11 / 42
友人
仲良くなるときのルール
しおりを挟む
最近は気温が大分高くなってきて、そろそろ衣替えかと薄羽は考えていた。引っ越しのときの荷物整理が適当だったから、ちゃんと夏服が見つかるかが不安だ。薄羽はふあっとあくびをしながら、空を見上げた。今日は昼前の、この時間の講義がないので暇だ。混む前に食堂に行こうとスマートフォンをポケットから取り出す。秋月たちや、小鳥は選択科目を取っている日だったか。誰か一緒にメシ食うかなとメッセージを確認する。小鳥が今日の日替わりランチオムライスなんだよね、なんて昨日言っていたなと思い出す。
じゃあおれはカレーでも食べようなんて思いながら、薄羽はまたあくびをした。それくらい気が抜けていた。
だからちょっと! と鋭い声と腕を掴む強い力に、ものすごく驚くことになった。
「うおっ」
つんのめったが、なんとか堪えて振り返った先には、細身のかわいらしい女子がいた。爪が長いのか薄羽の腕に食い込んでいてたいへん痛い。
薄羽はもともと身長が低めだ。ヒールを履いている女子には身長を抜かされることもある。今日は同じくらいの身長だった。だがぐいぐい引っ張られれば、踏みとどまりきれない。
「えっ。誰?」
「アンタに言いたいことがあるの!」
「はえ……」
誰だよ。
薄羽はもう一度訊ねたかったが、それよりも相手の剣幕が激しいあまり疑問を飲み込んでしまった。ヒールで足を踏まれかねない雰囲気がある。
「コーくんにベタベタしすぎ! ほんっとアンタ邪魔なんだけど!」
「コーくん? ……もしかして小鳥のこと?」
「何呼び捨てにしてんのよ!」
「イテッ」
足は踏まれなかったがすねを蹴られた。驚きすぎて薄羽はもはや言葉もない。いままで誰かと喧嘩になったところで、そんなことされたことがない。
「コーくんが優しいからって調子乗らないでよ! ちょっと声かけられたくらいでうろちょろしやがって!」
「う、うろちょろって、いや友だちだし普通に」
「はあ!? そんなわけないでしょ!」
「ええ……」
なぜこんなに怒鳴られなければならないのか。怒ってもいいところだと薄羽も思うのだが、とにかく相手がキンキン怒鳴るのを止めさせたい。おそらくまともにこちらの言葉が届かないだろう。薄羽はとりあえず相手に向き合う。
いまは講義のある時間だが、食堂が近かったからだろう、学生も多い。相手の声が大きすぎて、ちらちらと何人かが振り返っている。誰か共通の知り合いでもいれば、仲裁してもらえるかもしれない。薄羽は思ったが、探す前に聞いてるのか、と更に怒鳴られて諦めた。
「コーくんと仲良くなるにはルールがあるの! ルールも守ってないアンタが友だちとか簡単に言わないで!」
「ル、ルール?」
ルールってなんだ? 薄羽は首を傾げる。小鳥はそんなルールの話はしていなかったし、誰かと親しくなるためのルールなどと言われても、薄羽は理解ができない。
わかったかと訊ねられたところで頷くこともできない。
「あのー、結局きみは誰なの」
「コーくんのカノジョよ!! 決まってんでしょ!」
怒鳴るだけ怒鳴り、カノジョと言い切った女子は薄羽の腕を振り払うように離した。空いた手で自分の胸の前で腕を組むと、フン、と薄羽に向かって鼻を鳴らす。
決まってるのかなあ。薄羽は頬をかくしかない。とにかく間近で大きな声で散々怒鳴られ、耳が痛い。相手のほうも怒鳴り疲れているのではないだろうか。最後はもはや声が枯れていたし。
カノジョと言って名乗りもしなかった相手は、結局薄羽の返事を必要としてはいなかったようだ。ヒールをガツガツ鳴らしながら去って行った。
思い返してみれば、小鳥と一緒にいるとき、薄羽を睨んでいる面々の中にいたかもしれない。どうだろうか。薄羽も、睨まれているときだったので、ぼんやりとしか相手の顔を把握していない。
「小鳥のカノジョかあ……」
