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21 サイファ・ゴルド 1
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王宮 サイファside
本日も面倒な人間が相手だ。そんな顔をしていたのだろうか?
「人を観察しろ」
それが父、現宰相の今日の朝の言葉だ。
尊敬はしている。理想とも思っている。でもこういう人間になりたいかと聞かれたら、私は、全力で否定する。
「父のような眉間に皺を寄せ、重々しく話す人間にはなりたくない」
父と話すだけで緊張する。
意見なんて言える雰囲気じゃない。
…独裁政治じゃないのか?
「どうした?サイファ。いつもの明るさがないじゃないか」
グレゴリーは、私を馬鹿にしているのか?
「別に、私だって黙って考え事ぐらいする。今日の相手は、あのベタベタ令嬢だからな」
「サイファ、ダイアナ嬢をベタベタって呼んでるのか」
「あぁ、常に腕に絡みついてくるし、ベタベタ触ってくる。これってどうなの?そろそろ怒って良い?私の事、軽い男と思っているみたいだけど、私に絡みつきながら、アンドル様に甘え声で誘っているのってどうなの!誰でも良いとか気分悪いよね」
「ハァー、サイファも大変だな。見ていて不快に感じるのは、一緒だけど、野放しには出来ないのはわかるだろう?誰かがアレを縛っておかないと…」
グレゴリーは、担当じゃないからそんな軽く言えるんだ。
今の状態は、はっきり言ってげんなりして、悪化状態だ。ハーレムとか言っていたが、ベタベタは、そういうタイプだ…
悪口が止まらない。
野放しにしなければ良いわけだ。私は私のやり方で、重い荷物を早く下ろしたい。
*
「サイファ様、マリングレー王国のティア王女の世話係なんて酷いです。しかも私は、夜会に参加も出来ないのでしょう?」
ダイアナが中庭のベンチで詰め寄ってきた。腕に絡みついてくるのは、絶対のようだ。
ハァ、相変わらず自分勝手にベタベタと触ってくる。夜会、夜会と何度も同じ話を。今回は、アンドル様の婚約者決めを建前にしているのは、どの貴族でもわかるはずなのに…
可愛いと馬鹿を履き違えているのが、飽き飽きしている…けど。
夢見の乙女と呼ぶに相応しいとは、思わないが、未来の話の整合性が『知っている』に当てはまる。
予見できる力、夢見の乙女であると。
面倒くさいが、引き出さないと無意味な時間を過ごすだけ。
「不貞腐れる顔も可愛いですね、ダイアナ嬢。しかし、夜会は仕方がないと話したはずだよ。決定事項。それに世話係ではなくて、この国での話し相手さ。せっかく来てくださった王女だよ。普通なら会えない存在だし、アンドル様からもダイアナが適任だって助言がある。
おしゃれで流行りに敏感で…話が面白いし、王女様もきっと退屈しないよ。何だっけ、夢で見たという話、本当に我が国の王都の商会の一つが、ウランドル王国の人身売買に深く関わっていたなんて信じられなかったけど…凄いお手柄でしたし。ガトルーシー男爵が叙爵されたら、今後色々パーティーにも出られると思うな。
ここだけの話、おかげでアンドル様もウランドル王国と交渉のカードを持つことが出来て王女を婚約者にせずに候補に止められて、感謝していたよ」
と褒めてのせる作業をしていると、顔を歪めたダイアナ。
「えっ!?
感謝は嬉しいけど…お父様の叙爵とかウランダル王国の姫が、候補は困るかな。だって私の夢見では、お姫様が婚約者として登場して、男爵家の私を虐めてもらわないといけないのに!」
と訴えてきた。
「何を言っているんだ?」
と聞き返した。虐め?
