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出会い

面白いかもしれない同級生

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「えっ……えっ!? 新入生!?」

 薄羽が思わず叫ぶと周りの壁にぶつかったりしている人たちが、ああ~と納得したように頷いている。みんな見慣れていないから、こんなに事故が発生しているのだろう。薄羽が気づいたのは、随分と後のことだった。とにかく今は、目を向くばかりだ。納得できない。

 同じ新入生。同級生? 身長が三十センチの物差しくらい差があるのに? こんなに色気を振りまいているのに同級生?

 そもそもこんな顔のいいやつがいたら、入学式で覚えてしまいそうなものなのに。そこまで考えて、そういえばなんだか妙に人だかりが出来ていたところがあったな、と薄羽は思い出す。近くの面々と、あの人だかりなんだろうな、と首を傾げ合っていた。

「っは~……ごめん、めっちゃでかいし、先輩だと思ってた」
「大学だともう先輩でも身長とかあんまり関係なくないか?」
「いや関係ある。俺はこれから後輩が出来るまでに二十センチ伸びる男だから」

 相手はきょとん、と目を瞬いた後、ふっと顔をやわらかく綻ばせた。それだけで、印象ががらりと変わる。先程までは冷たくて、とっつきにくそうだったのに、途端に人懐っこそうに感じられてしまう。
 薄羽はその笑みを向けられただけで、びっくりするほどの多幸感に包まれ、無意識ににっこりしてしまった。

「えーっとなんだっけ? 図書館?」
「そう。食堂を抜けて行けるって聞いたんだけど」
「俺食堂まだ行ってないわ。ちょっと待って」

 地図地図、と薄羽がリュックに入れていたパンフレットを取り出すと、あの、と前方から声がかかった。薄羽と男は同時に顔を上げる。赤い顔の女子二人組が、ぷるぷるしながらあっち、と人差し指を向けた。

「図書館なら本館挟んで反対側だよ」
「食堂抜けても行けるけど、外から行ったほうが建物見えるからわかりやすいかも」

 そのふたりだけではなく、周囲にいた人たちがぽつぽつとアドバイスをくれる。みんな顔が赤くて声が震えている。

「ありがとうございます」

 小鳥がきっちりと礼を言い、薄羽はその後ろでぴょっこりと頭を下げた。小さく歓声が上がり、薄羽は自分の立ち位置がどういうものかよくわからないままにおお、と感嘆した。
 案内しようかという声も上がったが、男はそこまでは、と首を振って断っている。声が柔らかいからか、断りの文句も優しく聞こえる。声をかけた相手もすんなりと引いたようだった。

 じゃあ自分への用事も済んだのだろうか。立ち去るかどうしようかと考えている薄羽のほうへ、くるりと小鳥が振り返る。薄羽は目を瞬かせた。じゃあ、と別れる雰囲気でもなく、男は薄羽のパンフレットを指差した。ちょうど図書館のページだ。
 一緒に行ってほしいのかな。薄羽はそうあたりをつけた。弟によく『じゃあ薄羽ついてきてよ』と言われるときの前振りに似ていたからだ。

「きみは登録済ませたの?」
「済ませたけど、ついでだから付き合ってやる。暇だし。あと俺相沢な。相沢薄羽」
「相沢か。ありがとう、俺は鷲崎」

 鷲。薄羽は思わず呟いてしまった。

「へー。なんか強そう」
「……そう言ってもらって悪いけど、フルネームは鷲崎小鳥なんだ」
「小鳥?」

 小鳥。薄羽はまた相手の名前を繰り返した。獰猛そうなイメージや、鋭い雰囲気はないが、可愛らしい小鳥というのもまた不思議な感じがする。

「鷲なのに小鳥?」
「あんま連呼されると恥ずかしいんだけど」
「いや、覚えやすくていいんじゃね? ギャップっていうか?」
「薄羽は綺麗な名前だね」
「きっ……」

 冗談で言っているのかと薄羽は混ぜっ返そうとしたのに、小鳥の顔は揶揄っている様子はなかった。何か変なことでも口にしたかとばかりに首を傾けている。
 まさか本気で言っているのだろうか。こんな、十代後半の男の名前を聞いて、綺麗だね、なんて言える男がいるとは、薄羽は想像したことはなかった。相手次第では、何言ってんだよ、と笑い飛ばせたかもしれない。だが小鳥の顔は静かで、ふざけている色がなかった。薄羽は徐々に恥ずかしくなってしまい、頬を掻いた後に、頭を両手で押さえて空を仰いだ。どうしよう。顔が熱い。

「どうかした?」
「……どうもしない」

 どうしよう。薄羽は両頬をぺしぺし叩きながら思う。こいつ、面白いかもしれない。
 連絡先を聞いてもいいかとスマートフォンを取り出した薄羽に、小鳥は一瞬驚いた顔をし、もちろん、と本当に嬉しそうに微笑んだ。
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