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第二章 岩山の試練
第四十五話 焦眉の急
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とにかく急いで戻ったエタとシャルラが向かったのは元トラゾスの居留地にあるかまどだ。
当初小さなかまどが一つあるだけだったのだが、トラゾスに加入する人々が増えるにつれ、食事を大量に用意する必要に迫られたため、かなり大型のかまどを建造することにしたのだ。
まだ放棄されて数日しかたっておらず、高山の空気に慣れる間に若干補修を加え、エタの計画を実行できる施設に変貌した。
その計画とはもちろん、『石膏』を完全に倒すための計画である。
「エタ! 炭の配置はこれでいいわね!?」
「うん! こっちも追加用の薪はそろえた! そろそろ火をおこそう!」
ちなみに、第三者がこれを見た感想は。
「なあ。今から宴会でも始めんのか?」
リリーの言葉の通りだろう。
誰がどう見ても恐るべき石の戦士を葬るための計略には見えない。
「ごめん、今はしゃべってる暇がない。どこかで休んでて」
だがエタもシャルラも遊んでいる表情ではなく、真剣そのものだ。
「なんだよ。人のこと邪険にしやがってさあ」
ぶつぶつと不満を漏らしながら、かつて知ったる居留地の地面に寝転がった。
そうこうしているうちに『石膏』の核を持ったターハたちが到着した。
ちなみに一番息が上がっていたのがラバサルで、その次がターハ。殿を務めていたミミエルはほとんど息を乱していない。
「……年は取りたくねえな」
ぽつりとつぶやいたラバサルの言葉は誰もが聴かなかったことにした。
「もう火の準備はできてるわね!?」
「うん!」
大きなかまどの上部にはこちらもまた巨大な石網を設置している。かまどの内部には大量の炭が規則正しく配置されている。
それだけではなくかまど近くにはこれでもかとばかりに薪が置かれていた。
「おっしゃあ! それじゃ行くよ!」
「火傷しないようにしてくださいね!」
ターハが慎重に、かつ素早く石網の上に『石膏』の核を乗せる。
エタがそこに炭や薪を追加し、さらに火力を上げる。
「何これ? 汗? みたいなものが噴き出てるわよ?」
『石膏』の核から確かに水がしとどに流れ落ちる。
「普通の石膏ならこんなことになりませんけど、やっぱり普通の石ではないみたいです。でも、このまま続ければいいはずです」
「頼りないわねえ。でもやるしかないか」
ミミエルが取っ手のようなものがついた箱、ふいごを持って来た。
そこでなんとなくリリーもシュメールがやりたいことがわかってきた。
「あんたら、鍛造をやりたいのか?」
リリーは聞いたことしかないが、金属を加工するために火とかまどが必要らしい。
大量の木材や炭は火力を上げるためのものだと想像できたし、もともとのかまどを改造したのも火力を上げやすくするためだろう。
ただし、加工するのは金属ではなく、石膏らしい。
「大体そうだよ。本とは鍛冶ギルドから人員を借りられたらよかったんだけどね」
「無理なのかよ」
「迷宮の近くで鍛冶したい人なんていないよ」
リリーはそれだけではなく、こいつらの資金力と立場が弱いせいだろうなと推測したが、口には出さなかった。
「うおう!? エタ! 石網が溶けたぞ!?」
「え!? 火力が強すぎた!? もうしょうがありません! このまま燃やしましょう」
「薪、追加するわよ!」
がやがやと賑やかに、しかし真剣に作業する様子を見てリリーは一言。
「これが迷宮攻略なのか……?」
リリーは通常のウルクをはじめとする都市国家の市民とは異なる価値観を備えてはいるが、迷宮の攻略は危険と隣り合わせで、だからこそ胸が弾むものだと聞いていた。
しかし目の前で繰り広げられているのは悪戦苦闘しながら白い石をひたすら加熱する催し。しかも当人たちの表情は真剣そのものだ。
