51 / 70
アルド・カガリ
プロポーズ
しおりを挟む
「ねえねえ!」
競走だと言い出したはずのスルファンは何故かわざわざボクの隣に並んで声を掛ける。
「どうしました?」
「もっと速く走れるよね?遠慮しなくて良いんだよ?」
手を抜いているのを見抜いたのか、或いは単純に勘で言っているのか。
円卓での淑女然とした姿は偽装?
「……わかりました」
どちらにせよ少し速度を上げた方が賢明だろう。
「お!そうこなくっちゃ!」
期待に応えられたのかは分からないが、スルファンはまたボクと並んで走り始める。
「カガリくんってリースの弟子だよね?」
「……はい」
アルド・リース。孤児だったボクを拾って育ててくれた親のような存在であり、聖法や戦闘技術の師匠でもある。
「師匠のことを知ってるんですか?」
何を考えているのか読めないのなら世間話でもして余計な詮索を躱そう。
「もちろん!貴族じゃなかったから枢機卿にはなれなかったけど、父娘そろって特務部隊で活躍してたの、実は密かに憧れてたんだぁ」
"特務部隊"という言葉を聞いてボクの胸がキュッとなる。
「小さな町を飲み込んで繁殖し続ける魔獣を根絶やしにした話とか有名よね~」
なんだこの女……。一体、何を知っている?
「今はボクが師匠の家を継いで枢機卿になりました。もう貴族でなければ枢機卿になれないのは過去の話です」
あの戦争での働きが無ければ、他の枢機卿達も……聖王ですらも考えを改めようとしなかっただろう。
それほど、聖王国の上層部は貴族や王族といった出自ばかりを重んじる人間達だった。
「そうね。でも、法力の強い相手同士で結婚してきた貴族が上に行きやすいのは当たり前っちゃ当たり前よね」
「そうですね」
スルファンはカイモンとは違う種類の人間と思っていたけど、やっぱり貴族はそんな考え方になるんだ。
「そこでなんだけどさ……。カガリくん」
「アタシと結婚しない?」
「は?」
突然の告白に不意をつかれ、つい立ち止まってしまった。
「な、なんの冗談ですか?」
「ん~、冗談とかじゃなくてね?」
ボクが止まった場所にスルファンが歩いてくる。
「カガリくんって良い"恩恵"を貰ってるよね?戦争の時からずっと見た目が変わらないし、たぶん"不老"とかかな?」
"生き返りの恩恵"の内容を見抜かれている。
「人が使える法力の上限は大人になるまで成長し続ける……私の言いたいことはわかるよね??」
「……はい」
常識だ。身体が成長期を迎える歳の頃が最も法力の容量が増えるから、聖王国では子供の頃から洗礼を受けさせて強い聖法使いを育てる。
「そしてカガリくんは恩恵のおかげで今も法力が成長し続けている……」
状況証拠からの推理。
いつから観察されていたのか分からず、指摘が当たっている以上不自然な否定はできない。
「アタシと結婚して正式に貴族になれたら、カガリくんも今の八席より上になれるよ?」
たしかにスルファンは上級貴族では無いが立派な貴族だ。
貴族でないボクと違って、スルファンは自分より格上の貴族より高い第二席の地位を得ている。
そのことからも分かるとおり、未だに貴族であることは本人の実力よりも重要視されているのだ。
だが。
「身に余る申し出ですが……ボクには心に決めた相手がいますのでお断りさせていただきます」
ここでボクが誰かと結ばれて幸せになるなんてありえない。
あの日からボクが目指したものはそんな簡単なた幸せなんかじゃないんだ。
「そっかぁ。残念……」
言葉とは裏腹に、断られることが分かっていたような余裕の微笑みを浮かべている。
「その相手ってリースでしょ?」
何故この人はその答えにたどり着けるのだろう?
そのことは誰にも話していないのに。
「どうしてそう思うんですか?」
「だって、アタシに勝てる女なんてリースだけだったもん」
理由としてはひどく個人的で理不尽なものだった。
「あ~。死んでてもそれだけ想われるなんて幸せ者よねぇ」
ため息をつくスルファン。師匠とはどんな関係だったんだろう?
「ちょっと時間とっちゃったね。この話は二人だけの秘密だからね~」
そう言うと、スルファンはまた走り出した。
走り出す前に見えたスルファンの目尻には、気のせいか涙が見えた気がした。
競走だと言い出したはずのスルファンは何故かわざわざボクの隣に並んで声を掛ける。
「どうしました?」
「もっと速く走れるよね?遠慮しなくて良いんだよ?」
手を抜いているのを見抜いたのか、或いは単純に勘で言っているのか。
円卓での淑女然とした姿は偽装?
