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アルド・カガリ
暇つぶし
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「セト様。こちらがお求めの資料です」
「うむ」
聖王宮の中にある資料室の受付前。
第七席のハッシュ・セトはとある人物の経歴が記された資料を受け取っていた。
「こちらの資料は返却不要ですが、読み終わった後は厳重に保管するか焼却処分をどうかよろしくお願いします」
「ああ」
目の前の資料以外に興味が無いせいか、或いは自身の肩書きによるものか、セトはお世辞にも礼儀正しいとは言えない態度で資料室から出て行った。
「特務部隊の奴らは平民出身の割りにいい仕事をするな」
略歴と詳細の記された紙をめくりながら職務用の自室へと向かう。
【アルド・カガリ】
・聖王国外れの村出身
・剣尾土竜強襲事件の生き残り
・孤児院に入れられる予定だったが、高い法力の素養が見られ特務部隊隊長のアルド・ヴォルグに預けられた
・八歳の頃、訓練中に剣尾土竜と遭遇し(通常種とちがい黒紅の混ざったような体色だったことから変異種と思われる)これを討伐する
・その一件により実力が認められ、歴代最年少の九歳で特務部隊への入隊を任ぜられた
・年齢と容姿に問題があるため、国が定期的に行う魔界への派遣任務の人員からは除外される
・養父のアルド・ヴォルグが魔界への派遣任務を担うようになり、代わりとしてアルド・カガリが人界各国への"外遊"を始める…………
(ふむ……。貴族でなくとも産まれながらにして才能に恵まれる者がいるとは聞くが……)
セトは口に細長く巻いた葉巻をくわえて火をつける。
独特な匂いのする煙を吸い込み、ゆっくりと吐き出す。
手元の資料を見ると興味深いことが書いてあった。
・隊長の娘にして副隊長のアルド・リースは魔界への派遣任務中に消息不明となり、当時の第一席により殉職扱いの判断が下された
アルド・リースと言えば幼少の頃から異様な法力の強さで聖女の噂があった女だ。
武家とはいえ平民から聖女が出てくるのはありえないとして認められず、その強さを利用する方向で特務部隊に配置されたと聞いたが殉職していたのか……。
・五年後、アルド・ヴォルグも魔界への派遣任務中に消息を断ち殉職扱い
・その直後に起きた人魔大戦においてアルド・カガリは最前線諸国で獅子奮迅の活躍を見せ、魔族の撃退と聖王国の地位向上に大きく貢献した
・その功績を鑑みた聖王によって枢機卿第八席の座を与えられる
・貴族や王族以外からの枢機卿就任は聖王国史上初…………
平民の殉職者などに興味が無かったため記憶の外だったが、特務部隊の隊長と娘が共に魔界で失踪……?
"派遣"の言葉を使ってはいるが、実態は間諜と工作の任務だろう。
魔族が強くなれば人界全体の脅威となる。
(……そう言えば人魔大戦の直前、"魔王"が二人という異常事態が報告されたと当時の上層部内で騒がれていたはずだ)
セトの脳内で点の一つ一つに薄いながらも線が繋がっていく。
が、あまりにも荒唐無稽な推理に自身で馬鹿馬鹿しくなり考えを霧散させた。
(実は聖女だったアルド・リースが魔族と繋がり、聖王国に反旗を翻して人魔大戦を起こしたなど……与太話にもほどがある)
灰皿を指先で軽く叩いて小さな灰の山を崩し、また新しい葉巻に火をつける。
暇な職務時間の息抜きにはちょうど良かったが、一通り考えて飽きたセトの胸中は再び退屈と煙で満たされていた。
「うむ」
聖王宮の中にある資料室の受付前。
第七席のハッシュ・セトはとある人物の経歴が記された資料を受け取っていた。
「こちらの資料は返却不要ですが、読み終わった後は厳重に保管するか焼却処分をどうかよろしくお願いします」
「ああ」
目の前の資料以外に興味が無いせいか、或いは自身の肩書きによるものか、セトはお世辞にも礼儀正しいとは言えない態度で資料室から出て行った。
「特務部隊の奴らは平民出身の割りにいい仕事をするな」
略歴と詳細の記された紙をめくりながら職務用の自室へと向かう。
【アルド・カガリ】
・聖王国外れの村出身
・剣尾土竜強襲事件の生き残り
・孤児院に入れられる予定だったが、高い法力の素養が見られ特務部隊隊長のアルド・ヴォルグに預けられた
・八歳の頃、訓練中に剣尾土竜と遭遇し(通常種とちがい黒紅の混ざったような体色だったことから変異種と思われる)これを討伐する
・その一件により実力が認められ、歴代最年少の九歳で特務部隊への入隊を任ぜられた
・年齢と容姿に問題があるため、国が定期的に行う魔界への派遣任務の人員からは除外される
・養父のアルド・ヴォルグが魔界への派遣任務を担うようになり、代わりとしてアルド・カガリが人界各国への"外遊"を始める…………
(ふむ……。貴族でなくとも産まれながらにして才能に恵まれる者がいるとは聞くが……)
セトは口に細長く巻いた葉巻をくわえて火をつける。
独特な匂いのする煙を吸い込み、ゆっくりと吐き出す。
手元の資料を見ると興味深いことが書いてあった。
・隊長の娘にして副隊長のアルド・リースは魔界への派遣任務中に消息不明となり、当時の第一席により殉職扱いの判断が下された
アルド・リースと言えば幼少の頃から異様な法力の強さで聖女の噂があった女だ。
武家とはいえ平民から聖女が出てくるのはありえないとして認められず、その強さを利用する方向で特務部隊に配置されたと聞いたが殉職していたのか……。
・五年後、アルド・ヴォルグも魔界への派遣任務中に消息を断ち殉職扱い
・その直後に起きた人魔大戦においてアルド・カガリは最前線諸国で獅子奮迅の活躍を見せ、魔族の撃退と聖王国の地位向上に大きく貢献した
・その功績を鑑みた聖王によって枢機卿第八席の座を与えられる
・貴族や王族以外からの枢機卿就任は聖王国史上初…………
平民の殉職者などに興味が無かったため記憶の外だったが、特務部隊の隊長と娘が共に魔界で失踪……?
"派遣"の言葉を使ってはいるが、実態は間諜と工作の任務だろう。
魔族が強くなれば人界全体の脅威となる。
(……そう言えば人魔大戦の直前、"魔王"が二人という異常事態が報告されたと当時の上層部内で騒がれていたはずだ)
セトの脳内で点の一つ一つに薄いながらも線が繋がっていく。
が、あまりにも荒唐無稽な推理に自身で馬鹿馬鹿しくなり考えを霧散させた。
(実は聖女だったアルド・リースが魔族と繋がり、聖王国に反旗を翻して人魔大戦を起こしたなど……与太話にもほどがある)
灰皿を指先で軽く叩いて小さな灰の山を崩し、また新しい葉巻に火をつける。
暇な職務時間の息抜きにはちょうど良かったが、一通り考えて飽きたセトの胸中は再び退屈と煙で満たされていた。
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