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8 人気者にドキドキしませんでした

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別館に入り、応接室に向かう。

「職員室の並びにあるのね…」

独り言を落とし、勇気を持って扉をノックした。

「やぁ、ミランダ嬢」

こちらも見ずに、カリカリとペンの音を響かせている三人組。

こちらは応接室よね?
執務室ではないですよ、ね?と扉を確認してみた。念の為です。

「少し、お待ち下さい。何もないですが、そちらにお座り下さい」

とサイファ様が言う。はい、ありがとうございます。もちろん、仕事の邪魔は出来ないので小声で。
先程もこの声を聞いたけど…ビビっとは来ない。私の癒やし声、耳の幸せは、グレゴリー様が、映えある第一位です。
これは決定です。

おっと、また現実逃避をしてしまった。改めて室内を見ながら気づいた。

ダイアナさんがいないわ。

トントンと書類の片付けた音。

「終わったな。これで今日の分の挨拶と招待状だ」

「はい、お疲れ様です。アンドル様」

とサイファ様がアンドル王子の書類を手に取り確認していく。

「待たせましたね、ミランダ嬢。それで今日の騒ぎは、マリアーノ嬢に絡まれただけですか?何か有益な話は聞きだせましたか」

アンドル様がいつも通りの少しの笑みの絵本のままの王子顔で聞いてきた。
人間味を感じない…
ただ淡々と感情も見せずに…
その方がいい。落ち着ついて話せそうだわ。
美形に一喜一憂してはしゃぐのが、馬鹿みたいに思える。

「何故そのようなことを聞いてくるのでしょうか?」

「外交のスペシャリストのイズリー家。どんな些細な情報も見逃すはずはないと宰相に助言を頂きました。あの事件もこちらとしたら有益な情報だったのですよ」

なんと!私を情報屋にしようとしているの?申し訳ないが、私にその力はない。

「申し訳ございませんが、ダイアナ様との頭の接触以来、何も情報はないです。本日は、サイファ様の横にダイアナ様がいらしたはず、お聞きになれるのではないですか?」

「あぁ、彼女からは中々面白い話が聞けるので…」

サイファ様も加わってきた。再び、サイファ様が話し出す。

「忠告ありがとうございました、ミランダ嬢。しかし、まだ彼女は全部を私に話してくれないのです。前倒したらどうなるかわからないし~と言われて、あまり無下には出来なくて。なんでもクリネット王国に関わる大きな事件らしいので…これは内密に」

と青年にしたら可愛い仕草で人差し指を突き出し、自身の口元に当てた。

フッと息のかかった音がした。

サイファ様の御顔と存在に、一気に冷めてしまった。キャーキャー言われているのを意識してのポーズなら、この方相当な自意識過剰ね。

うちの弟のレオンの方が、断然可愛い。

「はい、サイファ様。私に話して下さって良いのですか?」

なんか王国が~とか言うなんて、そんな話は、絶対してはいけないでしょう。イズリー家にわざと聞かせているのかしら。

「まぁ、ミランダ嬢には関係ない話ですね。教えて欲しいのですが、…ディライドが帰ってくると聞きました。もう屋敷に着いたかどうか?」

王子様に話題転換されました。

「いえ、まだです」

「そうですか。必ず王宮に顔を出すように伝えて欲しい。ディライドは、いつも側近候補の話を断りばかり入れるので。是非、ミランダ嬢からも入るように言って欲しいです」

騒動どうこうじゃなくて、側近依頼を私に頼みたかっただけ、ね?

「お義兄様は、皆様もご存知の通りの人物でございます。興味あることにふらりと足が向く方なので、私からの話も聞いてくださるかわかりません」

と顔を振って見たが、相手は表情ひとつ変えず…
本当に、逆に怖っ。

「最初から邪険にされて、私達では相手にされないのですよ。マリングレー王国に留学に行ったのでしょう?こちらとしては驚いた。かの国で内乱が起きたとは聞いていない。何故かディライドは、誰にも言わずに留学した。その代わりイズリー伯爵が現在外交官を断り、弟に任せていた領地運営をしている。はっきり言えば、我が国にとって損益なのです。
突然と言いましたが、同じ時に現れたイズリー家の養女…正規の手続きですよね。
『何があって』を聞きたいが、話してくれますか?あなたのこと。
…ミランダ嬢の髪色は水色ですね。青系は、マリングレー王国で多い色です。海を挟んで隣に位置しているイズリー伯爵領では、珍しくはないかな。我が国全体では珍しいだろうし。何か関わりがあって、養子縁組をしたと勘繰るのも当然じゃないかな?」

王子様が怖い。
ジリジリ追い詰められている、ようなジワと汗が流れるのは、尋問からくるものか、美形による表情筋無しによる恐怖からなのか

「確かに…養女です。
しかし私はお義母様の家家の娘ですし…
勘繰ると言われましても…困りますね」

溜息と話を切ることに尽力を!

「そうか、きちんと手続きを踏んでいるのは、わかっています。イズリー伯爵が、落ち度に繋がるような私事を外部に示すわけがないですから。まぁ、養子縁組に邪推してすまなかった。
先程の側近の件、兄に一度伝えて欲しい。勿論こちらからも言うので、煩わしいことを頼んで申し訳ない」

追い詰められるかと思ったら、意外にあっさり私の事など興味無しをあらわしてくれた。
お義父様信用されているわ。
凄い、お義父様。

「はい、かしこまりました…関係ありませんが、あの誘拐事件は、全て解決しましたか?」

「ああ、盗賊団やそれに関わった者達を今は捕まえている」

おっ、今まで一切会話に入ってこなかったグレゴリー様が発したわ。

ほぉ~、良い声。

ありがとうございます。この話題はグレゴリー様担当なんですね、盗賊や事件だもの騎士団ですね。

この狭い応接室に学校の人気者三人…との質問(依頼)。
クラスメイトに言えば羨ましがられる案件なのに、全くドキドキしない。

使用人達と話したり、噂で聞く方がドキドキして楽しかったのは何故だろう。

「はい、では失礼します」

扉を閉めて、そっと溜息を吐いた。
わかったわ、例え美青年だとしても、私を彼らは見ていない気がしたのよ、気持ちの交流がないみたいな…
私も同じだから仕方がないけど、気づくと少し寂しいわね。

廊下を歩き始めれば、睨んでいるダイアナさんがいた。
待ち伏せ!?絶対、私を見ているのよね?
何故睨むのよ、つい先程は仲良しだの私のこと良い令嬢って言っていたのに…彼女は人気者とは逆に、私に気持ちをドンとぶつけてくるのね。それも面倒くさいのよ。

無視しても良いかしら?一方通行的な…
だって、嫌な予感がビシっバシっとするんだもの。
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