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友人以上?
ヤリチンも大変そう
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夏が近くなり暑くなってきても、ラーメン開拓同好会の活動は活発らしい。薄羽は秋川に誘われてラーメンを食べているくらいだが、榛名はそれなりにサークルに顔を出していることもあるようだ。今日は暑さに負けて薄羽は冷やし中華を、榛名はつけ麺を頼んだ。秋川は初志を貫く! と特盛りのラーメンをはふはふ言いながら食べている。今日は先輩に教えられたラーメン店なので味は文句なくおいしい。
「そういえば、あの噂のヤリチンなんだけどさ」
噂の、というだけで薄羽のなかで白スーツの金髪の人間が頭に浮かぶ。実際秋川の言う噂の男の顔を知らないので、いつの間にかイメージがホストになってしまっていた。
薄羽の言葉に、榛名が水を噴き出しそうになったのかむせている。
「相沢の中だとモテる人ってホストなのか?」
「いやちぎっては投げのところ? おれの高校だとモテるのはバスケ部だった。あいつらはさわやかだったな」
「バスケ部。青春」
「俺元バスケ部だけどそんな青春ではなかった」
榛名は朝練がキツかったと顔を顰めている。確かに榛名はこの三人のなかではいちばん背が高い。薄羽は勝手にバスケ部というのも頷けるとひとり納得する。
青春じゃん。秋川が笑う。
「大学ではやんないの?」
「バイトでそれどころじゃない」
「バイトそんなしてんの? なんで? なんかやばい?」
「ヤバいってなに。バイク。免許取れたしバイク欲しいんだよ」
秋川はバイクと聞くと目をキラキラと輝かせた。いいな、俺もとろうかな、と言い出す。榛名はぺっぺっと手を振り、それで、と話を元に戻す。
「ヤリチンがどうしたって?」
「なんかまたあったらしくて!」
秋川の目の輝き具合はバイクへの憧れとそう変わりがない。あまり同級生のよくない噂を広めるのもいかがだろうか。しかし、秋川自身に揶揄してやろう、という気配がないのでどこまでたしなめたものかと薄羽は思う。
「秋川ってけっこう噂好きだよな」
「派手なんだもん、ヤリチンの噂。もう漫画の世界みたいで現実味がない」
同じ学年にいるのだから現実は現実なのだろうが。薄羽としてもそのヤリチンと会ったわけでもないからなんとも言えない。噂だけで存在していないのではないかと思うくらいだ。
薄羽もなんだか最近は人付き合いはふわふわしている。もっと幅広く遊びに行きたいし、もっと知り合いを増やして交流を増やしたい。だが先日脛を蹴っ飛ばされてから、少し人付き合いに慎重になっているきらいがある。
脛を蹴っ飛ばされるのは、痛い。
「ほどほどにしとけよ。変に目を付けられたくないだろ」
榛名の忠告に、俺なんか目立たないから大丈夫だって、と秋川はけらけらと笑う。そうだろうか。ラーメンといえば秋川という認識は結構広まってきており、それなりに顔は知られていると薄羽は思う。薄羽の顔を見て、榛名も頷いているくらいだ。
「ま、それでさ、五股の子たち全員が鉢合わせしたんだって」
「五」
「白昼堂々キャットファイトになったとか」
「そこは男がビンタされるところじゃないのか? 漫画だったら」
ぽかんとする薄羽に顔を顰める榛名。秋月はそこは漫画じゃないから、と矛盾することを言い放つ。
薄羽は本当にそんなことが構内で発生しているのかと首を傾げつつ、それで、と口を開く。
「結局どうなったんだ?」
「五人ともフラれたらしい」
「はー」
「へー」
ヤリチンも五人の女子たちも知らない薄羽と榛名にしてみれば、漫画よりもさらに興味が薄かった。彼らでなくても、日々カップルはできたりこわれたりしている。
「でもその前から『俺はヤリチンのカノジョ寝取ってやったぜ』みたいなやつとか、カノジョ実はいなくて言ったもん勝ちになってるとかあったから、ほんとのカノジョが何人いるのかは謎」
