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1 転生者だった

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「リディ、誕生日おめでとう。怪我をしたと聞いたけど、もう大丈夫なのかい?」

穏やかないつもの微笑みで話してくれる彼。前みたいな嬉しさや喜びが、広がらない。変わったのは、私。
あぁ、やっぱり私は運が良い。神に感謝を!

「ええ、ありがとうございます。ウィルソン様。ようやく、私も同じ学園に通えますわ。嬉しくて学園周りを散歩しながら、外から見ておりましたの。私の散歩コースでしたので。来月からよろしくお願いします」

我が家のサロンに案内するため、頂いた花束を侍女に渡し、使用人に目配せをした。その瞬間、玄関ホールは私達二人になった。
それを見た彼は、

「ああ、その事なのだけど、学園では節度を持って接したいと思っている、学ぶ場所でもあるし、新しい交流関係を広げる為の場だ。婚約関係でニ年過ごした私達は、見る世界が狭く、同じ目線でいることが多い。違う交流関係を持つことこそ、有意義な学園での体験だと思う」

あの噂も情報も知っているわ。集めまくったもの。
あなたの婚約者浮気してますよって。我が家の使用人がいない上で、言っているんだから残念だわ。

「えっと、ウィルソン様、仰っている意味がわかりません」

少し苛立ちを誘い、相手にはっきりと逃げれない一言を言わせたい。私は足を止めて向かい合わせになる。

はあ、この顔が好きだったし、盲目だった私は、名前を呼ばれる度に、きちんと接してくれていると思っていた。こうしてみると、この人どこが良いの、顔?話?自分勝手さがいちいち気になる。

私が、あなたの言葉を一回で飲み込まないだけで、気に障った仕草…
私ったら、どれだけ見る目がないのかしら。


「だから、私達は学年が違うだろう?私には、私の交流している人間関係が出来ていて、リディのクラスなどにあまり顔を出せないという意味だ。常識というかルールに、君は少し馴染む必要があると思う」

私に会いに来ません、という宣言なのにね。私に常識を気付けよと誘導して、あなたの自分勝手さを通そうとする。あなたという人を暴いていきましょう。

「そう、そうですよね、ウィルソン様は二年生になりますもの。では、私が教室に訪れます。食事なども一緒がいいし、迎えに行きます」

「駄目だよ、下級生が上級生のクラスに訪問してはいけないんだ。ルールだ。だから、私が言っているのは、リディは、リディで友達を作った方が良いという助言だ」

「そんな、決まりがございますの?」

「ああ、…暗黙の了解だ」

「令嬢同士のお茶会でも、そんな話は聞いたことがありませんわ。では、私明日もお茶会がありますので、皆さまに教えてあげなくては。丁度明日は、公爵令嬢のアンネリーネ様に呼ばれてますの。学園の話を教えて頂く予定ですから」

「えっ?アンネリーネ嬢…リディ、今、学園では、彼女の悪い噂や低い評判が凄いんだ。悪いことは言わない、お茶会には欠席して、あまり彼女とは交流を持たない方がいいよ」

「…ウィルソン様が、王子殿下の婚約者であるアンネリーネ様を悪く言うなんて、信じられないわ」

「リディは、学園に通ってないから知らないんだ。彼女は、下位貴族や平民を馬鹿にし、いじめているんだよ」

強調するように声が大きくなった。
ハァー、

「信じられませんわ、私達と交流会をしている時のアンネリーネ様は、気高く完璧令嬢ですわよ。ウィルソン様、どこで聞いたかわからない噂に惑わされないでください」

と言えば、私の言葉が気に入らなかったのだろう。下げていた眉毛がピクピクと動き、彼の垂れ目が良かったのに、そこも吊り上げ、誤魔化せないほど顔が赤く、こめかみあたりに筋が浮かんで来た。
怒っているらしい。
もう彼に良い所は、一つもない。
最初の申し訳なさは、どうしたって言うのよ。浮気相手が、何度もアンネリーネ様に注意された話は、私も聞いたことがあるけど。ウィルソン様も注意されたのね。

私に興味がないことはわかるけど、私、誕生日よ。
あなたの方が、私に対して馬鹿にして、いじめているじゃない?

「何も知らないくせに、知ったような口で言わないでくれ、令嬢の陰険さは、気分が悪い。リディ、私は君に親切に教えてあげたというのに、御礼じゃなくて虐められている令嬢を疑えって言っているんだよ。見もしないで!」

「あなたは、ご覧になったのですか?アンネリーネ様がいじめをなさった所を!」

私も追い討ちをかけるように捲し立てた。

「もちろんだ。リディは、ルーナが嘘を吐いたというのか、彼女の事を何も知らないくせに、よくも私の愛する人を責めるような…」

とうとう言ったよ。決定的一言。
浮気現場は押さえられなかったけど、はっきりと心は裏切ってましたと言ったよ。

「私の愛する人ってどういう意味ですか?」

淡々と冷めた口調で聞く。
そして、ここは我が家のまだ玄関ホール。婚約者が誕生日祝いに来て、迎えた私がいて、大きな話し声に釣られるように集まる人。私の誕生日を祝う為に屋敷には、両親がいて、何人もの使用人がいた。

「もう一度聞きます、ウィルソン様、私の愛する人ってどういう事で、ルーナって誰ですか?」

と聞くと、父も前に出てきて、

「ウィルソン君、今の言葉はどういうことか私にもきちんと話してくれ」

と、まぁ鬼の形相で追い詰めてくれた。我が家は家族仲は悪くない、普通だ。そして、私の婚約者様は、立場が非常に悪い。。

青い顔をしながら、こちらを見た。何か言いたいらしい言葉の為か、口が開いては閉じを繰り返していた。

本当に私、この人のどこが良かったのだろう?

覚悟を決めたように、息を長く吐いた後、侯爵令息らしく背筋を伸ばし、こちらをしっかり見て、

「ガルドニ侯爵…リディ、リディア嬢
この度は申し訳ございません。私の今の発言に嘘はありません。
私は、学園で愛する人を見つけました。どうか婚約を解消させて下さい」

と綺麗な謝罪をした。自分から言ってくれたよ!これで問題なく婚約は解消だし、慰謝料までもらえる。

私は、両手に握り拳を作っていた。

「父様、私、部屋に戻らしていただきます。ウィルソン様のお気持ちよくわかりました。この度のこと婚約者として、気持ちの整理はついておりませんが、今までありがとうございました。ただ私は、今後もあなたを許せません、今日は私の誕生日でしたのに、まるでさらに傷をつけるかの仕打ち」

「それは違う、こんな事を言うつもりはなかった。今日は誕生日を祝おうと思っていた」

「では、あなたは、愛する人がいながら、形ばかりの婚約者に義務として来たのではないですか!それも酷いことです」

「は?それなら私はどうしたらいいんだ!」

そんなこと知らんがな。最低だわーー

「し、ッ失礼します」

と一言目に怒りがこもりすぎて声が大きくなったのを無理矢理押さえて、小声で言った。声が震えたのは、私的に非常に良かった。良い演技!
両親が、ウィルソン様に声を大にして責めたててくれているのだから。


「しばらく一人にしてくれる?」

誰もいない自部屋、握っていた両手の拳を高らかに上げて、万歳をする。



「やったわ~」

これでスムーズに婚約解消出来た!
慰謝料はウィルソン側。言い逃れの出来ない状況。証人も確保した、誘導尋問ではあったものの私に落ち度がないはず。

例え、数時間前まで私が、ウィルソン様のストーカー化していた重い婚約者だったとしても…
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