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秋葉夕雲

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第四章

308 また会う日まで

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「よっしゃあああ!」
 思わず快哉を叫びながらのガッツポーズを決める。
 銀髪の一行が高原から完全な離脱を確認した。一時は偽装じゃないかと気をもんでいたけど、これだけ高原から離れればもはや帰っては来れない。
 最大の脅威だった銀髪がいなくなった今戦力が半減した遊牧民などおそるるに足らなない。アンティ同盟だけでも楽に対処できるはずだ。遊牧民の指揮官が賢明ならアンティ同盟が動くよりも先に高原から完全に撤退することも視野に入れるだろうけど……さてどうなるかな。
 どっちにせよオレは鵺に集中できる。でもその前にマーモット、ひいてはティウと話しておかないと。

 テレパシーを使って連絡を取るとすぐにティウが応答した。奴らも銀髪がいなくなるのを手ぐすね引いて待っていたらしい。
「どうやらやりましたな」
「みたいだな。これでだいぶ楽になる。バッタはどうなった?」
「大部分が駆逐できました。十日あれば掃討作業も完了するでしょう」
 これでもう高原の危機は完全になくなることになる。
「こっちも鵺、オレたちを襲っている魔物と決着をつけられるはずだ。遊牧民はどうする?」
「奴らがこのまま高原ロバイに留まるなら攻撃します。そうでないなら深追いできないでしょう」
 一気に状況が好転してきたな。やっぱり銀髪がいないと捗る捗る。
 だから、次の話ができる。

「銀髪が戻ってくるのはどんなに早くても二か月後。少しでもスーサンで手間取ればそのまま冬眠。十中八九銀髪は来年まで戻ってこない」
「その間に何か仕掛けると?」
 話が早くて助かるよ。
「もちろんだ」
「具体的な策を教えていただけるのですか?」
「そうじゃなきゃこんな連絡しないよ。まずこれを見てくれ」
 テレパシーを使った感覚共有だ。テレパシー能力が高い魔物同士だとこれができるから便利。

 遠く、高原の端っこにある荒野。その一角に置かれている大岩に焦点を当てる。比較対象として働き蟻を置いていた。数メートルはあるとわかるだろう。
「この岩がどうかしましたか?」
「よく見てろよ」
 働き蟻を避難させてからダイナマイトを点火させる。轟音と噴煙が撒き散らかされ、大小さまざまな岩の破片が大地に爪痕を残す。……ちなみに見ていた働き蟻の横を割とでかめの破片が通り過ぎていった。
「どうだ見事なもんだろう?」
(やっべえええ! 威力強すぎたあああ! こんなことで味方を殺したら馬鹿すぎるぞ!?)
 内心では冷汗をだらだら流しながら、表面上はクールに絶句しているティウに話しかける。
「こ、これは一体……?」
「爆弾。対強敵用の秘密兵器かな」
「確かに……これなら……」
 大岩が木っ端みじんになる光景はティウに予想以上の衝撃を与えたらしく、言葉を失っている。
「まだ大量生産はできないけど、徐々にこれの生産量は増えてる」
「これを大量に作るつもりですか!?」
「でないと勝てないだろ」
 いやまあ作れても勝てるかどうかは正直五分五分くらいだと思ってるけどな。

 ダイナマイトの生産に必要な硫酸と硝酸はオレたちなりの方法で生産ラインが整い始めている。
 接触法やオストワルト法などの化学的手法ではなく、だいたい硝酸菌や硫黄細菌を経由してから、さらに魔法によって化学反応を促進して目的の物質を手に入れるっていう方法だ。
 大量生産には向いてないけど、人件費以外のコストはそれほど多くない。この手の工業的生産とは違って何かを燃やしたりすることもあんまりないし。
 時間さえあればきっと大量の硝酸や硫酸ができる。硫黄はどんどん採掘できているからどちらかというと硝酸が足りなくなってる。何とかしてアンモニアの生産ができればもっと硝酸が……。
「どうかなさいましたか?」
「ん、ああすまん。ちょっと自分の世界に浸ってた」
 いかんいかん。会話中に物思いにふけるのは失礼だ。
「つまりこれらの兵器を使って銀髪を追い込むのが貴方の作戦なのですか?」
「そういうこと。ただもうちょっと時間が必要だし、あの銀髪が相手だとこれでも十分かどうかはわからない」
「腹案があると?」
「そ。もうここまで来たらいっそのこと同盟を作ろうかと思ってな」
「同盟? 何の?」
「対銀髪同盟。銀髪に殺された連中、恨みのある奴ら、そいつらを全部集めて、ヒトモドキの国、クワイにぶつける」
 恨みと憎しみ。
 知性体ならばこそ持つ感情。あのカンガルーの嬰児を見て、それは間違いなく普遍的な感情だと確信した。いくらでも奴は恨みを買っている。それを丸ごとぶつけたい。
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