秋月がずっと喋っているので、榛名がさっさと食べ終わってしまう。ちらっと秋月の皿を見ながらチャーハンを頼み、ラーメンがのびると指摘している。
「まったく風紀が乱れていますわ!」
「なに急にお嬢様」
急に高い声で憤慨する秋月に榛名は笑う。薄羽は言ったもん勝ち、という秋月の言葉につい眉根を寄せた。脛を蹴られたときの騒動を思い出してしまう。
噂はほどほどにしたほうがいいと思うけど、と軽く釘を刺しつつ、頷いた。
「言ったもん勝ちは怖いよな。勝手にカノジョができてるとかさ」
「それはストーカーだな」
榛名の指摘に、薄羽はますます眉間のしわを深める。確かに、小鳥にはストーカーも多そうだ。
「あ、そっちか。俺はヤリチンってくらいだから、一回ヤッたからカノジョみたいな感じなのかと思った」
「それがマジならマジの最低」
秋月の発言に、榛名は冷たく吐き捨てる。榛名、例のヤリチンの噂の男を知っているためか、彼に対しては評価が厳しい。いつものことなのか、秋川はそのことに触れることなく、深々と溜息を吐く。
「俺もカノジョほしい」
「いまの流れでそうなる?」
つい薄羽は突っ込んでしまう。どちらかといえばカノジョトラブルの話だったはずなのに。秋川は、なる、と拳を強く握り薄羽に詰め寄る。
「どんな流れでもそうなるだろ~!? もうすぐ夏休みなんだぞ!」
「夏休み関係ある?」
榛名の指摘に、ないけど、と秋川は今度は肩を落とした。試験が近づいているせいだろうか。気分の乱高下が激しい。
「大学は行ったらすぐできると思ってたんだもん……おまえらはカノジョいないよな? な?」
「なんでそんな必死。おれはいないよ」
薄羽は苦笑して秋川の肩を叩いてやった。榛名は目をそらしながらぼそりと呟いた。
「俺いる」
「はー!? 聞いてないですけど!?」
「言ったらうるさそうだったから」
実際うるさい。薄羽はわからなくもないとつい笑ってしまう。さいわい
なことに秋川は榛名に集中していて、気づかなかった。
「はー!? ひどい裏切り!」
「はいはい」
「で? どんな子どんな子?」
秋川は今度は目をキラキラさせて榛名に詰め寄っている。これだから憎めない。しまいには榛名も苦笑し、秋川の質問に仕方なさそうに応えていた。
「そういえば、あの噂のヤリチンなんだけどさ」
噂の、というだけで薄羽のなかで白スーツの金髪の人間が頭に浮かぶ。実際秋川の言う噂の男の顔を知らないので、いつの間にかイメージがホストになってしまっていた。
薄羽の言葉に、榛名が水を噴き出しそうになったのかむせている。
「相沢の中だとモテる人ってホストなのか?」
「いやちぎっては投げのところ? おれの高校だとモテるのはバスケ部だった。あいつらはさわやかだったな」
「バスケ部。青春」
「俺元バスケ部だけどそんな青春ではなかった」
榛名は朝練がキツかったと顔を顰めている。確かに榛名はこの三人のなかではいちばん背が高い。薄羽は勝手にバスケ部というのも頷けるとひとり納得する。
青春じゃん。秋川が笑う。
「大学ではやんないの?」
「バイトでそれどころじゃない」
「バイトそんなしてんの? なんで? なんかやばい?」
「ヤバいってなに。バイク。免許取れたしバイク欲しいんだよ」
秋川はバイクと聞くと目をキラキラと輝かせた。いいな、俺もとろうかな、と言い出す。榛名はぺっぺっと手を振り、それで、と話を元に戻す。
「ヤリチンがどうしたって?」
「なんかまたあったらしくて!」
秋川の目の輝き具合はバイクへの憧れとそう変わりがない。あまり同級生のよくない噂を広めるのもいかがだろうか。しかし、秋川自身に揶揄してやろう、という気配がないのでどこまでたしなめたものかと薄羽は思う。
「秋川ってけっこう噂好きだよな」
「派手なんだもん、ヤリチンの噂。もう漫画の世界みたいで現実味がない」
