上 下
3 / 44

そして始まる新生活①

しおりを挟む
「ビオレッタちゃん。ねえ、何とかならない?」

 宿屋の女将、オリバがビオレッタに詰め寄った。
 そうは言われても、ビオレッタも非常に困っている。
 もちろん、勇者についてである。



 勇者ラウレルから求婚された、事件とも呼べるあの日から一週間。
 予知夢を信じている彼は、グリシナ村に居座った。どうやらビオレッタとの結婚を諦めないらしい。

 そのため、彼がずっとこの村の小さな宿屋で寝泊まりしているわけだが。

「ほら、うちの宿屋は客室が二部屋しかないじゃない? 勇者様に一部屋占領されてしまうと、もう一部屋しかないの」

 オリバの宿屋は客室が二部屋。小さなグリシナ村には、予知夢を試しに来るような客が少しだけ。だからそれで充分だったのだが。

 一週間前からラウレルが一部屋を占領してしまっているため、空室がたった一つになってしまった。これからもこの調子では、いくら客が少ない宿屋とはいえ流石に困る。

「勇者様はビオレッタちゃん目当てで村に居座っているわけでしょ? 道具屋の二階に泊めてあげられない?」
「むむむむむむ無理ですよそんなの!」

 勇者とはいえ、ラウレルはほぼ他人である。
 良く知りもしない男を家に上げるなど、年頃のビオレッタとしては拒否感しかない。
 しかも彼女は両親を亡くしてから一人暮らし。年頃の男女が一つ屋根の下で二人きりになるなど……少し考えただけでも有り得ない。

「教会はどうでしょうか?」
「神父様はお年だもの、お世話させるのは気の毒よ」
「それでは、村長様のお家にお願いはできませんかね……?」
「村長様なんてもっと無理よ。空いている部屋が無いもの。ビオレッタちゃんの道具屋は、空き部屋があるでしょう?」

 確かに両親が使っていた部屋が、家具もそのままに空いている。しかし……

「大丈夫よ。となりの武器屋に、あのシリオが住んでいるんだもの。万が一ビオレッタちゃんに何かあれば、シリオが助けてくれるわよ」

 そうだろうか。シリオは体格も良く力も強い男だが、相手はなんせ魔王を倒した勇者である。勝てる気がしない。

「でも……」
「とにかく、今週中にはどうにかしたいの。ビオレッタちゃん、お願いよ」

 オリバは手を振りながら道具屋を後にした。




 さて困った。これではビオレッタがラウレルを何とかするしかない。
 とりあえず彼と話をしよう。もう一度、お引き取り願おう。

 彼がオルテンシア城のあるオルテンシアの街出身というのは有名な話だ。ということは、オルテンシアの街に彼の家も残っているのではないか。
 オルテンシアの街は、このグリシナ村よりもはるかに都会で住みやすいそうだ。この村でビオレッタやオリバに迷惑がられ続けるよりも、ずっとちやほやとしてくれるだろう。
 彼が街へと帰ってくれることを願って、ビオレッタはラウレルの姿を探した。

 けれども、どこを探しても彼の姿は見当たらない。村の皆に聞いても「さっきそこにいた気がする」とか「あそこで喋ってたような」とか目撃情報ばかりなのに、ビオレッタが探しに行くと忽然と姿を消しているのだ。

「勇者様なら、村長んちの屋根を直してるらしいぞ」

 シリオから有力な情報を得たビオレッタは、急いで村の一番高台にある村長宅へ向かった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された私の就職先はワケあり騎士様のメイド?!

逢坂莉未
恋愛
・断罪途中の悪役令嬢に付き添っていた私は、男共が数人がかりで糾弾する様にブチギレた瞬間、前世とこの世界が乙女ゲームだということを知った。 ・とりあえずムカついたので自分の婚約者の腹にグーパンした後会場を逃げ出した。 ・家に帰ると憤怒の父親がいて大喧嘩の末、啖呵を切って家出。 ・街に出たもののトラブル続きでなぜか騎士様の家に連れていかれ、話の流れでメイドをする羽目に! もうこなったらとことんやってやるわ! ※小説家になろうにも同時投稿しています。

