう」でも公開しています。

処理中です...