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本編

イザリくんといっしょ!①初めてのキスは、血の味でした

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学校一のチャラ男の脅しに屈し、…じゃなかった、大学一カッコいいイザリくんの提案を受け入れ、俺はパシリ…もとい、『カノジョ』としての生活を余儀なくされていた。
 
「今日の部活ガチできつかった~、メシは?温めて。」
「はい!」

「ちょお、タオルも着替えも切れてるんやけど。ちゃんと替え置いといて。」
「…はい!」

「洗濯モン溜まったからこの分回しとって。」
「はい。」

「洗いモンも片しといて。」
「…………はい。」
 
「オレ先行くからカギ閉めといてな。じゃ。」
 
パタンと閉まるドアの音をこの耳にしかと聞き届けてから叫ぶ。

「そんっくらい自分でやれやッ!!」
 
 誰もいなくなった部屋の中、持っていた手拭きのタオルをベシッと思い切り床に叩きつける。

 無論、本人には口が裂けても言えない。なぜって?最初に抵抗したときは、あの大きな手でまるでバスケットボールを掴むがごとくいとも簡単に片手で頭を握られ、泣きながら『ごべんなしゃい゛』と謝るまでギリギリと締め上げられたし、その次に抵抗したときなんかチンコを容赦なく握り潰されかけたからだ。思い出すだけでも玉ヒュンを起こす、凄惨な事件だ。だから本人を前にして愚痴るなんて、怖すぎて命がいくつあっても足りやしない。
 
 それにしても、これはもう『カノジョ』の扱いではない。悲しいかなどう考えても俺は完全に都合の良い“奴隷”としてこき使われているだけではないか!
 おかげで今では毎日イザリくんの部屋に行かないといけないし、滞在時間も回を追うごとに増えていってるため、なんならお泊りした方が効率が良いまである。まだしたことないし、お泊まりなぞ絶対にしたくもないが。
 
 まさか妹にもこんな酷い扱いをしているのではあるまいなと思って真波に連絡を入れてみたら、「めっちゃ紳士的で優しい彼氏」とのことだった。ちなみに妹の彼氏が俺の大学の同級生だったことまでは打ち明けている。
 嘘だろ?もしかしてそれぞれが別人と会ってるんじゃないかと勘繰ってのろけついでにデートの写真を送ってもらったらそこにはなんとまごうことなき妹とイザリくんが映っているのである。
 なあイザリくん、君は二重人格者なのか?妹に優しくできるんなら俺にだって優しくしてくれてもよくない?ねえ?
 まったくもって世の中には摩訶不思議なこともあったものだ。あのイザリくんが優しくて良い彼氏なんてマジで信じられん。
 
 ただ、それでも彼について擁護することがあるとすれば、一つだけ。
 イザリくんは料理だけは自分でする。そこだけは助かる。

 なぜそういう結論になったかと言えば、それは俺がとてつもなく不器用なせいで料理が大の苦手分野だからだ。
 一度「肉じゃがが食べたい。」とのたまう彼のために食材を買って来たはいいものの、作るのに不慣れなせいでYouTubeで“六つ星監禁レストラン”さんの動画を見ながら右往左往していた。すると「誰殺すつもりやねん。グーで包丁持つヤツ初めて見たわ。」と言いながら俺の悪戦苦闘する姿を見かねたイザリくんは、「キミにこんなん持たしたら自分刺しそうで怖いから。」という理由で俺から調理器具一式を奪い、物凄い手際の良さであっと言う間に料理を完成させたのだった。
 勉強も運動もできる人は器用だから料理もできるんだと感心したものだ。褒めて遣わす。
 
 そんなこんなでイザリくんのカノジョ代行を請け負って数週間が経ったころ、俺が雑談がてらその時のことを思い出して「あのときの肉じゃがが如何においしかったか」について話を振りつつ部屋の端の方で洗濯物をたたんでいると、彼はゆっくりとした動作で近づいてきて、突然、まるでそれがなんでもないことかのような軽い口調で言った。「口貸して。」と。
 
 耳貸してなら分かる。
 --クチカシテって何??
 
