18 / 42
友人
話し合いをしましょう7
しおりを挟む
薄羽の視線をどう解釈したのか。小鳥は少し考えた様子で付け加える。
「女の子、女性? が、あんまり好きじゃない」
「あ~なるほど……」
僅かに目を伏せた小鳥に、薄羽はうんうんと頷く。小鳥がもともと女性が苦手なのか、それとも何か嫌な経験をしたのか。それはわからない。だが現在のところ、小鳥の周囲には性別問わずアグレッシブな人間たちが集まっていると薄羽は思う。苦手となるのも不思議ではないだろう。
薄羽だって、自分は小鳥のカノジョだと脛を蹴飛ばしてきたような女性が複数いたらトラウマになる自信がある。
薄羽はだんだん小鳥のことが心配になってきた。いないはずのカノジョがいて、やっていないはずの動画配信がされている。わかっていて放置しているならまだしも、そうは見えない。
「小鳥と仲良くなるのにはルールがあるって言われた。小鳥のカノジョって人に」
「えっ? そもそもカノジョはいないよ」
そう言ってたな。薄羽は頷く。小鳥は混乱した様子で眉間にしわを寄せた。自分の知らないところで、自分のルールを作られている。気味悪くもあるだろう。
「仲良くなるルールの意味も分からない。そもそも俺、この大学での友人は薄羽だけだよ」
「はあっ!? いや、それは、ないだろ……いつも一緒にいる人たちは?」
「誰?」
「いやおれが訊きたいよ」
小鳥の眉根はますます寄っている。そんな顔でも整っているのがすごい。薄羽はぽやっとそんなことを考えながら、そのしわを眺める。カノジョばかりでなくトモダチまでも謎の存在というのはどういうことだろう。さすがに薄羽も混乱する。
いやいや、と顔の前で手のひらを振った。あれを知らない人とするのはちょっとむりがあるのではないか。
「授業前とか、小鳥の肩組んで話している人とかいるじゃん」
「別に友だちじゃないよ。話しかけてくることもあるけど」
「いや、それ、向こうは友だちって思ってるだろ……」
さすがに見知らぬ相手に肩を組んだりはしないだろう。するのか? 薄羽の定義ではしないけれど、自分と小鳥と小鳥の周囲の人間で認識が違う可能性がある。ますます混乱してしまう。小鳥は小鳥で、知らない人間に肩を組まれてもなぜ放っておくのか。
薄羽の疑問に、いつものことだから、と小鳥はけろりと応えた。
「変に反応したほうがうるさい」
「そ、そっか?」
そういえば初めて会ったときも、知らない女性にいきなり腕を組まれてもどれだけ話しかけられても無視を貫いていたな。衝撃的な光景だったので、薄羽は覚えている。
「だから話しかけられてても無視するのか?」
程度というものがあるのではないだろうか。薄羽は思う。もちろん薄羽は小鳥のように始終周囲からあれこれや話しかけられるわけではないから、小鳥の気持ちをすべて理解できるわけではないけれども。
「小さい頃」
「うん?」
「公園か……幼稚園だったか覚えてないけど、初めて行ったところですごく話しかけられて」
理由について話してくれているのか。薄羽は気づいてうんうん、と大きく頷いた。ちら、と小鳥は薄羽を見て続ける。
「ぜんぶ聞こうとしてたら倒れた」
「じゃあ無視してもいいか! ごめん!」
薄羽はいきおいよく頭を下げた。薄羽は小鳥を友人と思っている。あれこれ他人の話を聞かないことで、変に周囲に悪印象を持たれてほしくなかった。エゴではあるとわかっているが、ある程度は対応したほうが自称カノジョなどが幅を利かせるのを阻めるのではないかと考えていた。だが健康を害するのなら話は別だ。
謝らなくていいのに。小鳥は微笑む。
「そのとき兄に言われたんだ。応えなくていいって」
「兄ちゃんいるんだ?」
「うん。友だちになりたい人間とだけ話してればまず問題ないから~って」
それはそれで雑だな。薄羽は苦笑した。それで小鳥の健康が守られているなら、まあ、いいか。しかし改めて友人と言われるのは、なんとも面はゆい。口元がにやにやと緩みそうで、薄羽はきゅっとくちびるを引き締めた。
「女の子、女性? が、あんまり好きじゃない」
「あ~なるほど……」
僅かに目を伏せた小鳥に、薄羽はうんうんと頷く。小鳥がもともと女性が苦手なのか、それとも何か嫌な経験をしたのか。それはわからない。だが現在のところ、小鳥の周囲には性別問わずアグレッシブな人間たちが集まっていると薄羽は思う。苦手となるのも不思議ではないだろう。
薄羽だって、自分は小鳥のカノジョだと脛を蹴飛ばしてきたような女性が複数いたらトラウマになる自信がある。
薄羽はだんだん小鳥のことが心配になってきた。いないはずのカノジョがいて、やっていないはずの動画配信がされている。わかっていて放置しているならまだしも、そうは見えない。
「小鳥と仲良くなるのにはルールがあるって言われた。小鳥のカノジョって人に」
「えっ? そもそもカノジョはいないよ」
そう言ってたな。薄羽は頷く。小鳥は混乱した様子で眉間にしわを寄せた。自分の知らないところで、自分のルールを作られている。気味悪くもあるだろう。
「仲良くなるルールの意味も分からない。そもそも俺、この大学での友人は薄羽だけだよ」
「はあっ!? いや、それは、ないだろ……いつも一緒にいる人たちは?」
「誰?」
「いやおれが訊きたいよ」
小鳥の眉根はますます寄っている。そんな顔でも整っているのがすごい。薄羽はぽやっとそんなことを考えながら、そのしわを眺める。カノジョばかりでなくトモダチまでも謎の存在というのはどういうことだろう。さすがに薄羽も混乱する。
