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友人
カノジョ問題1
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小鳥と家で過ごすというのはなかなかよかった。外で会うのとは違い、人の目が気にならずに落ち着く。薄羽もはからずしも視線を向けられることに慣れてきてはいるが、やはりじろじろ見られるのは疲れてしまう。
そして薄羽よりも、小鳥のほうが家で遊ぶことを楽しんだようだった。とにかく楽しかったと帰り際まで何度も言うものだから、また来たらいいと薄羽が思わず応えたくらいだ。薄羽が最近プレイしているブラウザゲームを伝えると、早速アカウントを作っていた。次に来るまでにレベルを上げておくと言っていたので、それも楽しみだ。
そんな昨日のことで頭がいっぱいのまま登校した薄羽は、そういえば問題はなにも解決していなかったということに大学に辿り着いてから気がついた。例の、薄羽の脛を遠慮なく蹴飛ばした女子に立ち塞がられたからだ。
「あー……おはよ」
「ちょっとあなたいつまでコーくんに付きまとうつもりなの」
昨日は気が立っていただけではないか。という期待をしたのだが裏切られた。薄羽は友好的に対応しようと片手を上げて振ってみたのだが、まったく反応はない。
「あのさ、おれ、付きまとってないよ。小鳥とはちゃんと友だちだし」
「はあ~?」
ちゃんと友だちっていうのも変だな。薄羽は言いながら首を傾げる。ここでルールを持ち出されても、小鳥は知らないと言っていた。気にすることはないだろう。薄羽は腹に力を入れる。相手の女子のヒールが今日は高いからか、微妙に圧が強い。しゃんとしなくてはと顔を引き締めた。
だが相手はルールのことは持ち出さず、顔を顰め、人差し指を薄羽に突きつける。
「あんたその顔で何言ってんの? 鏡見たことある?」
「鏡、って……なにそれ。関係ないだろ」
顔の造作が整っているなんて思ってはいないが、あからさまにけなされればさすがにいい気持ちはしない。薄羽がムッと顔を顰めると、相手はフン、と鼻で嗤った。
薄羽はあまり人と言い争ったことがない。弟とは喧嘩をするが、はいはいといなしていれば、相手が勝手に地団駄を踏んで終わる。友だちと喧嘩をしたこともあるが、それは対等なもので粗を探し合うものではなかった。
だからわからない。目の前の相手が、なにを言えば納得するのか。自分は相手にどう対応するべきなのか。
そもそも突っかかられる理由もはっきりしているわけではない。小鳥に近づくなと言われることも、そのルールもコミュニティも。
わかるのは、相手が自分を排除しようとしているということだ。目の前の彼女は、本当に自分をカノジョと思っているのだろうか。薄羽は思う。自分は下に見られているのだろう。だから強い言葉を投げつければ、追い払えると思っている。
そしてその権利があると思っている。
「薄羽?」
駆け寄るような足音が聞こえていた。声で誰かも分かっていた。だから振り返ろうとしたのに、真後ろに立たれてそれもできない。肩を引かれて、後ろから抱きつかれているみたいだと思う。薄羽は後頭部をぐりぐりと擦り付けるように上を向いた。相変わらず、朝から太陽の光に負けない容貌が視界に映ってたいへん眩しい。
「薄羽、どうしたの?」
「こと」
「コーくん!」
薄羽は思わず目を瞑った。さっきまでも大きな声だと思っていたが、それ以上に大きな声が出せたのか。おそるおそる眼を開くと、小鳥も耳が痛いのかきゅっと顔を顰めている。それでも薄羽と目が合うと微かに微笑んだ。
「おはよう」
「おー、おはよ小鳥」
ちゃんと挨拶が返されるのはいいものだ。薄羽は思う。困っていたので、正直来てくれて助かった。しかし目の前の彼女は、余計に怒りを増したようだった。
「なに勝手に呼び捨てにしてんのよお!」
