15 / 42
友人
話し合いをしましょう4
しおりを挟む
「怖くないよ! 小鳥は、あの、小鳥はちょっとぼーっとしてるだけだから!」
ぶんぶんと空の手も、小鳥と繋いだ手も思い切り振りながら薄羽が力説する。その勢いにつられて小鳥がゆらゆらしていることには、薄羽の目には映らず、女子ふたりしか気づかなかった。ブファッと一人は吹き出し、一人は口への字に歪めているのに目が笑っている状態でぶるぶる震えている。
あれ? 薄羽は動きを止める。止まるときも勢いがいいため、小鳥はゆらゆらした。女子たちはフッと吹き出し、体を捻って薄羽や小鳥から顔を隠して笑っている。
「なにしてるの薄羽」
「もー! おまえのことだよ!」
ぎゅう、と薄羽は握った手に力を籠めたが、小鳥はまったく気にした様子もない。握られた手を見て、薄羽を見て、ふーん、と首を傾げた。
「俺?」
「そう! 動画配信してるのかって聞かれてんじゃん」
「してない」
先ほどと同じ回答だが、小鳥は薄羽の目をしっかりと見つめている。薄羽が見つめ返すと、ゆっくり瞬きをして、もう一度答えた。
「してないよ。俺は」
これだけ真摯に応えているのだから信じてもいいだろう。ニッと薄羽は口端を上げると、いまだぷるぷるしながら見守っている女子ふたりを振り返る。
「だってさ!」
「うん。そっかあ」
「わかったよ」
今度は落ち込んだ様子もなく、女子たちはにこにこと薄羽に礼を述べる。薄羽はほっと胸を撫で下ろした。ただでさえ小鳥は目立つ。悪い印象より、いい印象を持ってもらった方がいいだろう。おせっかいかもしれないが、薄羽は思う。小鳥自身の意図しないところで、トラブルが起こる可能性がある。
連絡先交換しない? と女子たちにスマートフォンを掲げられ、薄羽はポケットをまさぐる。顔を覚えてはいなかったが、同じ学年だった。
小鳥ともしたいのだろうか。薄羽はちらっと小鳥を見たが、スマートフォンを出す様子はない。女子たちも苦笑しながら薄羽に向かって首を振った。
「ふたりって仲良いんだね」
「えー? へへ! まあね!」
薄羽はちょっと胸を張る。大学に入学してからの付き合いだが、他人から見ても仲が良いと思われるくらい小鳥が気を許してくれている、というのは嬉しい。近づくなと理不尽に言い募られた後だから、どこか落ち込んでいたのかもしれない。
照れ照れと薄羽が頬をかいていると、むにっと耳を掴まれた。冷たい感触に薄羽は飛び上がる。
「薄羽ってピアスしてるんだ」
「うわっなんだよ小鳥! 急に!」
びっくりした、と睨んだが、小鳥は薄羽の耳をじっと見ている。見ているだけでなく揉んでいる。くすぐったい。
「キラッとしたから目に入って。いままで気づかなかった」
「あう、もう…! じゃ、じゃあ!」
「うん! ありがとう相原くん」
いつまでも耳を揉むのをやめようとしない小鳥に、薄羽はだんだん恥ずかしくなってきた。早く部屋に帰ろう。小鳥はこういうとき、気が済むまでやめないことを短い付き合いの中で薄羽は学んだ。
女子たちは特に食い下がることもなく、さっと手を振ると立ち去っていった。楽しそうに顔を見合わせて笑っている。
「知り合い?」
小鳥が薄羽の顔を覗き込む。どうだろ、と薄羽は首を傾げた。連絡先を交換したから名前がわかったが、薄羽に覚えはない。向こうは小鳥のことだけではなく、薄羽の名前も知っていたようだった。
「話したことはない、と思う」
小鳥が目立つから、一緒にいる薄羽のことも知られているのだろうか。薄羽が悩むのをよそに、小鳥は相変わらず薄羽の耳朶に触れている。
「あんまりふにふにすんなよ~」
薄羽が注意しても、小鳥はどこか上の空で返事をしている。とにかく早く帰ろうと、薄羽は耳に触れてくる小鳥の手を掴むと、自宅への道を急いだ。
その頃には、小鳥を部屋に招いた理由もすっかり忘れてしまっていた。
ぶんぶんと空の手も、小鳥と繋いだ手も思い切り振りながら薄羽が力説する。その勢いにつられて小鳥がゆらゆらしていることには、薄羽の目には映らず、女子ふたりしか気づかなかった。ブファッと一人は吹き出し、一人は口への字に歪めているのに目が笑っている状態でぶるぶる震えている。
あれ? 薄羽は動きを止める。止まるときも勢いがいいため、小鳥はゆらゆらした。女子たちはフッと吹き出し、体を捻って薄羽や小鳥から顔を隠して笑っている。
「なにしてるの薄羽」
「もー! おまえのことだよ!」