いやいや、と顔の前で手のひらを振った。あれを知らない人とするのはちょっとむりがあるのではないか。
「授業前とか、小鳥の肩組んで話している人とかいるじゃん」
「別に友だちじゃないよ。話しかけてくることもあるけど」
「いや、それ、向こうは友だちって思ってるだろ……」
さすがに見知らぬ相手に肩を組んだりはしないだろう。するのか? 薄羽の定義ではしないけれど、自分と小鳥と小鳥の周囲の人間で認識が違う可能性がある。ますます混乱してしまう。小鳥は小鳥で、知らない人間に肩を組まれてもなぜ放っておくのか。
薄羽の疑問に、いつものことだから、と小鳥はけろりと応えた。
「変に反応したほうがうるさい」
「そ、そっか?」
そういえば初めて会ったときも、知らない女性にいきなり腕を組まれてもどれだけ話しかけられても無視を貫いていたな。衝撃的な光景だったので、薄羽は覚えている。
「だから話しかけられてても無視するのか?」
程度というものがあるのではないだろうか。薄羽は思う。もちろん薄羽は小鳥のように始終周囲からあれこれや話しかけられるわけではないから、小鳥の気持ちをすべて理解できるわけではないけれども。
「小さい頃」
「うん?」
「公園か……幼稚園だったか覚えてないけど、初めて行ったところですごく話しかけられて」
理由について話してくれているのか。薄羽は気づいてうんうん、と大きく頷いた。ちら、と小鳥は薄羽を見て続ける。
「ぜんぶ聞こうとしてたら倒れた」
「じゃあ無視してもいいか! ごめん!」
薄羽はいきおいよく頭を下げた。薄羽は小鳥を友人と思っている。あれこれ他人の話を聞かないことで、変に周囲に悪印象を持たれてほしくなかった。エゴではあるとわかっているが、ある程度は対応したほうが自称カノジョなどが幅を利かせるのを阻めるのではないかと考えていた。だが健康を害するのなら話は別だ。
謝らなくていいのに。小鳥は微笑む。
「そのとき兄に言われたんだ。応えなくていいって」
「兄ちゃんいるんだ?」
「うん。友だちになりたい人間とだけ話してればまず問題ないから~って」
それはそれで雑だな。薄羽は苦笑した。それで小鳥の健康が守られているなら、まあ、いいか。しかし改めて友人と言われるのは、なんとも面はゆい。口元がにやにやと緩みそうで、薄羽はきゅっとくちびるを引き締めた。
11
お気に入りに追加
213
あなたにおすすめの小説
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
目が覚めたら囲まれてました
るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。
燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。
そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。
チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。
不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で!
独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。
初心者オメガは執着アルファの腕のなか
深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。
オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。
オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。
穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。
白銀の城の俺と僕
片海 鏡
BL
絶海の孤島。水の医神エンディリアムを祀る医療神殿ルエンカーナ。島全体が白銀の建物の集合体《神殿》によって形作られ、彼らの高度かつ不可思議な医療技術による治療を願う者達が日々海を渡ってやって来る。白銀の髪と紺色の目を持って生まれた子供は聖徒として神殿に召し上げられる。オメガの青年エンティーは不遇を受けながらも懸命に神殿で働いていた。ある出来事をきっかけに島を統治する皇族のαの青年シャングアと共に日々を過ごし始める。 *独自の設定ありのオメガバースです。恋愛ありきのエンティーとシャングアの成長物語です。下の話(セクハラ的なもの)は話しますが、性行為の様なものは一切ありません。マイペースな更新です。*
陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
まったり書いていきます。
2024.05.14
閲覧ありがとうございます。
午後4時に更新します。
よろしくお願いします。
栞、お気に入り嬉しいです。
いつもありがとうございます。
2024.05.29
閲覧ありがとうございます。
m(_ _)m
明日のおまけで完結します。
反応ありがとうございます。
とても嬉しいです。
明後日より新作が始まります。
良かったら覗いてみてください。
(^O^)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる