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冒険の準備
決着
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灯花の一撃を脳天に受け、影が前のめりに倒れる。
「制……裁……」
まだ戦う意思があるのか、グググと少しずつ腕が持ち上がる。
————しかし。
「…………」
そこまでで力尽きたらしく、腕はまっすぐ地面へと落ちていった。
「つんつん」
灯花が大剣で頭をつつく。
「ふぅ……」
気が抜けた僕はその場にしゃがむ。
「やっと終わった……」
いきなり始まった戦闘と血生臭い修羅場に気力をごっそりと持っていかれた。
血……。
「そうだ、カガリ!騎士さんの怪我を!」
僕が言うまでもなく、カガリは怪物に投げられた騎士の治療をしていた。
「……助かりそう?」
あの大きな爪が身体を貫通していたのを僕は見た。普通なら助かりっこないような大怪我だったのは僕でも分かる。
「びっくりだよ……。この人、筋肉で血が外に出るのを止めてる……」
「つまり?」
「ボクの聖法も間に合ったし助かるよ!それにしても、速身の聖法の身体強化作用にこんな使い道が……」
治療をしながらカガリはブツブツと呟いている。
誰も死なずに済んで良かった。
「灯花もおつかれさま。おかげでみんな助かった」
「ふっふっふっ……。これまでで一番の強敵でござったが、まぁ拙者が本気を出せばこんなものでござるな!」
調子に乗った灯花は大剣を振り上げたままポージングをキメる。
「ぶふっ!こんな時に笑わすなよ!」
命の危機が去った安堵感で灯花のバカみたいなおふざけにも笑いが出てしまった。
「いやぁ、この世界に来てユウ氏が初めて笑ったような気がするでござるな」
そうだったかな……。言われてみれば、知らない世界にいきなり連れてこられて、精神の糸がずっと張りつめていたような気がする。
「なんにせよ、これにて一件落着ぅ~!でござる!」
灯花が大剣を肩に乗せて歌舞伎役者のようなポーズをとる。
「ははは……」
そのとき。
「ん?」
灯花の背後。怪物の死体の方へと小さな砂粒……というか土が集まって、何かが形作られているのに気付いた。
土は氷柱のように鋭い円柱となり、それが敵の攻撃だと分かった時に僕は叫んでいた。
「灯花っ!!!」
僕の視線だけで何が起きているのか察した灯花は振り返りざまに大剣を薙いだ。
ガィンッ!
鈍い音を立てて土の槍は弾き飛ばされる。
「まだ生きていたでござるか!」
すぐに構え直した灯花はトドメをさす為に大剣を振り下ろした。
グシャリという音と共に、怪物の頭は地面に落としたスイカのように潰れた。
「やはり残心を忘れてはダメでござるな」
怪物の着けていたボロ切れや爪がボロボロと朽ちていくのを見て、今度こそ倒したんだと確信した。
ふぅ、と額を親指で拭ってため息をつく灯花。
パキパキパキ
大剣が叩き込まれた地面を中心に一瞬でヒビが広がり……。
ボゴン
「え”っ?」
地面にぽっかりと空いた大きな空洞に……灯花が落ちていった。
「マジでござるかあああぁぁぁぁ!?」
「灯花!?」
慌てて空洞を上から覗いたが下の方は暗く、灯花の姿は見えなかった。
「危ない!」
グイッと体を引っ張られたかと思うと、僕はそのまま後ろの地面に転がされる。
起き上がると、僕がしゃがんでいた場所の地面が崩れていくのが見えた。
「一度落ち着いて!身体強化は切れてないから、こんな穴に落ちたぐらいだったら心配いらないよ」
たしかに、あんな怪物を倒せるくらいの聖法をかけたままの灯花なら大丈夫だとは思う……。
でも、いきなり深い穴に落ちていく灯花を見て慌てないなんて僕には無理だ。
それにポツポツと雨も降ってきている。
濡れて崩れる土の壁を登るのもきっと大変なはずだ。
「ユウ氏~!カガリ氏~!」
穴の方から灯花の声が聞こえる。
「灯花!そっちは無事か!?」
「心配ないでござるよ~!しばらく自力で登るので、ロープかなにかを用意して欲しいでござる!」
自力で登れる程度には問題ないみたいで僕は安心した。
「エルさんの治療がまだだから、それが終わったらすぐに助けよう!」
カガリが短剣で鎧の留め具を切って服を露出させる。
負傷した腹部周辺の布を切り裂いて治療を施すのを見て、女の人の肌を無闇に見ないよう僕は目を逸らした。
そこで僕はまた奇妙な感覚に襲われる。
「誰かに見られてる……?」
周囲を見回す。
治療中のカガリと僕達の馬車、少し向こうにある繋がれた馬に手綱付きの馬の頭と怪物の残骸。
特に怪しいものは見当たらない。
……何か忘れていないか?
戦いが始まってからのことを順に思い出す。
飛んできた馬の頭、現れた敵、騎士さんが斬り掛かり敵が三体に増え、一体を倒して三対二で有利だと思ったのもつかの間、仲間の何かを取り込んだ怪物が騎士を倒して……。
「騎士さんが斬った敵の死体は?」
バッとカガリの方を見ると、赤黒く明滅する槍を構えた影がカガリの背後に忍び寄っていた。
「貴様ダケハ必ズ殺ス!」
敵に気付いたカガリが振り向くより速く槍が突き出された。
「邪魔ヲ……!」
槍は……カガリの前に飛び出た僕の胸を……貫いてい……た…………。
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