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第4章 奴隷儀式

奴隷儀式 決着編

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※このお話からSいっぱい出てくるので略します。スキル名のSは略しません。

SSS=S3
SSSSSS=S6

 バルドがたらちゅんに攻撃をたたきつけた衝撃は、先ほど地面に放った攻撃とは比べ物にならなかった。衝撃で発生した風圧が地面の砂をまき散らしバルドとたらちゅんが見えなくなる。あんなものを食らったらひとたまりもないだろう。旅途は、たらちゅんの元へ走った。たらちゅんが無事なことを祈るだけで他には何もいらないかのように。

 バルドの攻撃はS6級の威力のため、硬質化SSSで守った場合でも差のS3分の威力は後ろのエッグに流れ込む。それがわかっていたバルドは違和感を感じる。本来ならば、エッグがS3級の攻撃を感知すればすぐに儀式終了となっているはずだ。にもかかわらず、まだ儀式は終わっていない。視界が少しずつ晴れる。すると、たらちゅんはバルドの斧とエッグに挟まれて気絶している。しかし、エッグへはダメージが通っていなかった。

「なんだと……!?」

 バルドはなぜダメージが通っていないのか分からない状態に危機感を覚え、一旦その場を離れる。その間に旅途はたらちゅんの真下に到着する。そして、力尽きたたらちゅんは落下し、それを旅途は受け止める。

「大丈夫かたらちゅん!?」

 たらちゅんから返事は無い。意識を失っているようだった。バルドは考えている。なぜS6級の技がたらちゅんに止められたのか。本来ランクがS3離れている場合、五体満足でいられることはほとんどない。ましてやステータスはバルドの方が完全に上だ。つまり、何か別のスキルを付け加え、自分自身とエッグが耐えられるようにしたということだ。

「そのペット、S3級の防御スキルを硬質化以外に持っているのか」

 旅途はバルドに向き直りドヤ顔で答える。

「内緒だ」

 バルドは少しイラっとしたが、すぐに冷静さを取り戻す。

「まあいい。もう一度攻撃すればそれで終わりだ」

 そう言うとバルドはまた足と手に力を込める。その光景を見て作戦会議の内容を思い出す。



--------------------------------



「バルド相手にたらちゅんのスタミナを温存するのはほぼ不可能だと思って良いわ。だから温存なんてせず、どんどんつかっちゃいなさい」

 たらちゅんは頷く。

「たらちゅんのスタミナが0になった時、初めて旅途の出番が来るわ。これならあなたは2分半は戦える」

 そういうと、アネスは特別なスキルで鑑定したたらちゅんのスキルを一つ旅途の頭の中に送った。



☆鑑定送信※鑑定スキルを持っている人は必ず持っているセットスキル

 効果:鑑定スキルで得た結果を一言一句間違えなく他人の頭の中に送ることができる。このスキルは妨害されず、他のスキルでその内容を除くことは出来ない。又、情報を受け取った側に対しても適用される為、その情報を除かれることは無い。



