上 下
20 / 42
友人

カノジョ問題1

しおりを挟む
 小鳥と家で過ごすというのはなかなかよかった。外で会うのとは違い、人の目が気にならずに落ち着く。薄羽もはからずしも視線を向けられることに慣れてきてはいるが、やはりじろじろ見られるのは疲れてしまう。
 そして薄羽よりも、小鳥のほうが家で遊ぶことを楽しんだようだった。とにかく楽しかったと帰り際まで何度も言うものだから、また来たらいいと薄羽が思わず応えたくらいだ。薄羽が最近プレイしているブラウザゲームを伝えると、早速アカウントを作っていた。次に来るまでにレベルを上げておくと言っていたので、それも楽しみだ。
 そんな昨日のことで頭がいっぱいのまま登校した薄羽は、そういえば問題はなにも解決していなかったということに大学に辿り着いてから気がついた。例の、薄羽の脛を遠慮なく蹴飛ばした女子に立ち塞がられたからだ。

「あー……おはよ」
「ちょっとあなたいつまでコーくんに付きまとうつもりなの」

 昨日は気が立っていただけではないか。という期待をしたのだが裏切られた。薄羽は友好的に対応しようと片手を上げて振ってみたのだが、まったく反応はない。

「あのさ、おれ、付きまとってないよ。小鳥とはちゃんと友だちだし」
「はあ~?」

 ちゃんと友だちっていうのも変だな。薄羽は言いながら首を傾げる。ここでルールを持ち出されても、小鳥は知らないと言っていた。気にすることはないだろう。薄羽は腹に力を入れる。相手の女子のヒールが今日は高いからか、微妙に圧が強い。しゃんとしなくてはと顔を引き締めた。
 だが相手はルールのことは持ち出さず、顔を顰め、人差し指を薄羽に突きつける。

「あんたその顔で何言ってんの? 鏡見たことある?」
「鏡、って……なにそれ。関係ないだろ」

 顔の造作が整っているなんて思ってはいないが、あからさまにけなされればさすがにいい気持ちはしない。薄羽がムッと顔を顰めると、相手はフン、と鼻で嗤った。
 薄羽はあまり人と言い争ったことがない。弟とは喧嘩をするが、はいはいといなしていれば、相手が勝手に地団駄を踏んで終わる。友だちと喧嘩をしたこともあるが、それは対等なもので粗を探し合うものではなかった。
 だからわからない。目の前の相手が、なにを言えば納得するのか。自分は相手にどう対応するべきなのか。
 そもそも突っかかられる理由もはっきりしているわけではない。小鳥に近づくなと言われることも、そのルールもコミュニティも。
 わかるのは、相手が自分を排除しようとしているということだ。目の前の彼女は、本当に自分をカノジョと思っているのだろうか。薄羽は思う。自分は下に見られているのだろう。だから強い言葉を投げつければ、追い払えると思っている。
 そしてその権利があると思っている。

「薄羽?」

 駆け寄るような足音が聞こえていた。声で誰かも分かっていた。だから振り返ろうとしたのに、真後ろに立たれてそれもできない。肩を引かれて、後ろから抱きつかれているみたいだと思う。薄羽は後頭部をぐりぐりと擦り付けるように上を向いた。相変わらず、朝から太陽の光に負けない容貌が視界に映ってたいへん眩しい。

「薄羽、どうしたの?」
「こと」
「コーくん!」

 薄羽は思わず目を瞑った。さっきまでも大きな声だと思っていたが、それ以上に大きな声が出せたのか。おそるおそる眼を開くと、小鳥も耳が痛いのかきゅっと顔を顰めている。それでも薄羽と目が合うと微かに微笑んだ。

「おはよう」
「おー、おはよ小鳥」

 ちゃんと挨拶が返されるのはいいものだ。薄羽は思う。困っていたので、正直来てくれて助かった。しかし目の前の彼女は、余計に怒りを増したようだった。

「なに勝手に呼び捨てにしてんのよお!」

 なぜそっちが怒るのか。薄羽は不思議だ。名前の呼び方までどこかのルールにあるのだろうか。
 ルールブックとかあるのかな。小鳥に肩を抱かれながら、薄羽は現実逃避気味にそんなことを考えていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

風紀“副”委員長はギリギリモブです

柚実
BL
名家の子息ばかりが集まる全寮制の男子校、鳳凰学園。 俺、佐倉伊織はその学園で風紀“副”委員長をしている。 そう、“副”だ。あくまでも“副”。 だから、ここが王道学園だろうがなんだろうが俺はモブでしかない────はずなのに! BL王道学園に入ってしまった男子高校生がモブであろうとしているのに、主要キャラ達から逃げられない話。

推しの完璧超人お兄様になっちゃった

紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。 そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。 ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。 そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

俺にはラブラブな超絶イケメンのスパダリ彼氏がいるので、王道学園とやらに無理やり巻き込まないでくださいっ!!

