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カメラ
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何かに思い悩んだ時、私は部屋の片づけをする癖がある。頭を空っぽにして、要るものと要らない者を直感的に分けていく。それで、たまに、捨てて失敗した、と後から思うこともあるが、一度要らないと思ったものなら、未来でもそう思う時がまた来たはずだろう、その時のために事前に捨てただけだ、と考えるようにしている。掃除機を使ったほうが楽だが、私は箒と塵取りで、最後に埃やごみを掃除する。ひたすら手首を動かし、部屋を両足を使って移動する、ごみを拾うのにしゃがむ、という単純な動作が、私の精神を安定させる。
そういうわけで、栞の話に心乱された私は、久しぶりに部屋の掃除をすることにしたのだった。
いつもはそこまで手を伸ばすことはないが、クローゼットの奥の山済みの箱も整理しようと思ったのは、ただの気まぐれだった。それらは私のものだけでなく、昔の姉の私物などが入っているものだと思う。使わなくなったのでここに、母によってしまわれ(押し付けられ)、そのままになっているのだ。これまでに整理しようと思い立ったことはなかった。それは、その箱の中に、姉のものも入っているせいかもしれない。
しかし、どうしたことか、この時、私は整理しようと思い立ったのだった。
私はとりあえず、重ねられた三つの大小さまざまな箱をクローゼットから出した。一番上にあったのは、大きいが軽い箱で、中には小中の卒業証書が入っていた。これは捨てられない、と即座に脇に置く。
その次の箱はクッキー缶だった。また同じような書類とかだろうか、と何の覚悟もなしに開けてみて、私は、あ、と思わず声を漏らしてしまった。
懐かしさと哀惜を覚えて、しばらくの間、それにじっと見入ってしまった。
クッキー缶の中に入っていたのは、プリントされた写真がいくつかと、デジタルカメラだった。
そっと、そのデジタルカメラを手に取り、じっくり眺めた。五年以上前のことだろうか、これを使って写真を撮っていたのは。
これは私が小学生の時、姉からもらったものだった。姉はこれを、確か、懸賞で当てたのだと思う。なぜそれを私にくれたのか、詳しいことはもはや覚えていないが、とにかく、私はその時に、このカメラを手に入れたのだった。
あのころは、まだ、姉に対して純粋に近い思いを抱いていた。だが――そうだった。
私はこのカメラで撮られた写真を分岐点として、姉に対して、複雑な感情を抱くことになったのだ。
その分岐点というのは、まあ、今思えば些細なことだった。よくあるような話だ。私はカメラを手に入れて、多くの写真を撮った。写真を撮るという行為が、結構好きだった。行く先々にカメラを携帯していくくらいには。
しかし、私はこのカメラをもらったとはいえ独占していたわけではなく、本来の持ち主であった姉にも、時々、貸していた。私たちは写真を撮り合い、見せ合った。姉は私のとる写真が好きだといった。両親も称賛してくれた。
写真は、姉もそれに取り組んでいても、私という個性が埋もれない、初めてのものだった。
だが、やはり、そうではなかったのだった。
まあ、偶然が重なって起こったことともいえる。たまたま、その時の姉の担任が、カメラ愛好家だった。たまたま、彼女と姉は写真の話をした。担任は姉の写真に興味を抱き、その写真を見ると、彼女は姉に、少年少女の写真コンクールに応募するよう勧めた。いわれるがままに、姉は応募して、当然のように賞をとった。
ただそれだけ。
それだけのこと。
私はそのコンクールに応募していたわけではない。だから、姉と競っていたわけでもない。写真を撮っていたのはただの楽しみで、賞が欲しかったわけではない(もちろん称賛は欲しかったが、それを目指していたわけではない)。だが、その結果を聞いた時、姉が症状を受け取った時、私の中の何かが音を立てて崩れた。いや、今まで見ないようにしてきたことが、ただ表面化しただけかもしれない。
私は姉に、あらゆることにおいて、敵わないのだと。
当然のように、姉は結果を残してしまうのだと。
もともと、コンクールというものに興味はなかったが、姉の功績のせいで、もはや私は自分の写真を応募する――誰かに見せるということすら、しないだろう、と思った。
私は急に、写真を撮ることが好きではなくなった。
ここまでは、まだ耐えられたかもしれない。あらゆる分野において、姉が優秀な成績を残すのは、いつものことだったから。
だが、私が許せなかったのは――彼女の何気ない一言だった。
「でも、私は水穂の写真のほうが好きなの。今度、水穂の写真も先生に見せていい?」
笑顔で彼女はそういった。姉が本心からそう思っているのは私にだってわかった。下手なお世辞は言わない人だから。
それだから、よけい、許せなかった。
なぜ? 私のとる写真が好きだと言ってくれたのに。自問するが、私自身でもよくわからない。うまく説明できないが、とにかく、私はもう嫌になってしまったのだった。何かをあきらめたのだった。
それ以来、このカメラはこうして封印されたのだ。いくつかの写真と共に。昔に自分(または姉か)が撮った写真はまだ見る気がしなかったが、カメラのほうは――一度しまい込んだとはいえ、手放すのは惜しい気がした。カメラを持つ手が、ちょっとうずいた。
電池を取り換えれば、まだ使えるだろうか?
この私の心境の変化が、栞の話から影響を受けてのことなのは、明らかだった。
そういうわけで、栞の話に心乱された私は、久しぶりに部屋の掃除をすることにしたのだった。
いつもはそこまで手を伸ばすことはないが、クローゼットの奥の山済みの箱も整理しようと思ったのは、ただの気まぐれだった。それらは私のものだけでなく、昔の姉の私物などが入っているものだと思う。使わなくなったのでここに、母によってしまわれ(押し付けられ)、そのままになっているのだ。これまでに整理しようと思い立ったことはなかった。それは、その箱の中に、姉のものも入っているせいかもしれない。
しかし、どうしたことか、この時、私は整理しようと思い立ったのだった。
私はとりあえず、重ねられた三つの大小さまざまな箱をクローゼットから出した。一番上にあったのは、大きいが軽い箱で、中には小中の卒業証書が入っていた。これは捨てられない、と即座に脇に置く。
その次の箱はクッキー缶だった。また同じような書類とかだろうか、と何の覚悟もなしに開けてみて、私は、あ、と思わず声を漏らしてしまった。
懐かしさと哀惜を覚えて、しばらくの間、それにじっと見入ってしまった。
クッキー缶の中に入っていたのは、プリントされた写真がいくつかと、デジタルカメラだった。
そっと、そのデジタルカメラを手に取り、じっくり眺めた。五年以上前のことだろうか、これを使って写真を撮っていたのは。
これは私が小学生の時、姉からもらったものだった。姉はこれを、確か、懸賞で当てたのだと思う。なぜそれを私にくれたのか、詳しいことはもはや覚えていないが、とにかく、私はその時に、このカメラを手に入れたのだった。
あのころは、まだ、姉に対して純粋に近い思いを抱いていた。だが――そうだった。
私はこのカメラで撮られた写真を分岐点として、姉に対して、複雑な感情を抱くことになったのだ。
その分岐点というのは、まあ、今思えば些細なことだった。よくあるような話だ。私はカメラを手に入れて、多くの写真を撮った。写真を撮るという行為が、結構好きだった。行く先々にカメラを携帯していくくらいには。
しかし、私はこのカメラをもらったとはいえ独占していたわけではなく、本来の持ち主であった姉にも、時々、貸していた。私たちは写真を撮り合い、見せ合った。姉は私のとる写真が好きだといった。両親も称賛してくれた。
写真は、姉もそれに取り組んでいても、私という個性が埋もれない、初めてのものだった。
だが、やはり、そうではなかったのだった。
まあ、偶然が重なって起こったことともいえる。たまたま、その時の姉の担任が、カメラ愛好家だった。たまたま、彼女と姉は写真の話をした。担任は姉の写真に興味を抱き、その写真を見ると、彼女は姉に、少年少女の写真コンクールに応募するよう勧めた。いわれるがままに、姉は応募して、当然のように賞をとった。
ただそれだけ。
それだけのこと。
私はそのコンクールに応募していたわけではない。だから、姉と競っていたわけでもない。写真を撮っていたのはただの楽しみで、賞が欲しかったわけではない(もちろん称賛は欲しかったが、それを目指していたわけではない)。だが、その結果を聞いた時、姉が症状を受け取った時、私の中の何かが音を立てて崩れた。いや、今まで見ないようにしてきたことが、ただ表面化しただけかもしれない。
私は姉に、あらゆることにおいて、敵わないのだと。
当然のように、姉は結果を残してしまうのだと。
もともと、コンクールというものに興味はなかったが、姉の功績のせいで、もはや私は自分の写真を応募する――誰かに見せるということすら、しないだろう、と思った。
私は急に、写真を撮ることが好きではなくなった。
ここまでは、まだ耐えられたかもしれない。あらゆる分野において、姉が優秀な成績を残すのは、いつものことだったから。
だが、私が許せなかったのは――彼女の何気ない一言だった。
「でも、私は水穂の写真のほうが好きなの。今度、水穂の写真も先生に見せていい?」
笑顔で彼女はそういった。姉が本心からそう思っているのは私にだってわかった。下手なお世辞は言わない人だから。
それだから、よけい、許せなかった。
なぜ? 私のとる写真が好きだと言ってくれたのに。自問するが、私自身でもよくわからない。うまく説明できないが、とにかく、私はもう嫌になってしまったのだった。何かをあきらめたのだった。
それ以来、このカメラはこうして封印されたのだ。いくつかの写真と共に。昔に自分(または姉か)が撮った写真はまだ見る気がしなかったが、カメラのほうは――一度しまい込んだとはいえ、手放すのは惜しい気がした。カメラを持つ手が、ちょっとうずいた。
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