彼女曰く、身分の低い自分を虐めてもらわないと逆転が出来ないだとか展開が進まないとか、立ち上がってウロウロしながら話している。ぶつぶつ話すのが、気味が悪い。
動物園の大きな猿みたいだなと思った。
ミランダ嬢のあのわざとらしい固まったポーズを思いだした。
彼女は、甘えるのも慣れて無さそうだし、一生懸命考えていそうだったし、私から逃げようとした行動。それ全部あの一瞬でわかるポージングって…
お腹が痛くなるほど笑った。
アンドル様の所に辿りついても、思い出してしまった。どうしようもなく不出来で、彼女自身が羞恥にまみれて固まって、首や頬、耳までピンクに染め上げ…
不慣れな可愛さが愛おしかった。
「動きがオモチャみたいに止まってしまうんだもんな」
ハァーーー
また思い出してしまった…
思い出すだけで笑える。
今は、ダイアナとティア王女を対面させることだ。
まぁダイアナの言葉は、覚えるようにしているけど、必要な箇所って、ウランダル王国のマユリカ王女が、婚約者になりすぐに学校に転入してくる、王宮での暮らしも決まっているらしい。
要報告だな。
「大丈夫かな?ダイアナ嬢、君を疑っているわけじゃないのだけど…
ティア王女様は、マリングレー王国では夢見の乙女と呼ばれて、ダイアナと同じで国に助言をして、信仰されているらしい。
そんな凄い方なら、王妃に望むのは世の常だろう?勢力が現れたら厄介だからね。出来れば王妃様にはこの国の令嬢が好ましいと考えている。
夢見の乙女達の意見が違えた時、どちらを信じるべきかと言われる事があるかもしれない。私は、ダイアナを信じているからこそ、王女が夢見の乙女じゃないって、判明すれば喜ばしいな」
また軽い口調で、何も力のない言葉を吐いた。変に言葉尻を取られないようにしながら、私は、君の味方だとアピールをするが、ダイアナは信じられないぐらい動揺していた。
「嘘、夢見の乙女が二人?あるわけないわ!王女が、嘘つきよ」
断言した。
でも実際、特殊な者が二人もいるというのは疑問がある。御伽話…みたいな予見の力、百年前にいたという記録。それは、農作物の実りが悪い、長雨になる、河川の氾濫、流行病…防げたわけではなく、予見した人がいたという記録。
もっと調査すれば、夢見の力について書いてある書物が出てくるのだろうか。もっと有効な力の引き出し方など…
それからのダイアナは、またウロウロと歩き、時には爪を噛んで、話をすっ飛ばして私に成り変わろうとしているのかもと怒っては、虚空を見つめ、またぶつぶつと言う。
…ただの気狂いの人間にしか見えない。
やはりこれ以上関わりたくないな。
ある程度問題解決したら、彼女はどこかに入院させた方が良いな。どうもアンドル様との婚姻が目的みたいだしね。
本当に、馬鹿な子だ。
私を踏み台にしようなんて…
ダイアナを見て、勝手に心の中で彼女の行く先を決めていた。
本日も面倒な人間が相手だ。そんな顔をしていたのだろうか?
「人を観察しろ」
それが父、現宰相の今日の朝の言葉だ。
尊敬はしている。理想とも思っている。でもこういう人間になりたいかと聞かれたら、私は、全力で否定する。
「父のような眉間に皺を寄せ、重々しく話す人間にはなりたくない」
父と話すだけで緊張する。
意見なんて言える雰囲気じゃない。
…独裁政治じゃないのか?
「どうした?サイファ。いつもの明るさがないじゃないか」
グレゴリーは、私を馬鹿にしているのか?
「別に、私だって黙って考え事ぐらいする。今日の相手は、あのベタベタ令嬢だからな」
「サイファ、ダイアナ嬢をベタベタって呼んでるのか」
「あぁ、常に腕に絡みついてくるし、ベタベタ触ってくる。これってどうなの?そろそろ怒って良い?私の事、軽い男と思っているみたいだけど、私に絡みつきながら、アンドル様に甘え声で誘っているのってどうなの!誰でも良いとか気分悪いよね」
「ハァー、サイファも大変だな。見ていて不快に感じるのは、一緒だけど、野放しには出来ないのはわかるだろう?誰かがアレを縛っておかないと…」
グレゴリーは、担当じゃないからそんな軽く言えるんだ。
今の状態は、はっきり言ってげんなりして、悪化状態だ。ハーレムとか言っていたが、ベタベタは、そういうタイプだ…
悪口が止まらない。
野放しにしなければ良いわけだ。私は私のやり方で、重い荷物を早く下ろしたい。
*
「サイファ様、マリングレー王国のティア王女の世話係なんて酷いです。しかも私は、夜会に参加も出来ないのでしょう?」
ダイアナが中庭のベンチで詰め寄ってきた。腕に絡みついてくるのは、絶対のようだ。
ハァ、相変わらず自分勝手にベタベタと触ってくる。夜会、夜会と何度も同じ話を。今回は、アンドル様の婚約者決めを建前にしているのは、どの貴族でもわかるはずなのに…
可愛いと馬鹿を履き違えているのが、飽き飽きしている…けど。
夢見の乙女と呼ぶに相応しいとは、思わないが、未来の話の整合性が『知っている』に当てはまる。
予見できる力、夢見の乙女であると。
面倒くさいが、引き出さないと無意味な時間を過ごすだけ。
「不貞腐れる顔も可愛いですね、ダイアナ嬢。しかし、夜会は仕方がないと話したはずだよ。決定事項。それに世話係ではなくて、この国での話し相手さ。せっかく来てくださった王女だよ。普通なら会えない存在だし、アンドル様からもダイアナが適任だって助言がある。
おしゃれで流行りに敏感で…話が面白いし、王女様もきっと退屈しないよ。何だっけ、夢で見たという話、本当に我が国の王都の商会の一つが、ウランドル王国の人身売買に深く関わっていたなんて信じられなかったけど…凄いお手柄でしたし。ガトルーシー男爵が叙爵されたら、今後色々パーティーにも出られると思うな。
ここだけの話、おかげでアンドル様もウランドル王国と交渉のカードを持つことが出来て王女を婚約者にせずに候補に止められて、感謝していたよ」
と褒めてのせる作業をしていると、顔を歪めたダイアナ。
「えっ!?
感謝は嬉しいけど…お父様の叙爵とかウランダル王国の姫が、候補は困るかな。だって私の夢見では、お姫様が婚約者として登場して、男爵家の私を虐めてもらわないといけないのに!」
と訴えてきた。
「何を言っているんだ?」
と聞き返した。虐め?
彼女曰く、身分の低い自分を虐めてもらわないと逆転が出来ないだとか展開が進まないとか、立ち上がってウロウロしながら話している。ぶつぶつ話すのが、気味が悪い。
動物園の大きな猿みたいだなと思った。
ミランダ嬢のあのわざとらしい固まったポーズを思いだした。
彼女は、甘えるのも慣れて無さそうだし、一生懸命考えていそうだったし、私から逃げようとした行動。それ全部あの一瞬でわかるポージングって…
お腹が痛くなるほど笑った。
アンドル様の所に辿りついても、思い出してしまった。どうしようもなく不出来で、彼女自身が羞恥にまみれて固まって、首や頬、耳までピンクに染め上げ…
不慣れな可愛さが愛おしかった。
「動きがオモチャみたいに止まってしまうんだもんな」
ハァーーー
また思い出してしまった…
思い出すだけで笑える。
今は、ダイアナとティア王女を対面させることだ。
まぁダイアナの言葉は、覚えるようにしているけど、必要な箇所って、ウランダル王国のマユリカ王女が、婚約者になりすぐに学校に転入してくる、王宮での暮らしも決まっているらしい。
要報告だな。
「大丈夫かな?ダイアナ嬢、君を疑っているわけじゃないのだけど…
ティア王女様は、マリングレー王国では夢見の乙女と呼ばれて、ダイアナと同じで国に助言をして、信仰されているらしい。
そんな凄い方なら、王妃に望むのは世の常だろう?勢力が現れたら厄介だからね。出来れば王妃様にはこの国の令嬢が好ましいと考えている。
夢見の乙女達の意見が違えた時、どちらを信じるべきかと言われる事があるかもしれない。私は、ダイアナを信じているからこそ、王女が夢見の乙女じゃないって、判明すれば喜ばしいな」
また軽い口調で、何も力のない言葉を吐いた。変に言葉尻を取られないようにしながら、私は、君の味方だとアピールをするが、ダイアナは信じられないぐらい動揺していた。
「嘘、夢見の乙女が二人?あるわけないわ!王女が、嘘つきよ」
断言した。
でも実際、特殊な者が二人もいるというのは疑問がある。御伽話…みたいな予見の力、百年前にいたという記録。それは、農作物の実りが悪い、長雨になる、河川の氾濫、流行病…防げたわけではなく、予見した人がいたという記録。
もっと調査すれば、夢見の力について書いてある書物が出てくるのだろうか。もっと有効な力の引き出し方など…
それからのダイアナは、またウロウロと歩き、時には爪を噛んで、話をすっ飛ばして私に成り変わろうとしているのかもと怒っては、虚空を見つめ、またぶつぶつと言う。
…ただの気狂いの人間にしか見えない。
やはりこれ以上関わりたくないな。
ある程度問題解決したら、彼女はどこかに入院させた方が良いな。どうもアンドル様との婚姻が目的みたいだしね。
本当に、馬鹿な子だ。
私を踏み台にしようなんて…
ダイアナを見て、勝手に心の中で彼女の行く先を決めていた。
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