ぎゅう、と薄羽は握った手に力を籠めたが、小鳥はまったく気にした様子もない。握られた手を見て、薄羽を見て、ふーん、と首を傾げた。
「俺?」
「そう! 動画配信してるのかって聞かれてんじゃん」
「してない」
先ほどと同じ回答だが、小鳥は薄羽の目をしっかりと見つめている。薄羽が見つめ返すと、ゆっくり瞬きをして、もう一度答えた。
「してないよ。俺は」
これだけ真摯に応えているのだから信じてもいいだろう。ニッと薄羽は口端を上げると、いまだぷるぷるしながら見守っている女子ふたりを振り返る。
「だってさ!」
「うん。そっかあ」
「わかったよ」
今度は落ち込んだ様子もなく、女子たちはにこにこと薄羽に礼を述べる。薄羽はほっと胸を撫で下ろした。ただでさえ小鳥は目立つ。悪い印象より、いい印象を持ってもらった方がいいだろう。おせっかいかもしれないが、薄羽は思う。小鳥自身の意図しないところで、トラブルが起こる可能性がある。
連絡先交換しない? と女子たちにスマートフォンを掲げられ、薄羽はポケットをまさぐる。顔を覚えてはいなかったが、同じ学年だった。
小鳥ともしたいのだろうか。薄羽はちらっと小鳥を見たが、スマートフォンを出す様子はない。女子たちも苦笑しながら薄羽に向かって首を振った。
「ふたりって仲良いんだね」
「えー? へへ! まあね!」
薄羽はちょっと胸を張る。大学に入学してからの付き合いだが、他人から見ても仲が良いと思われるくらい小鳥が気を許してくれている、というのは嬉しい。近づくなと理不尽に言い募られた後だから、どこか落ち込んでいたのかもしれない。
照れ照れと薄羽が頬をかいていると、むにっと耳を掴まれた。冷たい感触に薄羽は飛び上がる。
「薄羽ってピアスしてるんだ」
「うわっなんだよ小鳥! 急に!」
びっくりした、と睨んだが、小鳥は薄羽の耳をじっと見ている。見ているだけでなく揉んでいる。くすぐったい。
「キラッとしたから目に入って。いままで気づかなかった」
「あう、もう…! じゃ、じゃあ!」
「うん! ありがとう相原くん」
いつまでも耳を揉むのをやめようとしない小鳥に、薄羽はだんだん恥ずかしくなってきた。早く部屋に帰ろう。小鳥はこういうとき、気が済むまでやめないことを短い付き合いの中で薄羽は学んだ。
女子たちは特に食い下がることもなく、さっと手を振ると立ち去っていった。楽しそうに顔を見合わせて笑っている。
「知り合い?」
小鳥が薄羽の顔を覗き込む。どうだろ、と薄羽は首を傾げた。連絡先を交換したから名前がわかったが、薄羽に覚えはない。向こうは小鳥のことだけではなく、薄羽の名前も知っていたようだった。
「話したことはない、と思う」
小鳥が目立つから、一緒にいる薄羽のことも知られているのだろうか。薄羽が悩むのをよそに、小鳥は相変わらず薄羽の耳朶に触れている。
「あんまりふにふにすんなよ~」
薄羽が注意しても、小鳥はどこか上の空で返事をしている。とにかく早く帰ろうと、薄羽は耳に触れてくる小鳥の手を掴むと、自宅への道を急いだ。
その頃には、小鳥を部屋に招いた理由もすっかり忘れてしまっていた。
11
お気に入りに追加
205
あなたにおすすめの小説
風紀“副”委員長はギリギリモブです
柚実
BL
名家の子息ばかりが集まる全寮制の男子校、鳳凰学園。
俺、佐倉伊織はその学園で風紀“副”委員長をしている。
そう、“副”だ。あくまでも“副”。
だから、ここが王道学園だろうがなんだろうが俺はモブでしかない────はずなのに!
BL王道学園に入ってしまった男子高校生がモブであろうとしているのに、主要キャラ達から逃げられない話。
推しの完璧超人お兄様になっちゃった
紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。
そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。
ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。
そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
だからっ俺は平穏に過ごしたい!!
しおぱんだ。
BL
たった一人神器、黙示録を扱える少年は仲間を庇い、絶命した。
そして目を覚ましたら、少年がいた時代から遥か先の時代のエリオット・オズヴェルグに転生していた!?
