ダンジョンの隠者

我輩吾輩

文字の大きさ
上 下
4 / 13

第4話 とりあえず木の枝でも乗っけておくか

しおりを挟む
「暖かいな。」

春の陽気である。気候は穏やかで、男はリラックスしていた。

「俺も寝るか。」

そして夜が始まった。

動物というのは元来夜行性のものが多い。魔獣も同じで、夜になると活発に活動を始める。
そして、『緑壁の森』は王都のすぐそばにありながらまったく開発がなされてこなかった。それには冒険者ギルド等の影響もあるが、何よりそこに住んでいる魔獣の生態系に人間が打ち勝つことができなかったのが大きな理由だ。
魔獣は魔力をその身に帯びていること以外は、一般的な野生の生物と何ら変わることはない。もちろん、例外はいるが、たいていはそうだ。

泉には動物が集まる。そして、その動物を狙うものも。

「ひぃっ!」

男は全力で走っていた。見たこともない生き物に追いかけられ、恐怖におののいていた。階段を駆け下り、地下通路を全力で、そして召喚された部屋、男にとってはこの世界で初めて見た場所まで戻ってきた。扉を閉めると、その扉の前に座り込んだ。

「うぐぅあ!」

「い、いやだ。助けてくれ。」

助けてくれる者はいない。ダンジョンコアたちは寝ている。

初日からダンジョンの最深部まで、それも知性のかけらもない獣に乗り込まれるとは。いや、知性自体はあるのかもしれない。なぜなら

「うー!、う!」
「うだぁ!」

ドンッ

連携し、コミュニケーションをとりながら扉を開けようとしているからだ。

「なんでこんなことに。」

男は半べそである。しかし、その瞬間、男の治世に、いや、靄がかっていた記憶の隅から、この事態の解決策が見えてきた。

「この扉、鍵がかけられる!」
(鍵はどこだ?俺の頭によれば、部屋の真ん中の、あそこか!)

男は手を伸ばす。だが

(くっ、届かない。)

あと一歩、足りない。

(あいつらが起きてくれれば。)

「おーい、起きてくれ!」

「ぐぅぐぅ。」
「もう食べられないよ・・・」
「おやすみー。」

「一人起きてるじゃん!」

「お兄さん、がんばー。」

(寝始めた・・・)

「くっ、どうすれば・・・あっ!」

(扉がたたかれる時には一定の周期性がある。その間三秒ほど、その間に鍵をとる!)

ドンッ

(いまだ!)

(よしっ!鍵をとった)

「うひあ?はるぅ。」

ガチャ

「あ。」

(ドア、あけられた。)

「うひひぃ、ひひぃ。」

(ものすごいどや顔だ。こいつらに、俺は殺されるのか・・・)

「お兄さん、弱いー!やっぱり、最悪だー!」

ひゅー、バンッ

「うひ?うはぁ!」

ダンジョンコアの一人が立ち上がり、魔獣たちのほうを指さす。
指の先からピンク色の靄が出たかと思うと、一気に魔獣のほうへ向かっていく。
魔獣は靄に押され、部屋からの立ち退きを余儀なくされた。

「お兄さん、早く締めて!」

「わ、わかった。」

男は腰が引けていたが、どうにか立ち上がると、扉を閉め、鍵をかけた。

「うぎゃあ!うがぁ!」
「うが!うが!」
「うだぁ!」

扉をどんどんと叩く音がする。だが、その音も次第にしなくなっていった。

「私、戦うの苦手だけど、お兄さんよりは強そう。」

ダンジョンコアは少し怒っているようだ。だが男の方は

「すっげー!今のピンクの、魔法ってやつ?かっけー!」

「そ、そうかな?」

「間違いないよ!それに強かった!俺もあんな魔法使いてー!」

ダンジョンコアはあきれ半分、照れ半分といったところだ。

「うるさい・・・」
「寝てたのにー」

ほかの二人も起きたようだ。

「すっげー!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~

こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。 それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。 かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。 果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!? ※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。

初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。 ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。 ※短いお話です。 ※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。

