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第五章
336 導師殺し
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声を荒げるリザードマンは興奮冷めやらぬという様子でまくしたてる。
「あなた方は恥ずかしくないのですか!? 降伏など! 祖先に顔向けできるのですか!?」
その言葉におびえたように武器を手に取る兵士が現れ始める。ちっまずいな。宗教的狂気は時として論理や道理を破壊する。どうやらこいつが最期の障害らしい。
「ところでお前は誰だ?」
「私は導師。"教え”を忠実に守る者」
威張るように声を張り上げる。偉くない奴に限って自分を大きく見せたがるらしい。そうだな。よし。
こいつにしよう。
「そこの導師さん。お前は最期まで戦うつもりか?」
「その通りです。我々はあなた方に負けはしない」
「そいつは結構。なら一つ勝負をしよう。ああ、別に一騎打ちでもするわけじゃないぞ? どちらが奇跡を起こせるか。勝負の内容はそれだ。その勝負の決着がつくまではお互いに攻撃しない。何だったら食料を分けてやってもいい。なあに、お前が本当に信心深いなら負けるはずはないさ」
オレの挑発的な物言いが気に食わないのか、導師は高圧的な態度をかたくなにする。
「よかろう。その勝負の内容を言ってみろ」
「お前たちの中に病気で倒れている奴がいるだろう。そいつを治せるかどうかだ。お互いに病人を半分に分けてどちらがより多くの兵士を救えるか。まさか逃げたりしないよな?」
「私の祖先への敬意が届けば病などたちどころに治る。心して待つがよい」
――――は。
ペストが蔓延した時、どこぞの宗教家たちもそんなことを言ったのかね。結果など見え切っているけれど、ここでどれだけ救えるかが後々の評価を決定してしまう。素早く、確実に治療し、看護しなければ。
「将軍。病人をよこしてくれ。何だったらこの戦いで負傷した奴もこっちに寄こしてくれて構わない」
「は?」
「は? じゃない。さっさと傷病人をもってこい。できるだけ治してやる」
「い、いや、我々は敵同士だぞ……」
「休戦中だ。他に質問は?」
「…………」
絶句していた将軍は絞り出すように口にした。
「私の部下を、お救いください」
ヒトモドキ辺りと比べると随分素直だな。ま、自分の部下を救われて嫌な気分がする奴なんて……けっこういそうだな。部下を管理しておきたいパワハラ上司とか。
それはともかくここで一人でも多くのリザードマンを助ければ好感度が上がるのは間違いない。これが人心掌握術というやつだろうか。
「翼。医療部隊の指揮は任せる」
「は」
「茜。食料を配給してくれ。おかゆみたいにきっちり煮込んだ料理を作ってくれ。弱っている奴には柔らかいものの方が食べやすい」
「お任せください!」
「千尋は糸で重病人を運んだりしてくれ」
「うむ」
「スカラベ。ストマイは?」
「もうすぐつくべ」
リザードマンの間でペストは絶賛流行中。予想以上に感染が広まったので追加の抗生物質ストレプトマイシンが必要なほどだ。
それさえあれば後はきちんとした食事と清潔な環境を整えればペストなんか勝手に治まる。
さあ、導師のほえ面が楽しみだ。
数日後。そこには喚き散らす導師の姿が!
「“教え”は正しいのだ! 奴らが何か卑劣な手を用いたに違いない!」
はい大正解。
ペストをばら撒いたのはオレたちでーす。
そんでもってペストを治療したのもオレたちでーす! これぞ、ザ・マッチポンプ! きれいに決まったな!
オレたちが治療して、みるみる回復した兵士と比べて導師が治療、もとい、ただ説法を聞かせていただけの拷問を受けた兵士はばたばたと死んでいった。
この状況を見てまだ導師についていこうとする奴はカルト宗教にどっぷりつかっているに違いない。
将軍は縄を巻き付けた導師をオレに引き渡した。
「お前たちで裁かないのか?」
「いいえ。我々には導師を裁く権限を持ち合わせません」
ふうん? 宗教的な理由かな? それとも政治?
まあオレには関係のないことだ。
「今に見ておれ貴様ら! 我らの”教え“は正しいのだ」
「んー、もしかしたらそうかもね」
「な、何!?」
「もしも、仮に、その教えとやらが正しかったとしよう。ならどうしてお前が看護した奴は死んだんだ?」
「そ、それは……」
「答えは簡単だ。教えは正しい。でも、教えを教えていた奴は正しくない。そうだよな?」
「そ、そのようなこと……しょ、将軍、何か言ってくれ」
「……」
将軍は何も話さない。こいつにはさっき話を通した。戦いに負けたのだから誰かが責任を取る必要がある。最初は将軍に責任を取らせるつもりだったけど、その必要もなくなった。
生贄としてもっと手ごろで使い捨てても惜しくない奴がいるからな。いやいやオレも腹黒くなったもんだ。
ちなみにこの作戦はマーモットの神官長、ティウからの助言を受けている。あいつ、地味にオレにとっての参謀ポジションを狙ってないか? アンティ同盟としてはオレらにも影響力を持っておきたいのかもしれないけどな。
「それじゃあグッバイ導師。全部お前が悪い」
「ま、」
赤い花がまた一つ。今回の戦い最後の流血はここで幕を閉じた。
「あなた方は恥ずかしくないのですか!? 降伏など! 祖先に顔向けできるのですか!?」
その言葉におびえたように武器を手に取る兵士が現れ始める。ちっまずいな。宗教的狂気は時として論理や道理を破壊する。どうやらこいつが最期の障害らしい。
「ところでお前は誰だ?」
「私は導師。"教え”を忠実に守る者」
威張るように声を張り上げる。偉くない奴に限って自分を大きく見せたがるらしい。そうだな。よし。
こいつにしよう。
「そこの導師さん。お前は最期まで戦うつもりか?」
「その通りです。我々はあなた方に負けはしない」
「そいつは結構。なら一つ勝負をしよう。ああ、別に一騎打ちでもするわけじゃないぞ? どちらが奇跡を起こせるか。勝負の内容はそれだ。その勝負の決着がつくまではお互いに攻撃しない。何だったら食料を分けてやってもいい。なあに、お前が本当に信心深いなら負けるはずはないさ」
オレの挑発的な物言いが気に食わないのか、導師は高圧的な態度をかたくなにする。
「よかろう。その勝負の内容を言ってみろ」
「お前たちの中に病気で倒れている奴がいるだろう。そいつを治せるかどうかだ。お互いに病人を半分に分けてどちらがより多くの兵士を救えるか。まさか逃げたりしないよな?」
「私の祖先への敬意が届けば病などたちどころに治る。心して待つがよい」
――――は。
ペストが蔓延した時、どこぞの宗教家たちもそんなことを言ったのかね。結果など見え切っているけれど、ここでどれだけ救えるかが後々の評価を決定してしまう。素早く、確実に治療し、看護しなければ。
「将軍。病人をよこしてくれ。何だったらこの戦いで負傷した奴もこっちに寄こしてくれて構わない」
「は?」
「は? じゃない。さっさと傷病人をもってこい。できるだけ治してやる」
「い、いや、我々は敵同士だぞ……」
「休戦中だ。他に質問は?」
「…………」
絶句していた将軍は絞り出すように口にした。
「私の部下を、お救いください」
ヒトモドキ辺りと比べると随分素直だな。ま、自分の部下を救われて嫌な気分がする奴なんて……けっこういそうだな。部下を管理しておきたいパワハラ上司とか。
それはともかくここで一人でも多くのリザードマンを助ければ好感度が上がるのは間違いない。これが人心掌握術というやつだろうか。
「翼。医療部隊の指揮は任せる」
「は」
「茜。食料を配給してくれ。おかゆみたいにきっちり煮込んだ料理を作ってくれ。弱っている奴には柔らかいものの方が食べやすい」
「お任せください!」
「千尋は糸で重病人を運んだりしてくれ」
「うむ」
「スカラベ。ストマイは?」
「もうすぐつくべ」
リザードマンの間でペストは絶賛流行中。予想以上に感染が広まったので追加の抗生物質ストレプトマイシンが必要なほどだ。
それさえあれば後はきちんとした食事と清潔な環境を整えればペストなんか勝手に治まる。
さあ、導師のほえ面が楽しみだ。
数日後。そこには喚き散らす導師の姿が!
「“教え”は正しいのだ! 奴らが何か卑劣な手を用いたに違いない!」
はい大正解。
ペストをばら撒いたのはオレたちでーす。
そんでもってペストを治療したのもオレたちでーす! これぞ、ザ・マッチポンプ! きれいに決まったな!
オレたちが治療して、みるみる回復した兵士と比べて導師が治療、もとい、ただ説法を聞かせていただけの拷問を受けた兵士はばたばたと死んでいった。
この状況を見てまだ導師についていこうとする奴はカルト宗教にどっぷりつかっているに違いない。
将軍は縄を巻き付けた導師をオレに引き渡した。
「お前たちで裁かないのか?」
「いいえ。我々には導師を裁く権限を持ち合わせません」
ふうん? 宗教的な理由かな? それとも政治?
まあオレには関係のないことだ。
「今に見ておれ貴様ら! 我らの”教え“は正しいのだ」
「んー、もしかしたらそうかもね」
「な、何!?」
「もしも、仮に、その教えとやらが正しかったとしよう。ならどうしてお前が看護した奴は死んだんだ?」
「そ、それは……」
「答えは簡単だ。教えは正しい。でも、教えを教えていた奴は正しくない。そうだよな?」
「そ、そのようなこと……しょ、将軍、何か言ってくれ」
「……」
将軍は何も話さない。こいつにはさっき話を通した。戦いに負けたのだから誰かが責任を取る必要がある。最初は将軍に責任を取らせるつもりだったけど、その必要もなくなった。
生贄としてもっと手ごろで使い捨てても惜しくない奴がいるからな。いやいやオレも腹黒くなったもんだ。
ちなみにこの作戦はマーモットの神官長、ティウからの助言を受けている。あいつ、地味にオレにとっての参謀ポジションを狙ってないか? アンティ同盟としてはオレらにも影響力を持っておきたいのかもしれないけどな。
「それじゃあグッバイ導師。全部お前が悪い」
「ま、」
赤い花がまた一つ。今回の戦い最後の流血はここで幕を閉じた。
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