確かに友だちはいないと言ったが、カノジョがいないとは言っていなかったな。薄羽はスマートフォンを顔の前に掲げ、小鳥とのメッセージ欄を見ながらどうしたものかと溜息を吐いた。
じゃあおれはカレーでも食べようなんて思いながら、薄羽はまたあくびをした。それくらい気が抜けていた。
だからちょっと! と鋭い声と腕を掴む強い力に、ものすごく驚くことになった。
「うおっ」
つんのめったが、なんとか堪えて振り返った先には、細身のかわいらしい女子がいた。爪が長いのか薄羽の腕に食い込んでいてたいへん痛い。
薄羽はもともと身長が低めだ。ヒールを履いている女子には身長を抜かされることもある。今日は同じくらいの身長だった。だがぐいぐい引っ張られれば、踏みとどまりきれない。
「えっ。誰?」
「アンタに言いたいことがあるの!」
「はえ……」
誰だよ。
薄羽はもう一度訊ねたかったが、それよりも相手の剣幕が激しいあまり疑問を飲み込んでしまった。ヒールで足を踏まれかねない雰囲気がある。
「コーくんにベタベタしすぎ! ほんっとアンタ邪魔なんだけど!」
「コーくん? ……もしかして小鳥のこと?」
「何呼び捨てにしてんのよ!」
「イテッ」
足は踏まれなかったがすねを蹴られた。驚きすぎて薄羽はもはや言葉もない。いままで誰かと喧嘩になったところで、そんなことされたことがない。
「コーくんが優しいからって調子乗らないでよ! ちょっと声かけられたくらいでうろちょろしやがって!」
「う、うろちょろって、いや友だちだし普通に」
「はあ!? そんなわけないでしょ!」
「ええ……」
なぜこんなに怒鳴られなければならないのか。怒ってもいいところだと薄羽も思うのだが、とにかく相手がキンキン怒鳴るのを止めさせたい。おそらくまともにこちらの言葉が届かないだろう。薄羽はとりあえず相手に向き合う。
いまは講義のある時間だが、食堂が近かったからだろう、学生も多い。相手の声が大きすぎて、ちらちらと何人かが振り返っている。誰か共通の知り合いでもいれば、仲裁してもらえるかもしれない。薄羽は思ったが、探す前に聞いてるのか、と更に怒鳴られて諦めた。
「コーくんと仲良くなるにはルールがあるの! ルールも守ってないアンタが友だちとか簡単に言わないで!」
「ル、ルール?」
ルールってなんだ? 薄羽は首を傾げる。小鳥はそんなルールの話はしていなかったし、誰かと親しくなるためのルールなどと言われても、薄羽は理解ができない。
わかったかと訊ねられたところで頷くこともできない。
「あのー、結局きみは誰なの」
「コーくんのカノジョよ!! 決まってんでしょ!」
怒鳴るだけ怒鳴り、カノジョと言い切った女子は薄羽の腕を振り払うように離した。空いた手で自分の胸の前で腕を組むと、フン、と薄羽に向かって鼻を鳴らす。
決まってるのかなあ。薄羽は頬をかくしかない。とにかく間近で大きな声で散々怒鳴られ、耳が痛い。相手のほうも怒鳴り疲れているのではないだろうか。最後はもはや声が枯れていたし。
カノジョと言って名乗りもしなかった相手は、結局薄羽の返事を必要としてはいなかったようだ。ヒールをガツガツ鳴らしながら去って行った。
思い返してみれば、小鳥と一緒にいるとき、薄羽を睨んでいる面々の中にいたかもしれない。どうだろうか。薄羽も、睨まれているときだったので、ぼんやりとしか相手の顔を把握していない。
「小鳥のカノジョかあ……」
確かに友だちはいないと言ったが、カノジョがいないとは言っていなかったな。薄羽はスマートフォンを顔の前に掲げ、小鳥とのメッセージ欄を見ながらどうしたものかと溜息を吐いた。
11
お気に入りに追加
205
あなたにおすすめの小説
風紀“副”委員長はギリギリモブです
柚実
BL
名家の子息ばかりが集まる全寮制の男子校、鳳凰学園。
俺、佐倉伊織はその学園で風紀“副”委員長をしている。
そう、“副”だ。あくまでも“副”。
だから、ここが王道学園だろうがなんだろうが俺はモブでしかない────はずなのに!