【完結】騎士団長の旦那様は小さくて年下な私がお好みではないようです

大森 樹
恋愛
貧乏令嬢のヴィヴィアンヌと公爵家の嫡男で騎士団長のランドルフは、お互いの親の思惑によって結婚が決まった。 「俺は子どもみたいな女は好きではない」 ヴィヴィアンヌは十八歳で、ランドルフは三十歳。 ヴィヴィアンヌは背が低く、ランドルフは背が高い。 ヴィヴィアンヌは貧乏で、ランドルフは金持ち。 何もかもが違う二人。彼の好みの女性とは真逆のヴィヴィアンヌだったが、お金の恩があるためなんとか彼の妻になろうと奮闘する。そんな中ランドルフはぶっきらぼうで冷たいが、とろこどころに優しさを見せてきて……!? 貧乏令嬢×不器用な騎士の年の差ラブストーリーです。必ずハッピーエンドにします。

殿下には既に奥様がいらっしゃる様なので私は消える事にします

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のアナスタシアは、毒を盛られて3年間眠り続けていた。そして3年後目を覚ますと、婚約者で王太子のルイスは親友のマルモットと結婚していた。さらに自分を毒殺した犯人は、家族以上に信頼していた、専属メイドのリーナだと聞かされる。 真実を知ったアナスタシアは、深いショックを受ける。追い打ちをかける様に、家族からは役立たずと罵られ、ルイスからは側室として迎える準備をしていると告げられた。 そして輿入れ前日、マルモットから恐ろしい真実を聞かされたアナスタシアは、生きる希望を失い、着の身着のまま屋敷から逃げ出したのだが… 7万文字くらいのお話です。 よろしくお願いいたしますm(__)m

婚約破棄された地味姫令嬢は獣人騎士団のブラッシング係に任命される

安眠にどね
恋愛
 社交界で『地味姫』と嘲笑されている主人公、オルテシア・ケルンベルマは、ある日婚約破棄をされたことによって前世の記憶を取り戻す。  婚約破棄をされた直後、王城内で一匹の虎に出会う。婚約破棄と前世の記憶と取り戻すという二つのショックで呆然としていたオルテシアは、虎の求めるままブラッシングをしていた。その虎は、実は獣人が獣の姿になった状態だったのだ。虎の獣人であるアルディ・ザルミールに気に入られて、オルテシアは獣人が多く所属する第二騎士団のブラッシング係として働くことになり――!? 【第16回恋愛小説大賞 奨励賞受賞。ありがとうございました!】  

至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます

下菊みこと
恋愛
至って普通の女子高生でありながら事故に巻き込まれ(というか自分から首を突っ込み)転生した天宮めぐ。転生した先はよく知った大好きな恋愛小説の世界。でも主人公ではなくほぼ登場しない脇役姫に転生してしまった。姉姫は優しくて朗らかで誰からも愛されて、両親である国王、王妃に愛され貴公子達からもモテモテ。一方自分は妾の子で陰鬱で誰からも愛されておらず王位継承権もあってないに等しいお姫様になる予定。こんな待遇満足できるか!羨ましさこそあれど恨みはない姉姫さまを守りつつ、目指せ隣国の王太子ルート!小説家になろう様でも「主人公気質なわけでもなく恋愛フラグもなければ死亡フラグに満ち溢れているわけでもない至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます」というタイトルで掲載しています。

【完結】婚約解消を言い渡された天使は、売れ残り辺境伯を落としたい

ユユ
恋愛
ミルクティー色の柔らかな髪 琥珀の大きな瞳 少し小柄ながらスタイル抜群。 微笑むだけで令息が頬を染め 見つめるだけで殿方が手を差し伸べる パーティーではダンスのお誘いで列を成す。 学園では令嬢から距離を置かれ 茶会では夫人や令嬢から嫌味を言われ パーティーでは背後に気を付ける。 そんな日々は私には憂鬱だった。 だけど建国記念パーティーで 運命の出会いを果たす。 * 作り話です * 完結しています * 暇つぶしにどうぞ

目が覚めたら夫と子供がいました

青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。 1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。 「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」 「…あなた誰?」 16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。 シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。 そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。 なろう様でも同時掲載しています。

転生したら乙女ゲームの主人公の友達になったんですが、なぜか私がモテてるんですが?

山下真菜日
恋愛
田舎に住むごく普通のアラサー社畜の私は車で帰宅中に、 飛び出してきた猫かたぬきを避けようとしてトラックにぶつかりお陀仏したらしく、 気付くと、最近ハマっていた乙女ゲームの世界の『主人公の友達』に転生していたんだけど、 まぁ、友達でも二次元女子高生になれたし、 推しキャラやイケメンキャラやイケオジも見れるし!楽しく過ごそう!と、 思ってたらなぜか主人公を押し退け、 攻略対象キャラや攻略不可キャラからも、モテまくる事態に・・・・ ちょ、え、これどうしたらいいの!!!嬉しいけど!!!

処理中です...