しおりんごん
BL
俺の名前は 笹島 小太郎 高校2年生のちょっと激しめの甘党 顔は可もなく不可もなく、、、と思いたい 身長は170、、、行ってる、、、し ウルセェ!本人が言ってるんだからほんとなんだよ! そんな比較的どこにでもいそうな人柄の俺だが少し周りと違うことがあって、、、 それは、、、 俺には超絶ラブラブなイケメン彼氏がいるのだ!!! 容姿端麗、文武両道 金髪碧眼(ロシアの血が多く入ってるかららしい) 一つ下の学年で、通ってる高校は違うけど、一週間に一度は放課後デートを欠かさないそんなスパダリ完璧彼氏! 名前を堂坂レオンくん! 俺はレオンが大好きだし、レオンも俺が大好きで (自己肯定感が高すぎるって? 実は付き合いたての時に、なんで俺なんか、、、って1人で考えて喧嘩して 結局レオンからわからせという名のおしお、(re 、、、ま、まぁレオンからわかりやすすぎる愛情を一思いに受けてたらそりゃ自身も出るわなっていうこと!) ちょうどこの春レオンが高校に上がって、それでも変わりないラブラブな生活を送っていたんだけど なんとある日空から人が降って来て! ※ファンタジーでもなんでもなく、物理的に降って来たんだ 信じられるか?いや、信じろ 腐ってる姉さんたちが言うには、そいつはみんな大好き王道転校生! 、、、ってなんだ? 兎にも角にも、そいつが現れてから俺の高校がおかしくなってる? いやなんだよ平凡巻き込まれ役って! あーもう!そんな睨むな!牽制するな! 俺には超絶ラブラブな彼氏がいるからそっちのいざこざに巻き込まないでくださいっ!!! ※主人公は固定カプ、、、というか、初っ端から2人でイチャイチャしてるし、ずっと変わりません ※同姓同士の婚姻が認められている世界線での話です ※王道学園とはなんぞや?という人のために一応説明を載せていますが、私には文才が圧倒的に足りないのでわからないままでしたら、他の方の作品を参照していただきたいです🙇‍♀️ ※シリアスは皆無です 終始ドタバタイチャイチャラブコメディでおとどけします

転生したら、ラスボス様が俺の婚約者だった!!

ミクリ21
BL
前世で、プレイしたことのあるRPGによく似た世界に転生したジオルド。 ゲームだったとしたら、ジオルドは所謂モブである。 ジオルドの婚約者は、このゲームのラスボスのシルビアだ。 笑顔で迫るヤンデレラスボスに、いろんな意味でドキドキしているよ。 「ジオルド、浮気したら………相手を拷問してから殺しちゃうぞ☆」

告白ゲームの攻略対象にされたので面倒くさい奴になって嫌われることにした

雨宮里玖
BL
《あらすじ》 昼休みに乃木は、イケメン三人の話に聞き耳を立てていた。そこで「それぞれが最初にぶつかった奴を口説いて告白する。それで一番早く告白オッケーもらえた奴が勝ち」という告白ゲームをする話を聞いた。 その直後、乃木は三人のうちで一番のモテ男・早坂とぶつかってしまった。 その日の放課後から早坂は乃木にぐいぐい近づいてきて——。 早坂(18)モッテモテのイケメン帰国子女。勉強運動なんでもできる。物静か。 乃木(18)普通の高校三年生。 波田野(17)早坂の友人。 蓑島(17)早坂の友人。 石井(18)乃木の友人。

運命だとしてもお前とはつがいたくない

わさん
BL
オメガの南野真尋は大学の合格発表日、長年付き合ってきた幼馴染の彼女に振られてしまう。落ち込む真尋の前に現れたのは、同じ大学を受けたアルファの北浦理仁だった。理仁は、自分たちが運命のつがいではないかと言い出すが、真尋は受け入れられない。しかし同じ大学に通う二人は、次第に接点が増え距離が近づいていく。 固定カプですが、モブレ未遂もあるので苦手な方はご注意ください。 ムーンライトにも投稿しております。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

処理中です...