春の記憶

宮永レン

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 初めてのデートでここに来たことを悠樹は覚えているだろうか。

(あの時、帰りに悠樹は……)

 ふっと海風に頬をなでられ、ふるりと身が震えた。

「寒くない?」

「大丈夫」

 私は短く答えた。

 そんな私をあざ笑うかのように、今度はびゅうと強い風が乱暴に髪に絡んでいった。

「俺、美和のこと忘れたことなかったよ」

 唐突に――本当に唐突に悠樹は言った。

 私の顔にかかったボサボサの髪をそっと指先で梳いて、頭を撫でられた。

 私もそうだった、と言いそうになる。

 しかし言ってしまえば、今の心のバランスが崩れるような気がした。

「そう……」

 ぽつりと呟くのが精一杯だった。

「美和は、そういうのしつこいって思うかな」

「ううん。そんなこと……ない、けど」

 再び胸がざわざわと音を立てて、何かを感じていた。

 もし、これ以上悠樹と話していたら、私は本当に今を捨てることになる、そう思った。

 太陽が雲に隠れて、二人の上に影をつくった。

「私、もう帰らなきゃ」 

 悠樹が口を開きかけたところで、私は慌てて立ち上がった。

 日が傾きかけて、私の後ろに長い影を作っている。
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