なぜそっちが怒るのか。薄羽は不思議だ。名前の呼び方までどこかのルールにあるのだろうか。
ルールブックとかあるのかな。小鳥に肩を抱かれながら、薄羽は現実逃避気味にそんなことを考えていた。
そして薄羽よりも、小鳥のほうが家で遊ぶことを楽しんだようだった。とにかく楽しかったと帰り際まで何度も言うものだから、また来たらいいと薄羽が思わず応えたくらいだ。薄羽が最近プレイしているブラウザゲームを伝えると、早速アカウントを作っていた。次に来るまでにレベルを上げておくと言っていたので、それも楽しみだ。
そんな昨日のことで頭がいっぱいのまま登校した薄羽は、そういえば問題はなにも解決していなかったということに大学に辿り着いてから気がついた。例の、薄羽の脛を遠慮なく蹴飛ばした女子に立ち塞がられたからだ。
「あー……おはよ」
「ちょっとあなたいつまでコーくんに付きまとうつもりなの」
昨日は気が立っていただけではないか。という期待をしたのだが裏切られた。薄羽は友好的に対応しようと片手を上げて振ってみたのだが、まったく反応はない。
「あのさ、おれ、付きまとってないよ。小鳥とはちゃんと友だちだし」
「はあ~?」
ちゃんと友だちっていうのも変だな。薄羽は言いながら首を傾げる。ここでルールを持ち出されても、小鳥は知らないと言っていた。気にすることはないだろう。薄羽は腹に力を入れる。相手の女子のヒールが今日は高いからか、微妙に圧が強い。しゃんとしなくてはと顔を引き締めた。
だが相手はルールのことは持ち出さず、顔を顰め、人差し指を薄羽に突きつける。
「あんたその顔で何言ってんの? 鏡見たことある?」
「鏡、って……なにそれ。関係ないだろ」
顔の造作が整っているなんて思ってはいないが、あからさまにけなされればさすがにいい気持ちはしない。薄羽がムッと顔を顰めると、相手はフン、と鼻で嗤った。
薄羽はあまり人と言い争ったことがない。弟とは喧嘩をするが、はいはいといなしていれば、相手が勝手に地団駄を踏んで終わる。友だちと喧嘩をしたこともあるが、それは対等なもので粗を探し合うものではなかった。
だからわからない。目の前の相手が、なにを言えば納得するのか。自分は相手にどう対応するべきなのか。
そもそも突っかかられる理由もはっきりしているわけではない。小鳥に近づくなと言われることも、そのルールもコミュニティも。
わかるのは、相手が自分を排除しようとしているということだ。目の前の彼女は、本当に自分をカノジョと思っているのだろうか。薄羽は思う。自分は下に見られているのだろう。だから強い言葉を投げつければ、追い払えると思っている。
そしてその権利があると思っている。
「薄羽?」
駆け寄るような足音が聞こえていた。声で誰かも分かっていた。だから振り返ろうとしたのに、真後ろに立たれてそれもできない。肩を引かれて、後ろから抱きつかれているみたいだと思う。薄羽は後頭部をぐりぐりと擦り付けるように上を向いた。相変わらず、朝から太陽の光に負けない容貌が視界に映ってたいへん眩しい。
「薄羽、どうしたの?」
「こと」
「コーくん!」
薄羽は思わず目を瞑った。さっきまでも大きな声だと思っていたが、それ以上に大きな声が出せたのか。おそるおそる眼を開くと、小鳥も耳が痛いのかきゅっと顔を顰めている。それでも薄羽と目が合うと微かに微笑んだ。
「おはよう」
「おー、おはよ小鳥」
ちゃんと挨拶が返されるのはいいものだ。薄羽は思う。困っていたので、正直来てくれて助かった。しかし目の前の彼女は、余計に怒りを増したようだった。
「なに勝手に呼び捨てにしてんのよお!」
なぜそっちが怒るのか。薄羽は不思議だ。名前の呼び方までどこかのルールにあるのだろうか。
ルールブックとかあるのかな。小鳥に肩を抱かれながら、薄羽は現実逃避気味にそんなことを考えていた。
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