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秋葉夕雲

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第四章

244 サルファーロード

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 さてこの高原に進出した当初の目的である硫黄を算出する可能性が高い火山への道はどうなったのか。もちろんつつがなく完成した。というかわざわざ作る必要なんかなかった。だってほとんどまっ平だもん。整備しなくても普通に走ればそれでいい。看板というか標識はどうしても必要だけどな。
 輸送経路は二つ。
 カッコウによる空輸。スカラベによる虫車。主には虫車が輸送手段だ。カッコウは重いものを持ちながら飛ぶのが苦手だしね。
 ひとまず試作機の虫車が火山に向かっている。

「とはいえやっぱり完全に道が整ってるわけでもないよなあ」
 目の前にあるのは針葉樹林。地球ならタイガやツンドラに近いだろうか。あまり密度は高くないけど迂回するにも突っ切るにも難しい絶妙な邪魔具合。
「この針葉樹林を抜ければすぐに火山なんだな和香?」
「コッコー、地形的な障害はありません。敵については断言しかねます」
 カッコウは空を飛べるから襲われることは少ない。しかしここに魔物がいないとは思えないからひとまずは拠点を作るべきかな。

「七海。拠点づくりと道路の整備を頼む」
「樹木を伐採しながらそれを食料とする、ですね?」
「その通り。ただし冬を越す準備が最優先だ。この辺りの寒さはきっと今まで訪れた場所の比じゃないからな」
 この針葉樹林は多分亜寒帯に属するはずだから、冬になれば一面の銀景色が目を焼くだろう。全体的に寒さに弱い魔物にはしんどすぎる。これから長期的に硫黄を供給してもらわなければならないので冬を越せる準備は絶対に必要だ。
「承知しました。運送の手配はスカラベたちに任せてもよろしいですか?」
「ん、それでいい。話はオレから通しておく」
 ……マジで優秀になってきたなあ。これでオレも楽ができる。……というかこれもしも蟻たちを育てるのをさぼってたら全部自分でやらなきゃいけなかったのか。
 死ぬわ。過労死コースじゃん。過労死。この世でもっとも忌むべき言葉かもしれないな。何が悲しくて生きるための戦いで命を落とさなきゃならんのだ。

「で、スカラベども? 体力に余裕はあるか?」
「んだ。たくさん食ったから大丈夫だよ」
「そりゃよかった。引き続き食料を確保しつつ運送に励んでくれ」
「んだ」
 スカラベの魔法はかなり遠距離まで届く。なので直接自分たちは輸送隊に同行せずに、虫車の運航と中継地点の管理をしてもらっている。
 文字はまだ覚えていないので簡単な札や図で管理してもらっている。戦いは苦手でも地味な作業には向いているらしく喜んで仕事をしているようだ。
 そして肝心の虫車の性能だけど……実用に耐えられる性能にはなったかな。
 フレーム部分を強化ガラス繊維や強化炭素繊維で。強化蜘蛛糸をゴムの代わりに。
 特にタイヤには空気を使わないエアレスタイヤのようなものにした。上手く蜘蛛糸とアメーバを組み合わせて硬いゴムのような物質を作った結果だけど……アメーバのプラスチックが便利すぎて怖いよ。
 オレも一度乗ってみたけど快適とは言えない。がたがたするし急に曲がれないし、簡単なブレーキも作ったけど急停止も難しい。安っぽいジェットコースターに乗っている気分になる。それでも数トンの荷物を載せられる運搬力は何者に変えられない。
 続々と量産して交通革命でも起こせそうだ。金属の少ない現状では内燃機関を作れないからこれが精一杯。ちょいちょい改良すればチャリオットもできそうな気がするなあ。まあ今は戦闘力よりも運搬力だ。というかむしろこれだけの運搬力が必要な大量の硫黄があるのか不安になってきたけど……やるしかないかなあ。……まあなかったら森林伐採でもするか。



 あったよ!
 すごいあったよ! もうもうと湧きたつ煙! 
 酸性土壌に超強いイソツツジの群落! 誰がどう見ても火山の特徴だこれ!
「ひゃっはー! ここは天国か!?」
 黄色っぽい鉱物! 多分硫黄! 温泉らしきものあるから湯の花もとれる!
 すっげー! ようやくまともな鉱床が見つかった! ……と、喜んでばかりもいられない。第一次先遣隊にまず言わなければならないことがある。

「まず第一にこの場所は硫黄が採れる。ただし硫黄化合物の中には有毒な物質が多数存在する」
 事実だ。特に危険なのが硫化水素。硫黄鉱山で事故がたびたび起こるのはこれが原因で、百人を超す死者を出した事故もざらにある。
「火気の取り扱いには注意すること。異臭を感じればすぐに報告して引き返すこと。危険な状態に陥った仲間を助けてはいけない。仲間を見捨てることは恥でも何でもない。もちろん救助可能なら絶対に見捨てないけどな」
「「「「了解」」」」
 鉱山の事故は予想ができない。落盤や地崩れ有毒ガス。文字通り必殺のそれは事態が進行すればすでに手遅れになっている可能性が高い。鉱山のカナリヤでも用意できればいいかもしれないけどそんな暇はない。
 命を盾に無理矢理道をこじ開けるべきだ。まあこの様子なら地表を浚うだけでもそれなりの硫黄が手に入りそうだけどな。
「紫水。亀裂が入った場所があるようですが妙な土があるとのこと」
「ん、妙? 何がだ?」
「色が青いようです」
 青い鉱石……硫黄……んー、心当たりはなくもないけど……どうだろうな。
「ひとまず加熱してくれ。慎重にな」
 ひとまず色々と試してみると……どうもこれは硫酸銅……ぽい?
「いいいいいいやっほうううううううう! 銅鉱床!? まじでか!? よう! やく! 金属まとまってゲット!? つーかこれ魔法還元法で硫酸と銅を生産可能じゃないか!? どのくらい量がある!?」
「亀裂はそれほど大きくありません。一抱えできる棒がいくつかありますが、もっと奥深くを調べてみなければまだあるかもしれません」
 そんなに量はないのかあ。ぱっと見た感じだとせいぜい数十キロくらいか? 製錬すればもっと少ないかも。
「んーまあそんなもんか。いや十分だ」
「ただどうもその亀裂の内部にはテレパシーが届きにくいようです」
 ふうん? 女王蟻のテレパシーは土、つまり珪素を媒介としているようなので、土に不純物が多いと上手く伝わらないことがある。トンネルで電波が届かないようなもの……待てよ?
 電波? ……もしもテレパシーが電波を介したものだとしたら?
 ……。

「和香、ちょっといいか?」
「コッコー、どうしましたか?」
「少量でいいから青い鉱石を持ち帰ってくれないか。できるだけ急いで」
「コッコー、わかりました」
「ありがと」
 思い付きだけど……実験くらいにはなるかな。今まで何気なく使ってきたけれど、いい加減テレパシーの原理や強化方法にメスを入れてもいいころかもしれない。
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