 聞き慣れない単語にどういうリアクションを取ればいいのか迷っていると、痺れを切らしたイザリくんが有無を言わさない力で顎を掴んで来て、俺の視界はほぼ何も見えなくなった。

 俺だって抵抗しなかった訳じゃない。いきなり塞がれた口にびっくりしてイザリくんの体を突き放そうと肩をグイグイと押してみたが効果なし。細身な見た目の割に意外と分厚い胸板を割と強めにドンドンとドアを叩くように合図を送るがそれも無視。

「……っ、ふ、んん!……むぐぅ!……」

 体格差と言うものをご存じだろうか。俺の体が特別小さいわけではない。身長190cmに届かんばかりに成長し過ぎたイザリくんがデカすぎるのだ。そんな巨体と背中の壁に抑え込まれた体では、抵抗どころか身じろぎすることすらままならなかった。

 俺よりもはるかに太くて長い舌で好き勝手咥内をねぶられる。時折、ほんの少しだけ顔を離して角度を変え、性器みたいに舌を舌で強くしごかれ愛撫される。飲み込みきれず溢れてしまった唾液もそのままにキスを続行するイザリくんに、俺はまだ、自分が何されてるのか実感が沸かなかった。キスの経験が皆無な俺にとって初キスがべろちゅーなのはあまりにも刺激が強すぎる。

 あと正直あまり他人の唾液を飲みたくないのだが、条件反射で自然とごくりと嚥下してしまい、イザリくんに無理矢理流し込まれた唾液が喉に染み渡る。それ自体はあまり気持ちの良いものではないのだが、イザリくんの舌使いがあまりにも巧みで、いやもはや大聖堂の壁画を担当する巨匠レベルのテクニシャンで、俺は体の中心が熱くなり、呼吸もどんどん浅くなる。はっはっはっと必死に息をする様はまるで犬のようだっただろう。

 口を口で塞ぐなんて恋人じゃあるまいし、と俺は思ったが、そう言えば俺たちは彼氏とカノジョ代理の関係で、一応俺がカノジョ役なんだった。だったらこういうキスも有りなのか? “こういう”というのは、実際が男と男同士でも、いちおう俺たちの設定上は彼氏と“カノジョ”だからセーフ?…いや、待て。待て待て。何かがおかしい。“何か”というよりもはや全てがおかしいのに、頭に血が上ってきたのか、朦朧とした頭では思考が全くまとまらない。

(イザリくんって、男もいけるんだなあ……)

 俺のせいで他の選択肢を奪ってしまったのもあるけど、カノジョ代理をさせてるとはいえ、まさか男相手に手を出してくるなんて本気で信じちゃいなかったのだ。こ…、こんなことになるって知ってたなら日頃からもっと警戒しておくべきだった。

 肉食獣がガッツくような、それでいてテクニックがあるせいで繊細に仕上がっているキスを前にして日頃の行いを反省する俺に、イザリくんがさらに激しい猛攻を仕掛けてくる。ひっこみがちな俺の舌を根元から舐め上げ先端の方まで、まるで精器をしごくように圧迫しながら絡めとられる。
 快感が足の付け根のあたりから込み上げてきて、背筋がゾクゾクと震える。

 酸欠の状態でぼんやりとイザリくんの明るい茶の前髪を眺めていたら、突然口を離された。またいつ息継ぎができる機会が来るか分からないため、その隙に必死に酸素を取り込む。

「キミ、ちゅーするときも普段通りに鼻で息しいや。」
「へ?……あ、そっか。い、言われてみれば!」

 その通りだった。確かに口は塞がれてはいるが、鼻は塞がれていない。口が塞がれているからてっきり息ができないものだと思い込んでいたが、こんな単純なことに気付かなかったなんて…!
 「こんなんジョーシキやろ。」とでも言いたげな目を俺に向けるイザリくんに何とか弁明を試みる。

「だ、だって知らなかったんだ…!き、キス……とか、初めて…だしっ!」
「…………。」

 俺が自身の経験の無さを正直に告白した瞬間、パチクリと瞬くイザリくんの赤茶のアンバー色な瞳と目が合った。しばらく俺を無言で見つめたあと、イザリくんは「ふーーーー。」と天を仰いで長めに息を吐く。
 その態度に少し傷つく。

「い、今、絶対、呆れたでしょ。…ひ、ひどい!俺正直に言ったのに…ば、バカにしたんだ!」
「…うっさいな。別にしてへんわ。」

 するりとした感触が喉仏を撫でた、「それはホンマ。」と言いながら。反射的に体がビクッと震えてしまう。イザリくんの手だ。大きくて長くて。太くてゴツゴツしてるのに、俺に触れるその手つきは、いつもの乱暴さとは打って変わってまるで壊れ物を触るかのように優しい。ハムスターを覆うようなふんわりとした、けれど同時にしっかりとした手つきで。
 その大きな左手で、俺の首をそっと握り込む。

「んっ!…ちょ、な、なにして…!?」

 そして次の瞬間、俺は目を見開いた。イザリくんの反対側の手が、俺のシャツの中へと侵入して来たからだ。必死にシャツの裾を下に引っ張って遮ろうとするが、そんなことでひるむイザリくんではない。背中には壁、目の前には大男。せめてもの思いで身をよじろうとしても、イザリくんの左手が首を支えているおかげで体をこれ以上離せない。

 わざとゆっくりと、腰、腹、やがて胸部まで到達した手は、まるでそうすることがさも自然なことのように俺の胸の突起を弄ってくる。クニクニと先端を親指で押し潰し、 胸を揉みしだく手の感触は妙にリアルだった。気持ち悪いと思いたいところだが、悔しいことに、ぞわぞわと腰のあたりから得も言われぬ快感が昇ってきて、体全体が熱を持つ。股間の辺りが特に。

 なんだこれ、なんだこれ。女の子じゃない、男なのに胸を揉まれて気持ち良いとか……俺、完全に変態じゃん!

「っ、ぅ、や、め……ッんんむ……ッ」

 恥ずかしくて、情けなくて、抗議しようと開いた口は、イザリくんの形の良い唇によって再び塞がれる。一瞬パニックになったが、今度こそ鼻で息をすることを心がけていると、イザリくんがふっと笑った。

「そーそー、上手に息継ぎできてるやん。」
「っ…!」

 その微笑みがあまりにも妖艶で、美しくて、顔に血が昇って熱くなるのが自分でも分かる。―…その時だった。

「うわ!血ィ!」
「へ?」

 ポタリとTシャツに赤い斑点が、口には鉄の味が広がる。どうやら鼻血を出しているらしかった。「もお、しゃーないな。」とどこか嬉しそうにぼやくイザリくんにその辺にあったティッシュを数枚、鼻に押し込まれる。こういうところ、雑なんだよなあ。

「一体どんなエロい想像したらそんなタイミングで鼻血出んねん。キミ見た目通りのムッツリやなあ。」

 くつくつと笑うイザリくんには申し訳ないが、俺の頭にあったのは、ただ。

「ごめん。イザリくんが笑った顔が、優しくて。」

 ただ、イザリくんのことだけだった。
 
 正直にそう言うと、返事が返ってこない。
 イザリくんは無言のまま膝立ちになってカチャカチャと自身のベルトを外し、俺の腕を掴んで体をを上に引っ張り上げたかと思うとこちらのズボンと一緒にパンツも無理矢理ずり下げてきた。
    恥ずかしがる暇も与えず、イザリくんは自身のご立派なモノと俺の平凡なイチモツを大きな右手を使って同時にしごき始めた。逃げられないよう俺を壁に押さえつけ、左手は俺のぷっくりと腫れた胸の突起を弄りながら。
 
「あ!ちょ、んッ!イザリくっ、ま、待って…ッ!」
「はーー、もう、この奇跡みたいな顔面に見惚れて鼻血出すとかマジでありえんわ。どんだけ俺の顔好きやねん。顔だけ好いてくるやつなんかお断りでーす。こちとら中身で勝負してまーす。」
「ひっ、だめ、だ、っめぇ、出ちゃう!でちゃうから!離して、お願い、はなしてッ、あ、」
「出してまえこのド変態。女の子みたいな勃起乳首カリカリされてキャンキャン喘ぎながら無様にイってまえ。」
「っあ!、あ~!」

 体が硬直し、ビクビクッと大きく揺れたあと、俺はイザリくんと共に体の中心から、その先端から、白濁の粘着質な液体を吐き出した。

 こんなことがあったからと言って、別段俺たちの関係が変わったわけではない。
 彼氏と、カノジョ代理。
 しかしこの一件以降、イザリくんは俺に対してえっちなことをするようになったことが唯一の変化と言えるだろう。
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