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おもてなしの心
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「ねえ道具屋さん、その指輪綺麗ね。売ってないの?」
今日は珍しく、村に外からの客がやって来た。
旅人風の男女、二人組だ。平和な世の中になり旅を始めた、その先駆けだろう。先に『予知夢』で有名な砂浜に立ち寄ってから、グリシナ村まで歩いてきたようだ。
女性客は、ビオレッタの指輪をじっくりと見ていた。
プラドのバザールで、商人から贈られた金の指輪だ。
「こちらは……売り物ではないのです。申し訳ありません」
「そうなのね、残念だわ」
女性客のすらりとした指は、他にも銀やメノウの指輪で飾られている。アクセサリーが好きなのだろう。
結局、二人は傷薬とグリシナの水を買い、道具屋の店先でお茶を飲んでから帰っていった。
「ビオレッタさん、お客さんにお茶を出し始めたんですね」
ラウレルがそのことに気がついた。
「はい。他の街を見て、おもてなしの心って大事だと思って」
プラドのバザールも、コリーナの村にも、客を迎え入れる用意がされてあった。宿だけではなく、街や村、全体で。
ビオレッタはそれを見習うことにした。
手始めに、狭い店内に置いてあったテーブルセットを道具屋の軒先へ移動した。外のほうが開放的だし、旅人が疲れた足を休めることも出来る。
ずっと閉めたまま営業していた扉は開け放ち、休憩ついでに道具屋にも立ち寄ってもらう作戦だ。
「さっそく、作戦が成功しましたね!」
「はい! ありがたいことに。……でもうちは、旅のお客さんに『売れるもの』がないんですよね……」
ビオレッタは茶器を片付ける自分の手を見た。指には、きらりと蒼の石が光る。
「リヴェーラの石も、指輪に出来たらいいのに」
「どういうことですか?」
「先程のお客様は、この指輪を欲しがっておいででした。リヴェーラの石も、指輪みたいに加工出来たら売れると思いませんか?」
ただ、ビオレッタはそのような加工技術を持ち合わせていない。
プラドで出会った行商人達は、あの指輪や首飾りなど、どこで仕入れているのだろう。まさか自分達で作ったりなんかは……
「いいですね。もともと防御と魅力が上がる石ですし、付加価値のある指輪……試しに作ってみましょうよ」
さすがラウレル。いとも簡単に言い放った。
「ビオレッタさん、今度の休みは『小人の街』へ行きましょう!」
◇◇◇
慣れない浮遊感と白い光がおさまり、ビオレッタはラウレルと共に地面に降り立った。
ひんやりとした空気。
子供達のはしゃぐ声。石を打ち付ける硬質な音。
「ビオレッタさん、着きました」
二人が合わせた休日。転移魔法でやって来たのは小人の町だ。
ラウレルの声を合図に目を開けると、そこは広い洞窟の中だった。ドーム状の天井には無数の光石が埋め込まれ、洞窟全体をほのかに照らす。
行き交う人々は皆、子供のように見えた。小さな手には金槌、目にはルーペ。それぞれ小人達は忙しそうに走り回っている。
「世界の装飾品のほとんどは、この町『クエバ』で作られています」
「すごい……!」
それでは、プラドのバザールで見たあの煌びやかな金細工も、色とりどりの耳飾りも、この指を飾る指輪も……この小人達が。なんて凄い。
「あんなすごい装飾品を、こちらの子供達が作っていたなんて」
「彼らは子供ではありません。じつは私達の何倍も生きている大ベテランなんです」
小人達は長寿で、生まれて数年するともう装飾品作りに携わる。
何十年も人生をかけて技術を磨き、仲間内でその技術を継承し、あのような素晴らしい装飾品達を造り上げていくのだ。
「ビオレッタさんの指輪を作ったのは、おそらく私の友人です。行ってみましょう!」