黒いボサボサの頭に、丸眼鏡という容姿。
お世辞でも顔が整っているとはいえなかったが、術が解けると本来は紅い髪に金色の瞳で整っている顔たちだった。
そんなエリオットはいじめを受け、精神的な理由で絶賛休学中。
学園生活は平穏に過ごしたいが、真正面から返り討ちにすると後々面倒事に巻き込まれる可能性がある。
それならと陰ながら返り討ちしつつ、唯一いじめから庇ってくれていたデュオのフレディと共に学園生活を平穏(?)に過ごしていた。
だが、そんな最中自身のことをゲームのヒロインだという季節外れの転校生アリスティアによって、平穏な学園生活は崩れ去っていく。
生徒会や風紀委員を巻き込むのはいいが、俺だけは巻き込まないでくれ!!
この物語は、平穏にのんびりマイペースに過ごしたいエリオットが、問題に巻き込まれながら、生徒会や風紀委員の者達と交流を深めていく微BLチックなお話
※のんびりマイペースに気が向いた時に投稿していきます。
昔から誤字脱字変換ミスが多い人なので、何かありましたらお伝えいただけれ幸いです。
pixivにもゆっくり投稿しております。
病気療養中で、具合悪いことが多いので度々放置しています。
楽しみにしてくださっている方ごめんなさい💦
R15は流血表現などの保険ですので、性的表現はほぼないです。
あったとしても軽いキスくらいですので、性的表現が苦手な人でも見れる話かと思います。
俺にはラブラブな超絶イケメンのスパダリ彼氏がいるので、王道学園とやらに無理やり巻き込まないでくださいっ!!
しおりんごん
BL
俺の名前は 笹島 小太郎
高校2年生のちょっと激しめの甘党
顔は可もなく不可もなく、、、と思いたい
身長は170、、、行ってる、、、し
ウルセェ!本人が言ってるんだからほんとなんだよ!
そんな比較的どこにでもいそうな人柄の俺だが少し周りと違うことがあって、、、
それは、、、
俺には超絶ラブラブなイケメン彼氏がいるのだ!!!
容姿端麗、文武両道
金髪碧眼(ロシアの血が多く入ってるかららしい)
一つ下の学年で、通ってる高校は違うけど、一週間に一度は放課後デートを欠かさないそんなスパダリ完璧彼氏!
名前を堂坂レオンくん!
俺はレオンが大好きだし、レオンも俺が大好きで
(自己肯定感が高すぎるって?
実は付き合いたての時に、なんで俺なんか、、、って1人で考えて喧嘩して
結局レオンからわからせという名のおしお、(re
、、、ま、まぁレオンからわかりやすすぎる愛情を一思いに受けてたらそりゃ自身も出るわなっていうこと!)
ちょうどこの春レオンが高校に上がって、それでも変わりないラブラブな生活を送っていたんだけど
なんとある日空から人が降って来て!
※ファンタジーでもなんでもなく、物理的に降って来たんだ
信じられるか?いや、信じろ
腐ってる姉さんたちが言うには、そいつはみんな大好き王道転校生!
、、、ってなんだ?
兎にも角にも、そいつが現れてから俺の高校がおかしくなってる?
いやなんだよ平凡巻き込まれ役って!
あーもう!そんな睨むな!牽制するな!
俺には超絶ラブラブな彼氏がいるからそっちのいざこざに巻き込まないでくださいっ!!!
※主人公は固定カプ、、、というか、初っ端から2人でイチャイチャしてるし、ずっと変わりません
※同姓同士の婚姻が認められている世界線での話です
※王道学園とはなんぞや?という人のために一応説明を載せていますが、私には文才が圧倒的に足りないのでわからないままでしたら、他の方の作品を参照していただきたいです🙇♀️
※シリアスは皆無です
終始ドタバタイチャイチャラブコメディでおとどけします
告白ゲームの攻略対象にされたので面倒くさい奴になって嫌われることにした
雨宮里玖
BL
《あらすじ》
昼休みに乃木は、イケメン三人の話に聞き耳を立てていた。そこで「それぞれが最初にぶつかった奴を口説いて告白する。それで一番早く告白オッケーもらえた奴が勝ち」という告白ゲームをする話を聞いた。
その直後、乃木は三人のうちで一番のモテ男・早坂とぶつかってしまった。
その日の放課後から早坂は乃木にぐいぐい近づいてきて——。
早坂(18)モッテモテのイケメン帰国子女。勉強運動なんでもできる。物静か。
乃木(18)普通の高校三年生。
波田野(17)早坂の友人。
蓑島(17)早坂の友人。
石井(18)乃木の友人。
運命だとしてもお前とはつがいたくない
わさん
BL
オメガの南野真尋は大学の合格発表日、長年付き合ってきた幼馴染の彼女に振られてしまう。落ち込む真尋の前に現れたのは、同じ大学を受けたアルファの北浦理仁だった。理仁は、自分たちが運命のつがいではないかと言い出すが、真尋は受け入れられない。しかし同じ大学に通う二人は、次第に接点が増え距離が近づいていく。
固定カプですが、モブレ未遂もあるので苦手な方はご注意ください。
ムーンライトにも投稿しております。
【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる