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65 文化祭 其の4

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「ミランダちゃん、文化祭回ろうか」

お義兄様は、きっちり私の役割の一時間目終了後に現れた。
流石、私の時間を知っている。

「リリエット、見に行きましょう?」

リリエットを誘うと、

「ごめんなさい、ミランダ。私、先にどうしても見に行きたい所があるの!後から合流するわ」

リリエットから強い意志を感じた。初めてかもしれない、断りを強く言われたのは。

「わかったわ。ではまた後でね」

「珍しいね、リリエット嬢が、あんな風に言うなんて。…あぁ、婚約者と約束しているのかもね」
 
お義兄様に言われて納得した。
確かに!スタンルートさんとかなり上手く交際しているみたいだし。

「そうだわ、きっと!素敵ね。いつも邪魔してばかりの私なので、今日は、譲らないといけませんね。お義兄様、今日はお付き合いして下さいね」

「もちろん、そのつもりだよ。さぁチョコバナナを買おうか、りんご飴を買おうか、どっちにする?ミランダちゃん」

「うわぁ、何ですか、それは!」

聞いたことのない言葉が並んだ。

「私のクラスの出し物。南地区のフルーツにイズリー領の貿易力を活かしたカカオに砂糖!ふふふ、サタンクロス商店が、活躍してくれているよ。多少高価でも珍しい物は売れるからね。回転率も良いし、更にこれから食べた者によって噂が広がるからね。行くなら今のうちさ」

流石お義兄様!
学校の文化祭で、イズリー領の力を見せつける交渉力と資金力。

「りんご飴を食べたいです」

と言えば、
  
「林檎は、丁度間引く林檎でね、各領地とも廃棄したり、割安で市場に卸す物だったから、大変都合が良かったよ」

お義兄様は、こういう交渉事になると、とても嬉しそうに話す。
良かった。少し前の情緒不安な姿が嘘みたいだわ。

「どうしたの?」 

お義兄様に聞かれたので、正直に答える。

「流石お義兄様と思ってましたの!交渉の話をするお義兄様は、かっこいいですから。それに話がとても面白いです。前にイズリー領の展望台での話も面白かったですけど、ね」

「そうかな?つまらなくない?」

何故急にそんな弱々しい声量になるのかしら?褒め慣れていない!?
みんな、もしかしてお義兄様を褒めないのかしら?

「お義兄様は、誰よりもかっこいいし、交渉の話をしている御姿は、生き生きして素敵です!」

と言えば、耳を赤くして、やっぱり私から顔を背けてしまった。
こんなお義兄様も大変可愛いらしい。

「お義兄様は、頑張りすぎです。もっとご自分に甘やかしていいと思います。私は頼ってしまって、強く言えないですけど、もっとしっかりとしますね。先程もマリアーノ様からご注意を受けてしまいましたし…せっかくの楽しい祭が私のせいでみんなに嫌な思いをさせてしまったですし」

と言えば、

「義兄だから、頼られるのは、嬉しい。ずっと、このままが楽しいよ、私は。ファンド侯爵令嬢は、サタンクロス商店の事を狡いとでも言ったのかい?」

「ええ、そうです。よくお分かりですね?」

「わざわざ朝に言うなんて、大概が嫌味か文句、もしくは僻みだよ。気にする事はないよ、ミランダちゃん。気づかなかったクラスが下手なだけ。私から一言言おうか。ファンド侯爵家には貸しがあるし、それ相応の」

「そんなことは、お義兄様に出てもらう必要はありません…確かに、予算は均等と言ってましたから、無料なんて確かにズルですわ」

「ファンド侯爵令嬢には違う学年に頼るべき学生がいなかっただけだよ。他のクラスも商店を共有することによって荷馬車の運送費や材料費を押さえられるし、ルールを知らないクラスが悪い。ミランダちゃんが責められる理由はない」

もう~お義兄様は!

「まぁ、またそんなことを言って!私を甘やかさないで下さい。私のクラスがイズリー領の特色になったのは、事実ですから。りんご飴は、是非私に奢らせて下さいね」

ジャラン、と小さな袋を見せた。私のお小遣いだ。お義兄様は、慌てたけど、たまには、ね。

「りんご飴を二つ下さい」

貰ったりんご飴を一つ渡す。

「甘いな…」

お義兄様が言った。ご自分のクラスの商品食べていなかったのね。
パリッと音を立てて齧る。

「甘くて酸っぱいわ。美味しいですね」

と言えば、なんとなくお互い顔を見合わせて笑った。パリッと食べながら、意味もなく笑う。
こういう時間が、とても楽だと思う。
話すことを探さないでいい。
お義兄様はそういう人だ。
一緒にいるだけで、つい笑ってしまう。そんな時間は、楽しくて幸せだと感じる。

「お義兄様、私、幸せです」

つい溢した言葉に、お義兄様は、一番嬉しそうに笑ってくれた。



「ミランダ、ディライド様、もしかしてハンカチを探しに来たの?」

とりんご飴を食べ終わり、バザー会場でリリエットとスタンルートさんに会った。

「リリエット、もしかして先に見に行きたいって、私のハンカチを買ってくれるって話を守るだめだったの?お義兄様も私のハンカチを見たいと言われたから…」

聞くと、表情が真剣になった。

「ミランダ、聞いて、たぶんだけど売れてしまったの!何度探してもあの図柄のハンカチがないの!」

えっ?何故とんでもないことをしてしまったみたいな言い方なの。売れたのは、良い事よね?

「まだこんなに沢山のハンカチがあるのに、私のハンカチが売れたのなら、とても嬉しいわ。だけどリリエットが、提出の時から買ってくれると言っていたから、確かに残念な気持ちもあるのだけど…ハンカチがどこかの誰かに喜んで選んでもらえたなら、やっぱり嬉しいわ!今度改めてリリエットにはハンカチをプレゼントするわよ!」

私の三匹の猫が「ニャーン」と鳴いている気がした。
そうよ、また刺繍すれば良いだけなのだから。

「リリエット嬢が探してないなら、私も見つからないかな。…残念だな。一応、探しても良いかな?ミランダちゃん、茶色猫だったよね。三匹の」

「はい、そうです。お義兄様も探してくれるのですか?でもリリエットが…」

「そうね、私、もう一度端から探すわ。重なっている可能性もあるし…」

「今、売れたと言わなかったかしら、リリエット?スタンルートさんまで、そんな一生懸命にならなくても?」



あら、みなさん返答がなく真剣にハンカチを選んでいるわ。
さぁ、私はどうしましょう。暇になってしまった。
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