--------------------------------



 残り時間は2分半。アネスが言っていたタイミングは今しかないと旅途は感じていた。

「たらちゅん、力を借りるぜ」

 旅途はたらちゅんのおなかを優しく押した。すると、突然たらちゅんが光りだした。

「な、なんだこの光は!?」

 さすがのバルドも驚いている。

「だが、何が来ようとS6技をもう一度止めるのは不可能だろう。終わりだ!」

 バルドは先ほど放った攻撃をエッグに向けてもう一度放つ。しかし、本来ならエッグに攻撃をしているはずのバルドはなぜか地面にに転がっている。

「……!?」

 エッグの前には盾2つを持ち鎧をまとった旅途の姿がいた。バルドは旅途に攻撃を弾かれていたのだ。たらちゅんのスキル装備変身SSSを使用されて。

「本当に出来た……」

 旅途は鎧をまとうのに恐怖していた。しかし、鎧の効果で呪いの苦しみから逃れることができているのだ。



☆装備変身SSS

効果:レア度SSSの鎧、剣、盾のセットに変身できる。自分が信頼している相手でないと装備できない。このスキルを使用している間は他のスキルを使用できない。

 ■たらちゅんの鎧SSS

  効果:SSS級の防御力を誇る。ステータスが倍になる。又、装備中は如何なる苦しみも受けなくなる。※効果自体は進行する

    例)毒状態の場合、毒のダメージは進行するが、毒によるパフォーマンス低下はしない。

 ■たらちゅんの剣SSS

  効果:SSS級の攻撃を誇る剣。ランクが負けていてもステータスが勝っている場合、相手の防御を弾くことができる。

 ■たらちゅんの盾SSS

  効果:SSS級の防御力を誇る。ランクが負けていてもステータスが勝っている場合、攻撃を防ぐことができる。



「この装備本当にすごいな。これなら俺も戦える」

 3分以内に装備解除しなければ呪いで死んでしまうため、ある意味ウ〇ト〇マ〇よりも条件が厳しい。しかし、騎士団長バルド相手に引けを取らないような強さを手にし、旅途は戦闘意欲が高まっていた。両手に持った盾2つを剣に変換し、バルドにとっしんする。ステータスが倍になっているため、もちろん素早さも上がっている。その素早さで瞬時にバルドとの間合いを詰め、切りかかる。しかし、いち早く察知したバルドは、間合いを詰める直前に旅途の左手に当たるように斧を振っていた。

「甘いぜっ!」

 旅途も負けじと反応し、斧を剣で弾く。しかしそれも計算済みだったバルド。方向転換Sを使用し、弾かれた腕をそのまま旅途の足に向け方向転換する。持っている剣では弾くのが間に合わないため、すぐさま後ろに飛び、距離を取った。バルドの斧は空を切り、衝撃波が旅途に向け放たれる。再度剣を盾に変換し、その衝撃波を防いだ。

「だいぶ早いな。あの鎧がステータスを上げているのか……?あと、剣と盾を変えているあれはなんだ?変換しているように見える。あのペットは装備になるスキルを使用中だ。変換しているのは恐らく裸男のスキルだろうな。やっかいだ」

 バルドはこの一瞬でのやり取りで旅途の戦闘スタイルを把握し、旅途のスキルまで考え付いていた。そう。旅途は物質変換SSSを使用し、たらちゅんの剣と盾を自在に変換して戦っていた。これはもちろんアネスの思い付きである。

(俺のスキルとたらちゅんの装備変身。それにアネスの頭脳が加われば戦闘に関しては負ける気がしない……!)

 この儀式は相手を倒せなくても5分耐えれば奴隷側の勝ちとなる。それでいて戦闘もほぼ互角に渡り合えている旅途は勝ちをほぼ確信していた。会場の国民やアネスでさえそう感じており、バルドでさえ残り時間で巻き返すのは厳しいと感じていた。しかし、この戦いをこっそり眺めていた1人だけはこのままだと旅途が死んでしまうことに気付いていた。

(旅途くん!すぐにその鎧を脱いで!!)

 旅途の頭に直接語り掛ける聞き覚えのある声がする。

「えっ!?」

(早く!)

 旅途はわけもわからず混乱するが、その声の主が女神であることはわかっていた。この状況このタイミングで鎧を脱いでしまうと、確実にバルドに付け込まれる。しかし、女神の焦りように旅途は不安になり、すぐにたらちゅんの装備を解除した。

バシュンッ

 音を立て、たらちゅんは元のタランチュラの姿に戻る。すでに気絶からは復帰していた。突然の装備解除にアネスは驚きを隠せていなかった。そのアネスの動揺をバルドは見逃さなかった。

「アクシデントでも発生したか!」

 バルドはすぐさま両手で斧を握り、足に力を込める。それを見たたらちゅんはかなり焦り、旅途の肩に飛び乗る。

(どうしたんだ旅途!なぜ装備を解除した!手遅れになるぞ!)

 しかし、旅途にその声は届いていなかった。突然、旅途はその場に倒れる。それを見たバルドは驚きの様子で溜めを解除した。

「どうしたんだ」

 バルドは旅途に慎重に近寄る。たらちゅんは寄ってきたバルドに威嚇をするが、バルドは優しくなだめる。

「倒れた相手に武器を向けることはしない。大丈夫だ」

 そう言いながら旅途の脈を計る。どうやら生きてはいるようだった。しかし、完全に気絶している。

「なぜこいつは急に倒れたんですか、アネスお嬢様」

 バルトはアネスに問いかける。アネスはスキルで旅途を覗いた。ステータス上は何も変なところは無く、HPも気絶するほど減っていなかった。

「異常が無いのに気絶って……。もしかして死の呪い……?」

 残り時間は1分半。たらちゅんにはスタミナは残っておらず、旅途も気絶。儀式はこの時点で終了した。



-----------------------------



 体がとても軽い。まるで霊体になった気分だ。俺、なにしてたんだっけ。そうだ儀式。儀式はどうなったんだ。

バッ

 旅途は目を開け勢いよく体を起こす。女神に貰ったベッドに寝ていたようだった。体はとても軽い。ふと部屋にかかっている時計を見ると、ちょうど0時になったところだった。

「なんでベッドで寝てるんだっけ……」

 頭を抱えながら考えるが、たらちゅんの装備を解除してからの記憶が無い。旅途はベッドから降り、部屋を見回した。部屋の隅に何も入っていない大きな虫かごがある。部屋の1/3は占めている。中はアスレチックのようになっており、たらちゅんが暮らすにはちょうど良さそうなサイズ感になっている。ほかにも小さめのベッドや本棚。じゅうたんは女の子らしいものが引いてある。

「この部屋、もしかしてアネスの部屋か……?」

 その時だった。物陰から何者かが旅途の首に向かって飛んできた。

「ぐおっ」

 それは妖精の姿をした女神だった。

「い゛き゛て゛て゛よ゛か゛っ゛た゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」

 女神は旅途に鼻水をまき散らしながら泣きつく。裸の旅途は女神の鼻水でぐちょぐちょになっている。

「ちょっと待て落ち着け女神!!大丈夫だから!!」

 なんとか女神をなだめた旅途は改めて女神に状況を聞く。

「あの時装備脱げって言ったの女神だよな?装備脱いだら記憶無くなったんだけど、何が起こったんだ」

「呪いの作用で体が耐えられなくて倒れたのよ」

 呪いにも数種類ある。指定された行動が行えなくなる「動的呪い」、ステータスが制限されてしまう「状態呪い」、条件を満たすと死んでしまう「死の呪い」、どれにも属さない「希少呪い」。バルドの武器必須XXXは「動的呪い」、たらちゅんのスタミナ固形化XXXは「状態呪い」、旅途の着用不可XXXは「死の呪い」に該当する。

「その中でも死の呪いは、条件を完全に満たしていなくてもその過程で体を蝕んでいくの」

 旅途には心当たりがあった。この世界に来てすぐ、毛布にくるまった際に心臓周りがしんどくなったあの現象。あれが死の呪いの蝕みである。

「それが残り時間2秒のところだったんだからほぼ死んでるも同然だったの!本当に危なかったんだよ?」

 旅途はそれを聞いてギョッとした。その日、旅途は服を着た覚えはなく、鎧も30秒ちょっとしか着用していない。

「どういうことだ?俺3分も鎧付けてなかったよな!?」

 女神はきょとんとしていた。

「朝、この世界に来てすぐ呪い受けたじゃない」

「え」

 旅途は勘違いをしていた。エデンの仲間に眠らされ、牢獄に入れられ、目を覚ました時点ですでに日付が変わっているものだと思い込んでいたのだ。

「じゃあ儀式は!?」

 妖精は悲しそうな顔をして答えた。

「旅途達の負けになった……」
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