「……わかりました」
どちらにせよ少し速度を上げた方が賢明だろう。
「お!そうこなくっちゃ!」
期待に応えられたのかは分からないが、スルファンはまたボクと並んで走り始める。
「カガリくんってリースの弟子だよね?」
「……はい」
アルド・リース。孤児だったボクを拾って育ててくれた親のような存在であり、聖法や戦闘技術の師匠でもある。
「師匠のことを知ってるんですか?」
何を考えているのか読めないのなら世間話でもして余計な詮索を躱そう。
「もちろん!貴族じゃなかったから枢機卿にはなれなかったけど、父娘そろって特務部隊で活躍してたの、実は密かに憧れてたんだぁ」
"特務部隊"という言葉を聞いてボクの胸がキュッとなる。
「小さな町を飲み込んで繁殖し続ける魔獣を根絶やしにした話とか有名よね~」
なんだこの女……。一体、何を知っている?
「今はボクが師匠の家を継いで枢機卿になりました。もう貴族でなければ枢機卿になれないのは過去の話です」
あの戦争での働きが無ければ、他の枢機卿達も……聖王ですらも考えを改めようとしなかっただろう。
それほど、聖王国の上層部は貴族や王族といった出自ばかりを重んじる人間達だった。
「そうね。でも、法力の強い相手同士で結婚してきた貴族が上に行きやすいのは当たり前っちゃ当たり前よね」
「そうですね」
スルファンはカイモンとは違う種類の人間と思っていたけど、やっぱり貴族はそんな考え方になるんだ。
「そこでなんだけどさ……。カガリくん」
「アタシと結婚しない?」
「は?」
突然の告白に不意をつかれ、つい立ち止まってしまった。
「な、なんの冗談ですか?」
「ん~、冗談とかじゃなくてね?」
ボクが止まった場所にスルファンが歩いてくる。
「カガリくんって良い"恩恵"を貰ってるよね?戦争の時からずっと見た目が変わらないし、たぶん"不老"とかかな?」
"生き返りの恩恵"の内容を見抜かれている。
「人が使える法力の上限は大人になるまで成長し続ける……私の言いたいことはわかるよね??」
「……はい」
常識だ。身体が成長期を迎える歳の頃が最も法力の容量が増えるから、聖王国では子供の頃から洗礼を受けさせて強い聖法使いを育てる。
「そしてカガリくんは恩恵のおかげで今も法力が成長し続けている……」
状況証拠からの推理。
いつから観察されていたのか分からず、指摘が当たっている以上不自然な否定はできない。
「アタシと結婚して正式に貴族になれたら、カガリくんも今の八席より上になれるよ?」
たしかにスルファンは上級貴族では無いが立派な貴族だ。
貴族でないボクと違って、スルファンは自分より格上の貴族より高い第二席の地位を得ている。
そのことからも分かるとおり、未だに貴族であることは本人の実力よりも重要視されているのだ。
だが。
「身に余る申し出ですが……ボクには心に決めた相手がいますのでお断りさせていただきます」
ここでボクが誰かと結ばれて幸せになるなんてありえない。
あの日からボクが目指したものはそんな簡単なた幸せなんかじゃないんだ。
「そっかぁ。残念……」
言葉とは裏腹に、断られることが分かっていたような余裕の微笑みを浮かべている。
「その相手ってリースでしょ?」
何故この人はその答えにたどり着けるのだろう?
そのことは誰にも話していないのに。
「どうしてそう思うんですか?」
「だって、アタシに勝てる女なんてリースだけだったもん」
理由としてはひどく個人的で理不尽なものだった。
「あ~。死んでてもそれだけ想われるなんて幸せ者よねぇ」
ため息をつくスルファン。師匠とはどんな関係だったんだろう?
「ちょっと時間とっちゃったね。この話は二人だけの秘密だからね~」
そう言うと、スルファンはまた走り出した。
走り出す前に見えたスルファンの目尻には、気のせいか涙が見えた気がした。
0
お気に入りに追加
78
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
わがまま姉のせいで8歳で大聖女になってしまいました
ぺきぺき
ファンタジー
ルロワ公爵家の三女として生まれたクリスローズは聖女の素質を持ち、6歳で教会で聖女の修行を始めた。幼いながらも修行に励み、周りに応援されながら頑張っていたある日突然、大聖女をしていた10歳上の姉が『妊娠したから大聖女をやめて結婚するわ』と宣言した。
大聖女資格があったのは、その時まだ8歳だったクリスローズだけで…。
ー---
全5章、最終話まで執筆済み。
第1章 6歳の聖女
第2章 8歳の大聖女
第3章 12歳の公爵令嬢
第4章 15歳の辺境聖女
第5章 17歳の愛し子
権力のあるわがまま女に振り回されながらも健気にがんばる女の子の話を書いた…はず。
おまけの後日談投稿します(6/26)。
番外編投稿します(12/30-1/1)。
作者の別作品『人たらしヒロインは無自覚で魔法学園を改革しています』の隣の国の昔のお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる