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第二章
115 神聖なる騎士団
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テゴ村が魔物に占拠されたという知らせは近隣の村々はもちろん教皇が不在の教都でも伝書鳥やのろしなどの方法で届いていた。そこから王都に知らせが届くまでしばしの時間があったが、その間に都の司教たちは迅速に行動を開始した。
当然ながらその知らせはトゥーハ村にも届いており、万が一に備えての準備を進めていた。誰もが今こそセイノスの教徒として今こそその信仰を見せる時だと意気込んでいた。
しかし、リブスティから戻ってきたアグルは軽率な行動をとることを諫めていた。
「確かに魔物と戦うことは我らにとって試練であり、同時に誉れだ。しかし、先ほど救援に向かった者どもがどうなったかを思えば軽々しく向かうわけにはいかん」
実はアグルが到着する前に、村人たちはすでに救援を送っていたが、帰ってきたのはただ一人だけだった。……その一人はすでに楽園に旅立っていた。故に慎重を期さねばならないとアグルは村人を説得していた。
アグルを弱腰と非難する陰口もあったが、表立って口にすることは誰もなかった。
実のところアグルは蟻と戦うつもりはなかった。蟻はセイノス教においてさして強大とされていない。
故に倒したところで益は少なく、もし被害が出ればその責任はアグルがとることになる。それなら蟻がどこかに行ってくれるまで待った方が無難だ。もちろん銀髪がいれば楽に名声を得る好機とみなして積極的に打って出たが、そうでないならトゥーハ村が襲われない限り無視しておくのが賢明だろう。
どうせ教都が動くことはない。動いたとしてもおっとりと事が終わってからだろう。だがその予想は大きく外れることになる。
「都から使者が来た?」
「ええ、その通りです。アグル様。遂に我らも魔物との戦いに赴く時が来たのですね!」
「どうやらそのようだな」
言葉とは裏腹にアグルは驚きを禁じ得なかった。あまりにも行動が早すぎる。
嫌な予感を感じながらも村長と共にその使者と会うことになった。
「ようこそお越しくださいました」
ティマチ村長が敬礼を行うと、同様に使者も見事な敬礼を返した。
「礼はここまでにしましょう。早速ですが知らせるべきことがあります。
ちなみに会合は屋内ではなく、村人を集めて村の広間で行われていた。何故こんなところでと、誰もが思っていたが何のことはない。この使者は話し合うつもりはなく、ただ命令を村中に告げに来ただけだった。
彼女は細緻に極まる刺繍が施された旗を掲げながら村人に向かって宣告した。
「トゥーハ村の敬虔なる信徒たちよ! このチャンガンの領主にして教皇であらせられるアチャータ様の代理、キオン大司教の命を伝える! 邪悪な魔物を討伐せよ! キオン様から授けられた聖旗がその証である!」
聖旗とは王家に認められた家のみに託される旗であり、これがなければ騎士団とは決して認められない。全ての村人が実物を見るのはこれが初めてだったが、聖典には聖旗の紋様を描いたページがあるのでそれを知らぬ者など誰一人としていなかった。
「諸君らを騎士団として徴兵する! 我こそはと思うものは祈りを捧げよ!」
全ての村人が一斉に祈りを捧げる。
おお、美しき結束かな! 誰一人として魔物との戦いに臆するものなどいない! 徴兵を拒んだところで罰則があるはずもないのに皆が皆戦意を示すとは間違いなくセイノスの信徒の鑑と言えよう。
しかしアグルは祈りを捧げながらも質問する。
「恐れながら使者殿! 我らには司祭様がおりませぬ! 騎士団の結成はできないのではないでしょうか!」
この世界の騎士団は地球とは根本的に事情が異なる。
騎士団とは司教以上の聖職者から戦闘を許可された集団だ。司祭以上の聖職者が必ず率いなければならない。
騎士団の権限は強く、徴兵や食料の徴発などを行える権利を持つ。ましてや大司教から許可された騎士団であれば。これもまたセイノス教が軍事においても強い力を持つことの証明だろう。
アグルとしては司祭がいないことを盾に時間を稼ぐつもりだったのだが……使者は小馬鹿にするような視線を一瞬だけ向けた後こう言い放った。
「安心せよ! 司祭、いや司教はすでにこの村にいる! ティマチ殿!」
「はい」
ゆっくりと村長が前に出て、旗を受け取る。
「彼女の名はティマチ・テナイ・ヌイ・ルファイ! 都では司教を務めておられた、由緒あるルファイの娘であり、数々の戦いを潜り抜けた歴戦の勇士でもある!」
「村長が!?」
「そんな、まさか!?」
一斉に慌ただしく、ティマチに対して敬礼を行う村人たち。
そんな村人たちに対してティマチは旗を高々と掲げながら応える。聖旗を清き聖職者が掲げれば人々に悪魔と戦うために戦う力と勇気を授けるという。ここにいる村人はそれを伝聞ではなく自らの体験として、体の奥底から力がみなぎるのを感じていた。
「恐れることはありません! 清く正しくセイノスの信徒としてある限り、必ずや我らに栄光が輝くでしょう!」
おおおおお! 地鳴りのような歓声がこだまする。大司教様から選ばれた聖旗と司祭。この二つがそろったことで、一人を除いて誰も勝利を疑っていなかった。
ほんと、ちょっとは学べ。
そしてアグルだけは疑念のさなかにあった。なぜわざわざルファイ家の娘をこんな僻地に送り込んだのか。何故わざわざ蟻と戦わせようとしているのか。何一つとして確証はなかったが、自分が後手に回っていることだけは実感できていた。
「紫水ヒトモドキの群れがきたよ」
やっぱり来たか。
「了解だ。村を引き払うぞ。敵の数は?」
「少なくとも四百人を超えてるよ」
小春の報告を聞いてちょっと驚いた。短期間で集めたにしてはそれなりにまとまった数だ。質の方については……まあ、高くない、いや低いかな。だって年寄りや子供が混じっている。おまけに服装も貧相で今から戦争に行くとはとても思えない。狩人装束どころか、ごく普通の部屋着だもん。多分他所の村から徴兵したんだろう。寄せ集めに近い。野武士の集団でもあんなひどくないぞ。
先頭に立っているのは……白い修道服の女性? うわ、すげえ美人。桜よりもバラみたいな高値な雰囲気。え、何、あの人が部隊の隊長なの? 顔で選ばれたわけじゃないと思うけど……あれを殺さなきゃいけないのはちょっと気が引ける。必要ならやるけどね。
村の各所には地下に蟻を配置している。もちろん盗み聞きのためだ。
さあ、ではテストの始まりだ。テゴ村の住人は裁くべきか否か。確かめさせてもらおう。
「お、おおお! 神と救世主に感謝を! この時をお待ちしておりました」
テゴ村の村長である老婆は縋りつくように白い修道服の足元にひれ伏した。
「間に合って本当によかった。これも神の御加護に違いありません。私はティマチ・テナイ・ヌイ・ルファイ。この騎士団の団長を務めております。何があったか説明して頂けますか?」
「なんと! ルファイ家の!? 貴族、それも教皇に連なる家の御息女に来ていただけるとは感謝の極みです! 何があったのかをご説明いたしましょう!」
そうして村長はいかに自分たちが勇敢に戦い、しかしながら敗れ、蟻に囚われたかを説明し始めた。蟻の醜悪な行為に一時は心が砕けそうになったが、それでも必死に神に祈りを捧げ続け、決して神の家には足を踏み入れさせなかったとも、村人に慈しみをもって接していたと述べた。
(ずいぶんと美化していらっしゃるようで)
心の中で率直な感想を述べる。
所々外野から歓声や怒声が混じり、特に怒りをみなぎらせたのが巡察使タミルの行方がわからなくなったことだった。これに関しては村長でさえも責められたがティマチの制止が無ければ静まらなかっただろう。
セイノス教徒にとって聖職者を魔物に殺されること、あるいは聖職者を守れないことは極めて不名誉であるようだった。少なくとも建前としては命は平等だと言っておいたほうがいいと思うけどな。
「これが私の知りうる全てです。灰色の姿をした蟻どもは森に逃げていきました。あなた様の神聖さに恐れおののいたのでしょう」
「ありがとうございます。ゆっくり休んでください。アグルさん! 私は蟻を追撃します。この村の方々の手当てをしてください」
「御意」
ん? この、アグル? どっかで見たことがあるような? ええっとどこだっけ? んんん? あ! こいつ弟だ! 兄貴殺した奴じゃないか! 懐かしいなあ! よし殺そう! だってオレが去年めちゃくちゃ苦労したのはこいつが原因だぜ? ぶち殺しても文句ないだろ。しかもこいつは殺人犯だぞ? オレに文句言う前に目の前の事件を解決しろよ。
そしてティマチとかいう女性はわざと痕跡を残していた殿部隊を見つけると、いきなり襲いかかった。話を聞く様子すらない。これで正当防衛は成り立つな。
ま、予想通りの結果かな。もしもテゴ村の村長が事のあらましを正確に報告していたなら見逃してもよかったけど、誇張や虚偽を含み過ぎだ。何しろセイノス教ってのは嘘を吐いちゃいけない宗教なんだろ?
オレ個人としては生き延びるためなら嘘を吐いても構わないと思うけど、こいつらにとって嘘を吐くのは犯罪であるはずだ。
トカゲを追い払ったのはオレらだとか、巡察使タマルが仕掛けるまでオレはヒトモドキに攻撃していないとかそんなことを一言も話していない。これじゃあオレを陥れようとしていると思われてもしょうがない。行為そのものには怒りを感じないけど、ルール的にはダメだろう。
もしかしたら村長は正確な事実を述べているつもりかもしれない。実際にはただ教会に逃げ込んで村人にパワハラし続けていただけど、それはただセイノス教徒らしくあろうとしただけなのかもしれない。
でもなあ、加害者ってのはいつもそうだ。自分が悪いなんて思いもしない。現実を正しく見ていない。
その結果公的な機関に報告を怠っている。オレたちにとってそれは十分に悪事だ。
そしてそれらの報告を何の疑問もなく鵜呑みにしている自称騎士団! 事実確認くらいしろ! 公的な機関なんだからもうちょっと冷静な判断をしてくれよ。弁解の余地すら与えてくれないらしい。
セイノス教は魔物の知性を認めてないからそんなこと絶対にしないだろうけど。ここまでよく我慢した方だろう。
「汝ら罪あり。もう完全に容赦してやらん。村の連中も、討伐部隊も全員皆殺しのつもりでやるぞ」
「わかったよー」
「妾も異存ない」
「前進だ」
「wwwwww」
小春、千尋、風子、誠也も異論なし、満場一致だ。さあ、やるか!
当然ながらその知らせはトゥーハ村にも届いており、万が一に備えての準備を進めていた。誰もが今こそセイノスの教徒として今こそその信仰を見せる時だと意気込んでいた。
しかし、リブスティから戻ってきたアグルは軽率な行動をとることを諫めていた。
「確かに魔物と戦うことは我らにとって試練であり、同時に誉れだ。しかし、先ほど救援に向かった者どもがどうなったかを思えば軽々しく向かうわけにはいかん」
実はアグルが到着する前に、村人たちはすでに救援を送っていたが、帰ってきたのはただ一人だけだった。……その一人はすでに楽園に旅立っていた。故に慎重を期さねばならないとアグルは村人を説得していた。
アグルを弱腰と非難する陰口もあったが、表立って口にすることは誰もなかった。
実のところアグルは蟻と戦うつもりはなかった。蟻はセイノス教においてさして強大とされていない。
故に倒したところで益は少なく、もし被害が出ればその責任はアグルがとることになる。それなら蟻がどこかに行ってくれるまで待った方が無難だ。もちろん銀髪がいれば楽に名声を得る好機とみなして積極的に打って出たが、そうでないならトゥーハ村が襲われない限り無視しておくのが賢明だろう。
どうせ教都が動くことはない。動いたとしてもおっとりと事が終わってからだろう。だがその予想は大きく外れることになる。
「都から使者が来た?」
「ええ、その通りです。アグル様。遂に我らも魔物との戦いに赴く時が来たのですね!」
「どうやらそのようだな」
言葉とは裏腹にアグルは驚きを禁じ得なかった。あまりにも行動が早すぎる。
嫌な予感を感じながらも村長と共にその使者と会うことになった。
「ようこそお越しくださいました」
ティマチ村長が敬礼を行うと、同様に使者も見事な敬礼を返した。
「礼はここまでにしましょう。早速ですが知らせるべきことがあります。
ちなみに会合は屋内ではなく、村人を集めて村の広間で行われていた。何故こんなところでと、誰もが思っていたが何のことはない。この使者は話し合うつもりはなく、ただ命令を村中に告げに来ただけだった。
彼女は細緻に極まる刺繍が施された旗を掲げながら村人に向かって宣告した。
「トゥーハ村の敬虔なる信徒たちよ! このチャンガンの領主にして教皇であらせられるアチャータ様の代理、キオン大司教の命を伝える! 邪悪な魔物を討伐せよ! キオン様から授けられた聖旗がその証である!」
聖旗とは王家に認められた家のみに託される旗であり、これがなければ騎士団とは決して認められない。全ての村人が実物を見るのはこれが初めてだったが、聖典には聖旗の紋様を描いたページがあるのでそれを知らぬ者など誰一人としていなかった。
「諸君らを騎士団として徴兵する! 我こそはと思うものは祈りを捧げよ!」
全ての村人が一斉に祈りを捧げる。
おお、美しき結束かな! 誰一人として魔物との戦いに臆するものなどいない! 徴兵を拒んだところで罰則があるはずもないのに皆が皆戦意を示すとは間違いなくセイノスの信徒の鑑と言えよう。
しかしアグルは祈りを捧げながらも質問する。
「恐れながら使者殿! 我らには司祭様がおりませぬ! 騎士団の結成はできないのではないでしょうか!」
この世界の騎士団は地球とは根本的に事情が異なる。
騎士団とは司教以上の聖職者から戦闘を許可された集団だ。司祭以上の聖職者が必ず率いなければならない。
騎士団の権限は強く、徴兵や食料の徴発などを行える権利を持つ。ましてや大司教から許可された騎士団であれば。これもまたセイノス教が軍事においても強い力を持つことの証明だろう。
アグルとしては司祭がいないことを盾に時間を稼ぐつもりだったのだが……使者は小馬鹿にするような視線を一瞬だけ向けた後こう言い放った。
「安心せよ! 司祭、いや司教はすでにこの村にいる! ティマチ殿!」
「はい」
ゆっくりと村長が前に出て、旗を受け取る。
「彼女の名はティマチ・テナイ・ヌイ・ルファイ! 都では司教を務めておられた、由緒あるルファイの娘であり、数々の戦いを潜り抜けた歴戦の勇士でもある!」
「村長が!?」
「そんな、まさか!?」
一斉に慌ただしく、ティマチに対して敬礼を行う村人たち。
そんな村人たちに対してティマチは旗を高々と掲げながら応える。聖旗を清き聖職者が掲げれば人々に悪魔と戦うために戦う力と勇気を授けるという。ここにいる村人はそれを伝聞ではなく自らの体験として、体の奥底から力がみなぎるのを感じていた。
「恐れることはありません! 清く正しくセイノスの信徒としてある限り、必ずや我らに栄光が輝くでしょう!」
おおおおお! 地鳴りのような歓声がこだまする。大司教様から選ばれた聖旗と司祭。この二つがそろったことで、一人を除いて誰も勝利を疑っていなかった。
ほんと、ちょっとは学べ。
そしてアグルだけは疑念のさなかにあった。なぜわざわざルファイ家の娘をこんな僻地に送り込んだのか。何故わざわざ蟻と戦わせようとしているのか。何一つとして確証はなかったが、自分が後手に回っていることだけは実感できていた。
「紫水ヒトモドキの群れがきたよ」
やっぱり来たか。
「了解だ。村を引き払うぞ。敵の数は?」
「少なくとも四百人を超えてるよ」
小春の報告を聞いてちょっと驚いた。短期間で集めたにしてはそれなりにまとまった数だ。質の方については……まあ、高くない、いや低いかな。だって年寄りや子供が混じっている。おまけに服装も貧相で今から戦争に行くとはとても思えない。狩人装束どころか、ごく普通の部屋着だもん。多分他所の村から徴兵したんだろう。寄せ集めに近い。野武士の集団でもあんなひどくないぞ。
先頭に立っているのは……白い修道服の女性? うわ、すげえ美人。桜よりもバラみたいな高値な雰囲気。え、何、あの人が部隊の隊長なの? 顔で選ばれたわけじゃないと思うけど……あれを殺さなきゃいけないのはちょっと気が引ける。必要ならやるけどね。
村の各所には地下に蟻を配置している。もちろん盗み聞きのためだ。
さあ、ではテストの始まりだ。テゴ村の住人は裁くべきか否か。確かめさせてもらおう。
「お、おおお! 神と救世主に感謝を! この時をお待ちしておりました」
テゴ村の村長である老婆は縋りつくように白い修道服の足元にひれ伏した。
「間に合って本当によかった。これも神の御加護に違いありません。私はティマチ・テナイ・ヌイ・ルファイ。この騎士団の団長を務めております。何があったか説明して頂けますか?」
「なんと! ルファイ家の!? 貴族、それも教皇に連なる家の御息女に来ていただけるとは感謝の極みです! 何があったのかをご説明いたしましょう!」
そうして村長はいかに自分たちが勇敢に戦い、しかしながら敗れ、蟻に囚われたかを説明し始めた。蟻の醜悪な行為に一時は心が砕けそうになったが、それでも必死に神に祈りを捧げ続け、決して神の家には足を踏み入れさせなかったとも、村人に慈しみをもって接していたと述べた。
(ずいぶんと美化していらっしゃるようで)
心の中で率直な感想を述べる。
所々外野から歓声や怒声が混じり、特に怒りをみなぎらせたのが巡察使タミルの行方がわからなくなったことだった。これに関しては村長でさえも責められたがティマチの制止が無ければ静まらなかっただろう。
セイノス教徒にとって聖職者を魔物に殺されること、あるいは聖職者を守れないことは極めて不名誉であるようだった。少なくとも建前としては命は平等だと言っておいたほうがいいと思うけどな。
「これが私の知りうる全てです。灰色の姿をした蟻どもは森に逃げていきました。あなた様の神聖さに恐れおののいたのでしょう」
「ありがとうございます。ゆっくり休んでください。アグルさん! 私は蟻を追撃します。この村の方々の手当てをしてください」
「御意」
ん? この、アグル? どっかで見たことがあるような? ええっとどこだっけ? んんん? あ! こいつ弟だ! 兄貴殺した奴じゃないか! 懐かしいなあ! よし殺そう! だってオレが去年めちゃくちゃ苦労したのはこいつが原因だぜ? ぶち殺しても文句ないだろ。しかもこいつは殺人犯だぞ? オレに文句言う前に目の前の事件を解決しろよ。
そしてティマチとかいう女性はわざと痕跡を残していた殿部隊を見つけると、いきなり襲いかかった。話を聞く様子すらない。これで正当防衛は成り立つな。
ま、予想通りの結果かな。もしもテゴ村の村長が事のあらましを正確に報告していたなら見逃してもよかったけど、誇張や虚偽を含み過ぎだ。何しろセイノス教ってのは嘘を吐いちゃいけない宗教なんだろ?
オレ個人としては生き延びるためなら嘘を吐いても構わないと思うけど、こいつらにとって嘘を吐くのは犯罪であるはずだ。
トカゲを追い払ったのはオレらだとか、巡察使タマルが仕掛けるまでオレはヒトモドキに攻撃していないとかそんなことを一言も話していない。これじゃあオレを陥れようとしていると思われてもしょうがない。行為そのものには怒りを感じないけど、ルール的にはダメだろう。
もしかしたら村長は正確な事実を述べているつもりかもしれない。実際にはただ教会に逃げ込んで村人にパワハラし続けていただけど、それはただセイノス教徒らしくあろうとしただけなのかもしれない。
でもなあ、加害者ってのはいつもそうだ。自分が悪いなんて思いもしない。現実を正しく見ていない。
その結果公的な機関に報告を怠っている。オレたちにとってそれは十分に悪事だ。
そしてそれらの報告を何の疑問もなく鵜呑みにしている自称騎士団! 事実確認くらいしろ! 公的な機関なんだからもうちょっと冷静な判断をしてくれよ。弁解の余地すら与えてくれないらしい。
セイノス教は魔物の知性を認めてないからそんなこと絶対にしないだろうけど。ここまでよく我慢した方だろう。
「汝ら罪あり。もう完全に容赦してやらん。村の連中も、討伐部隊も全員皆殺しのつもりでやるぞ」
「わかったよー」
「妾も異存ない」
「前進だ」
「wwwwww」
小春、千尋、風子、誠也も異論なし、満場一致だ。さあ、やるか!
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