旦那様、どうやら御子がお出来になられたようですのね ~アラフォー妻はヤンデレ夫から逃げられない⁉

Hinaki
ファンタジー
「初めまして、私あなたの旦那様の子供を身籠りました」  華奢で可憐な若い女性が共もつけずに一人で訪れた。  彼女の名はサブリーナ。  エアルドレッド帝国四公の一角でもある由緒正しいプレイステッド公爵夫人ヴィヴィアンは余りの事に瞠目してしまうのと同時に彼女の心の奥底で何時かは……と覚悟をしていたのだ。  そうヴィヴィアンの愛する夫は艶やかな漆黒の髪に皇族だけが持つ緋色の瞳をした帝国内でも上位に入るイケメンである。  然もである。  公爵は28歳で青年と大人の色香を併せ持つ何とも微妙なお年頃。    一方妻のヴィヴィアンは取り立てて美人でもなく寧ろ家庭的でぽっちゃりさんな12歳年上の姉さん女房。  趣味は社交ではなく高位貴族にはあるまじき的なお料理だったりする。  そして十人が十人共に声を大にして言うだろう。 「まだまだ若き公爵に相応しいのは結婚をして早五年ともなるのに子も授からぬ年増な妻よりも、若くて可憐で華奢な、何より公爵の子を身籠っているサブリーナこそが相応しい」と。  ある夜遅くに帰ってきた夫の――――と言うよりも最近の夫婦だからこそわかる彼を纏う空気の変化と首筋にある赤の刻印に気づいた妻は、暫くして決意の上行動を起こすのだった。  拗らせ妻と+ヤンデレストーカー気質の夫とのあるお話です。    

私は聖女ではないですか。じゃあ勝手にするので放っといてください。

アーエル
ファンタジー
旧題:私は『聖女ではない』ですか。そうですか。帰ることも出来ませんか。じゃあ『勝手にする』ので放っといて下さい。 【 聖女?そんなもん知るか。報復?復讐?しますよ。当たり前でしょう?当然の権利です! 】 地震を知らせるアラームがなると同時に知らない世界の床に座り込んでいた。 同じ状況の少女と共に。 そして現れた『オレ様』な青年が、この国の第二王子!? 怯える少女と睨みつける私。 オレ様王子は少女を『聖女』として選び、私の存在を拒否して城から追い出した。 だったら『勝手にする』から放っておいて! 同時公開 ☆カクヨム さん ✻アルファポリスさんにて書籍化されました🎉 タイトルは【 私は聖女ではないですか。じゃあ勝手にするので放っといてください 】です。 そして番外編もはじめました。 相変わらず不定期です。 皆さんのおかげです。 本当にありがとうございます🙇💕 これからもよろしくお願いします。

チート幼女とSSSランク冒険者

紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】 三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が 過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。 神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。 目を開けると日本人の男女の顔があった。 転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・ 他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・ 転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。 そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語 ※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。

前回は断頭台で首を落とされましたが、今回はお父様と協力して貴方達を断頭台に招待します。

夢見 歩
ファンタジー
長年、義母と義弟に虐げられた末に無実の罪で断頭台に立たされたステラ。 陛下は父親に「同じ子を持つ親としての最後の温情だ」と断頭台の刃を落とす合図を出すように命令を下した。 「お父様!助けてください! 私は決してネヴィルの名に恥じるような事はしておりません! お父様ッ!!!!!」 ステラが断頭台の上でいくら泣き叫び、手を必死で伸ばしながら助けを求めても父親がステラを見ることは無かった。 ステラは断頭台の窪みに首を押さえつけられ、ステラの父親の上げた手が勢いよく振り下ろされると同時に頭上から鋭い刃によって首がはねられた。 しかし死んだはずのステラが目を開けると十歳まで時間が巻き戻っていて…? 娘と父親による人生のやり直しという名の復讐劇が今ここに始まる。 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 全力で執筆中です!お気に入り登録して頂けるとやる気に繋がりますのでぜひよろしくお願いします( * ॑꒳ ॑*)

異世界でタロと一緒に冒険者生活を始めました

ももがぶ
ファンタジー
俺「佐々木光太」二十六歳はある日気付けばタロに導かれ異世界へ来てしまった。 会社から帰宅してタロと一緒に散歩していたハズが気が付けば異世界で魔法をぶっ放していた。 タロは喋るし、俺は十二歳になりましたと言われるし、これからどうなるんだろう。

処理中です...