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episode3
朝陽③-2
しおりを挟む◇ 朝陽 ③-2 ◇
「明日休みなんだろ。ほら、ビール」
倭がキッチンのほうから缶ビールを手渡す。
「あ、でも車で来ちゃいました」
「置いていけばいいよ。それか泊まってもいいし」
じゃあ、とビールを受け取ると倭も自分の分を持ってリビングへ歩いてきた。
仕事の話をしながら倭と飲んでいても、ふいに塁のことが頭に浮かぶ。塁からのメールは開いてもいないし着信にも出ていない。そうしているうちに連絡はこなくなった。
二月の半ばだからとにかく寒い。今夜は特に寒かった。
――沖縄はあったかいのかな。
「あれから連絡は?」
塁のことだ。あれ以来、倭は初めて塁の話に触れた。朝陽は黙って首を横に振る。
「一月中には、もう」
そう言うと、「そっか」とひとこと返ってきた。
「朝陽、俺にしたら?」
「え、なにが?」
「俺と付き合ったら?」
「え……。えっと、だって倭くんは女の子が」
「俺はどっちも……、なんだ」
ああ、そんなことって考えてもみなかった。倭に恋した中学生の頃はバイセクシャルとかってことまで考えが及ばなかった。あの時「女の子」と言われたからって失恋ではなかったのだ。でも……、だとしても……。
「俺は小日向選手とは違う。朝陽と食事に行っても家を行き来しても、かわいがっている後輩としか思われない。朝陽を守るために他の後輩もかわいがる。誰にも気付かれない。俺と朝陽のファンの人を悲しませない」
「そんな……」
確かに納得はいく。でも違う。塁は付き合う前から好きがにじみ出ていて、告白も「好きだよ、好きだよ」って何度も……。
「えっ!」
隣に座っていた倭が突然抱きしめてきた。勢いでテーブルの上の缶が倒れる。朝陽はソファーの角まで追い込まれた。
「やだ! 離して!」
――嫌だったり痛かったらちゃんと言うんだよ。
優しい塁の言葉がよみがえる。朝陽がつぶれないように体重をかけない塁の抱き方がよみがえる。
「痛い! 離して!」
「朝陽は俺のこと好きってずっと言ってたじゃないか」
「好きだったけど、ずっと好きだったけど、……今の倭くんは好きじゃない!」
朝陽の言葉で少し力が弱まったようで、その隙に倭の下から抜け出た。弾みで朝陽はソファーの下に転げ落ちた。倭が手を差し出したけれど朝陽はコートと鞄をつかんでリビングのドアまで走った。そこで、先輩に対してひどいことを言ったことに気付く。
「あの、ごめんなさい。倭くんのことは先輩として憧れてます。でも俺が好きなのは塁さんだけです」
ぺこりと頭を下げて部屋を出た。
エレベーターで地下のボタンを押そうと思った時、ビールを飲んだことを思い出した。一階まで下り外に出る。
――泣きそうなくらいに風が冷たい。
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