能力を鑑定してもらったら『座敷わらし』だと言われた ～『ざまぁ』や『追放系』の主人公と同じ能力ってなんですか！？～

16.夕食の仕込み

イブキさんが帰ってきたので、3人で夕食の仕込みをすることになった。

「しっかり食べたい人は宿の外で食べてくるから。この宿で出すのはお酒の肴になるような一品だけだよ」

と、イブキさんは言っていたけど。私はイブキさんが作る料理が好きだ。
今回作るのは『ギョーザ』という料理なんだとか。イブキさんの故郷で食べられていた料理らしい。
小麦粉をこねて作った丸い皮に、挽肉と調味料に野菜を加えた餡を包んで焼くとのこと。

「小麦粉に水と塩を加えて、そぼろ状になるまで混ぜまして……コーザワさん出番です」
「何すりゃいいんだ？」
「耳たぶくらいの固さにになって一つにまとまるまで、折りたたむように捏ねていってください」
「まかせろ！」

イブキさんが用意した生地の元をコーザワさんが捏ねていく。

「僕らは中に入れる餡の準備をしようか、シワラちゃん」
「了解です！」

イブキさんが塊の肉を魔法樽に置いてしばらく待つと、樽の上で風魔法が肉を切り裂き挽肉が出来上がった。
出来た挽肉をボウルに入れて、調味料と混ぜてイブキさんが練り始める。
その間に私が野菜を魔法樽の上に置いて細かくカットしてもらう。

「挽肉に調味料がよく混ざったら、水と細かく切った野菜を後から混ぜあわせて、しばらく寝かせて餃子の餡の完成だよ」
「水を入れる理由はなんですか？」
「こうすることで餡の肉汁が豊かに仕上がるんだって」
「へぇー。なんだか美味そうなモノが出来上がりそうですねー」

葉物と香味野菜が入ったお肉の餡が脂で光っている、これだけを焼いても十分に食べられそう……。ゴクリを唾を飲む。
コーザワさんが手際よく捏ねていった生地も一つにまとまった。

「生地に濡れ布巾をかけて、しばらく待ちます。待っている間に休憩しようか、お菓子を買ってきたから食べよう」
「わーい！」

洗い物をして、イブキさんが買ってきてくれたお菓子をお茶請けにして休憩時間となった。

「『ギョーザ』でしたっけ。私の故郷にもよく似た料理がありますよ。小麦粉の皮でお肉の餡を包んでいくのは一緒ですけど、焼くのではなく茹でたりスープにしたりですが」
「シワラちゃんのところでは、そうやって食べるんだ。餃子の本場でもそうやって食べるらしいけどね。今回は、僕が食べ慣れた焼き餃子だよ」
「本場……？」

はて？　『ギョーザ』の本場とは……？
いえ、何かワケありなイブキさんの故郷に関することはあえて聞きませんけれどね！

「俺は遠征先で、揚げたのやら蒸したのも食べたことがあるな。中身も肉以外にも芋だったりチーズなんかもあったぞ」
「へぇー！　それぞれ美味しそうですね！」
「世界のあちこちに似た料理があるんだね。色々変わりダネに挑戦してみるのも面白そうだなぁ」

トップクラス冒険者のコーザワさんは、単独でギルドからの上級の依頼も含めて受けているらしい。
だから、さまざまな地域へ行って色んなものを見聞きしているのだろう。
いいな、私もまた冒険に出かけたいなぁ。

「さて、もうそろそろいいかな。次は皮の成形だよ。僕とシワラちゃんが皮を作るから、コーザワさんは包んでくれますか」
「お、おう」

イブキさんは台に粉を振り、その上で寝かせた生地をカットする。小さくした生地を太めの棒を転がして生地を押し潰して丸く成形して皮にした。
見本として、その皮に餡を包んでみせる。