同じ学年にいるのだから現実は現実なのだろうが。薄羽としてもそのヤリチンと会ったわけでもないからなんとも言えない。噂だけで存在していないのではないかと思うくらいだ。
薄羽もなんだか最近は人付き合いはふわふわしている。もっと幅広く遊びに行きたいし、もっと知り合いを増やして交流を増やしたい。だが先日脛を蹴っ飛ばされてから、少し人付き合いに慎重になっているきらいがある。
脛を蹴っ飛ばされるのは、痛い。
「ほどほどにしとけよ。変に目を付けられたくないだろ」
榛名の忠告に、俺なんか目立たないから大丈夫だって、と秋川はけらけらと笑う。そうだろうか。ラーメンといえば秋川という認識は結構広まってきており、それなりに顔は知られていると薄羽は思う。薄羽の顔を見て、榛名も頷いているくらいだ。
「ま、それでさ、五股の子たち全員が鉢合わせしたんだって」
「五」
「白昼堂々キャットファイトになったとか」
「そこは男がビンタされるところじゃないのか? 漫画だったら」
ぽかんとする薄羽に顔を顰める榛名。秋月はそこは漫画じゃないから、と矛盾することを言い放つ。
薄羽は本当にそんなことが構内で発生しているのかと首を傾げつつ、それで、と口を開く。
「結局どうなったんだ?」
「五人ともフラれたらしい」
「はー」
「へー」
ヤリチンも五人の女子たちも知らない薄羽と榛名にしてみれば、漫画よりもさらに興味が薄かった。彼らでなくても、日々カップルはできたりこわれたりしている。
「でもその前から『俺はヤリチンのカノジョ寝取ってやったぜ』みたいなやつとか、カノジョ実はいなくて言ったもん勝ちになってるとかあったから、ほんとのカノジョが何人いるのかは謎」
秋月がずっと喋っているので、榛名がさっさと食べ終わってしまう。ちらっと秋月の皿を見ながらチャーハンを頼み、ラーメンがのびると指摘している。
「まったく風紀が乱れていますわ!」
「なに急にお嬢様」
急に高い声で憤慨する秋月に榛名は笑う。薄羽は言ったもん勝ち、という秋月の言葉につい眉根を寄せた。脛を蹴られたときの騒動を思い出してしまう。
噂はほどほどにしたほうがいいと思うけど、と軽く釘を刺しつつ、頷いた。
「言ったもん勝ちは怖いよな。勝手にカノジョができてるとかさ」
「それはストーカーだな」
榛名の指摘に、薄羽はますます眉間のしわを深める。確かに、小鳥にはストーカーも多そうだ。
「あ、そっちか。俺はヤリチンってくらいだから、一回ヤッたからカノジョみたいな感じなのかと思った」
「それがマジならマジの最低」
秋月の発言に、榛名は冷たく吐き捨てる。榛名、例のヤリチンの噂の男を知っているためか、彼に対しては評価が厳しい。いつものことなのか、秋川はそのことに触れることなく、深々と溜息を吐く。
「俺もカノジョほしい」
「いまの流れでそうなる?」
つい薄羽は突っ込んでしまう。どちらかといえばカノジョトラブルの話だったはずなのに。秋川は、なる、と拳を強く握り薄羽に詰め寄る。
「どんな流れでもそうなるだろ~!? もうすぐ夏休みなんだぞ!」
「夏休み関係ある?」
榛名の指摘に、ないけど、と秋川は今度は肩を落とした。試験が近づいているせいだろうか。気分の乱高下が激しい。
「大学は行ったらすぐできると思ってたんだもん……おまえらはカノジョいないよな? な?」
「なんでそんな必死。おれはいないよ」
薄羽は苦笑して秋川の肩を叩いてやった。榛名は目をそらしながらぼそりと呟いた。
「俺いる」
「はー!? 聞いてないですけど!?」
「言ったらうるさそうだったから」
実際うるさい。薄羽はわからなくもないとつい笑ってしまう。さいわい
なことに秋川は榛名に集中していて、気づかなかった。
「はー!? ひどい裏切り!」
「はいはい」
「で? どんな子どんな子?」
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