儀式か何かだと勘違いするのが普通だろう。
リリーはいつまでも首をひねり続けていた。
当初小さなかまどが一つあるだけだったのだが、トラゾスに加入する人々が増えるにつれ、食事を大量に用意する必要に迫られたため、かなり大型のかまどを建造することにしたのだ。
まだ放棄されて数日しかたっておらず、高山の空気に慣れる間に若干補修を加え、エタの計画を実行できる施設に変貌した。
その計画とはもちろん、『石膏』を完全に倒すための計画である。
「エタ! 炭の配置はこれでいいわね!?」
「うん! こっちも追加用の薪はそろえた! そろそろ火をおこそう!」
ちなみに、第三者がこれを見た感想は。
「なあ。今から宴会でも始めんのか?」
リリーの言葉の通りだろう。
誰がどう見ても恐るべき石の戦士を葬るための計略には見えない。
「ごめん、今はしゃべってる暇がない。どこかで休んでて」
だがエタもシャルラも遊んでいる表情ではなく、真剣そのものだ。
「なんだよ。人のこと邪険にしやがってさあ」
ぶつぶつと不満を漏らしながら、かつて知ったる居留地の地面に寝転がった。
そうこうしているうちに『石膏』の核を持ったターハたちが到着した。
ちなみに一番息が上がっていたのがラバサルで、その次がターハ。殿を務めていたミミエルはほとんど息を乱していない。
「……年は取りたくねえな」
ぽつりとつぶやいたラバサルの言葉は誰もが聴かなかったことにした。
「もう火の準備はできてるわね!?」
「うん!」
大きなかまどの上部にはこちらもまた巨大な石網を設置している。かまどの内部には大量の炭が規則正しく配置されている。
それだけではなくかまど近くにはこれでもかとばかりに薪が置かれていた。
「おっしゃあ! それじゃ行くよ!」
「火傷しないようにしてくださいね!」
ターハが慎重に、かつ素早く石網の上に『石膏』の核を乗せる。
エタがそこに炭や薪を追加し、さらに火力を上げる。
「何これ? 汗? みたいなものが噴き出てるわよ?」
『石膏』の核から確かに水がしとどに流れ落ちる。
「普通の石膏ならこんなことになりませんけど、やっぱり普通の石ではないみたいです。でも、このまま続ければいいはずです」
「頼りないわねえ。でもやるしかないか」
ミミエルが取っ手のようなものがついた箱、ふいごを持って来た。
そこでなんとなくリリーもシュメールがやりたいことがわかってきた。
「あんたら、鍛造をやりたいのか?」
リリーは聞いたことしかないが、金属を加工するために火とかまどが必要らしい。
大量の木材や炭は火力を上げるためのものだと想像できたし、もともとのかまどを改造したのも火力を上げやすくするためだろう。
ただし、加工するのは金属ではなく、石膏らしい。
「大体そうだよ。本とは鍛冶ギルドから人員を借りられたらよかったんだけどね」
「無理なのかよ」
「迷宮の近くで鍛冶したい人なんていないよ」
リリーはそれだけではなく、こいつらの資金力と立場が弱いせいだろうなと推測したが、口には出さなかった。
「うおう!? エタ! 石網が溶けたぞ!?」
「え!? 火力が強すぎた!? もうしょうがありません! このまま燃やしましょう」
「薪、追加するわよ!」
がやがやと賑やかに、しかし真剣に作業する様子を見てリリーは一言。
「これが迷宮攻略なのか……?」
リリーは通常のウルクをはじめとする都市国家の市民とは異なる価値観を備えてはいるが、迷宮の攻略は危険と隣り合わせで、だからこそ胸が弾むものだと聞いていた。
しかし目の前で繰り広げられているのは悪戦苦闘しながら白い石をひたすら加熱する催し。しかも当人たちの表情は真剣そのものだ。
儀式か何かだと勘違いするのが普通だろう。
リリーはいつまでも首をひねり続けていた。
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