「まず皮の真ん中に少し餡を置いてください。真ん中で二つに折るようにして、こうやってヒダを作って……」

小麦粉の生地にヒダをいくつも作ってから餡を包んでいる、出来たものは半円状の初めて見る形状だった。
コーザワさんも見よう見マネで包んで見るけれど……。

「だー！　出来ねぇ！！！」

コーザワさんが包んだギョーザは、豪快に皮から餡が飛び出していた。一目でお客さんに提供できる状態ではないことは分かる。

「捏ねるとかはいいんだけどよ！　こういうチマチマした作業は向いてねぇんだよ、俺は！」
「数をこなすと慣れるものですが、このままだとコーザワさんが出来るようになる前に材料が尽きそうですね。と、いうことで、コレを使ってください」

そう言って、イブキさんが取り出したのは丸くて周辺にギザギザのついた見た事もない器具だ。

「これに皮を乗せて、さっきと同じように真ん中に餡を乗せてこの器具を二つに折り畳みます」

ギョーザの皮と餡が入った器具をイブキさんはギュッと押す。

「押し付けて開くと餃子が成形できます。簡単ですね」
「おぉー！」

綺麗に成形できたギョーザに感嘆の声が上がる。

「おい、イブキの兄ちゃん。そんな便利なモンがあるなら、最初からそれを出せよ」
「手作業のやり方も説明しておきたかったし、最初からこれを出したら器具の有り難さが分からないじゃないですか」
「前々から思ってたけどよ、割とお前さんいい性格してるよな……」

なんだかんだでコーザワさんがギョーザを綺麗に包めるになったので、3人でせっせとギョーザを作っていく。

「皮もたくさんできたし、あとは1人で皮を作るから、シワラちゃんは包む作業をやってくれるかい？」
「はーい」

ギョーザの成型機はコーザワさんが使っていたので、さっきイブキさんがやっていた通りに皮に餡を包んでいく。

「うおっ！　シワラの嬢ちゃん、手際がいいな！」

コーザワさんが成形機でギョーザを2個包んでいる間に、私は手作業で3個包んでいる。

「そりゃ、ドワーフの血を引いていますから！　この作業に関しては一流冒険者のコーザワさんより上手ですよ」
「見事な自慢顔だな嬢ちゃん。まぁコレに関しては完敗だよ」

それを聞いて私はさらにドヤ顔でギョーザを包んでいく。

「そういえば、ギョーザのヒダはなんの為にあるんですか？」

言ってはなんだが、このヒダがない方が早く出来上がる。
コーザワさんも二つ折りなら包めると思うんだが。

「味に関しては、ヒダがあってもなくても変わらないけど。水分と脂が外に出ていかないように皮が閉じられていれば、ヒダの有り無しに関わらず綺麗に焼けるよ」
「ヒダいらねぇのかよ！」

ギョーザを成形しながら、コーザワさんがツッコむ。

「餃子の形は昔のお金の形に似せてあるんだって。『お金に恵まれるように』って願いを込めた縁起物でもあるんだよ」
「縁起物ってぇなら、あやかれるようにしっかり作らないとな！」
「ですね！」

俄然ヒダを作る作業に気合いが入る。

「冒険者っていうのは、縁起とかゲン担ぎとか、もの凄く気にしますよね……」

私たちの気合いの入れかたにイブキさんがちょっと引いている。

「冒険者は、冒険に出たら予見できない危険と隣り合わせだからな。それこそ『運』頼りな時もある。まじないでもなんでも出来ることはやっておくんだよ。特性値の『運』が低いヤツなんかは特に熱心だな」

それを聞いて、イブキさんがこっちをジッと見てる。
ハイ。私は特性値の『運』が『ギリギリ死なない程度』の者ですからね。

「それにギョーザは金の縁起物なんだろ？　金に恵まれてぇからな」
「私もお金を貯めて冒険者に戻りたいですー」

成形しながら、コーザワさんは不思議そうな顔をする。

「嬢ちゃんは何度か冒険へ出ている感じだよな？　俺と違って金遣いも荒そうに見えねぇんだがどうしたんだ？」
「ははは……。それがですね……」

コーザワさんに、ここに来るまでのあらましを語った。


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※餃子の作り方、豆知識は漫画やテレビ番組、WEBサイトを参考にしています。
科学も学べる漫画『ヤンキー君と科学ごはん』が個人的に面白いのでおススメ。