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10 お義兄様が帰ってきました

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本日は、一目散に私に歩み寄る心配性の義兄こと、イズリー家嫡男、ディライドが、留学から戻って来ました。
私は、イズリー家屋敷の玄関ホールから身動き出来ないでいます…
神に召されるのも時間の問題とも思える酸素不足を体験中です。

「やあぁ~、ミランダちゃ~ん!!
会いたかったよ~、物凄く、凄くだよ~」

おっ、上半身があらぬ方向で折り曲がるかと思ったよ。
やっと解放されました。
人間の身体ってそう考えれば、丈夫なのね。

「はあ~、怪我は?どこか痛い所は?」

あなたからの衝撃の方が、今は物凄くあるのだけど。
…それに、私の話は内緒のはずだったのに…
いつのまにか機密漏洩…
間者がいたか!?

「もうとんでもないことしたね、お転婆で済む問題じゃないよ!打ち身に擦り傷に痣で満身創痍の怪我とか」

と私の頭を撫でる、ディライドお義兄様。やっとお義兄様の勢いが止まったので、話せます。

「はい、確かに私が愚か者でした…でもお義兄様のスーパー眼鏡のおかげで、無事でした。私の冒険譚は、読まれましたか?中々緊張感溢れる文章をかけたと思うので、マリングレー王国の先生に読んでもらいたいと思ってますが、今、先生はどちらにいるかご存知ですか?」

と言うと、静かに、少し考えてから私に言った。

「私が、最後マリングレーの王宮に挨拶しに行った時は、リウム王子の後ろに立っているのを見かけたよ。ミランダちゃんを引き渡された時に会った以来で、お変わりは無い様子と私を見ても反応はなかったな。私が、半年の滞在中、国王陛下、王妃様はお姿は見れず、アクア王子とティア王女は、療養中と聞いている。ミランダちゃんが、国から離れる時と状況も環境も変わってない。相変わらず、国全体が、迷信を信じている愚かな国だ」

「そうですか…」

先生から聞いた迷信の話を思い出した。

「そんな顔をしないで。先生は大丈夫だよ、王子の家庭教師かもしれない。迷信には否定的でミランダちゃんの味方。私は、きちんと調べてきて関係ないと断言出来る。意味のわからない迷信で、全ての悪い事を誰かのせいにするなんて異常だ。ミランダちゃんは、逃げたわけではないよ。考える必要もない。正規のルートで入国したし、養女になった。マリングレー王国のことは考えない方がいい。みんな言っただろう。早く忘れた方がいい。もう、ミランダちゃんは、イズリーの人間だよ」

「ありがとうお義兄様…」

みんないつのまにか居なくて、私は、お義兄様に頭を撫でられていた。

「お土産があるんだ。最新のマジックアイテム!あぁ、レオンも呼んでみんなで見よう」

といつも通りの明るいディライド様だった。
私は、ミランダ・イズリーよ。
もう確かにあの国とは関係ない。
先生との思い出が消えるわけでもない。
…連絡が取れないのは残念だけど、今を感謝している。
いつか、先生に私が体験した外の世界の話を伝える事が出来るかもしれない。

その時、精一杯伝えよう、毎日楽しいと。

「ねぇ、お義兄様、学校って楽しいのよ~」

「友達の話かい?勿論私に紹介出来る人間だよね?」

おっ!?
なんかの琴線に触れたかしら?
声に棘があるような…

「勿論よ、隣の席のリリエットさんよ。彼女、恋をしているの。物凄く可愛いんだから!聞いているだけでなんかドキドキするし、ワクワクするのよ。お義兄様、好きになっちゃダメよ。彼女には婚約者がいるんだから!」

「あぁ、失礼のないようにしっかり挨拶しなきゃいけないね」

サロンに入るとすでにティータイムの準備もお土産の箱もきちんと並んであった。

「レオン、どれから開ける?」

「そうですね、一番大きいのを開けたいです!」

確かに、この犬でも入りそうな大きな箱に何が入っているか気になるわ。

お義兄様を見ると優雅に紅茶を楽しんでいた。開けていいと言うことだろう。

「義姉様~なんですか!これ、黒い筒と黒い球が二つ。凄い重いです」

レオンが言うと、

「あぁ、それは夜会で打ち上げた花火だよ。少し前に大きな夜会があって、その時にお披露目された物の予備だ」

「ええ!?そんな国営の打ち上げ花火買ってきたのですか?」

驚いて聞くと、

「あぁ、それは処分に困ってたから、貰い受けた品だよ。こんな大きくて重い物を、私が買うわけないだろう。馬車移動も遅くなるし、おまけをくれると言うから引き受けただけさ」

と平然と言った。

夜会の打ち上げ花火よ。きっとその日のビッグサプライズだったはず…

予備…処分品…

「じゃ次は義姉様選んで~」

「私は、逆にこの小さい箱にするわ」

開けてみると銀色の筒。

「蓋を開けるとボタンがあるだろう。それをこの布にかけてごらん」

お義兄様の言う通りに、ボタンを押すとプシューと何かが吹き出した。そして乾かすとお義兄様は、水を溢した。

「「わぁ~凄い!水が丸い玉になっている。触っても大丈夫なの?」」

レオンと私で、同じ反応をした。

「あぁ触ってごらん」

「うわぁ、普通に濡れたわ」
「僕なんて服に流れてきたよ」

この液体を振りかけた布だけが、水を弾くと聞いた。マントに使い、これから騎士団との商売交渉する儲けの種だと。
次に開けたのは、髪色を変えるマジックアイテム。スプレータイプのお手軽品。ピンクに茶色、黒に、グレイ。

「ピンクって、何故ピンク?」

「ああ、奇抜な色も売れるかなと助言して、作った一つ。案外人間くささが消えていいよね」

お義兄様…絶対に自分では使わないくせに。

そして、レオンが開けた箱には、マント。

「これは高かったな。何でも気配を押さえるらしい。体温や遮音…まぁ全部ってわけではないけどね、隠者のマントって言われている。まぁ、スーパー眼鏡が顔を隠すなら、マントは身体だね。そしてミランダちゃんが持っているのが花火を引き受ける代わりにもらったお土産。最新のパールの白粉だよ、めちゃくちゃ綺麗だったよ。肌がキラキラ光るんだ」

あれ、そんな話をリリエットさんとマリアーノ様がしていたような…確か買えないとか…

「そんな大事な高価なもの、お義母様でしょう!お渡ししてきましょう!」

「何言っているの?ミランダちゃんのお肌が輝くんだから、母上よりミランダちゃんが使いなよ!」

なんて恐ろしいことを言うのだ、この義兄は…お義母様に聞かれたら!

「これはお義母様の物です!私には必要ないです、パーティーにも行かないですし、」

「毎日、家の中で使えばいいじゃないか」

と至極当然のように言ったお義兄様にクラスメイトの話した価値の話ができないと思った。
そして、扉の前に立っていたお義母様が、静かにこちらを見ているのが、怖かった。

もうーーー、角が立つから!
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