そう言うと、ラウレルはビオレッタの手を引いて洞窟の奥を目指した。
今日は珍しく、村に外からの客がやって来た。
旅人風の男女、二人組だ。平和な世の中になり旅を始めた、その先駆けだろう。先に『予知夢』で有名な砂浜に立ち寄ってから、グリシナ村まで歩いてきたようだ。
女性客は、ビオレッタの指輪をじっくりと見ていた。
プラドのバザールで、商人から贈られた金の指輪だ。
「こちらは……売り物ではないのです。申し訳ありません」
「そうなのね、残念だわ」
女性客のすらりとした指は、他にも銀やメノウの指輪で飾られている。アクセサリーが好きなのだろう。
結局、二人は傷薬とグリシナの水を買い、道具屋の店先でお茶を飲んでから帰っていった。
「ビオレッタさん、お客さんにお茶を出し始めたんですね」
ラウレルがそのことに気がついた。
「はい。他の街を見て、おもてなしの心って大事だと思って」
プラドのバザールも、コリーナの村にも、客を迎え入れる用意がされてあった。宿だけではなく、街や村、全体で。
ビオレッタはそれを見習うことにした。
手始めに、狭い店内に置いてあったテーブルセットを道具屋の軒先へ移動した。外のほうが開放的だし、旅人が疲れた足を休めることも出来る。
ずっと閉めたまま営業していた扉は開け放ち、休憩ついでに道具屋にも立ち寄ってもらう作戦だ。
「さっそく、作戦が成功しましたね!」
「はい! ありがたいことに。……でもうちは、旅のお客さんに『売れるもの』がないんですよね……」
ビオレッタは茶器を片付ける自分の手を見た。指には、きらりと蒼の石が光る。
「リヴェーラの石も、指輪に出来たらいいのに」
「どういうことですか?」
「先程のお客様は、この指輪を欲しがっておいででした。リヴェーラの石も、指輪みたいに加工出来たら売れると思いませんか?」
ただ、ビオレッタはそのような加工技術を持ち合わせていない。
プラドで出会った行商人達は、あの指輪や首飾りなど、どこで仕入れているのだろう。まさか自分達で作ったりなんかは……
「いいですね。もともと防御と魅力が上がる石ですし、付加価値のある指輪……試しに作ってみましょうよ」
さすがラウレル。いとも簡単に言い放った。
「ビオレッタさん、今度の休みは『小人の街』へ行きましょう!」
◇◇◇
慣れない浮遊感と白い光がおさまり、ビオレッタはラウレルと共に地面に降り立った。
ひんやりとした空気。
子供達のはしゃぐ声。石を打ち付ける硬質な音。
「ビオレッタさん、着きました」
二人が合わせた休日。転移魔法でやって来たのは小人の町だ。
ラウレルの声を合図に目を開けると、そこは広い洞窟の中だった。ドーム状の天井には無数の光石が埋め込まれ、洞窟全体をほのかに照らす。
行き交う人々は皆、子供のように見えた。小さな手には金槌、目にはルーペ。それぞれ小人達は忙しそうに走り回っている。
「世界の装飾品のほとんどは、この町『クエバ』で作られています」
「すごい……!」
それでは、プラドのバザールで見たあの煌びやかな金細工も、色とりどりの耳飾りも、この指を飾る指輪も……この小人達が。なんて凄い。
「あんなすごい装飾品を、こちらの子供達が作っていたなんて」
「彼らは子供ではありません。じつは私達の何倍も生きている大ベテランなんです」
小人達は長寿で、生まれて数年するともう装飾品作りに携わる。
何十年も人生をかけて技術を磨き、仲間内でその技術を継承し、あのような素晴らしい装飾品達を造り上げていくのだ。
「ビオレッタさんの指輪を作ったのは、おそらく私の友人です。行ってみましょう!」
そう言うと、ラウレルはビオレッタの手を引いて洞窟の奥を目指した。
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