BL王道学園に入ってしまった男子高校生がモブであろうとしているのに、主要キャラ達から逃げられない話。
推しの完璧超人お兄様になっちゃった
紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。
そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。
ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。
そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
2人の男に狙われてます
おもち
BL
仕事に熱中し過ぎて妻から別れを告げられた高校教師、姫神政宗に2人の魔の手が迫るーー!
▫️沢山のお気に入りありがとうございます♡
▫️過激な表現やモロ語にご注意ください。
教師という職業が好きなので、主人公にはとんでもないことになって頂きますよろしくお願い致します(`-ω-´)
俺にはラブラブな超絶イケメンのスパダリ彼氏がいるので、王道学園とやらに無理やり巻き込まないでくださいっ!!
しおりんごん
BL
俺の名前は 笹島 小太郎
高校2年生のちょっと激しめの甘党
顔は可もなく不可もなく、、、と思いたい
身長は170、、、行ってる、、、し
ウルセェ!本人が言ってるんだからほんとなんだよ!
そんな比較的どこにでもいそうな人柄の俺だが少し周りと違うことがあって、、、
それは、、、
俺には超絶ラブラブなイケメン彼氏がいるのだ!!!
容姿端麗、文武両道
金髪碧眼(ロシアの血が多く入ってるかららしい)
一つ下の学年で、通ってる高校は違うけど、一週間に一度は放課後デートを欠かさないそんなスパダリ完璧彼氏!
名前を堂坂レオンくん!
俺はレオンが大好きだし、レオンも俺が大好きで
(自己肯定感が高すぎるって?
実は付き合いたての時に、なんで俺なんか、、、って1人で考えて喧嘩して
結局レオンからわからせという名のおしお、(re
、、、ま、まぁレオンからわかりやすすぎる愛情を一思いに受けてたらそりゃ自身も出るわなっていうこと!)
ちょうどこの春レオンが高校に上がって、それでも変わりないラブラブな生活を送っていたんだけど
なんとある日空から人が降って来て!
※ファンタジーでもなんでもなく、物理的に降って来たんだ
信じられるか?いや、信じろ
腐ってる姉さんたちが言うには、そいつはみんな大好き王道転校生!
、、、ってなんだ?
兎にも角にも、そいつが現れてから俺の高校がおかしくなってる?
いやなんだよ平凡巻き込まれ役って!
あーもう!そんな睨むな!牽制するな!
俺には超絶ラブラブな彼氏がいるからそっちのいざこざに巻き込まないでくださいっ!!!
※主人公は固定カプ、、、というか、初っ端から2人でイチャイチャしてるし、ずっと変わりません
※同姓同士の婚姻が認められている世界線での話です
※王道学園とはなんぞや?という人のために一応説明を載せていますが、私には文才が圧倒的に足りないのでわからないままでしたら、他の方の作品を参照していただきたいです🙇♀️
※シリアスは皆無です
終始ドタバタイチャイチャラブコメディでおとどけします
転生したら、ラスボス様が俺の婚約者だった!!
ミクリ21
BL
前世で、プレイしたことのあるRPGによく似た世界に転生したジオルド。
ゲームだったとしたら、ジオルドは所謂モブである。
ジオルドの婚約者は、このゲームのラスボスのシルビアだ。
笑顔で迫るヤンデレラスボスに、いろんな意味でドキドキしているよ。
「ジオルド、浮気したら………相手を拷問してから殺しちゃうぞ☆」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる