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オルテンシア城②

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 ラウレルはきっと間もなく、ビオレッタを救いにやって来る。

 少なくとも、ビオレッタの身柄をここから移したほうが良いのは確実だ。
 ひと気の少ない森や山なら、被害を最低限に抑えられるかもしれない。その事を誰かに伝えたいが……

「そんなことを言って、その機に乗じて逃げるつもりなのだろう」

 牢屋番の兵士に伝えてみても、全く取り合ってもらえなかった。
 ただ、信用されなくても無理はない。ビオレッタは、ここより粗末なところに自分を監禁しろと言っているのだから。

「そんな……どうすれば」


 ビオレッタが途方に暮れていると、廊下の奥からカツンカツンと足音が聞こえてきた。
 地下牢に相応しくないヒールの音は、ゆっくりとこちらへ向かってくる。

「姫様! なぜこのような所にいらっしゃったのです」

 廊下の奥で、牢屋番と女性の言い争う声がした。

(姫様……?)

 なんと、女性側は姫のようだ。
 オルテンシアの姫といえば――妖精のように美しいと評判のコラール姫。ラウレルとの縁談が進められている張本人だ。

「わたくしは囚われた女性に会いに参りました。さあ、おどきなさい」

 強い語気で牢屋番の兵を押しのけ、しとやかな足音が近づく。

 薄暗い通路からビオレッタの目の前に現れたのは……世にも美しい珊瑚色の髪を持つ美女だった。
 彼女は淡いピンクのドレス姿に、ガラスの靴を履いている。本当に、妖精のような愛らしさだった。

(この方が、オルテンシア王国のコラール姫……)

 コラール姫は牢の中にいるビオレッタの姿をとらえると、眉を下げ、鉄格子に走り寄った。

「ひどい……! 何の罪もない方を、このような場所へ閉じ込めるなんて」

 彼女は急いで牢の鍵を開け、ビオレッタを解放してくれる。 

「えっ……いいのですか」
「いいもなにも、あなたは被害者ですわ」

 コラール姫は玉座の間にて聞いてしまったらしい。
 ラウレルの恋人をさらい、引き換えにコラール姫と結婚させてしまおうという話を。

 実の父である王と、信頼していた大臣が、このような卑劣な計画を立てていた。
 話を聞いてしまったコラール姫は、深くショックを受けた。そして、そのようなことがあってはならないと、姫自らビオレッタを助けにきてくれたのだ。

「姫様直々に、ありがとうございます」
「いいのです……謝っても許されることではないけれど、王がごめんなさい」

 コラール姫に謝られてしまった。彼女自身はなにも悪くないのに。

「お止めください、コラール姫が謝ることは何もないではありませんか」
「いえ、頭の固い父ではあったけれど、まさかこのようなことまでするとは思ってもみなかったのです……わたくしの考えが甘かったわ」
 
 コラール姫の目には涙がにじんでいた。余程傷付いたのだろう。優しいコラール姫なら尚更。彼女の身の上を考えると胸が痛む。

(そうだ……姫なら、私の話を聞いてくれるかも)

「コラール姫。おそらくもうすぐ……ラウレル様がオルテンシアまで助けに来てしまいます」
「よかったわ! 助けに来てくれるのね?」
 
 コラール姫は、ぱっと顔を明るくして喜んだ。
 そうなのだ。普通ならその反応だ。
 ただラウレルは普通では無い。
 脅威的な速さで魔王を倒した、最強の勇者だ。

「すごく、王に対して怒ってると思うんです……」
「当たり前だわ? 愛する人を拐われたんですもの」
「その、ラウレル様は怒りが、尋常ではなくて……姫だけでも逃げませんと」
「え? ……きゃあ!」


 
 時間が刻々と過ぎていく中。
 ついに地上から、地響きとともに稲妻の落ちるような爆音が轟いた。
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