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第一章
13 決死園
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ヤシガニの魔法に対抗するために少し隊列と作戦を変更しよう。今までは敵の長距離攻撃がないことを前提に戦っていたが、これからは敵の魔法の性能を考慮しなければならない。
まず班を、石を投げる「投手」、石弾を作る「補給」、ヤシガニをおびき寄せる「囮」の三つに分ける。攻撃しながら敵の攻撃を回避するのは難しいが避けることに専念させればなんとかなる。
もっとも恐れていたのは囮を無視して投手を攻撃されることだったが、あまり頭が良くないのか単に執念深いのか囮の蟻を追い回している。
馬鹿だなー。オレならさっさと逃げるか蟻を無視して渋リンを食べまくるのに。ほら今も無駄に橋脚に魔法なんか当てて……。
「あの、橋さん? なんでビキビキ音をたててるの? え、ちょっ」
ヤシガニの魔法の猛威にさらされた橋はあっけなく崩れた。このヤシガニパワーがありすぎる!百人乗っても崩れないぞこの橋!?
橋の一つが崩れたせいで一匹の蟻が孤立してしまった。コレが狙いか? 頭いいじゃねえか!
「別の橋から逃げろ……ってヤシガニの野郎先回りしやがった!」
前門のヤシガニ後門の土棘、逃げ場はない―――わけじゃない。じりじりとヤシガニが迫る。何度か見てわかったことだがヤシガニの「鋏伸ばし(仮)」は連発できない。一回攻撃すると大体10秒くらい間隔が空く。逆に言えば、一度鋏を伸ばしてから次に鋏を伸ばしてくるタイミングはおおよそ予測できる。
「3、2,1、走れ!」
ヤシガニの魔法を間一髪でかわし、そのまま橋が落ちた方向に向かって走り、助走をつけて思いっきり跳んだ! たった今オレも知ったところだが意外と蟻はジャンプするのが得意なんだよ! だが足りない。向こう岸までわずかに届かない。このままならな!
「ふぁいとー」
「いっぱーつ」
あらかじめ紐をつなげてロープをたらしておいたのだ! それを跳んでる最中に掴む蟻も凄いけどな! 落ちそうな蟻を何とか引き上げて逃走開始!未練がましくヤシガニの魔法が放たれるが長さが足りん!
「よし! 罠の準備もできた。所定の場所までそいつを引っ張って来い!」
巣の外にある空き地まで走り抜ける。ヤシガニもここまできて逃がすという選択肢はないのだろう。猛然と突進してくる。だがヤシガニは気づかなかった。足元に蟻達の体重では作動せず、ヤシガニが通ったときのみ作動する罠の存在を。
それこそは人類発祥から長く使われ、マンモスを絶滅に追いやったとされる罠――――
「落とし穴だ!」
突如として開いた大穴にヤシガニは頭から突っ込み、重い音を響かせた。
え、ワンパターン?しょうがないじゃん。蟻の魔法だとこれが一番作りやすいんだって。ヤシガニのサイズに合わせた穴を掘るのには時間がかかったがそれだけじゃないぞ。穴の底には棘などを仕込み、上に行くほど狭まっているため簡単には出られない。さらに中の様子を観察するために物見台まで設置してある。……自分でもちょっとやりすぎたと思ってる。
いや、訂正しようやりすぎだったと思っていた。だがヤシガニは死んでおらず、穴からでようともがいている。確殺するまで安心はできない。
「火をつけろ」
用意しておいた松明もどきを投げ込ませる。穴には枝や葉など燃えやすいものを詰め込んでおいた。つまりヤシガニを焼き殺す。それが本命の作戦だ。硬化能力が熱に対して耐性をもつのかはわからないが、ヤシガニに炎は効くはずだ。
さっき解説したがヤシガニは陸上でも空気中の水分や腹に貯めた水分で鰓呼吸を行う。腹の水分を蒸発させ、辺りの空気も炎に包まれれば、当然窒息する。
