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出会い
「おっとり」のもたらすもの
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講義が始まると、大学には自分が思っていたよりも人がいるんだと薄羽は気づいた。すれ違ったところで、誰が先輩で同級生なのかまではまだわからない。それでも近くに小鳥がいるとすぐにわかった。周りの視線が同じほうへ向いていくからだ。
小鳥はひとりで遠巻きにされていることもあるし、何人かに話しかけられていることもある。話しかけてる面々はいつも大体同じだから、おそらく友人なのだろう。そういうときは、人の輪が、小鳥ひとりのときよりも小鳥に近かった。ひとりでいるときのほうが近寄りがたいのだ、小鳥は。おそらく表情が乏しいからだろう、と薄羽は思っている。それに無口だ。薄羽自身は会話をしたことがあるから、小鳥の人柄を少しは分かっているが、そうでなければ怯むのもわかる。話しかけても冷たくあしらわれそうな雰囲気がある。小鳥の容姿のせいか、どうにも発せられる一言の力は大きい。礼を言われただけでそんなつもりではなくても心が舞い上がりそうになる。それは薄羽も身をもって実感したし、おそらく図書館への道筋を案内した先輩方もそうだろう。だから簡単に想像ができる。逆に冷たくされたとき、そんなつもりでなくてもものすごく傷ついてしまう。
顔もそうなのだろうが、小鳥のおっとりとした雰囲気によるところが大きいのだろう。丁寧に接さなくては。このひとを不快にさせたくない。そんなふうに無意識に思ってしまう。
今日は小鳥はひとりで、周りから遠巻きにされている日だった。初めて出くわしたカフェテリアのテーブル席で、ぼんやりと雑誌を捲っている。薄羽は壁のようになり始めている人をすり抜け、よ、と片手を上げながらはす向かいに座った。小鳥は少し驚いたように目を見開き、その後微かに、本当に微かにくちびるを上げた。
「こんにちは、薄羽」
小鳥はひとりで遠巻きにされていることもあるし、何人かに話しかけられていることもある。話しかけてる面々はいつも大体同じだから、おそらく友人なのだろう。そういうときは、人の輪が、小鳥ひとりのときよりも小鳥に近かった。ひとりでいるときのほうが近寄りがたいのだ、小鳥は。おそらく表情が乏しいからだろう、と薄羽は思っている。それに無口だ。薄羽自身は会話をしたことがあるから、小鳥の人柄を少しは分かっているが、そうでなければ怯むのもわかる。話しかけても冷たくあしらわれそうな雰囲気がある。小鳥の容姿のせいか、どうにも発せられる一言の力は大きい。礼を言われただけでそんなつもりではなくても心が舞い上がりそうになる。それは薄羽も身をもって実感したし、おそらく図書館への道筋を案内した先輩方もそうだろう。だから簡単に想像ができる。逆に冷たくされたとき、そんなつもりでなくてもものすごく傷ついてしまう。
顔もそうなのだろうが、小鳥のおっとりとした雰囲気によるところが大きいのだろう。丁寧に接さなくては。このひとを不快にさせたくない。そんなふうに無意識に思ってしまう。
今日は小鳥はひとりで、周りから遠巻きにされている日だった。初めて出くわしたカフェテリアのテーブル席で、ぼんやりと雑誌を捲っている。薄羽は壁のようになり始めている人をすり抜け、よ、と片手を上げながらはす向かいに座った。小鳥は少し驚いたように目を見開き、その後微かに、本当に微かにくちびるを上げた。
「こんにちは、薄羽」
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