魔物の内臓は地球の生物とそこまで変わらないと仮定した場合、時間さえあれば殺せる可能性は高い。だからこそ、奴は必死で穴から出ようとしている。炎の吹き出る穴から鋏と不気味な顔を覗かせるその姿は無神論者のオレでさえ悪魔の存在を疑ってしまいそうだ。だが奴は殺せる。悪魔でも怪物でもないただの生物に過ぎない。ま、その前に。
「ところでゴルフってスポーツを知ってるか? 知らない? 大いに結構。今から説明してやろう」
テレパシーによる会話を試みたが反応はなし。ネズミや蟷螂は会話ができそうだったがこいつはそうでもないらしい。せっかく口火を切ったので最後まで説明しておこう。
「ゴルフってのはホールカップにゴルフボールを入れるスポーツだよ。こんな風にな」
落とし穴を掘ったなら当然大量の土砂が排出される。その砂で大小さまざまな岩球を作った。地球のゴルフボールはもっと小さいけどきちんと実演すればルールは理解してくれるだろう。つまり穴めがけて球を入れさえすれば。
まずスリングで相手をけん制した後バスケットボールほどもある岩の塊を転がしてヤシガニに叩き込む。やはり顔面は脆いのか今までのタフさがうそのように穴の中へと再び落ちていった。
蟻達は容赦なく石を投げ入れる。ヤシガニは這い出るよりもこの穴そのものを壊そうとしているらしい。魔法と巨大な体躯による力技で大暴れしているが、いかんせん弱っているらしく投石、いや落石をしのぎきれていない。重力というどの世界でも変わらない物理法則を味方につけたこの状況ではオレ達の攻撃力が奴の防御力を上回っている。
「やっぱりな。お前の魔法は防御には使えない」
この戦いが始まってから一度もヤシガニは魔法を防御には使っていない。ここまで追い込んでも使わないなら、しない、のではなくできない、と見るべきだ。おそらく奴の魔法は限定的なサイコキネシスに近い。鋏からでた薄緑色の光に触れたものを鋏の内側方向に動かす。それを双方向から行うことで押し潰す。かなり汎用性が低いぶん威力は高いんだろうが、こうなってしまっては何の意味もない。
「しまった。これじゃ玉入れだな。いやむしろ集団リンチか。ま、これも生存競争だ。文句はないよな?」
ヤシガニからの返答はない。炎はゴウゴウと燃え続けやがて穴の中で動くものはなくなった。
まず班を、石を投げる「投手」、石弾を作る「補給」、ヤシガニをおびき寄せる「囮」の三つに分ける。攻撃しながら敵の攻撃を回避するのは難しいが避けることに専念させればなんとかなる。
もっとも恐れていたのは囮を無視して投手を攻撃されることだったが、あまり頭が良くないのか単に執念深いのか囮の蟻を追い回している。
馬鹿だなー。オレならさっさと逃げるか蟻を無視して渋リンを食べまくるのに。ほら今も無駄に橋脚に魔法なんか当てて……。
「あの、橋さん? なんでビキビキ音をたててるの? え、ちょっ」
ヤシガニの魔法の猛威にさらされた橋はあっけなく崩れた。このヤシガニパワーがありすぎる!百人乗っても崩れないぞこの橋!?
橋の一つが崩れたせいで一匹の蟻が孤立してしまった。コレが狙いか? 頭いいじゃねえか!
「別の橋から逃げろ……ってヤシガニの野郎先回りしやがった!」
前門のヤシガニ後門の土棘、逃げ場はない―――わけじゃない。じりじりとヤシガニが迫る。何度か見てわかったことだがヤシガニの「鋏伸ばし(仮)」は連発できない。一回攻撃すると大体10秒くらい間隔が空く。逆に言えば、一度鋏を伸ばしてから次に鋏を伸ばしてくるタイミングはおおよそ予測できる。
「3、2,1、走れ!」
ヤシガニの魔法を間一髪でかわし、そのまま橋が落ちた方向に向かって走り、助走をつけて思いっきり跳んだ! たった今オレも知ったところだが意外と蟻はジャンプするのが得意なんだよ! だが足りない。向こう岸までわずかに届かない。このままならな!
「ふぁいとー」
「いっぱーつ」
あらかじめ紐をつなげてロープをたらしておいたのだ! それを跳んでる最中に掴む蟻も凄いけどな! 落ちそうな蟻を何とか引き上げて逃走開始!未練がましくヤシガニの魔法が放たれるが長さが足りん!
「よし! 罠の準備もできた。所定の場所までそいつを引っ張って来い!」
巣の外にある空き地まで走り抜ける。ヤシガニもここまできて逃がすという選択肢はないのだろう。猛然と突進してくる。だがヤシガニは気づかなかった。足元に蟻達の体重では作動せず、ヤシガニが通ったときのみ作動する罠の存在を。
それこそは人類発祥から長く使われ、マンモスを絶滅に追いやったとされる罠――――
「落とし穴だ!」
突如として開いた大穴にヤシガニは頭から突っ込み、重い音を響かせた。
え、ワンパターン?しょうがないじゃん。蟻の魔法だとこれが一番作りやすいんだって。ヤシガニのサイズに合わせた穴を掘るのには時間がかかったがそれだけじゃないぞ。穴の底には棘などを仕込み、上に行くほど狭まっているため簡単には出られない。さらに中の様子を観察するために物見台まで設置してある。……自分でもちょっとやりすぎたと思ってる。
いや、訂正しようやりすぎだったと思っていた。だがヤシガニは死んでおらず、穴からでようともがいている。確殺するまで安心はできない。
「火をつけろ」
用意しておいた松明もどきを投げ込ませる。穴には枝や葉など燃えやすいものを詰め込んでおいた。つまりヤシガニを焼き殺す。それが本命の作戦だ。硬化能力が熱に対して耐性をもつのかはわからないが、ヤシガニに炎は効くはずだ。
さっき解説したがヤシガニは陸上でも空気中の水分や腹に貯めた水分で鰓呼吸を行う。腹の水分を蒸発させ、辺りの空気も炎に包まれれば、当然窒息する。
魔物の内臓は地球の生物とそこまで変わらないと仮定した場合、時間さえあれば殺せる可能性は高い。だからこそ、奴は必死で穴から出ようとしている。炎の吹き出る穴から鋏と不気味な顔を覗かせるその姿は無神論者のオレでさえ悪魔の存在を疑ってしまいそうだ。だが奴は殺せる。悪魔でも怪物でもないただの生物に過ぎない。ま、その前に。
「ところでゴルフってスポーツを知ってるか? 知らない? 大いに結構。今から説明してやろう」
テレパシーによる会話を試みたが反応はなし。ネズミや蟷螂は会話ができそうだったがこいつはそうでもないらしい。せっかく口火を切ったので最後まで説明しておこう。
「ゴルフってのはホールカップにゴルフボールを入れるスポーツだよ。こんな風にな」
落とし穴を掘ったなら当然大量の土砂が排出される。その砂で大小さまざまな岩球を作った。地球のゴルフボールはもっと小さいけどきちんと実演すればルールは理解してくれるだろう。つまり穴めがけて球を入れさえすれば。
まずスリングで相手をけん制した後バスケットボールほどもある岩の塊を転がしてヤシガニに叩き込む。やはり顔面は脆いのか今までのタフさがうそのように穴の中へと再び落ちていった。
蟻達は容赦なく石を投げ入れる。ヤシガニは這い出るよりもこの穴そのものを壊そうとしているらしい。魔法と巨大な体躯による力技で大暴れしているが、いかんせん弱っているらしく投石、いや落石をしのぎきれていない。重力というどの世界でも変わらない物理法則を味方につけたこの状況ではオレ達の攻撃力が奴の防御力を上回っている。
「やっぱりな。お前の魔法は防御には使えない」
この戦いが始まってから一度もヤシガニは魔法を防御には使っていない。ここまで追い込んでも使わないなら、しない、のではなくできない、と見るべきだ。おそらく奴の魔法は限定的なサイコキネシスに近い。鋏からでた薄緑色の光に触れたものを鋏の内側方向に動かす。それを双方向から行うことで押し潰す。かなり汎用性が低いぶん威力は高いんだろうが、こうなってしまっては何の意味もない。
「しまった。これじゃ玉入れだな。いやむしろ集団リンチか。ま、これも生存競争だ。文句はないよな?」
ヤシガニからの返答はない。炎はゴウゴウと燃え続けやがて穴の中で動くものはなくなった。
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